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「ゆけ!ゆけ!歌舞伎“深ボリ”隊!!」今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集

市川門之助 「東海道中膝栗毛」シリーズ ― 古典とは違う役作り

第6回

期待に応えたいという思いがどんどんエスカレートしてしまって(笑)

時空を超えて歌舞伎座の夏に降臨するスーパーキャラ、弥次郎兵衛と喜多八。この8月、4年ぶりに歌舞伎座に帰ってくる。松本幸四郎と市川猿之助の弥次さん喜多さんが大活躍する『東海道中膝栗毛』シリーズ(通称:弥次喜多シリーズ)は今回で五作目。これまでもふたりはラスベガスでカジノに挑戦したり、殺人事件に巻き込まれたり、さらにはあの世にも足を踏み入れたりと、予測不能な活躍ぶりで客席を沸かせてきた。

そんな弥次さん喜多さんふたりのやりとりだけでも腹を抱えるほどおかしいのに、さらに奇想天外な人々がふたりの珍道中を彩る。その面々のうち今回深ボリ隊が狙いを定めたのは市川門之助さんだ。門之助さんといえば、古典の演目なら立役二枚目、女方ならお姫様など、ノーブルな役どころの印象がある。

ところが、だ。

覚えておられる方も多いだろう、弥次喜多シリーズでのあの弾けっぷりを。第一作ではカジノで豪遊するアラブの石油王、第二作では舞台で義太夫を語る竹本の太夫、第三作では基督、第四作では位もテンションも高い乳母と、ふだんの門之助さんのイメージをはるかに超えるキャラクターばかり。

さて門之助さんはこれまでの役々をどう作り上げたのか、どう工夫してきたのか。今回の『弥次喜多流離譚(やじきたリターンズ)』ではどうなるのか? 

<<「東海道中膝栗毛」シリーズ>>

第一作『東海道中膝栗毛』
市川染五郎(現・松本幸四郎)演じる弥次郎兵衛と市川猿之助による喜多八の“弥次さん喜多さん”が2016年「八月納涼歌舞伎」に初登場。お伊勢参りに向かったふたりが道中で文無しになり、気づくとラスベガスに辿り着き……。

第二作『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』
お伊勢参りから江戸に戻り、歌舞伎座でのアルバイトを再開した弥次喜多のふたりが舞台で起こった大事件に巻き込まれ……ミステリー仕立ての奇想天外な一幕。2017年上演。

第三作「再伊勢参!? YJKT〈またいくの!? こりないめんめん〉『東海道中膝栗毛』」
歌舞伎座で起きた大事件の後、相変わらず大道具のアルバイトを続ける弥次喜多のふたりだったが、喜多八が災難に遭い、命を落としてしまう。悲しみのあまり、喜多八の後を追おうとする弥次郎兵衛は再びお伊勢参りへと出発し、幽霊の喜多八は道中を見守ろうと後を追うが……。2018年上演。

第四作『東海道中膝栗毛』
数々のピンチを切り抜けてきた弥次郎兵衛と喜多八。夏の青空の下、昼寝から目覚めたふたりはなんと……! 2019年上演。

第五作『東海道中膝栗毛 弥次喜多流離譚(やじきたリターンズ)』※8月5日より上演中!
遠く離れた無人島に飛ばされるも何とか生き延びていた弥次郎兵衛と喜多八は、あの手この手で長崎に渡り着き……。

※歌舞伎座での上演の他、配信版の図夢歌舞伎『弥次喜多』が2020年にオンライン配信されました。

Q:弥次喜多シリーズでの弾けっぷりの秘密を教えて!

── 弥次喜多シリーズでの門之助さんのお役がいちいちユニークです。

門之助 思いもよらないことを毎度やらされています(笑)。それだけに、苦しさも楽しみになっています。

── 第一作はアラブの石油王亜刺比亜太(アラビアータ)でした。

門之助 役名を聞いたときは衝撃でした。いったいどうすればいいんだろうと思いつつも、役柄がいつもとまるで違うのは楽しかったですよ。稽古の前に自分で髭を作って着けてみたり。いつもはそんなことしないのに。で、結構似合うなと思いました(笑)。役を振った人、さすがだなと。

『東海道中膝栗毛』アラブの石油王亜剌比亜太=市川門之助(平成28年8月歌舞伎座)写真提供:松竹(株)

── 「土を掘れば、油どんどん、お金もどんどん、あぶらかだぶら~~!」の台詞は破壊力抜群でした。

門之助 あそこは台本通りなのですが、どう言ったら面白いかなとは考えました。アラビア語に堪能な知人に何か捨て台詞になるような言葉がないものか、尋ねたりしました。アラブ人が歌舞伎座に出てくるなんて前例はおそらくひとつもないので、納涼歌舞伎とはいえどこまでやっていいのか悩みました。どこからかお叱りが来ないだろうかとも思いましたし。ただそんなときカジノの支配人(劇場支配人出飛人)を演じた(中村)獅童ちゃんがものすごく弾けているのを見て、「ああ、何をやっても大丈夫なんだ」と安心したものです(笑)。それにいろいろ挑戦すればするほど猿之助さんが面白がってOKを出してくれるので、安心してエスカレートさせていきました。

── こしらえもターバンやローブなどふだんとまるで違っていましたよね。

門之助 あれはとても快適でね。さすがに暑い国の方々の衣裳で、締め付けないのが楽でした。古典では、たとえば赤姫は帯を高い位置で締めるので苦しいし重いんですよ。

── 第二作『歌舞伎座捕物帖(こびきちょうなぞときばなし)』では芝居小屋が舞台、門之助さんは義太夫を語る鷲鼻少掾という太夫でした。舞台上手の床で本格的に義太夫を語っていらっしゃいましたね。

『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』鷲鼻小掾=市川門之助(平成29年8月歌舞伎座)写真提供:松竹(株)

門之助 お役がきたときは「今度はこっちか」と(笑)。えらい役をおおせつかっちゃったなあと思いましたよ。そりゃ役者として義太夫は稽古していますが、大勢のお客様の前で披露するなどということはまずないわけですし、よりによって「四の切」(『義経千本桜』「川連法眼館の場」)でしょ。それこそ義経や静でたびたび出していただいているお芝居です。これはできなかったら恥ずかしいぞという第一作とはまるで違うプレッシャーを感じました。日頃から親しくさせていただいている(竹本)葵太夫さんに稽古してもらって、語りやすいように一部手を入れてもらいました。それにしても最初に稽古場で語り始めるときの緊張感ったらなかったですね。

── 床の座り心地はいかがでしたか。

門之助 いえそれがやってみるととても気持ちのいいもので(笑)。語りに合わせてお芝居が進んでいくわけですから、芝居運びを自分がコントロールしている感覚になれるのが面白かったですね。難しかったのは役者の動きに合わせるその兼ね合いです。例えば劇中劇で狐忠信を勤めたのは(坂東)巳之助君。僕の耳にあるのは(市川)猿翁さんや猿之助さんの忠信の間。ですから彼の間に合わせるため横目で彼の動きを見ながら必死に合わせていました。ふだん何気なく耳にしているものですが、そこが大変に難しかったですね。

── 太夫として語ってみて、役者としても何か発見はありましたか。

門之助 ふだん竹本さんが我々役者に合わせてくれているとはいえ、我々の方もそればかり当て込んではいけないかもと思いましたね。というのも、語りながら役者の動きを気にしすぎるとどんどん遅れてしまったり、見合ってしまうことがあったんですよ。それはそれでよくないなと。それと彼らは控えめでありながらも、ここは聴かせどころだから「聴いてほしい!」という思いもあるのかもしれないなとも感じましたね。ご本人たちに一度お話をうかがってみたいです。

── 床から降りて、”役者たち”や”裏方”と話したり、事件の様子を眺めたりという場面もあり、舞台での”居かた”に太夫さんならではの雰囲気を感じました。

門之助 ふだんから竹本さんたちを見るともなく見ていたのが役に立ちました。稽古場へ行くときとか稽古終わりとか、舞台裏を歩いている風情が何となく目にありましたので。昔っから先輩方には「役者はふだんが勉強だよ」と言われたものです。お芝居を見るのも稽古も大事だけど、何気なく人を見て、そうかこういう職業の人はこういう感じで居るのだなということも覚えておけということだったのでしょう。

「もはや遊ばれているな」と思いました(笑)

── そして第三作目は住職門海と基督でした。ついにイエス・キリストです。

門之助 「もはや遊ばれているな」と思いました(笑)。これまでの流れから、これは相当面白くしないといけないなとさらにプレッシャーを感じましたし。この三作目はお芝居全体が結構まじめな雰囲気で、その最後で基督を大まじめに演ってしまったら、いつもの納涼歌舞伎の『弥次喜多』の雰囲気ではなくなってしまわないかという僕自身の思いもありました。重くせず、皆さんでワッと賑やかに大笑いしてお帰りいただきたいなと思ったので、自分からさらに弾けてみようと。猿之助さんからは「ふざけてくれ」と言われたわけではありませんでした。

『再伊勢参!YJKT 東海道中膝栗毛』住職門海=市川門之助(平成30年8月歌舞伎座)写真提供:松竹(株)
『再伊勢参!YJKT 東海道中膝栗毛』基督=市川門之助(平成30年8月歌舞伎座)写真提供:松竹(株)

── 天照大神の手の上で「YEAH!」と叫んだり、もうノリノリで。

門之助 おかげさまで稽古場では大ウケでした。あんなにノリノリでいいのかなと思いつつ、いや遠慮している場合じゃないぞと。あの時もネットで基督のこしらえを見たり、四谷のイグナチオ教会へ出かけてみたり。衣裳については最初はただの生成りのローブのような衣裳だったのですが、肩から斜めにかける赤い襷のようなものを「これがあった方が存在感出るかな」と、衣裳さんに追加でお願いしました。

── アドリブ部分もありましたか。

門之助 僕ね、アドリブは弱いんです。だからある程度は前もって考えて作りこんでいます。家でも家族には見せられないからひとりでブツブツ言いながらこっそり(笑)。

── 幕切れで幸四郎さん、猿之助さん、(市川)染五郎さん、(市川)團子さんの宙乗りが始まると、それまでノリノリだった基督が、天照大神の掌の上でダラ~ンと寝そべっていたように見えましたが、それで合っていますか。

門之助 はい、合っています(笑)。あそこは基督がふてくされているところです。

── ふてくされていたんですか!

門之助 はい。いつも「四の切」では、我々義経や静は本舞台から忠信の宙乗りを見守っているわけです。猿翁さんは幕が閉まってからの宙乗りでしたが、ある頃から幕を開けたまま宙乗りをするようになりました。でも客席は宙乗りに夢中で誰も本舞台の僕らを観てくれていない。もちろん僕らはずっと気を抜かず幕が閉まるまで本舞台にいるのですけれどね。ですので「たまにはこっちを見てくれ!」という気持ちで、本舞台に残された基督として大騒ぎしてみたんです。それでもやっぱりお客様は観てくれないので、ふてくされていたんです(笑)。

どれだけ芝居の引き出しがあるか試されている

── 第四作では、『盛綱陣屋』の微妙のような格の高い上品な乳母奥の井で、ここまでくると少々意外でした。

門之助 たまにはいいですよね(笑)。若様たちと再会してこれまでのいきさつを語るところで長い台詞があり、あそこはかなり大げさに演(や)りました。それに本番中、弥次さん喜多さんが床を叩いたりしていろいろ茶々を入れるので、結局思っていたよりずっと大げさな芝居になってしまいました。

『東海道中膝栗毛』乳母奥の井=市川門之助(令和元年8月歌舞伎座)写真提供:松竹(株)

── 四作目までを振り返っていただきました。このシリーズの稽古場はどんな雰囲気でしたか。

門之助 猿翁さんの時代から弥次喜多シリーズといえば娯楽作品でしたから、いくらか羽目をはずしてもいいのかなという雰囲気はありつつも、第一作目の稽古はどこまでやっていいのか、手探り状態で始まった気がします。でも稽古場でどんどん面白くなっていきましたね。それと同時に猿之助さんも幸四郎さんもこの弥次喜多シリーズでは、若手を育てるということを大事に考えておられたと思います。逆に僕らは、どれだけの芝居の引き出しがあるか試されているとも感じました。だから毎回自分への挑戦という気持ちでしたね。

── 門之助さんは猿翁さんの一座でも、スーパー歌舞伎など数多くご出演されています。その頃とはまた雰囲気が違いますか。

門之助 僕がまだ若手だったのもあり、猿翁さんからは「あの芝居のあそこの感じでやってください」など具体的に指示がありました。今の猿之助さんは「好きなようにやってください。よかったら採用します」と僕らの意見を取り入れてくれる。逆に責任も感じますよ。期待に応えないと、というプレッシャーも。父(七世市川門之助)もよく言っておりました。スーパー歌舞伎でも新作でも「基本あっての工夫だよ」と。古典の役とは違う大変さですが、気がつくと「今度はどんなふうにやろうかな」なんてニヤニヤしている自分がいます。

── さて今月の第五作『弥次喜多流離譚(やじきたリターンズ)』ですが、ザブエルとありますから宣教師ですね。

門之助 はい、また異国の聖職者ですね。今回はいろいろな古典のお芝居のパロディが詰まっています。今回も、あんなことしたい、こんなことやってみたいと楽しみながら取り組みたいと思っています。

上演中の『東海道中膝栗毛 弥次喜多流離譚』より、門之助さん演じる「ザブエル」の最新舞台写真 写真提供:松竹(株)


取材・文:五十川晶子 撮影(インタビュー写真):源賀津己 舞台写真提供:松竹(株)

プロフィール

市川門之助(いちかわ・もんのすけ)

1959年9月24日生まれ。七代目市川門之助の長男。’69年2月歌舞伎座『義経千本桜』鮓屋の六代君ほかで二代目市川小米を名のり初舞台。’90年12月歌舞伎座『義経千本桜』四の切の義経で八代目市川門之助を襲名し名題昇進。1972年4月『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』須磨浦組討の遠見の敦盛で国立劇場奨励賞。90年歌舞伎座奨励賞。同年重要無形文化財(総合認定)に認定され、伝統歌舞伎保存会会員となる。

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