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「ゆけ!ゆけ!歌舞伎“深ボリ”隊!!」今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集

中村梅枝 『助六由縁江戸桜』― 揚巻や意休にも意見できる妹女郎の「白玉」

第10回

2ヵ月連続で「白玉」を演じる

前回に引き続き「十二月大歌舞伎」夜の部で上演される『助六由縁江戸桜』。華やかな吉原仲之町の大籬・三浦屋で、揚巻の次に高い位の花魁といえば白玉だ。華やかな花魁道中では助六の天敵・髭の意休を伴って登場し、揚巻にも妹分として言うべき時にはズバリと物を言うのがカッコイイ。

<あらすじ>

花川戸助六は江戸一番の男伊達。吉原仲之町では助六が姿を現すと花魁たちがやってきて、競って吸い付け煙草を渡そうとするほどの人気ぶりだ。この助六、実は源氏の宝刀友切丸を探している曽我五郎。兄は白酒売新兵衛に身をやつす十郎。夜ごと吉原に現れては相手構わず喧嘩をふっかけて刀を抜かせ、友切丸かどうかを見定めているのだった。

この助六の恋人が三浦屋の花魁揚巻。上客のお大尽・髭の意休にもかまうことなく悪態をつく。妹女郎の白玉がたしなめるほどだ。

今回の深ボリ隊はこの妹女郎の白玉にスポットを当てた。先輩女郎の揚巻と同様、鬘も衣裳も豪華絢爛だが、あの拵えで歩き、台詞を言うのにはさぞやご苦労もあるだろう。また同じ花魁でも揚巻との違いはどこにあるのだろう。

この白玉を11月、12月と2か月間にわたり勤めるのは中村梅枝さん。張りと意気地が身上の吉原の花魁を勤める醍醐味から、ちょっと意外な裏話まで、時にクールに、時に熱く語っていただいた。

Q:揚巻や意休にもズバリと物を言う白玉。妹分としての見せ方は?

2010年(平成22年)4月歌舞伎座公演『助六由縁江戸桜』にて、並び傾城の浮橋を勤める梅枝さん 写真提供:松竹(株)

── 梅枝さんが『助六由縁江戸桜』に最初に出られたのが2010年歌舞伎座さよなら公演の時で、並び傾城の浮橋でした。重い衣裳と鬘を着けじっと座ったままなので大変だという話をよく聞きます。

中村梅枝(以下、梅枝) 並び傾城をなさった方皆さんが大変大変とおっしゃるのですが、僕はそんなにきついとは感じなかったかな。それよりは目の前で助六や揚巻初めみなさんのお芝居が見られるので楽しかったですね。ただあの狂言の第一声がこの五人の傾城なんです。揚巻が出てくるまでに三浦屋の雰囲気を作っておかなきゃならない。揚巻を勤めていらした(坂東)玉三郎のおじさまにみんなで稽古してもらいました。とにかく声を出して! 華やかに!と。「そんなんじゃ揚巻が台詞言えないよ!」ってすっごく怒られたなあと、今月思い出していたところです。

── 今月(11月)は白玉の道中を、客席から(『籠釣瓶花街酔醒』の佐野)次郎左衛門のような気持ちで見惚れておりました。あの大きな三つ歯の高下駄で独特の歩き方をしますよね。

梅枝 あの高下駄は(横から見ると)台形の形をしているんですね。なので普通に前後に足を運ぼうとすると必ず内側がぶつかるんです。なので外側へ大きく蹴り出すように交互に足を出し続けなきゃいけない。それも一枚の板の上を歩くようにと言われますね。

── あの下駄、とても重そうに見えます。

梅枝 重いですよ。まあそれでも1㎏くらいかな。あの下駄と下駄が内側でぶつかると良い音がするんですよね。カーンって。すっごく恥ずかしいんですけどね(笑)。

先月上演された「十一月吉例顔見世大歌舞伎」では玉三郎さんと共に同役を勤めた梅枝さん。「十二月大歌舞伎」では菊之助さんが5~15日、梅枝さんは16~26日に白玉を勤める 写真提供:松竹(株)

── 衣裳がとにかく豪華ですよね。着付けも俎板帯も立派で。

梅枝 なるだけきれいに見えるように着たいのですが、体の大きさ、身長などによって、着物の柄が織り込まれてしまうのでなかなか難しいですね。鬘は傾城の場合はたいてい伊達兵庫というもので、これも慣れると重く感じないです。『壽曽我対面』の大磯の虎は、後ろにさげ髪が着くのでバランスがとりにくくて、あちらの方が重く感じますね。

── 鬘が大きく立派で、さらに何本もの挿し物があり、ほかの女方の鬘とは顔とのバランスがかなり違ってきますよね。

梅枝 クリ(生え際部分)をきつめにしたり、額の中央の雁金を大き目にしたりして派手にします。顔も派手目に。ややきつめに目頭を入れたりするかな。あまりやりすぎるとこれもバランスが悪くなるんですよ。基本的に僕は役によって化粧を変えることはあまりしないので、綺麗めに、くらいでしょうか。

台詞の間の取り方と調子で若さを表現

── 白玉は意休とともに三浦屋まで道中をします。あれは意休を茶屋へ迎えに行ったということでしょうかね。

梅枝 意休は姉女郎の揚巻の上客ですから、ひょっとしたら揚巻も途中まで一緒だったのかも。でも揚巻はお酒を飲んでちょっと酔ってしまったので、風に吹かれながら先に三浦屋へ戻ってきたのかな。白玉も「じゃあ私たちも三浦屋へ」ということで意休と一緒なのかも。僕の考えではあそこは白玉はまだお酒は飲んでいない、素面のはずです。

── 若い者の肩に手を乗せて歩きますが、実際ひとりで歩くとバランス崩しそうになるものですか。

梅枝 いえひとりでも歩けますが、やはり見栄えがよくなりますよね。歩くときはこちらで合図を出すんですよ。歩き始めるときはグッと肩をつかみ、速いなと思ったらグッと肩を引き、遅いと思ったら肩を押し気味にしたり。

── そして道中の途中、新米の女郎たちに目移りする意休をたしなめます。かなり声を張って言いますよね。

梅枝 揚巻の妹分なので揚巻よりは少し若い声を、と意識しますね。

── 若い声といいますと。

梅枝 テンポを早く、高い調子で、ですね。揚巻と同じ調子にならないようにしています。あとは華やかに派手に、を意識していますね。揚巻の(尾上)菊之助のにいさんが「よくこんなに声が出るなあ」と思うほど声を出されているので、それに負けないようにと。12月は(中村)七之助のにいさんの揚巻に僕の白玉なので、にいさんの調子に合わせることになります。

── 意休に対して結構ズバリと言いますよね。

梅枝 あそこは怒っているわけじゃなくてたしなめているくらいですね。意休が揚巻の上客であることには違いないので。あの時点では揚巻もそこまで意休を嫌っていないはずなんです。揚巻クラスならお客さんを選べる立場だと思いますし。

── 白玉は揚巻にもはっきりと物申します。

梅枝 揚巻を止められる唯一の人なんでしょうね。揚巻も「仲の好いお前のこと」といって聞いてくれる。白玉も「皆さんを差し置いて」と言いつつも、差し置いて物を言える花魁としての大きさが必要だなと思います。

── 揚巻が花道の付け際へちょうど差し掛かるときに声をかけますね。

梅枝 あそこは下座が止まるタイミングで「揚巻さん、待たしゃんせ」と。揚巻はあそこで絶対に左足を前に出して止まらなければいけないんです。ただこれも揚巻をなさる方によっていろいろで。「右足出して左足出す時に言ってくれ」という方もいれば、左右左のタイミングで止まりたい人もいる。稽古場でそこは確認します。菊之助にいさんは、お稽古の時に「どうしましょうか」とうかがったら「どっちでもいいよ」と。

── 白玉が揚巻を止めるときの台詞の「とさあ」がまあ素敵で。本当に綺麗にフェイドアウトしますよね。聞いている方もつい息を止めてしまいます。

梅枝 あそこ、間が難しいんですよ。どんな間でも言おうと思えば言えるんですが。

── 間というと、その前の台詞との?

梅枝 そうです。「お前の想うその人の難儀になろうもしれぬぞえ、とさあ」とも言えるし、「難儀になろうもしれぬぞえ……とおさあ」ともね。どう言っても成立するんですけど、なるたけ僕はトントンッと間を開けずにいきたいんですよ。間を開けると老けて聞こえるような気がするんです。

── 今、たしかに間を開けた方が落ち着いた感じに聞こえました。

梅枝 そうなんですよ。でも間を開けないようにするのが難しくて。というのもここではもう既に息が一杯いっぱいなんです。辛いんですよ。でも頑張ってポンポンポンと言えた方が華やかですからね。

── 台詞が切れているところで息継ぎをしているわけじゃないんですね。

梅枝 そうですね、台詞が切れていても息を吸えるわけじゃないです。気持ちの流れがあるので。やはり息継ぎをするとそれが途切れますから。

── あの「とさあ」は、つまりは自分ツッコミしているようなものと思っていていいですか。

梅枝 まあそうですよね。自分が今言っていることをはぐらかす、ごまかす。だからやはりその前の間が長いとおかしくなっちゃう。

── 「ほんの蕾(つぼみ)の藪椿(やぶつばき)」のところの調子も綺麗ですよねえ。

梅枝 あそこも本当に苦しい。特にその後ですね。「さだめて不肖でござんしょうが、名前に免じて揚巻さん」、ここがね結構辛い。この後「白玉さん」「揚巻さん」は仲の好い姉妹分としての関係で言って、「子供、来(き)いやあ」は傾城で言います。

── あのおふたり揃っての台詞、もう陶然とします。そして揚巻は意休に対してあからさまにツンッとして三浦屋へ入り、白玉も意休に特に会釈とかしないですよね。

梅枝 白玉もよくあの状況で平然とひっこめますよね。気まずくないのか、誰も意休のことかわいそうだと思わないのか。まあ白玉もこれまでにいろいろ意休に対してはムカつくことがあったのかな(笑)。

深く考えすぎず、とにかく妹分に見えるように

── ところで『助六由縁江戸桜』といえば河東節。舞台正面御簾内に、「河東節十寸見会御連中」の皆さん、いわゆる旦那衆が日替わりで演奏しています。助六の出端はもちろん、白玉の出も河東節です。

梅枝 実は、毎日唄う方々が違うので僕らのタイミングも変わってくるんですよ。僕としては花道を出て、なるたけ唄いっぱいに(唄い終えるタイミングで)花道付け際に着いて、お客さんの方を向きたいんです。でも毎日出てみないとどんな感じになるかわからないので、それが面白くもあります。

── 日々違うので、役者さんたちが合わせることもあるのですね。

梅枝 そうですね。ふだんなら下座の方に演奏の速さを相談することもありますが、今回はプロの方ではないからこその節回し、味わいがありますね。

── ますます何度も歌舞伎座に通いたくなります。

梅枝 ……今回こうやっていろいろ質問されてみて改めて分かっちゃったな。

── え、何がですか?

梅枝 白玉って深く考えて演るというより、傾城らしく派手に華やかに、揚巻に意見できるくらいの度量があって、でも妹分に見えればそれで構わない、という役なんだなあって(笑)。

── 白玉はお父様(中村時蔵)も何度もなさってますが、初役のときには何かアドバイスも?

「十一月吉例顔見世大歌舞伎」『助六由縁江戸桜』より、白玉を勤める梅枝さん 写真提供:松竹(株)

梅枝 何を言われたかな……「まあそんな感じ」って言われたかな(笑)。派手に立派に、常に胸を張って。傾城の役のときはいつも言われることですね。今回も玉三郎のおじさまに初日の映像をお送りして見ていただいて「もっと妹分で。もっと運んで。もっと調子を高く」と。

── とにかく揚巻の妹分に見えるように、ということですね。

梅枝 そうですね。ただ僕は菊之助にいさんを尊敬していますし、ありがたいことににいさんの女方のお役もたくさん拝見してます。ずっと一緒の舞台に出してもらっていますから、にいさんがどういう風になさりたいのか何となくわかるところがあります。玉三郎のおじさまからも、「ふたりは相性がいい。ちゃんと妹分に見える」と言っていただきました。僕自身にはわからないのですが、「見ていてバランスがとれている」と。

── おふたりご一緒に出ている舞台の時間の積み重ねが、揚巻と白玉の間ににじみ出ていると。

梅枝 そうかもしれないですね。実際に今回この狂言で台詞でからむのは「揚巻さん、待たしゃんせ」だけなんですけれどね。

── おしまいに、この『助六』という狂言、梅枝さんにとってどこが魅力でしょう。

梅枝 これだけ人数が出て、これだけ派手な舞台ってそうそうないと思うんです。一場面だけなのに次から次へと人が出てきて、みんなにちゃんと見せ場がある。そして主役はなかなか出てこない(笑)。その助六が出てくる前に、みんなが口をそろえて「助六さんはすごい、カッコいい、強い」と持ち上げて。

── めちゃくちゃハードル上げてますよね。

梅枝 そうなんですよ。そのハードルを越えられる方だけが助六を勤めることができるということなんでしょうね。それにもうね、親の敵を探すために刀を詮議するとかはもはやどうでもよくなってきますしね(笑)。

── 確かに。なってきます。舞台の上が豪華過ぎて。

梅枝 でしょ。本当は曽我五郎だとかどうでもよくなってくる(笑)。そんなところも含めて、僕はやはり好きですね、この狂言。

「十二月大歌舞伎」チラシ

取材・文:五十川晶子 撮影(中村梅枝さん):坂本彩美

プロフィール

中村梅枝(なかむら・ばいし)

1987年生まれ。中村時蔵の長男。’91年6月歌舞伎座『人情裏長屋』の鶴之助で初お目見得。94年6月歌舞伎座〈四代目中村時蔵三十三回忌追善〉の『幡随長兵衛』の倅(せがれ)長松と『道行旅路の嫁入』の旅の若者で四代目中村梅枝を襲名し初舞台。’95年、NHK大河ドラマ『八代将軍吉宗』に七代将軍家継役で出演。

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