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「ゆけ!ゆけ!歌舞伎“深ボリ”隊!!」今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集

中村萬壽・中村時蔵『妹背山婦女庭訓』目のくらむような御殿に迷い込んだ田舎娘・お三輪

第28回

強力な恋敵がいるにもかかわらず、恋しい男を追いかけて追いかけて、たどり着いたところは生まれてこのかた見たことのない広大な御殿。そこに現れた官女たちに散々にいじめられ邪険にされ、それでも逢いたい求女さま。ひとりのけなげな田舎娘の恋心が、国の形を変えてしまう政変へとつながっていく。そんな運命を背負っているのが『妹背山婦女庭訓』に登場する杉酒屋の娘お三輪だ。

<あらすじ>

謀略をめぐらし権勢を誇る蘇我入鹿の三笠山御殿へ、入鹿の妹・橘姫が戻ってくる。その振袖に赤い糸をつけて後を追ってやってきたのが恋人の求女。そしてその求女を追いかけて杉酒屋の娘お三輪がやってくる。求女の裾に付けた苧環の白い糸が切れて途方に暮れているところへ、豆腐買のおむらが現れ……。

このお三輪をこれまで何度も勤めてきたのが、中村時蔵改め初代中村萬壽さん。そして「六月大歌舞伎」の昼の部で上演される『妹背山婦女庭訓』でお三輪を初役で勤めるのが、中村梅枝改め六代目中村時蔵さんだ。

なぜこのお三輪が女方の大役と言われるのか。なぜ赤姫※でも片外し※でもなく、田舎娘のお三輪でなければならなかったのか。今月の深ボリ隊はこのお三輪をロックオン。初日を目前に控え、萬壽さんには役の性根や表現について、時蔵さんには、そんなお三輪を襲名披露のお役として初役で勤めることへの思いを語っていただいた。

※赤姫:歌舞伎に登場するお姫様役の総称。大名や貴族など身分の高い家柄の娘が赤い色の衣裳をつけることに由来。
※片外し:本来は鬘の名称だが、この鬘を用いる位の高い武士の女房や武家に仕える女性役の総称。

Q. 田舎娘・お三輪はなぜ女方の大役と言われる?

『妹背山婦女庭訓』お三輪=中村萬壽(当時時蔵)1981(昭和56)年6月歌舞伎座(撮影:吉田千秋)

── 萬壽さん、まずは初めてお三輪を勤められたときの初日のこと、何か覚えていらっしゃいますか。

萬壽 なにしろ初役でしたし、その時は「道行」(の段)からでしたので、とてもバタバタしていたなあという記憶があります(「六月大歌舞伎」は『三笠山御殿』のみ上演)。成駒屋のおじさん(六世中村歌右衛門)に厳しく教えていただいたお役で、大先輩の皆さんが出てくださったので、とにかく周りが豪華で。先輩方の胸を借りてお芝居できたのでとても心強かったです。

── 時蔵さんは昨年国立劇場の公演で求女をなさっています。求女をこのとき勤めた経験は今回お三輪を勤めるのに何か助けになるということはありますか。

時蔵 いや、今のところは「あのとき求女をやっておいてよかった」というのは特にないですかね。(お三輪を)今回やってみたら何か気づくことが出てくるのかもしれません。

── お三輪は歌舞伎の役柄の田舎娘ですが、でもその割には華やかな雰囲気があります。お三輪の拵えの特徴はどのあたりに現れているのでしょう。

萬壽 まず歌舞伎の娘は町娘と田舎娘、大きくふたつに分かれますでしょう。町娘といえば大店のお嬢さん。頭も飾り大振袖で、下女のような人を共に連れています。田舎娘の典型は私のイメージでは『野崎村』のお光や『梶原平三誉石切』の梢です。裾も引かないし袖丈も中振りから留袖。そんな中でこのお三輪は振袖だし裾は引いている。ということは、杉酒屋は大店とまではいかないけれどまあまあのお店なのかなと想像するんですよね。振袖の柄は「十六むさし」という昔の双六のような遊びの道具の柄で、これも他の役では見たことがないです。

上演中の歌舞伎座「六月大歌舞伎」『妹背山婦女庭訓』杉酒屋娘お三輪=梅枝改め六代目中村時蔵スチール写真 写真提供:松竹(株)

── 田舎娘だけれど、貧しい生まれ育ちではないという娘なのですね。

萬壽 『野崎村』のお染はお姫様に近いし、手の先もあまり見せずしゃべり方もゆったりしてます。このお三輪はその点チャキチャキしていますよね。

── 求女と繋がっていたはずの苧環(おだまき)の糸が「切れくさった」と、不満や不安を口にしながら花道を出てきます。

萬壽 今回は「道行」がつかないので、どうして糸が切れたのか、どうして苧環を大事にしているのか、この「金殿(三笠山御殿)」の場だけでお客様にわかっていただかなくてはなりません。とにかく求女をずっと追いかけてきた、そして蘇我入鹿の御殿に迷い込んでしまった、そこが大事だと思います。

── 御殿に迷い込み「もしお留守かえ」と中に向かって声をかけます。

萬壽 声をかけても誰もすぐに出てこないところが広大な御殿だと思わせますよね。お三輪が花道を出てきたところが門の内側なのか、花道の途中に門があってそこを入ってきたのか、官女たちにいじめられて帰ろうとするときも花道はもう門の外なのか、門の内側で官女たちの声がまだ聞こえるくらいの距離なのか、その設定は勤める役者によっても違うんです。その部分はお客様のご想像にまかせるしかありません。ただ勤める役者としては、そこはどういう設定でいくのか決めておくことは大事ですね。今回はそこは息子(新・時蔵さん)が考えてやることです。

求女の着物に付けた糸を辿り、蘇我入鹿の御殿に迷い込んだお三輪。上演中の歌舞伎座2024年「六月大歌舞伎」昼の部『妹背山婦女庭訓』より、杉酒屋娘お三輪=中村時蔵 写真提供:松竹(株)

── そして上手から豆腐買おむらが出てきます。萬壽さんは昨年国立劇場で勤めてらっしゃいますね。

萬壽 ひとりで出てきてべらべらおしゃべりして引っ込んでいく。とっても得な役です。ただ、昔はそんなに良い役じゃなかったはずなんです。でも良い役者がやるようになって次第に拵えもきれいになったんでしょうね。だって片外しの頭だし、あんなにきれいな恰好で豆腐を買いに行く人います?(笑)大事なのは、お三輪に手ぬぐいを取らせること。あの手ぬぐいはお三輪が後々使うので、必ず取らせないといけないんです。

── この6月は片岡仁左衛門さんのおむらです。

時蔵 うちの子供(中村梅枝さん)の手を引いて出てくださいますし、劇中で口上をしてくださいます。とてもありがたいことです。

お三輪にとって苧環は大切な求女そのもの

── おむらから取った手ぬぐいを口にくわえながら、館の中に入ろうか、いやはしたないのではないかと、どうしょうどうしょうと恥ずかしがるところがかわいいです。

萬壽 先日も稽古していて息子(時蔵さん)にも言ったのですが、田舎娘のお三輪にとってはとにかく見たこともない豪華な御殿なんです。「なんだここは」とボーッと見ているんです。三段の階(きざはし)をただだらだら上がっていくんじゃなくてね。そこへ官女が「誰じゃ!」と言うのでビクッとする。

上演中の歌舞伎座2024年「六月大歌舞伎」昼の部『妹背山婦女庭訓』より、杉酒屋娘お三輪=中村時蔵 写真提供:松竹(株)

── たしかにお三輪は三段を上った後、豪華さに圧倒されて体が隙だらけです。

萬壽 そうそう。わあすごいなあ、見たことないという気持ちですね。そこへ官女たちがやってくるわけですが、お三輪はきっと十幾つでしょう。その年まで一度も見たことのない人間たちです。お三輪のように結い上げている頭の方が、時代的に言えばおかしいけれど、長い提髪で緋色の長袴をはいて何だかすごい迫力の人たちがどんどん出てくる。おむらの台詞の「お清どころ(台所)」という言葉を聞きかじり「お清さん」という人がいるのだと勝手に勘違いして、その人に会わせてほしいととっさにでたらめなことを言います。でも官女たちは百戦錬磨ですからお見通しで、この娘を嬲(なぶ)ってやろうと。

── お三輪は必死に言いつくろうけれど見抜かれている。

萬壽 そうなんですよ。この時官女のひとりがお三輪が身に着けていた苧環を取るんです。成駒屋のおじさんには「この苧環はお三輪にとってほんとに大事なんだよ」と言われました。官女に取られて取り返そうとして、それがからかわれる要因ともなってしまうんです。帯に挿しているときも常に苧環のことをずっと気にしている。そういったこともお客様に伝わるといいなあと思っているんですけどね。そんな大事な苧環なのに、終盤で投げ捨ててしまうところがあります。求女への思いを断ち切ろうとするところですね。

── 苧環はもう求女その人自身。

萬壽 そうそう。そもそも求女と自分をつなぐ糸が切れてしまったから御殿までやってきたわけですからね。

馬子唄を唄わされるお三輪。上演中の歌舞伎座2024年「六月大歌舞伎」昼の部『妹背山婦女庭訓』より、杉酒屋娘お三輪=中村時蔵 写真提供:松竹(株)

── 官女たちは長柄を持たせてお酌をする所作を教えようとします。

萬壽 初めて勤めた時は、成駒屋のおじさんが、ご自分がお三輪なさる時に出ていた官女の役者さんを選んでくださってね。「こういうふうにやってあげて」と言ってくださったので非常にやりやすかったです。官女がお三輪をちゃんといじめないと哀れに見えないし、徹底的にいじめてもらえればこちらはそれに乗っかればいいのでやりやすいんですよ。

── 官女たち、だいぶ野太い声でいたぶりますよね。

萬壽 (二世中村)歌門さんや(初代加賀屋)歌蔵さんというお弟子さんがやってらして、あの凄まじさはなかなか出ないですね(笑)。おふたりともしょっちゅう官女で出てましたからね。ビデオを見るたびにおふたりの官女を思い出します。

── そして今回は播磨屋さん萬屋さんの、本名が「小川」姓の立役の方々が官女ご連中を勤められます。

萬壽 (中村)歌六が「小川でやろうよ」と言ってくれて。下品になりすぎず、自分なりのいじめの官女をやってくれたらうれしいです。あと年齢順や看板順を少し変えてもらって、スムーズに動けるように官女それぞれに動きを割り振らせてもらいました。

── 官女たちにいじめられ、馬子唄まで歌わされます。

萬壽 これを歌わないと求女さんに逢えない。どうしても求女さんに逢いたいという思いがお三輪の中にずっとあるんです。だからお酌を教わっているくだりでも、ついつい求女がいるはずの奥の方、上手の方が気になってしまう。常にその意識がないといけません。

「疑着の相」を見せる瞬間

── そして独吟(どくぎん)。お三輪が舞台にひとり取り残されます。

萬壽 官女たちにバカにされて胸をどんと叩かれて気絶している間に、頭には紙垂(しで)を、苧環には嶋台(しまだい)をくくりつけられてしまいます。官女たちが奥へ入ってしまうのが目の端に見えるので、「いたたた」と思いながらも三段を上がって追っていこうとすると、嶋台がガラガラとくっついてくる。「何だろう」と思って見てみると嶋台が苧環に付けられ、頭にも何か付けられている。お三輪としては辛い、悔しい、悲しいところです。そして歌舞伎の演出の素晴らしいところだなと思いますね。それまでわあわあ騒がしかったのに、一人残されて静かになった。独吟が入ることでその孤独感、寂しさが増しますよね。そしてずっと大事に持っていた苧環をここで自ら投げ捨ててしまうんです。

── お三輪、これは辛いな、この後どうするんだろうという気持ちが募ります。

萬壽 でも奥からは官女たちの「おめでとうございます」という声が聞こえてくるわけです。気になるけど、見に行こうとしたらまたいじめられるかもしれない。だったらいったん帰って、子太郎(ねたろう)を連れてこようと。これがどんな奴なのかよくわかりませんが、とにかく「おぼえていやしゃんせ」と耳をふさいで帰ろうと花道へ行きかかります。七三でふたたび「おめでとうございます」という奥の声を聞いて、「お三輪はキッと振り返り」疑着の相になってしまうんです。

── 花道を行きかけて、官女たちの声に気づいて、もうあのあたりから疑着の相になるのですね。

萬壽 僕はもうあそこは一瞬で変わるべきだと思います。徐々にではなくてね。散々にいじめられ、求女に対しても「つれない男」と言い募っていますしね。

── シケ毛をさばいて、相貌も怒りで激しく変わっていきます。「生き変わり死に変わり、恨みはらさでおこうか」と台詞も物凄くなります。

嫉妬に燃え「疑着の相」を見せるお三輪。上演中の歌舞伎座2024年「六月大歌舞伎」昼の部『妹背山婦女庭訓』より、杉酒屋娘お三輪=中村時蔵 写真提供:松竹(株)

萬壽 せめて恨みを一言でも言わねばという思いで館に戻ると、鱶七実は金輪五郎に見つかってしまうんですね。嫉妬で凝り固まっている女の生き血を、爪黒の鹿の血潮と混ぜて笛に流し込み、その笛を吹くと入鹿の妖術が消えると聞き、お三輪もそれなら、と死を受け入れる。自分が求女の北の方になれるのならうれしいという気持ちで、刺されながら喜んで死んでいくわけですね。

── 怒りの表現としては曽我五郎のように三宝をバリリッとつぶします。

萬壽 あそこも歌舞伎らしい表現ですよね。それくらい怒っているということでしょう。

── お三輪も元の娘の表情に戻り、最期に求女の顔が一目見たいと。

萬壽 そこで一度は自分が放り投げたはずの苧環をまた探そうとするんです。もうすでに見えなくなった目で。そしてその糸をたぐりよせ指に巻き付けて、もう二度と離さないようにするんです。死んでも絶対に離さないという意味なんですね。ただ握っているだけじゃなくてしっかり巻き付けて死んでいく。

── お三輪の最期の台詞「恋しい」という消え入りそうな高い音を聞くと胸が詰まります。

萬壽 あそこはもう死ぬ直前ですから声を振り絞るように言っています。

── 求女にとって入鹿の世をひっくり返すために必要だったのがこのお三輪だったわけですが、なぜ田舎娘のお三輪だったのだろうと思うんです。

萬壽 ひとつ言えるのは求女って優柔不断な男だということですよね。お三輪のことも、最初は入鹿を誅罰するための道具として選んだはずではなかった。ちょっとちょっかい出してしまっただけだったと思うんです。でもお三輪の想いは真剣で、求女を追ってきた。一方では橘姫が入鹿の妹なのを知り十握の剣を奪い返せと命じている。求女って策士なところもあるわけですよ。この段階ではもうお三輪のことなんてどこかいってしまってるはず。天下のことを思うと恋にうつつを抜かしている場合ではない。そういう立場です。

── でもお三輪にとっては運命の相手だったんですね。

萬壽 こんなきれいな男の人見たことないと燃え上がっちゃったんですね。

「これだけの道具を背負ってまん中に立つ娘役もそうそうない」

── 時蔵さんはお三輪の準備をされているまっ最中かと思いますが、このお役の醍醐味をどんなところに感じておられますか。

時蔵 花道を出てきたら割合すぐに豆腐買が出てきて、次に官女たちが出てきて。お三輪としてはずっと受ける芝居が続くんですよね。自発的に芝居しているのは、花道で「疑着の相」となり本舞台に戻って来て鱶七に刺されてから後です。燃え上がってしまった嫉妬の感情だったけど、求女のためになる、好きな人のためになると知らされて昇華されていく。そんなふうにお客様に感じてもらえるようにもっていけたらいいのかなと今は思っています。そもそもお三輪はすごく怒って悔しがっていたのに、彼女にとってはこれ結局ハッピーエンドみたいなものですよね。でも「そうか、これが求女さんのためになるのだったら刺されちゃったけどいいか! 北の方になれる? やったー!」とは普通ならないでしょ?(笑)現代人にとってはなかなか共感しづらいと思うんです。ただとにかく、お三輪の人生は悲しいものだったけれど、でも幸せを感じて死ねたんだね、よかったなあって思ってもらえたらいいな。と、今の時点では思っていますが、実際に舞台でやってみたらそんなこと全く思わないかもしれません(笑)。

── 歌舞伎の女方の大役ともいわれる役です。

時蔵 まだ僕にはそこはわからないのですが、皆さんが大事になさってきた役であることは間違いないです。『妹背山』自体がスケールの大きな狂言ですし、その中で一場面任されているわけです。娘役が主役という狂言はほかにもありますが、これだけの道具を背負ってまん中に立つ娘役はそうそうない。その意味で大役と呼ばれるのかなと。

── お三輪は喜んだり怒ったり悲しんだり、言葉や態度の変わり目がきっぱりしていて、とても分かりやすい一面がありますね。

時蔵 娘役ってそういうところ、ありますよね。基本的に娘役はあれこれと何も考えずに出ていくのがいいんじゃないかと思っているんです。

── 何も考えずに出て行って、やってきたものに素直に反応していくということですね。

時蔵 はい、そう思うんです。

── 実際にスチール撮影でお三輪の衣裳を着けてみていかがでしたか。

時蔵 予想していたよりは重かったです。苧環はそれほど重くはないのですが、案外衣裳が…。

2024年歌舞伎座「六月大歌舞伎」特別ポスター

── 萬壽さんは成駒屋さんのお三輪について、改めてどんなことを思い出されますか。

萬壽 おじさんは役の考え方が深いんですよね。若い頃に「役になりきること」とよく言われましたが、その役を深く知らないとそれはできない。出てきただけでその役に見えるようになるには、その役を深く知らないといけない。その場にポンと出てきただけではそうはならないんですよ。そしてこのお三輪にも成駒屋のやり方だけでなく、音羽屋型があるんですよね。白木の御殿の道具で。杉の子会(若手勉強会)で(十八世中村)勘三郎のお三輪で求女を勤めたことがありますが、その時は(七世尾上)梅幸のおじさんに教わって音羽屋型でやったんです。でも今はそちらをなさる方がいらっしゃらない。古典は誰かが繋げていかないといけないんですが。

── 独吟を入れないやり方もありますね。

萬壽 僕は2018年にやったのがお三輪では一番最後ですが、その頃は独吟の場面のないやり方ばかりだったので、きちんと一度やって残しておきたいな、息子(時蔵さん)にも見せておきたいなと思ったんですよね。(中村)芝雀が中村雀右衛門を襲名するときの巡業で、播磨屋(二世中村吉右衛門)さんから「独吟のお三輪を教えてやって」と言われたので、その時も喜んですぐ教えたものです。去年国立劇場で『妹背山』の定高をやったときも思いましたが、役によってはやったことのある役者がどんどんいなくなる。ビデオがあってもやはりそれだけでは全然足りないんです。実際になさった方に話を聞くと、同じようにその方が先輩から聞いた話も聞ける。それが歌舞伎が代々伝わっていくために大事なことだと思います。

── 時蔵さんは萬屋の女方さんのDNAとお三輪というお役との親和性、どんなところに感じますか。

時蔵 何でしょうね……これは父もそうなのですが、やはり「古風」ということでしょうか。

── 古風な匂い、こってりした雰囲気、でしょうか。

時蔵 そうですね、そのあたりに合致するものがあるんじゃないかと。最近、周りを見渡してみると「古風だな」と思う方が少なくなってきている気がします。今回、古風な狂言である『妹背山婦女庭訓』の中のお三輪というお役を今の私が勤めることで、現代のお客様にも少しでも古風な雰囲気を感じていただきつつ、楽しんでいただければ……と、思っています。

── おしまいに、お三輪にちなんで。突然ですが時蔵さんは運命の赤い糸の存在は信じますか。

時蔵 えっ運命の赤い糸ですか!?……うーーーん、信じ…ます(笑)。

取材・文:五十川晶子

プロフィール

中村萬壽(なかむら・まんじゅ)

1955年4月26日生まれ。四代目中村時蔵の長男。’60年4月歌舞伎座『嫗山姥(こもちやまんば)』の童ほかで三代目中村梅枝を名のり初舞台。’81年6月歌舞伎座『妹背山婦女庭訓』のお三輪ほかで五代目中村時蔵を襲名。2024年6月初代中村萬壽を襲名。

中村時蔵(なかむら・ときぞう)

1987年11月22日生まれ。初代中村萬壽の長男。'91年6月歌舞伎座『人情裏長屋』の鶴之助で初お目見得。'94年6月歌舞伎座〈四代目中村時蔵三十三回忌追善〉『幡随長兵衛』の倅(せがれ)長松ほかで四代目中村梅枝を襲名し初舞台。2024年6月六代目中村時蔵を襲名。

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