「ゆけ!ゆけ!歌舞伎“深ボリ”隊!!」今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集
松本錦吾 『御所五郎蔵』花形屋吾助「相手が男伊達でもひるみません」
第45回
御所五郎蔵と星影土右衛門。仲之町で再会した宿敵の二人は、それぞれ子分を引き連れて男伊達の粋と意地を賭けて火花を散らし、本舞台と花道とで華やかな七五調の台詞を交わす。舞台の設定は京の五條坂だが、江戸は浅草吉原あたりの情景が目に浮かぶ台詞の応酬に客席ごと包まれて、実に何とも気分の良い時間だ。そんな侠客たちとは雰囲気のまるで違う男が一人、五郎蔵を追いかけてやってくる。滞っている二百両の支払いの催促にやってきた花形屋吾助だ。
<あらすじ>
奥州の大名浅間巴之丞は、五郎蔵が案内した五條坂の廓で傾城逢州を見初めて通い詰めたため二百両の借金を作ってしまった。責任を感じた五郎蔵は侠客となり金策に奔走している。一方で星影土右衛門は、横恋慕していた五郎蔵の妻・皐月に二百両の金を貸してやろうと言う。条件は五郎蔵に退き状を書くことだった。皐月は土右衛門の言うとおりに五郎蔵に愛想尽かしをするが……。
粋で男前な五郎蔵が花道を颯爽と出てきたかと思うと、その後をついてやってくる男がいる。皐月や逢州を抱える花形屋の吾助だ。
この吾助を勤めるのは松本錦吾さん。今回で五度目となる。惚れ惚れするほどカッコよく啖呵切る五郎蔵に、しつこく借金返済を迫る吾助。今月の深ボリ隊は、『御所五郎蔵』の中でスパイスのような存在感のこの役にロックオン。何を大事に、そしてどんな工夫をしながら勤めておられるのだろう。錦吾さんにお話をうかがった。
Q. 男伊達五郎蔵に対する町人の花形屋吾助。どこにこだわる?
── 花形屋吾助を勤められるのは五度目でいらっしゃいます。
松本錦吾(以下、錦吾) 最初は五郎蔵が音羽屋さん(七代目尾上菊五郎)の時でした。その後、松嶋屋(片岡仁左衛門)さん、(松本)幸四郎さんの五郎蔵でやっています。この吾助という役、狂言回しではないし三枚目というわけでもない。もちろん二枚目でもない。原作では若者ですが、私は初役のときから40代くらいの中年の設定でやらせてもらいました。あまり若い者だとちょっと釣り合わないかなと思って。頭の月代(さかやき)のところが青黛(せいたい)で、つまり剃りたてで青々としてるのはちょっと違うかなと。
※月代=額から頭頂部にかけて髪を剃り上げた部分のこと
── 頭は町人の、それもちょっと年のいった雰囲気ですね。
錦吾 若者と違って鬢(びん)も狭くなってくるし、髱(たぼ)も出さないし、髷(まげ)も細くなってくるわけです。額も広くなってくるしね。若者の頭だと月代が真っ青で髷も太いし、生え際がくっきりしてる。でも年と共に生え際がはっきりしなくなって、額の角が丸くなって見えるんです。まさに「角丸(かどまる)」という名前の鬘なんです。
── だから出てきた瞬間に直感的にその人物の年代が分かるわけですね。
錦吾 歌舞伎の頭ってまさにそう作られてますのでね。そして40がらみの設定なので羽織は着ています。取り立て屋で若い者だったら着ないだろうけど。下に股引きを履いて。衣裳はだいたいこの形に決まっていますね。
── 町人はよくあの股引きを履いていますよね。
錦吾 やはりいそいそと速足で歩かないと仕事にならないでしょ、彼らは。素足で裾をぞろぞろさせたまま速くは歩けないからね。尻っ端折りすることも多いし。なので脛を出すよりああいうのを履いていた方がいいんでしょうね。そして小道具としては煙草入れ、煙管を腰に差して、あとは手ぬぐいくらいでしょうか。
── 五郎蔵を追いかけるように花道を出てきます。
錦吾 花道を追いかけている間は捨て台詞なんですよ。台本には特にないんです。なので、「待っておくれよ、五郎蔵さん、どうしてくれるんだよ」などと言いながら七三で止まって、本台詞に入ります。五郎蔵をなさる方が変わると捨て台詞も変わるし、日によって変わってもいいし。
── 吾助は「今日まで待っていたのは男を売るお前だからだ。他の者なら待つものか」と、五郎蔵相手にもひるみません。
錦吾 借金取りだからね、ひるんでいられません(笑)。ただ向こうは遊び人、こちらは町人。相手は男伊達で売っているので恥をかかせちゃいけないと。きっといろんな人を相手に金貸しているでしょうから、そのへんは了解しているのでしょうね。
── ちなみに吾助は花形屋ではどのくらいの立場の人なのでしょう。
錦吾 番頭さんくらいじゃないでしょうか。あまり若いと向こうに相手にされないでしょうからね。
── 本舞台に行って五郎蔵が皐月からの退き状を読んでいる間は奥に座っていますね。
錦吾 五郎蔵に「待っててくれ」と言われたので、座敷での会話も一応は耳に入れながら奥で待っています。ただ皐月が見限ったのなら金はできないと腹を決めて立ち上がり、「殿様のいるお屋敷へ行くぞ」と言うので五郎蔵があわてて止める。「そんなら勘定さっしゃるか」「それだと言って」となって「さ~あさあさあ」という「繰上げ」になります。この場合、吾助から「さあ」と問いかけるのが自然でしょ。音羽屋(尾上菊五郎)の五郎蔵は吾助から「さあ」と言い出すんですが、松嶋屋(片岡仁左衛門)の場合は五郎蔵が先に「さあ」と言い出すんです。ちなみにこの「繰上げ」、時代狂言だと「さ~あ、さあ、さあ、さあ」と間がゆっくり目になりますが、これは世話なので定式間(じょうしきま)でいきます。
※繰上げ=場面のテンポを上げて進行し、高揚感を高める演出手法
※定式間=一般的なテンポの間
── 五郎蔵の役者さんの間によって雰囲気がずいぶん変わりますね。
錦吾 その後の台詞、これも松嶋屋の場合は「もし五郎蔵さん! ど う し て、お く ん な さ る ん だ よ お!」とハッキリと「押して言ってくれ」と言われます。この言い方で向こうもお芝居の肚がまた変わってくる。音羽屋のときは「もし五郎蔵さん、どうしておくんなさるんだよ」とサラッと世話に言いますね。
── そこへ皐月が手切れ金二百両を自分が払うと言い、愛想尽かしを始めます。
錦吾 五郎蔵と皐月がやり取りしている間はもうしかたないので、五郎蔵の座っている床几の端っこに腰かけて聞いているんです。あそこはあまり深く腰掛けないで、背中丸めてね。
── 皐月が愛想尽かしして土右衛門の子分たちに嗤われると、五郎蔵がブチ切れて勢いよく立ち上がりますね。
錦吾 その反動で端っこに座っていた吾助はステ~ンと床几から転がり落ちるんですが、ここは五郎蔵と後見とのイキが大事です。この後もう一度奥へ座りますが、転んで着物に泥が着いてしまったので、羽織を脱いで泥を払って畳んでおきます。これ、後の引っ込みでのしぐさにもつながっているんですね。
── そして五郎蔵が皐月からの金は受け取らない、借りたものも返さないと言うので、「それじゃあおぬしは借りを踏む気か」と今度は五郎蔵の胸ぐらをつかみますね。
錦吾 逆に腕をねじ上げられて「あいたたた、とんだことが流行ってきた」と。この後も座敷の会話は一応耳に入れていますが、いちいち反応する芝居はしませんよ、邪魔になるので(笑)。
五郎蔵役者のやりたいように合わせるのが仕事
── 五郎蔵の旧主がぞっこんだった逢州も現れて五郎蔵を説得しようとしますが、五郎蔵は「千両万両積まれても手切れの金は受け取れない」と。
錦吾 五郎蔵がそのまま出て行こうとするから、羽織り掴んであわてて追いかけるんです。「それじゃあこっちの二百両は」と言うと、五郎蔵は「未来だから覚悟しろ」と相手にしない。なので花道まで追いかけて五郎蔵の袖をひっぱり、「どうしてくれるんだよお」と止めます。
── ここで五郎蔵の「晦日に月の出る廓も闇があるから覚えていろ」というクライマックスの台詞になりますが、この台詞を一番間近で聞いているのが吾助なんですね。
錦吾 「出る廓も」で五郎蔵が吾助を勢いよく払い退けるので、花道付け際あたりに倒れ込みます。端折っていた裾はその時に下ろしておくんです。五郎蔵が「闇があるから覚えていろ」と皐月や土右衛門たちに啖呵を切って勢いよく引っ込んでいく。吾助も立ち上がって羽織りを放り投げ、五郎蔵のマネで「やい五郎蔵、闇があるから覚えていろ!」と言って、裾をつかんで一歩二歩、カッコよく追いかけようとするんですが、あれ羽織がないぞと気づく。慌ててそばに落としていた羽織をつかんで、今度は小走りで引っ込んでいきます。
── 五郎蔵と同じ下座(『浅妻船』)で引っ込んでいきますね。客席も沸きます。
錦吾 わざとらしくやりますしね(笑)。
── 五郎蔵は強くて粋な男伊達で、土右衛門やその子分たちにはものすごく強く出るのに、その傍らでは借金取りの吾助につきまとわれてずっとガタガタ言われています。その対比が面白いです。
錦吾 基本的には五郎蔵をなさる役者さんのやりたいように合わせるのがこちらの仕事、そこが一番大事なことです。それとね、今お話していて思い出したのですが、先の白鸚(八世松本幸四郎)さんが土右衛門で、僕が後見をしていたときのこと。後の場面に、土右衛門が忍術を使ってドロドロで背景の大格子の中に消えるところがありますでしょ。あそこで旦那(八世幸四郎)が大格子の違うところから入ろうとしてドーンとぶつかっちゃった。「旦那、こっちこっち」と小声で呼んだら、「こっちかよ」って普通に言いながら移動して無事ドロンしたことがありました(笑)。
── 錦吾さん、この狂言には吾助以外にも、過去いろいろなお役で出てらっしゃいますね。
錦吾 女中や五郎蔵の子分でも出たことあるんですが、僕が女方をやっていた時期があること、松竹の中でも知らない方が増えました(笑)。
最新舞台写真到着!
取材・文:五十川晶子 撮影:源賀津己
プロフィール
松本錦吾(まつもと・きんご)
1942年4月12日生まれ。高麗屋。二代目松本錦吾の長男。1949年2月、大阪・歌舞伎座『吉田屋』の禿(かむろ)で松本忠を名のり初舞台。1953年八代目松本幸四郎(初代白鸚)の内弟子となり、松本錦彌を名のる。1965年名題昇進。同年2月東京宝塚劇場『鬼の少将夜長話』の家従・弘之で三代目松本錦吾を襲名。
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