あたらよ/PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー
“悲しみをたべて育つバンド”・あたらよ 「歌を大事に考えてくれる人たちとだったらいいものが作って行けそうだなって」
特集連載
第44回
櫻井海音が最新のリリース楽曲からライブイベントまで、“いま聴くべき音楽” を厳選して紹介する『PIA SONAR MUSIC FRIDAY』から、番組連動インタビューを掲載。
今回は、切なくエモーショナルな歌声と歌詞の世界観が10代を中心に話題となっているあたらよのボーカル&ギターのひとみに、バンドの成り立ちやバンドとして新たな一面を見せた1stアルバムへ込めた思いや手ごたえについて話を聞いた。
歌っていうのは、自分の中のモヤモヤした感情を吐き出すための唯一の方法だった
── 1stアルバム『極夜において月は語らず』がリリースされて1カ月ほどですが、感触はいかがですか?
今までのあたらよを聴いていただいていた方からすると、ちょっとびっくりするようなジャンルの曲もたくさん詰まったアルバムになっていて、実際SNSなんかをチェックすると、「あたらよ、こんなのもできるんだ!」ってびっくりされている方も結構いるので、そこは挑戦してよかったなと思っています。
── その挑戦は意識的なものだったんですか?
曲調に関しては、実は結果そうなったという感触の方が大きくて。挑戦という意味ではどちらかというと歌詞や曲の世界観を意識しました。今までは恋愛にまつわる歌詞が多かったんですけど、今回はもうちょっと違った角度から見た、また別の悲しみにフォーカスを当てたりしました。だから曲調に関してはメンバーのやりたいものが詰まっているっていう感じですね。
── 少し遡って伺うのですが、ひとみさんが誘われる形でバンドが結成されたんですよね?
そうなんです。私たち4人とも同じ音楽系の専門学校に通っていて、学科も同じだったのでそれぞれがどんな音楽をやっているのかっていうのはなんとなく知っていたんです。でも別々にバンドを組んだりしていて一緒にやることはなくて。それで卒業の1年くらい前に、私が作った──それこそ、あたらよの代名詞的な曲になっている──「10月無口な君を忘れる」という曲を弾き語りでYouTubeにアップしたんです。そしたらそれを、今のメンバーのギターのまーしーとドラムのたなぱいが聴いてくれて、「ぜひ、バンドで一緒にやりたい」ってお誘いがありまして。それをきっかけにベースのたけおが入って今の形になりました。
── 弾き語りで楽曲をアップしたのは何かきっかけがあったんですか?
それまでやっていたバンドが3ピースで私がピアノ&ボーカルだったんですけど、ちょっと自分のやりたい感じではなくなってきてたんですよね。そしたら、ひとりでシンガーソングライターとしてやっていくのもいいんじゃない?って言ってくれる人がいて、そこで作ったのが「10月無口な君を忘れる」だったんです。だから、シンガーソングライターとしてやっていこうって思ってたのに、またバンドに誘われた……どうしようっていう気持ちは正直ありました(笑)。
── なるほど(笑)。でもバンドでやる決心をしたんですね。
スタジオに入ってみんなの音を聴いたら、歌を大事に考えてくれるというか、歌を聴いて集まってくれた人たちなので、そこの根本が共通しているっていうのをすごく感じられて、この人たちとだったらバンドでいいものが作って行けそうだなって思ってバンドをやる決心をしました。
── その時点で、ひとみさんには明確にやりたい音楽というものがあったということですよね。
その前にやっていたピアノ&ボーカルの3ピースバンドの時は、今のような歌詞ではなかったんですよ。何と言うか、ただきれいな言葉を並べたような歌詞を書いていました。それが変わったきっかけが「10月無口な君を忘れる」だったんです。あの曲を境に自分の内面を抉り取るような歌詞を書くようになりました。だからそこからですね、自分の中で明確に私のやりたいものの方向性が見えたというのは。
── それは自分の中にふつふつとあったものだったんですか? それとも革命が起きた!くらいの突然変異だったんでしょうか?
どちらかと言うと、革命が起きた、に近いかもですね(笑)。「10月無口な君を忘れる」を作った経緯というのが、個人的に心にくる出来事というのがありまして、恋愛のことで。そのことがあって、無心でギターをかき鳴らして作った曲だったんです。だから、こういう曲を作りたいって思ってから作ったのではなくて、ただただ無心でできた曲でした。だからスイッチがバチンと入ったような感覚はありましたね。
── 今までの曲と手応えが違ったんですか?
それまでも曲ができるとSNSにアップしていたんですけど、この曲を上げたら、めっちゃコメントがついたんですよ。「この曲すごくいい!」って。そこで初めて、これはいい曲なんだって自分で実感できたというか。確かに、メロディと言葉の馴染み方とかにしっくりはきてたんですけど、まさかそこまで周りが反応してくれるとは思ってなかったから本当にびっくりしましたね。
── 内面を掘り下げて吐き出すように作った曲がある意味評価されて、じゃあこれからも同じ感じで曲を作るのって正直しんどいとは思わなかったですか?
あははは。いや、思いましたよ(笑)。でもその頃の私にとって歌っていうのは、自分の中のモヤモヤした感情を吐き出すための唯一の方法だったというか、逆にそれが救いでもあって、本当だったらあんまり言えないことでも歌だったら言えるっていう感覚が当時の私にはあったので、最初は全然平気でした。でも、曲を作っていくうちに経験のストックもなくなっていくわけじゃないですか? そうなった時に、これからは自分の中だけに留めておきたい記憶や感情も曲にしなければいけなくなるのかな?って思った時はしんどくなりましたね。
── そっか。だからそこが今回のアルバムで角度を変えた悲しみにフォーカスを当てたというところにつながるわけですね。
そうですね。“悲しみをたべて育つバンド”っていうのがあたらよを表す言葉としてあるんですけど、だから喜怒哀楽の哀の部分からはブレたくはなかったんです。ただ恋愛ではない悲しみにフォーカスを当てた時に私だったらどんな歌詞が書けるんだろう? メンバーだったらどんな音で表現するんだろう?っていうのを今回のアルバムでは実験というか、チャレンジしましたね。
今のみんなのベストを出し切った
── 昨年10月にリリースしたEP『夜明け前』は、リアルかつリアルタイムな感情で出来上がった曲を集めた作品でしたよね。
自分がその時思った恋愛の感情を歌にしているっていう曲が多いですね。
── 一回そこでまとめるというか、区切りを付けてみようっていう意識はありましたか?
あー、でも何でしょう、「10月無口な君を忘れる」はあたらよとして最初に作った楽曲だったんですよ。最初はバズってやろうっていう気持ちもなく、記念にこういう曲もあるんだよっていうのを世の中に残したくてYouTubeに上げたんですけど、それが一気にいろんな人に聴かれるようになって、じゃあ次どんな曲を書こう?っていう感じで、ほんと自転車操業みたいに曲を書いては出して、書いては出して、みたいな感じだったんです。
だからそうやって短いスパンで作っていったから恋愛のリアルな感情を掘り下げた曲が集中してできたのかな、とも思いますね。一区切りつけるというか、必然的にそういう曲が集まったという感じに近いですね。
── なるほど。『夜明け前』にリアルな曲をまとめることで違う世界に踏み出せたという感覚はありますか?
それはありますね。私としてはEP『夜明け前』はあたらよの第1章と捉えていて、じゃあ次に第2章としてのアルバムを作る時に、新しい何かを提示しなければいけないっていう葛藤みたいなものはものすごくありましたね。
── 改めて1stアルバム『極夜において月は語らず』ですが、まずはタイトルにはどういう想いが?
極夜っていうのは白夜の反対で、一日中太陽が昇らない日のことを言うんですけど、昇らないとは言いつつ、地平線上にぼんやりした太陽が転がりつつあって、薄明かりの状態が続くんですよね。その極夜の状態だと月が見えづらいんです。その極夜における月の、確かにそこにはあるんだけど存在を主張してこない感じが、悲しみに寄り添うあたらよの楽曲に近い感覚だなと思って、このタイトルにしました。
── 各曲のアレンジもより言葉に溶け込んでいる感じがするというか。例えば「52」のAメロ冒頭のフレーズ終わりでふっと音が消えてなくなるようなアレンジは、バンドとしての意志や一体感を如実に感じることができました。
今回のアレンジ面は、苦戦したというか、みんな結構悩んで作っていたイメージがありますね。私はバンドサウンドに対して、最初から「こうしてほしい」みたいなことはあまり言わないタイプで、ギターやピアノで弾き語りをした状態のものをメンバーに丸投げに近い形で渡して、メンバー各々が考えてきたアレンジをスタジオで合わせて練り上げていくっていう作り方をしています。だから、あたらよの曲作りは結構アナログな作り方をしているんですよ。でもそれが今回こういう感じで、面白いアレンジに発展していったので、メンバーはめちゃめちゃ悩んでましたけど(笑)。結構いい感じなのではないかなと私的には思っています。
── そして、SONAR TRAXになっている「悲しいラブソング」について伺うのですが、これは本当に悲しみの極北とでも言いたくなるような切ない内容ですね(笑)。
あははは。
── 結構前からある曲らしいですね。
そうなんですよ。実は「悲しいラブソング」は学生時代にみんなで作った曲なんですけど、当時はまだ1コーラス分しか書いてなかったんですよ。それをメンバーに「こういう曲できたよ」って持っていったら、「面白そう!」って言ってくれて、1コーラス分だけのバンドアレンジの状態であったんですよね。曲調は結構ポップなんですけど、でもこの曲は「10月無口な君を忘れる」の次に書いた曲なんです。だから、今になってポップさが前面に出てきたのではなくて、もともとあったんだけど、ちょっと隠し持ってたっていう感じですね。
── まさに気になっていたのが、そのポップさについてでした。歌詞は先ほど言ったみたいに、とても切なくて痛みを伴う内容なんですけど、アレンジは割り合いカラッとしているというか、そのギャップは何なんだろう?って思ってたんです。
アレンジの基盤になるのがギターのまーしーのセンスだったりするんですけど、彼が普段からよく聴いているのはポップパンクだったり、わりとアップテンポなものが多いので、「これは俺の土俵だ」みたいな感じでやったんでしょうね(笑)。
── びっくりしませんでしたか?
いや、これはこれで皮肉が効いてていいかなと思いました。歌詞も相手の核心を突くようなことをズバズバ言ってるので、このくらいポップな方が面白いかなと思いましたね。
── たしかに。暗黒なアレンジだったら聴くの辛いかも(笑)。
重いですよね(笑)。
── 〈枯れ果てそうなこの涙は もう君の為には使えない〉って、これほど残酷で美しい別れの言葉を知りませんよ(笑)。
あははは。どうしてそんな言葉が出てきたんでしょうね(笑)。
── そもそも1コーラス分のアレンジで眠っていたものが、どうして今回復活したんですか?
ギターのまーしーが、「そう言えばあの曲俺やりたいんだよね」って言い出して、「じゃあ後半作らなきゃだね」って私が言って、後半は当時の気持ちを思い出して書いてるんですよ。歌詞も曲の構成も。なので、最初に作った当時と比べて自分の心境の変化なんかもあったりして、あんまり言葉が噛み合わないかもって思ってたんですけど、歌にするくらいなので気持ちが強かったみたいで、当時を思い出すのはそんなに難しくなくて(笑)。気づいたら書き上がってましたね。
── 歌ったらグッと感情が入りそうですね。
そうなんですよ。これがまた私の実体験を詰め込んだ曲なので、レコーディングの時に気持ちが入りすぎちゃって、メンバーに「やりすぎ」って怒られました(笑)。
── じゃあアルバムに入ってるテイクはそれではないんだ(笑)。
そうですそうです(笑)。「ごめんね」って言ってその後に歌い直したテイクが収録されています。
── 歌詞で言うと、「極夜」も強く印象に残りますね。もう小説じゃないか!と。感情や世界の捉え方が物語としてきちんとあるんですよね。文学作品には親しまれているんですか?
本は大好きで、中学生の時は図書委員をずっとやっていました。今も本を持ち歩いていないとソワソワしちゃうので、どこに出かける時も──それこそお仕事の時もプライベートの時も──普通は2冊、鞄が小さいと1冊を忍ばせて、少し時間が空いた時なんかに本を読んで心を落ち着けています。
── 歌詞もメロディもアレンジも、とにかく今やれることを最大限にやった、という感じでしょうか?
そうですね。今のみんなのベストを出し切ったというか。歌詞に関しても結構いろいろ悩んだところもあったんですけど、ボツになった曲たちのためにもって思いながら必死に作りましたね(笑)。
── 先ほどアルバムが第2章とおっしゃいましたが、今、どんな感覚ですか?
やれることが広がったというのが一番の成果ですね。今まで頭の中でこれもやれるだろうな、これも合うだろうなって思ってたことに今回チャレンジできて、その結果アルバムとして仕上げてリリースすることができたので。この経験を踏まえて、じゃあもっとこうしてみようっていう新しいことをいろいろやってみたいなっていう話はメンバー間ではすでにしています。
── 5月5日(木・祝)から東名阪ツアーですね。どんなライブになりそうですか?
アルバムでいろいろなことにチャレンジしたおかげで、ライブの雰囲気も変わってくると思うんですよ。今まではバラードでしんみりしていたところにアップテンポなものも入ってきたりするでしょうし、今のあたらよのライブをぜひ観ていただきたいですね。
Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子
リリース情報
1st アルバム『極夜において月は語らず』
2020年3月23日(水)リリース
<初回限定版> RZCB-87075~6 3,850円(税込)
<通常版>RZCB-87077 3,000円(税込)

<収録内容>
01. 交差点
02. 夏霞
03. 極夜
04. 祥月
05. 「知りたくなかった、失うのなら」
06. 悲しいラブソング
07. 嘘つき
08. outcry
09. 52
10. 10月無口な君を忘れる
11. 差異
ライブ情報
あたらよ 1st Tour 「極夜において月は語らず」
2022年5月5日(木・祝)16:30開場/17:30開演 東京都:WWW X
2022年5月21日(土)16:30開場/17:30開演 大阪府:シャングリラ
2022年5月22日(日)16:30開場/17:30開演 愛知県:SPADE BOX
チケット料金:前売スタンディング4,500円(税込、立ち位置指定)
※入場時ドリンク代が必要
詳細は公式サイトでご確認ください。
プロフィール
「悲しみをたべて育つバンド。」
東京を中心に活動中の4ピースバンド。作詞・作曲・アートワークや映像もセルフプロデュースしている。グループ名の「あたらよ」は”明けるのが惜しいほど美しい夜”という意味の可惜夜(あたらよ)から由来している。2020年11月にYoutubeに楽曲を投稿し始め活動を開始。初のオリジナル曲「10月無口な君を忘れる」では、切なくエモーショナルな歌声と、都会的な空気感、共感を呼ぶ切ない歌詞の世界観が話題となり、現在Youtubeでは3300万再生突破。2021年3月にデジタルリリースを開始すると、瞬く間にLINE MUSIC・Spotify・TikTok・AWAでチャート首位獲得。10月に初の7曲入りEP『夜明け前』を、2022年3月に1stアルバム『極夜において月は語らず』リリース。
関連サイト
公式サイト:https://atarayo-band.jp/
Twitter:https://twitter.com/Atarayo_band
Instagram:https://www.instagram.com/atarayo_band/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCgrtbLQsox2EYtF0iVclZjA
番組概要
放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:PIA SONAR MUSIC FRIDAY
ナビゲーター:櫻井海音
放送日時:毎週金曜 22:30~23:00
番組HP:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarfriday/
番組twitter:https://twitter.com/SONAR_MUSIC_813
ハッシュタグ:#sonar813
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