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玉置周啓(MONO NO AWARE)/PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー

注目の4人組バンド・MONO NO AWARE 「不可逆じゃないというか、やり直し出来ちゃう空気感みたいなものを書きたかった」

特集連載

第49回

櫻井海音が最新のリリース楽曲からライブイベントまで、“いま聴くべき音楽”を厳選して紹介する『PIA SONAR MUSIC FRIDAY』から、番組連動インタビューを掲載。
6月3日放送回に登場するのは、次世代バンドとして数々の国内フェスに出演し注目を浴びる4人組バンド、MONO NO AWAREのVo&Gt玉置周啓。
ポップとロックの独特なバランス加減を、巧みな言葉遣いとメロディセンス、アレンジ力で仕上げたバンドの腕が光る新曲「味見」について話を聞いた。

バンド史上初めて、この曲はサビからできたんですよね

── リリース自体で言うと、昨年6月に出した4枚目のアルバム『行列ができる方舟』以来ということになりますね。

そうですね。

── 『行列のできる方舟』の制作にあたっては、曲に向き合う際の体制をそれまでとは変更して臨んだ、ということをおっしゃっていましたね。

イニシアチブのほとんどを僕が握っている状態だったんですけど、前のアルバムから6:4でバンドが4っていうくらいの感じになりました。

── 今回のシングル「味見」の場合、そのバランスはどうなりましたか?

アルバムの時よりもちょっと僕の割合が増えたという感じですかね。だいぶ時間もかけましたし、音のデモからいかに面白くするか、バンド内で討議を重ねてやっていきました。だからアルバムでやったことっていうのは、割合こそその都度で違ってくるんでしょうけど、確実に生かされていると思います。

今回の曲でもっともそれがわかりやすく出ているのがイントロのドラムのフレーズで、元は僕のデモなんですけど、それをドラムの(柳澤)豊がデータ上で書き換えて、そこから自分でスタジオに入って頭の中だけで作ったMIDIのコンピューターチックなフレーズから、実際に叩いて自然とカッコいいと思えるフレーズに変えていきました。そこの変遷に関して言えば、僕はほとんどノータッチでしたね。

── ドラマタイアップということで、はじめにお題があるという形での制作だったと思うのですが、一方で創作の過程はまた違う思考の流れがあるものと思われます。創作の起点となったものは何ですか?

バンド史上初めての経験だったんですけど、この曲はサビからできたんですよね。そこにはもちろんせっかくドラマのタイアップなんだから、という意識があって、要はあまりにも自分の趣味に偏った閉鎖的なものを作るのは違うなと。それで、しっくりくるものが出てくるまでずっといろんなメロディを歌っていたんです。なので、創作の起点がどこかと言われればそこですかね。

── 意図的にサビから作ろうと思ったんですか?

そうですね。今までやったことがなかったので。なんて言うんでしょう、今までインディバンドとしてやってきた分感じてしまう、いい感じのサビに対して抱えてしまう“こっ恥ずかしさ”というか(笑)。でもそこに一度真摯に向き合ってみようというのが初めてでした。キッチンをうろうろしながらいろんなメロディをひとりで歌い続けて2日間、ようやく出てきた「これかも?」っていうものを捕まえて出来ました。

── その時点で言葉はあったんですか?

ほぼ今出来ている歌詞と同じ言葉がありましたね。

社会で生きる上でのバランス感みたいなものを書きたいなというのは最初からありました

── タイトルになっている「味見」という言葉は最初からあったんですか?

ありましたね。「味見」か「加減」のどちらかにしようと思っていました。加減の“減”が滅亡の“滅”に似ているので、パッと見悲しいなと思って「味見」にしました。

── 良かったです「味見」で(笑)。

そう言っていただけると何よりです(笑)。あと、「塩梅」っていう候補もありました。

── この曲を聴いて、味見が許されるなら過程で失敗してもいいんだってすごく前向きな感情を持てたんですよね。

ああ、確かに。そうそう。そういう感じなんですよ。だから、不可逆じゃないというか、やり直し出来ちゃう空気感みたいなものは書きたかったテーマではあります。

── 人間と社会の関わり方というテーマにも結びついて行く部分だと思いますが、そこは周啓さんがずっとテーマにしてきていることですよね。

そうですね。寛容かつ不干渉な世界みたいなのは……結構書いたつもりだったんですけど全然社会に反映されている気がしないので、まだしばらくそれについて書くことになりそうだなって思います。

── 周啓さんが連載されている『読書感想文』の第四回に福田恆存の『人間・この劇的なるもの』を取り上げていて、端的に言うと批判があるから自由になれるということを説いているわけですが、もしかしたら「味見」というのは批判と同じことなのかもしれないと思ったんですよね。

なるほど。確かにそうですね。それで言うともうひとつ──浅学なので正確かどうかは怪しいんですけど──千葉雅也さん(※現代思想を軸に芸術とポピュラー文化の横断的研究をしている)という方が「仮固定」という言葉を使っていて、世の中はすごく流動的であまりにも情報が多いから何かを決めるのがすごく難しいと。そこで、いったんそうしてみる、という肩の力の抜き加減というか、その感じにもすごく通じるものがありますね、「味見」というのは。

紐解けば、昔の哲学者が違う言葉で言っていたことのようですけど、いったんこう決めたんだけどいつ変わってもおかしくない、っていうことをわかった上で固定するという感覚らしくて。この感覚は僕が世の中で生きていく上でかなり参考になるなと思って。やっぱり二極化がすごいですよね。それは体感として思います。一度犯した過ちはもう取り返しがつかないというような価値観か、誰に迷惑かけてもかまわんという反動的な価値観かのどちらかに振り切れていると感じることが多くて、そうじゃなくてその間っていうのは前から思っていることですね。

── じゃあその加減というか味見感というか、料理というのはテーマ自体を含ませやすかったのかもしれないですね。

まさにそうですね。このドラマタイアップのお話をいただいた時に、僕がそもそも料理で感じていた「少々」という加減の難しさを何かうまく曲にできないか、というのがまずはありましたね。だから、歌詞で言うと僕がずっと考えてきた社会で生きる上でのバランス感みたいなものを書きたいなというのは最初からありました。

── ということは、歌詞ではそんなに苦労しなかった?

歌詞はパッと出来た感じですね。それよりも曲の方を躍起になって作っていました。

── あと歌詞で言うと、わかりやすく、というか確信犯的に韻を踏んでいくじゃないですか。そこにはどういう意図があったんでしょうか。

サビを作った時点で、この感じが好きな人はサビだけで十分だと思ってくれるんじゃないかなっていう気がして。その後にAメロとか他の部分を作って行ったんですけど、そっちは好きだったUKギターロックの雰囲気を取り入れようと思ったんですよ。だから歌詞の聴き取りやすさとかっていうことはそんなに大切にはしていなくて。それよりも、音の響きとして入ってきて歌詞を読んだら意味がわかるという、洋楽を聴いた時の感じを目指しました。

── そもそも歌詞の意味とサウンドを同時に体感として理解するのって聴く方にとって実は難易度の高い行為だったりしますよね。

難しいですね。メッセージを伝えようとしすぎるあまり音としてあまり気持ち良くない、という日本語ポップスに感じる僕自身の主観を大切にしているので、意味と音をうまく混ぜられないかなという試みをずっとやっている感覚ですね。ギリギリ聴き取れる、みたいなところを今回もやった感じです。その代わり、サビはしっかり歌ってメッセージがちゃんと伝わるようにし、て1曲の中で洋楽的なものと邦楽的なもののバランスが取れている曲にしようと思いました。

── 音と意味のバランス感覚って相当難しそうですね。

だからそこはもうセンス一発な感じがしていて。自分が面白いと思う感覚で言葉を配置して、それに共鳴してくれる人が一定数いれば食っていけるなっていうテンションでやっています(笑)。だからそこをあまり研究したことはないですね。

自分の範疇を超えた曲になったような気がしています

── サウンド面について伺いますが、わりとバンドの基礎体力が見えやすい感じと言いますか、ザ・ストロークスを彷彿とさせる感じもあったりして。

あ、そうなんですよ。あんまり自分たちの好きなものっぽくならないように1stアルバムからそこの部分をひた隠しにして制作をしてきたんです(笑)。

でも最近No Busesというバンドとの出会いがあって、彼らは趣味がまんま出ている音楽をやっていて、ライブを観たけどみんな超楽しそう、かつ、ちゃんと人に聴かれている。それで結構僕自身が解放されたという面がありまして。好きなものを変な自意識で隠してやるよりは、愛さえあればいったんまんまやって自分の曲に落とし込んで、批判を受けたらまた考えたらいいやっていう──安易な仮固定化もしれないですけど(笑)。ともかくいったんそっちに振り切ってみようっていう感じで、今回のサウンド面はわかりやすく好きなものを追いかけました。

── サビのポップさにうっかり騙されそうになりますけど、サウンド自体は獰猛ですよね。

そうですね。ギターを4本重ねたのも今回初めてやりました。もしかしたらもう来ているのかもしれないんですけど、歪んだギターが来るんじゃないかなっていう気がしていて、聴きやすい音楽って僕も皆さんもそろそろ飽きてくるんじゃないかなっていう感覚があって、それで意図的にエグい歪みを頭に入れてみたという感じです。

── そういった振り切ったトライもまずはポップなサビがドンとあったからできたことだと言えますよね。

これは今後ひとつの手法としてとっておこうと思うくらいいいアプローチでしたね。何よりサビができた後、楽しかったので(笑)。

── インタビューの冒頭で時間がかかったとおっしゃったのですが、どのあたりに時間がかかったのですか?

大きくふたつで、一つ目はサビができるまでですね。二つ目は接続ですね。めちゃくちゃ好きなギターロック的なイントロからどうやって予め完成し切っているポップなサビに向かっていくのかっていう、そこの接続にかなり時間をかけました。あんまりパッチワークになりすぎると単に聴き心地の悪いものになってしまうので、すごく試行錯誤しました。

── 逆算していくような感覚なんですか?

そうですね。最初はもっとサビが多かったんですけど、それこそメンバーから、ここは削ったほうがいいっていう意見が出てきたりして、それを参考にして構成し直したりしました。そういう意味ではサウンドはめっちゃバンドサウンドっぽいけど、構成なんかはコンピューターチックな感じがありますよね。

── これまでの作り方で言うと、サビという塊がある感じではなく、もっと小さい断片があってそこを突破口に作っていくという感じだったんですか?

もうちょっと抽象的な情景があって、時間をかけて結果5分でその情景を作る、みたいな感覚でした。要は物語を5分で作るというよりは、5分あったおかげであの1秒がめちゃくちゃカッコよく聴こえたとか、あの言葉がめちゃくちゃ沁みたっていうような瞬間ができるように5分の尺を作るっていうような作り方でした。今回も似てはいるんですけど。

── そうですね。根本の発想は同じなんですけど、塊としてあるか断片としてあるかっていうところで大きく違うんでしょうね。

昨年出したアルバムの時は、流れでその一瞬の感覚を作っていたので基本イントロから作ってどんどん足していくっていう作り方だったんですけど、今回はサビからだったので、それこそ料理っぽいですよね。食材が一個だけ決まっていて、切り刻みまくって美味しく仕上がるようにしたみたいな感覚です。

── なるほど(笑)。

そこのある意味“縛り”が面白かったですね。サビはわかりやすいんですけど、そのほかの部分は音も重ねまくってできるだけ掴みどころがないようなものにしました。

── それは、ぼやかしたという感じですか?

うまい料理ってなんでうまいのかわからない時ってあるじゃないですか。何味なのかよくわからん、みたいな(笑)。それを目指しました。

── 確かに(笑)。うまい料理って「うまい」としか言えない。

そうそう。鰹節が入ってる可能性があるなとか、人によってどう感じるかが違う楽しみを目指しました。そこは結構意図的にコンセプトとしてやりましたね。

── 例えば料理のレシピ本にはそれぞれ一応の完成形がありますが、きっとまったく同じ味にはなりませんよね。なんだかその絶妙な感じがそのまま曲になっているように思えました。

曲を作っている時の感情がまさにそんな感じでしたね。どうやったって完成にはなるから縛りを自分たちで作っていかなければいけない感覚というか。だから難易度を高めるためにいろんなパートを入れて、それによってやれることを限定していったというプロセスでした。

── パートを増やすことが縛りになるという感覚がちょっとわからないのですが。例えば食材をたくさん増やしたらできる料理の幅は広がるような気もして。

ああ、なるほど。でも例えば肉も魚も卵も使うってなったら、それらをまとめられる味付けって結構限られてくると思うんですよね。もうカレー味にするしかない、みたいな。でも食材が少ないと味付けのバリエーションは出るじゃないですか。そういう感じですね。というかヤバイですね、比喩が膨れ上がってもはや料理の話になってる(笑)。

── (笑)。それにしても音楽的なプロセスがロジカルですよね。

今話していて自分で驚いています(笑)。ほぼ無意識でやっていたので。

── 改めて「味見」という曲はMONO NO AWAREの中では新しいジャンルの曲になるのでしょうか?

出来上がった後もずっといいのか悪いのかわからないなって思うくらい(笑)、自分の範疇を超えた曲になったような気がしています。これはカッコつけではなく、シンプルに今までやった曲じゃないからだろうなって思いながら聴いていましたね。

── 不思議な後味のする曲だと思いました。また味の例えで恐縮ですけど。ある時はずっとサビが残っていたり、またある時はイントロのドラムパターンが頭の中で繰り返されたり、毎回違う味がします。

それは言っていただけてうれしい感想ですね。聴くたびにフォーカスする場所が変わるっていうのは。今回目指したものがまさにそんな感じだったと思います。

Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子

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リリース情報

デジタルシングル「味見」
2022年4月27日配信リリース

https://mononoaware.lnk.to/Ajimi

ライブ情報

THE CAMP BOOK 2022
日程:2022年6月11日(土)時間未定
会場:長野•富士見高原リゾート
出演:氣志團/RHYMESTER/ROVO/toe/GLIM SPANKY/THA BLUE HERB/BIM/田我流/MONO NO AWARE/TENDOUJI/TURTLE ISLAND
公式サイト:https://the-camp-book.com/2022

やついフェス
日程:2022年6月18日(土) 11:30開場開演
会場:O-EAST/WEST/duo MUSIC EXCHANGE
出演:DJやついいちろう/RIP SLYME/小沢一敬(スピードワゴン)/STU48/清 竜人/爆乳ヤンキー/阿佐ヶ谷姉妹/戸田恵子/エレ片劇団/エレ片/宮迫博之/古市コータロー/MONO NO AWARE ほか
公式サイト:https://yatsui-fes.com/

プロフィール

東京都八丈島出身の玉置周啓、加藤成順は、大学で竹田綾子、柳澤豊に出会った。その結果、ポップの土俵にいながらも、多彩なバックグラウンド匂わすサウンド、言葉遊びに長けた歌詞で、ジャンルの枠に囚われない自由な音を奏でるのだった。FUJI ROCK FESTIVAL’16 "ROOKIE A GO-GO"から、翌年の投票でメインステージに出演。2017年3月、1stアルバム『人生、山おり谷おり』を全国リリース。2018年8月に2ndアルバム『AHA』をリリース。2019年10月には、NHKみんなのうたへの書き下ろし曲「かむかもしかもにどもかも!」、『沈没家族 劇場版』主題歌「A・I・A・O・U」を収録した3rdアルバム『かけがえのないもの』をリリースし各所から高い評価を集める。2020年9月には劇場アニメ『海辺のエトランゼ』の主題歌「ゾッコン」を書き下ろし提供。数々の国内フェスに出演するなど次世代バンドとして注目を集める。

関連サイト

オフィシャルサイト:https://mono-no-aware.jp
Instagram:https://www.instagram.com/mono.no.aware.0630/
Twitter:https://twitter.com/mono_no_aware_

番組概要

放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:PIA SONAR MUSIC FRIDAY
ナビゲーター:櫻井海音
放送日時:毎週金曜 22:30~23:00
番組HP:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarfriday/
番組twitter:https://twitter.com/SONAR_MUSIC_813
ハッシュタグ:#sonar813
番組LINEアカウント:http://lin.ee/H8QXCjW