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きゃない/PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー

シンガーソングライター・きゃない 浮気を肯定した歌「紫陽花」をリリースした経緯とは?

特集連載

第53回

櫻井海音が最新のリリース楽曲からライブイベントまで、“いま聴くべき音楽”を厳選して紹介する『PIA SONAR MUSIC FRIDAY』から、番組連動インタビューを掲載。
7月1日放送回に登場するのは、鋭い言葉で心や世の中の闇を暴くような歌詞世界と耳馴染みの良いメロディがハイブリッドに融合した楽曲で注目を集めているシンガーソングライター・きゃない。
有名人やインフルエンサーが続々反応し、4月16日(土)に新宿で行われた路上ライブには約500人のファンが詰めかけるなど、中毒的に人気を広めているきゃないの魅力とは?

自分の書く曲は他者に共感されるものじゃないとダメだと思っているんです

── 地元である大阪・天王寺で路上ライブを始めたのがシンガーソングライターとしてのキャリアのスタートだったんですよね?

そうですね。3年半くらい前になります。

── その前は?

4人組のバンドをやっていて、実はその時につくったのが「バニラ」(4thシングル)なんです。他にもバンド時代につくって今も歌い続けている曲がいくつかあります。

── バンドからシンガーソングライターへという決断はどのようなものだったんですか?

きっかけとしては、バンドが解散してしまったことだったんです。僕がリーダーだったのでものすごく責任を感じてしまって……1カ月ほどは自宅に閉じこもっていました。でも、やっぱり僕には音楽しかないということに改めて気づかされたので、ひとりでやってみようと思いました。

── 結構大きな決断だったと思うのですが、バンドもプロを目指して活動をしていたんですよね?

もちろんそうです。オーディションも結構受けたりしていて、結果も悪くなかったんです。でも、全部2位とか、あと一歩届かず、みたいな感じではあったんですよね。仮に売れる材料みたいなものがあるのだとすれば、売れない材料が揃っちゃったのかなって思うくらい、いつからかうまく行かなくなりました。

── シンガーソングライターとして活動していくにあたって、音楽性はバンドとは違うものにしようという意識はあったんですか?

バンドでやっていたのは、よりピュアな感じのものだったように思います。でもシンガーソングライターとしてやっていく中でできる曲というのは、より生身に近いというか、実体験を描写したいと思うようになりました。

自分の持っている我の部分をオブラートに包んで、人に気をつかいながら書いた歌詞ではなくて、そういう余計なものは一切捨てて表現するようになりましたね。

── 2020年3月に東京に出て来たのは、何かきっかけがあったんですか?

シンガーソングライターとしてオーディションに出たことがあって、そのオーディションがきっかけでしたね。地方ごとにブロック分けされていて、そこを勝ち抜いた人たちが最終的に東京に集まって審査を受ける、というようなものだったんですけど。

そこで知り合ったほかのミュージシャンと話していると、例えば東京と大阪で、500人集めてライブをやった人がいたとして、評価されやすい、話題になりやすいのはやっぱり東京なんだよねっていうことを感じて、それで思い切って上京する決断をしました。

── 上京された時期が、コロナ禍が広がっていったタイミングとドンピシャでした。当然路上も含めたライブ活動が制限される中で、すぐにオリジナル曲をたくさんつくるという方向にシフトしましたよね。もちろんそうせざるを得なかったという側面はあるにせよ、上京したてでなかなか難しい局面だったと思いますが、当時を振り返っていかがでしょうか?

正直、途方に暮れていました(笑)。なんちゅうタイミングだと。でもその時僕のそばにいてくれた何名かの友人が、「外に出られないんだったら中でできることをやるしかないよ」って勇気づけてくれました。「毎日1曲書いてみたら?」って。確かにそれはいいな、というか、書き続けた先に名曲があるかもしれないと思ったんですよね。

最初から名曲を目指すのではなくて。「とにかく数多くつくるということも、今のあなたには必要なのでは?」という神の声のような助言をしてくれまして(笑)。だから、ここまで成し得たことがすべて自分だけの力ではないんです。

── そこで作っていった曲たちが、今のきゃないさんの土台を形成したと言えるのでしょうか?

そうですね、形成しました、うん。僕は生身の自分を歌にするので、実体験が元になることが多いんですよ。人のことを歌いたいから人に会わなきゃいけないって思ってるんですけど、でもあの時期は人に会えなかったので、その時期に書いた歌って自分のことばっかだったなって振り返れば思うんですよね。俺はこうなんだっていう気持ちを主に歌っていたので。

それはそれで良かったりもしたんですけど、僕が一番大切だと思うのは、自分の書く曲は他者に共感されるものじゃないとダメだと思っているんです。自分の周りに檻をつくって自分の主張をいくら声高にしても、きっと受け入れられずに人が去っていく未来しかないと思うんですよね。

だから、あの時期につくった曲たち自体が土台になったかと言われたらちょっとわからないですけど、自分の曲はこういうものでないといけないなということに気づかされたという意味では、とても糧になったと感じています。

── 一回そこで自分の中を掘り進めてみてはじめてわかる部分があったと。

出てくる言葉も、より深くなったような気がします。

僕はこの世が正しいとはまったく思ってない

── 2021年9月にリリースした1stシングル「イヌ」は、資料によるとシンガーソングライターになってはじめてできた曲と書かれています。どのくらいの時期にできたものですか?

シンガーソングライターとして活動を始めて、1~2週間くらいでできた曲でしたね。

── 何をきっかけに書かれたんですか?

自分にとってほかの人じゃ代用できない人というか。そういう貴重で大切な人が誰にでもいると思うんですけど、もちろんそういう人とずっと一緒に生きられたらそんな幸せなことはない。でもそうじゃない場合の方が現実には多くて。

それでも僕らは常にそういう人を求めるし、出会いたいと思ってしまう。「人間」という言葉がまさに表しているように、人と人との間でしか生きられないんですよね。

そうやって生きているうちに、ふと気づくことがあるんです。ああ、あの人が自分にとって一番大切な人だったんだなって。皮肉なことにそれはその人以降に出会った人たちが気づかせてくれるんですよね。

そういう人間関係の様を、僕自身がイヌでその人が飼い主だったんだなって解釈することで歌として表現できると思ったのがきっかけです。メロディ自体はもともとあったんですよ、実は。僕は基本的に歌詞から書くんですけど、この歌だけ歌詞が出てこなくて。めっちゃいいメロディなのに……ってずっと思ってたんです。

やっぱり歌詞が書けたのは、バンドを解散したことが影響していたんだなと思います。自分自身が一皮剥けたというか。覚悟ができたというか。そういう部分も含めて「イヌ」という曲はできたのだと思います。

── この曲の優れているところは、やはり歌詞の視点だと思います。先ほどおっしゃった、人間関係を自分がイヌとして飼われていたという視点から眺めるという部分ですよね。それは、バンドからシンガーソングライターというひとりでの活動に切り替わるということと無関係ではないですよね。

だと思いますね。4人でつくると4人の歌になるので。僕ひとりで自由に書いていこうって思えたのはやはり大きなきっかけだったし、今こうやってお話をさせていただいて、改めてこの「イヌ」という曲が自分にとって大切な曲なんだなということがわかりました。

── 「イヌ」から始まって、「コインランドリー」(2ndシングル)、「夕暮れ」(3rdシングル)、「バニラ」と、きゃないさんの歌は、何かの間(はざま)について歌ったものだと感じました。「イヌ」は先ほども出たように人間そのものがテーマになっていますし、「コインランドリー」は生活と夢の間、「夕暮れ」は捨てられた恋人への怒りとそれでも捨てきれない想いとの間で揺れる感情が、夕暮れというどこにも属さない時間で描写される。そして「バニラ」は生と死の間を描いたもの。何かの間に身を置いて、そこから大切なものを掴むんだというような意識はありますか?

ありますね。どうしても人間の歌を歌いたいんですよね。僕は結構我が強い人間なので、自分の思っている本音と世の中がわかってくれそうな本音、その中間を探っているような気がします。決して世の中の声や想いを代弁したいということではなくて。

やっぱり人間って人と人との間もそうですし、何かの間にいることでようやく何かを感じられるんだと思うんですよね。自分に入り込みすぎても、逆に他人に偏りすぎても真実って見えてこないと思うんです。その間にいることが大事なんですよね。

それにしても、人間っていう言葉は誰が考えたんでしょうね(笑)。

── 真実を掴み取りたいっていう意欲、意識はありますか?

僕はこの世が正しいとはまったく思ってないので。中には正しいこともあります。素敵なことも美しいことも。ただ、何かひとつ素敵なことがあったからと言って、ほかの汚い部分や不条理を全部飲み込めるほど僕らの器は大きくないと思っていて。

じゃあそれに蓋をして黙っているのかな……それはできないというか、そこが、僕が音楽を通じて伝えたいことにすごく似ているんです。

ちょっとひどい言い方をすると、僕の音楽を聴いてくれている人たちが、もうちょっとわがままになってくれたら僕はうれしいなと、心の片隅で思っているんです。

それはどうしてかと言うと、自分の意見を言えない人ってすごく多いような気がしているんですよね。確かに時代的なものもあるのかもしれないんですけど、でも時代をつくるのはその時代を生きている人しかいないので、僕も含めて。

── そのことを例えば言葉だけで伝えようとすると難しいかもしれないんですけど、そこにメロディがあるから、音楽だからできるという確信があるんですよね、きっと。

その通りです。これは僕の両親に感謝なんですけど、小さい頃からMr.ChildrenやSPITZ、あるいはザ・ビートルズのヒット曲と言われるものをたくさん聴いてきて、それらの音楽に影響を受けているのがあるかなとおいます。

人は、見たり聴いたり触ったり味わったりして触れてきたものから、今のその人ができていると僕は思っていて。

僕の音楽がいいなと思ってくれる人がいたら、それは僕を魅了した音楽があって、その音楽が僕に出会ってくれた結果なんだなと。そうやって影響しあったものが次に繋がっていくことに意味があるのではないかなと感じるんですよね。

だから僕は──特にメロディやサウンド面に関しては──自分が影響を受けたものを目標にしながら作曲していけばいいんじゃないかなと思っています。

生身に近い言葉というのを常に求めたい

── 5月11日にリリースした5thシングル「紫陽花」について伺います。資料にもあるとおり、「浮気を肯定した歌」で、きゃないさんならではの視点の妙を感じられる曲になっています。ただ、と言うか、もちろん、それだけではない。歌詞の中にある〈無色透明な世界を全て 紫で濁したい〉という一節に、世の中への疑問や怒りを感じました。

いやあ、本当におっしゃるとおりです。この世の中にとって普通とされていることや、正しいことに対して、当然理解できる部分はあります。でもあまりに理解できない部分というか、真っ直ぐに人が生きられない世の中にしているルールもあるんじゃないかと感じるんですよね、体感で。

── 〈紫〉というのが絶妙だなと思いました。中間色という。

僕にとっては、赤色が男の人、青色が女の人、という印象があって。いずれにせよ赤と青。じゃあ人間って何色なんだ?って思った時に、その中間色、紫色だと。

紫って赤と青の両方の性質を持っているんですけど、赤は刺激色、血液の色でもあったりしますよね、あとは赤信号とか。青はどちらかというと落ち着く色ですよね。

── 見る人によって、または精神状態などによって、紫は赤と青のどちらが強いか弱いか違って見えますよね。

だから鏡だなと。自分自身を省みる色だと思うんですよね。でも、自分の言えないことも言えずに、そうやって黙っていることがルールですよというような世の中が、僕には無色透明な世界に見えたんです。その世界を一度〈紫で濁したい〉と思いました。とは言っても、そうはできない……っていう無力感もこの歌の歌詞には込めています。

今こうして僕が話していることも、単なるエゴかもしれないし。実は切ない歌だったりしますね。

── そのあたりの無力感は、歌詞の中の〈一番枯れた花は私 私だったの〉という一節に色濃く表れていますね。ただ、深読みすると、枯れた同じ土からもう一度芽吹いて花が咲く可能性はありますから。

そうですよね。さらに言えば、僕と同じような考えを持つ人が現れるのと同じように、そうじゃない人──世の中のルールを作った人も現れるというのは宿命なのかもしれないですね。だからこそ平等だ、とも言えますけど。

でも僕はそこに途方もない無力さを感じてしまった。それがこの「紫陽花」という歌なんです。

── あと、この曲の特徴的な部分で言うと、リズムがとてもいいですよね。先ほど曲を書く場合はほぼ歌詞からだということでしたが、この曲もそうですか?

そうですね。メロディから書いたのは「イヌ」と「バニラ」くらいですかね。

── 「紫陽花」の歌詞ができて、そこからメロディ、サウンド制作に移行する時に、イメージしたことは何ですか?

なんだろ……。結構変わったメロディですよね。

── そうなんですよね。懐かしい感じもするし、斬新な感じもするという。

でも僕は、言葉にメロディがくっついているんですよね。

── ああ、最初から。

ええ。それでも今、冷静に振り返って考えてみると、雨が降ってて雨粒が跳ね返る感じというのがイメージとしてはずっとあって。だからメロディも跳ねるようなものになっているんですけど……でもわからないですね。本当にそういうことを思って書いたのかどうか。

確かにイメージはあるんですけど、それを意図的にメロディやサウンドに反映させようとは思っていなくて。そこを無意識でやっているというのが、僕の武器になっているような気がします。

── 歌になるテーマは実体験が多いとおっしゃっていましたが、そこは今後も変わらずですか。

実体験が少なくなると、僕は恐らく納得できる歌が書けなくなるんじゃないかなと思っています。

映画を観たり小説を読んだり、そこからイメージを膨らませて、というふうに曲を書く方もいらっしゃると思うんですけど、僕の場合は生身に近い言葉というのを常に求めたいという気持ちがあるんですよね。だから、誰かに会って、というような体験が大事になってくるんですよね。

── 「紫陽花」を例にとれば、確かに入口は恋愛での実体験があるんですけど、でもそこにとどまらず、社会への疑問や怒り、その果ての無力感といった深い部分にまで聴いた人を運ぶことができるというところが、きゃないさんの歌の何よりの真実なのだと思います。

ありがとうございます。ここまで「紫陽花」をわかっていただけるなんて。久々にこんなにうれしい気持ちになりました(笑)。

Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子

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リリース情報

5thデジタルシングル「紫陽花」
5月11日リリース

各配信サイト

6thデジタルシングル「花火」
7月6日リリース

1stアルバム『星を越えて』
8月3日(水)配信&CDリリース
収録曲:イヌ、コインランドリー、夕暮れ、バニラ、紫陽花+2曲の合計7曲を予定

ライブ情報

「きゃない Special Mini Live 内緒にSHOW!」
日時:7月12日(火)18:30開場/19:00開演
会場:SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
料金:指定3,000円(ドリンク代600円別途必要)

プロフィール

日常の中で、誰しも一度は経験したことのある出来事や人には言えない本音を、ハッとさせられる言葉で表現、心を抉られるような後味を感じさせる独特な歌詞を90年代のJ-POPを彷彿とさせる聴きやすいメロディーにのせ、芯のある歌声で歌い上げる大阪天王寺出身のシンガーソングライター。
2019年からソロシンガーとしての活動を開始し、路上ライブを活動の軸にして地元天王寺で約1年間毎日継続。2020年には上京し路上ライブの基盤を東京と神奈川に移す。
2021年3月、SNSに公開したオリジナル曲「イヌ」の路上ライブ動画が200万再生まで伸びたことをきっかけに、路上ライブには毎回100名以上の観客が集まるようになり、全国的に認知を広げている。
2022年、自身初となるワンマンライブは25歳を迎える誕生日当日に新宿LOFTにて開催。地元大阪での追加公演も開催し、チケットは東阪ともに即完売。8月3日(水)にはこれまで配信リリースした「イヌ」、「コインランドリー」、「夕暮れ」、「バニラ」、「紫陽花」を含む7曲を収めたファーストアルバム『星を越えて』をリリースする。

関連サイト

公式サイト:https://kyanai.com/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC5QvwJn4IHAnQcImGX03aPA
Instagram:https://www.instagram.com/kyanai_music/
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番組概要

放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:PIA SONAR MUSIC FRIDAY
ナビゲーター:櫻井海音
放送日時:毎週金曜 22:30~23:00
番組HP:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarfriday/
番組twitter:https://twitter.com/SONAR_MUSIC_813
ハッシュタグ:#sonar813
番組LINEアカウント:http://lin.ee/H8QXCjW