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tonun/PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー

音楽家・tonun「マニアックなカッコよさをわかりやすくして届けたい」

特集連載

第55回

櫻井海音が最新のリリース楽曲からライブイベントまで、“いま聴くべき音楽” を厳選して紹介する『PIA SONAR MUSIC FRIDAY』から、番組連動インタビューを掲載。
7月15日放送回に登場するのは、驚異的なスピードで良作を発表し続ける現代型シンガーソングライター・tonun(トヌン)。音楽的バックボーンから、アーティストとしての矜持まで話を聞いた。

何度も試行錯誤して、これなら世に出してもいいかなという自分なりの及第点にようやく届いた

── 最初に「最後の恋のMagic」をYouTubeにアップしたのが2020年10月で、そこから2年足らずですが、ものすごいペースで曲を発表されています。そもそも曲を作り始めたのはいつになるんですか?

高校の時に軽音楽部に入って組んだバンドで自分はギターを担当していたんです。そこで何かオリジナルをやろうっていうことになって、ギターのコードとフレーズ、メロディもちょっと作るくらいでしたけどやっていました。それが初めて曲を作ったと言えば初めてかもしれないですね。

── その時点で将来的に音楽をやっていきたいという希望はあったんですか?

どちらかと言えばギタリストになりたいって思っていました。もちろん音楽を仕事にできたらいいなっていうのはあったんですけど、通っていた高校が進学校だったので勉強も普通にしつつ、大学には行って、という感じでした。

── 大学に行ってからはどのような活動をされたんですか?

フォークソング部というところに入って、バンドを組んでいました。高校の時は部活の決まりでギター&ボーカルがダメだったので、ボーカルもやってみたいなっていう希望はあったんですよね。

── え、ちょっと待ってください(笑)。ギター&ボーカルが禁止だったんですか?

そうなんですよ(笑)。ボーカルはボーカル、ギターはギターって決められてたんです。謎に厳しい部活で(笑)。大学はわりと自由だったので、好きな人と組んで自分でギター&ボーカルの3ピースバンドを始めました。おお、これがギタボかって(笑)。

── はははは。と言うか、ずっとバンドだったんですね。それが意外な感じがしました。

そうかもしれないですね。中学生の時に好きでよく聴いていたのはRADWIMPSとか、高校になって東京事変を聴いたり、邦ロックがメインでした。

── そこも意外ですね。今tonunさんの曲を聴くと、完全に洋楽のネオソウルやニューエイジ/アンビエントジャズがベースになっているのは間違いないですから。

あんまりジャンルとかを知らなかったんですよね。とにかく身近にあるカッコいい音楽を聴いていた、というのが10代の頃でした。大学に入ってYouTubeとかで深掘りをし始めて。好きだったRADWIMPSや東京事変の曲の中でもちょっとアダルトなテイストのものに僕は引っかかっていたんですけど、そこの根っこにあるのがソウルやジャズだっていうのを知って。なるほど!という感じでした。そこから自分の好きな音楽の正体みたいなものがわかっていって、そっちの方をどんどん知っていくようになりました。

── ということは、元々の好みからブレてないということですね。それで大学ではそういう方向の音楽をやっていくわけですか?

いや、それがそうはならないというか。やっぱりソウルにしてもジャズにしても、僕の好きな洗練された感じの音楽にしようと思ったら、まずはプレーヤー自身の技術がどうしても必要になるんです。東京事変もめちゃくちゃうまい人たちが集まってああなっているわけですから。
で、バンドで集まってやろうとはしてみるんですけど、どうにも違うなと。だったらひとりでもっと勉強して、自分の好きな音楽の方向性を突き詰めていった方がいいなということで、ひとりでやり始めるようになりました。
どうやったらこういうニュアンスが出せるんだろうっていろいろ研究しましたね。大学の時にDAWソフトも買ってはいたんですけど、その時はそんなに熱心にやっていなくて。でも気づいたらソフトの方がめちゃくちゃ進化していて、プラグインの数も膨大にあるし、ミックスやマスタリングもある程度は簡単にできるようになっているし。それでひとりで楽曲を作ってYouTubeにアップできたっていうのはありますね。

── 「最後の恋のMagic」を初めてアップしたということは、そこで自分自身ある程度納得いくものができたということですか?

そうですね。それ以外にもたくさん作っていたんですけど、あんまり人に聴かせられるレベルではないなと思って、なかなかうまくいかないなと。で、何度も試行錯誤して、これなら世に出してもいいかなという自分なりの及第点にようやく届いたという感じでした。

── それまでと何が違ったんでしょうか?

何なんだろう? でも結局ミックスとマスタリングだと思うんですよね。そこのバランスが最初は全然わからなくて。キックひとつとってもどの位置に置くのがベストなのかとか、コンプはどれくらいにしたらいいのかとか、そういうことがいろいろわかってきて、ようやく、というのが「最後の恋のmagic」でした。

言葉の乗せ方が今のものでない限り、今の音楽シーンには刺さらないんですよ

── 最初に言ったのですが、とにかく曲の質と量が素晴らしいのに驚かされます。昨年1年でEPが3枚ですからね。曲作りはどのように行なっているんですか?

曲単位で、というよりは1フレーズみたいなものを大量生産していくんです。最初はギターで作っていくんですけど、その段階でメロディと歌詞とコード、それとリズムもあるんで、大体の骨組みはできるんですよ。その段階で良くないものはいくら肉付けしても良くないので。そうやってたくさん作った中からいいものだけを残して、そこからさらに選りすぐって1曲に仕上げていくという感じでやっています。
そのフレーズから曲への発展のさせ方として、言葉とメロディとリズムという3大要素のうち、このフレーズは言葉がいいから歌詞を中心にしてみようとか、リズムがいいからアレンジで聴かせたいなっていうふうにやっていくんです。そこで大切なのは、きちんとわかりやすくしなければいけないということ。そこは常に意識しています。
僕はマニアックな音楽も好きなのでたくさん聴いたりするんですけど、いざ自分で音楽を作って発表するってなったら、自分でもよくわからないものを世に出そうとは思わないんですよね。それは音楽を詳しく知らない人からすれば単純に聴きにくいものでしかないのかもしれない。だったらそこをわかりやすくしたい、というかそこが僕の役割だと思っています。

── それはマニアックな音楽の良さも含めてちゃんと伝えたいということですよね。

はい。なんとかマニアックなカッコよさをわかりやすくして届けたいというのが自分の目標ですね。こんなカッコいい音楽あるんだけどなっていうのをわかってもらいたいんですよね。

── その“わかりやすさ”を最も大きな割合で担っているのが歌詞になると思うのですが、これはどのアーティストの方も苦労されるポイントとして、洋楽的なリズムにいかに日本語を乗せるかという明確なハードルが存在しますよね。そこはtonunさんの場合はいかがですか?

そこはめちゃくちゃ難しいところですよね。音に乗せることばかりを意識したら日本語が聴こえにくくなったりするし……だからもう自分の感覚に頼るしかないなと思っています。
あるんですよね、これならハマりそうっていうポイントみたいなのが。リズムもいいし、言葉の解像度も高いしっていうところが。要するに、選りすぐりの言葉を見つけるしかない。
それで言うと僕が一番大事にしているのが、今の時代の言葉の使い方にすることですね。音によって時代感──特にリズムには出やすいと思うんですけど、言葉にも顕著に表れるんです。言葉のチョイス自体もそうですし、言葉の乗せ方も今のものっていうのが確実にあるんです。
例えばサウンドが古くても、言葉が今のものであれば、今の音楽として耳に入ってくると思うんですよ。そこが実は一番大事なポイントかもしれないですね。いくら音楽的に優れていて、明らかに玄人も納得のクオリティが高いものだったとしても、日本語の乗せ方が普通というか、今のものでない限り、今の音楽シーンには刺さらないんですよね。そこを僕はやりたいんです。

── それができるのはやっぱりアーティスト/シンガーソングライターだからなのかなと僕は想像します。

ああ、なるほど。

── 例えば歌詞の中で矛盾する一節があったとしても、音楽的なバランスでそれが正しいという感覚があれば、アーティストはそれを飲み込めてしまえるけど、職業的な作家さんの場合、矛盾を矛盾のまま放っておくことはできないんじゃないかなと思うんです。

やっぱり自分に合った言葉っていうのがあるんですよね。そうじゃないと、より多くの人には響かないという感覚があって。自分の声とか、ちょっとした言い回しなんですけど、そこがバチっと重なったら、僕以外の人の胸に刺さるんですよね。

── アーティストっていうのはそれぞれの言葉を持っているんでしょうね。もちろん音楽と密接に繋がった。

そう思いますね。

今一番表現したい自分の曲が「嘘寝」ですね

── 今回リリースしたデジタルシングル「嘘寝」は、今まで話してきた内容を踏まえると、まずは言葉に重点が置かれた曲なのかなと思いました。

そうですね。もちろんそこのバランスはその時々であったり、曲によって違ったりするんですけど、この曲はわりと歌詞にこだわって作った曲ですね。

── 不思議なバランスで成り立っている曲だなと思いました。メロや歌詞はポップスだけど、リズムはかなり意表を突いた感じと言いますか、もはや人力で表現できないような、だけどアナログな手触りがあるものという。

自分の曲を聴いていて時々、リミックスっぽいなって思うんですよね。もともとあったJ-POPをリミックスしたらこんな感じになるんじゃないかなって。

── うわー、めっちゃわかるな、それ。

でもリミックスする前の元はないから、すんなり聴けるんですよね。リミックスって原曲があるからどうしてもそっちに引っ張られて素直に聴けないところってあるじゃないですか。

── リミックスってそもそも、ある音楽を今のものとして解釈するというものですから、リミックスが最初からオリジナルとしてあるというのは、先ほど言葉のところでおっしゃった、今の言葉へのこだわりということの拡大解釈というか、tonunさんの音楽の成り立ちを考える上でとても重要なポイントなのでしょうね。

そうですね。

── で、これは僕の勝手な感じ方なのかもしれないんですけど、「微睡」(EP『tonun 2』収録)という曲があって、「嘘寝」はあの曲とパラレルになっているのではないかと。

まさに。「微睡」でできなかった部分を「嘘寝」で強化したというか。鋭いですね(笑)。

── 「微睡」の雨音と「嘘寝」のアナログノイズの音、それに歌詞的には、「微睡」の男女は遠距離にいてそこで感じるもどかしさが物語になっているけど、一方で「嘘寝」の男女は物理的には近い距離にいるんだけど、心理的にはものすごく離れている、そこの矛盾が巧みに描かれていますよね。

自分の書いた曲のどれかとどれかがたまに繋がったらいいなっていうのはあるんですよね。ひとりの作家の短編小説がめっちゃある、みたいな感じで。もしかしたらあの話の続きがこれなのかな?みたいな(笑)。

── ああ、なるほど。「微睡」の男性は遠距離恋愛に終止符を打って、近くにいた存在の女性と図らずも男女の関係になってしまったけど、これでいいんだろうか?と「嘘寝」で自問自答する、みたいな(笑)。

はははは。いや、うれしいな、そんなふうに曲を聴いてもらえると。

── tonunさんの歌詞の世界観は、例えば「東京crusin'」(EP『tonun 3』収録)のようなノリのいい曲であっても、どこかに乾いた感じというか、独特の気怠さみたいなものが漂っているんですけど、どこかはっちゃけられない感覚みたいなものっていうのはありますか?

そこは結構意識的かもしれないですね。声質と関係しているところがあるんですけど。音楽って、聴いた時の印象の半分は声が占めているんじゃないかと思うんです。同じ曲を違う人が歌ったらまったく違う曲に聴こえますから。

── 確かにそうですよね。宮本浩次さんがあの声で歌うから“俺”って言ってもいいっていう感じはありますもんね。

そうそう。だから僕は“俺”っていう一人称は使ったことがないんです。合わないんですよね、自分の声と。他にもそういうのはあるんですけど、一番わかりやすいのが“俺”か“僕”かですね。そういうことも含めて、いろんな要素がマッチして初めて聴きやすさに繋がって、心に残る音楽になるかどうかが決まってくると思うんです。

── 「嘘寝'」という曲は、tonunさんの表現する音楽地図の中のどのあたりに位置するものですか? 例えばど真ん中にあるものとか、ちょっと辺境にあって変化球のものとか。

これは、どうしても作りたかった曲なんですよ。こういうジャンルというか。リズムで言うと、キックもスネアもハイハットもちょっとよれてるんです。よく聴いたらちょっと位置がおかしいというか。でもそれがめちゃくちゃ気持ち良くて、個人的には。
そこに、“ど”がつくくらいのJ-POPを乗せたいっていうのがずっと前からあったんです。でもなかなか難しくて。今回ようやくそれが再現できたかなと。だから今一番表現したい自分の曲が「嘘寝」ですね。ようやく自分の中の目標が叶ったという感じですね。

── どうしてそれがやりたかったんですか?

それはやっぱり自分は音楽家なので、ということでしかないと思います。

Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子

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リリース情報

tonun「嘘寝」
2022年6月15日デジタルリリース

ライブ情報

tonun 2nd tour 2022-2023
2022年11月23日(水祝) 愛知 名古屋 ell.FITS ALL
2022年12月9日(金) 大阪 心斎橋BIG CAT
2022年12月17日(土) 福岡 天神 The Voodoo Lounge
2022年12月18日(日) 広島 Live Space ReeD
2023年1月13日(金) 東京 恵比寿 LIQUIDROOM

プロフィール

特徴的な甘い声と絶対的なメロディーセンスを武器に、独自の世界観を作り上げるtonun(トヌン)。2020年10月、YouTubeに初作品「最後の恋のmagic」を投稿し活動をスタートと12月にはLastrumのオーディション型配信サービス「BRIDGE」優秀アーティストに選出される。2021年1月に「今夜のキスで」、3月に「青い春に」のLyric VideoをYouTubeに公開。10月には2021年度の「YouTube Music Sessions」に選出され、12月には3rd EP『tonun 3』を配信リリースした。
驚異的なスピードで作品を発表し続ける多作さも魅力。Spotifyの2022年に躍進を期待するネクストブレイクアーティスト10組「RADAR:Early Noise 2022」に選出され、さらに注目を集めている。

関連リンク

https://lit.link/tonun

番組概要

放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:PIA SONAR MUSIC FRIDAY
ナビゲーター:櫻井海音
放送日時:毎週金曜 22:30~23:00
番組HP:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarfriday/
番組twitter:https://twitter.com/SONAR_MUSIC_813
ハッシュタグ:#sonar813
番組LINEアカウント:http://lin.ee/H8QXCjW