【動画インタビュー】気になる!あの映画の“ウラ話” by.映画パーソナリティ 伊藤さとり
Vol.54『徒花-ADABANA-』水原希子&甲斐さやか監督 「井浦新さんの一言でプレッシャーが抜けてすごく自由になれた」
第54回
伊藤さとり、水原希子、甲斐さやか監督
映画パーソナリティ・伊藤さとりのYouTube番組「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」。
新作映画の紹介や、完成イベントの模様を交えながら、仲良しの映画人とゆる~い雰囲気の中でトークを繰り広げます。他ではなかなか聞き出せない、俳優・監督たちの本音とは?
今回は現在公開中の映画『徒花-ADABANA-』から水原希子さんと甲斐さやか監督が登場。撮影秘話やプライベートについてなど、たっぷりとお話いただきました。
映画人たちの貴重な素顔をご堪能ください。
甲斐さやか監督が現代に解き放つ、命の問題作
本作の舞台は、ウイルスの蔓延で人口が激減し、延命措置として上層階級の人間だけに全く同じ見た目のもう一人の自分 “それ”の保有が許された世界。国内外問わず高く評価されている『赤い雪 Red Snow』の甲斐さやか監督が20年以上をかけ構想し書き上げたという、現代に解き放つ、命の問題作だ。
井浦新が主演を務め、水原希子、三浦透子、甲田益也子、板谷由夏、原日出子、斉藤由貴、永瀬正敏らが共演する。
なお、本作は10月28日(月)よりスタートする第37回東京国際映画祭の新設部門「ウィメンズ・エンパワーメント部門」に出品が決定している。
裕福な家庭で育った新次(井浦新)は、妻との間に娘を授かり、一見すると理想的な家族を築いていたが、死の危険を伴う病を患ってしまう。死が身近の新次は、 臨床心理士のまほろ(水原希子)にもうひとりの自分 “それ”に会わせてほしいと懇願する。
だが、新次の“それ”は、自分と同じ姿をしながらも、異なる内面を持ち、純粋で知的であった。“それ”と対面した新次は、 次第に“それ”を殺してまで、自分は生きながらえるべきなのか、心が乱されていき……。
監督もびっくりしたという水原希子の役作りとは?
── 水原さんは初めて脚本を読んだ時はどう思ったんですか?
水原希子(以下、水原) この作品はスゴイと思って、バッーって読んじゃったんですけど、監督がすごい若い時に書かれた脚本だっていう風にも伺ったので、その思い入れというか、そういうものも含めてすごく特別なものを読ませていただいてるっていう感じでした。
最初に書かれた時ってもしかしたら遠い未来の話だったかもしれないけど、今この時代に生きていると、ここに書かれているストーリーっていうのがそんなにも遠くない、もしかしたら今起きていてもおかしくないっていう風に感じてしまう、“怖いけど惹かれる”みたいな感じでした。
── どういう脳内なんだと思いません? 前からしゃべっていて、本当に思うんです。
甲斐さやか監督(以下、甲斐) たぶん脳の中がすごくわちゃわちゃしてる。
── IQは間違いなく高いんですよ。なんだけど、予知能力まであるんじゃないかとまで思っています。
水原 本当ですよね! おいくつぐらいの時に書かれたんですか?
甲斐 思いつきみたいなひらめきは多分10代とかで、20代のときはもうちょっと長いもので。最初の20代のときに書いたのは、もう新次さんとまほろちゃんもいて。でも、短くて7日間のお話っていうところまではあったんですけど、その後に「あっ、これは新次の成長物語だけではなくて、その後、まほろがそれを引き継いで成長していく話なんだ」と思って、そういう風な形になったのは希子さんにお見せした脚本なんですけど、それまではもうちょっと新次の話みたいなことで限定されていました。
── すごいです。
水原 ひらめきというかきっかけとかあったんですか?
甲斐 羊のドリー(世界初の哺乳類の体細胞クローンである雌羊)とか、そういうちょっとSF好きの変な都市伝説とか好きな人いるじゃないですか。
── 私も好きです。
甲斐 そういう友達が「隣国でもうクローン人間いるんだって」って言ってて。でも、いてもおかしくないっていうか、そういうのがすごい好きな人がずっとその話をしていて(笑)。 そこからパッとガラス張りの部屋に同じ顔をした人がふたり立ってる画が浮かんで、その外に植物があるような、まさに映画のあの部屋みたいなところに立ってて、搾取する人と搾取される側が対比的に立ってるっていう、そういうのが浮かんで、そこからですね。
── 家族の物語になってたりもするじゃないですか。あと記憶の物語。いや~面白かった。しかも、水原希子さんがキャスティングされている理由が、すごい衣装からすべてで感じられた。
甲斐 希子さんって本当に良い方なんですよ。本当に優しくて。
水原 みんな優しい現場でした。
── 井浦新さんも永瀬正敏さんもね。
水原 (頷く)
甲斐 みんな良い人なんですよ。こんなに繊細でこんなに感受性豊かで、よくこんな優しいままでこの世界で生きているなっていうような方なんですけど。優しいからこそ苦しかったり、そういう部分が絶対まほろには必要だろうなと思って、だから希子さんに出ていただけて本当に良かったなって。
── 結構難しいセリフもあったりしましたよね?
水原 そうですね。難しかったですね。基本的に受けるお芝居が多いけれども、脚本を読んだ時にまず臨床心理士という職業が、どういう仕事なのかっていうことを知らないと、セリフの一個一個の本当の意味というか、言葉を交わしていく中でどういう意図でこういう言葉を発しているのかっていうのは、彼女の職業的なところも含めてやっていかないと、本当の意図が見えてこないなっていうのはすごく感じたので、臨床心理士の方に何人かお会いさせていただいて、勉強させていただいて。すごく特殊なお仕事だから。
セラピストの方と、病院に勤めている臨床心理士の方だとまた全然やっぱり違うから、それもすごく興味深くて。色々話を聞いていくと、「うゎ、すごいな」と思ったのは、どんどん距離が近くなっていくから、患者さんも最初心を開いてなかった方がどんどん開いてくれたり、すごいパーソナルな関係になっていくんだけれども、その中でやっぱりすごくプライベートなお話とかをされた時に、それを医師に伝えるかどうかっていうところの線引きっていうのは、すごくデリケートで。それを伝えてしまったがために、色んなアクシデントが起きてしまったというケースも結構あったりしたみたいなんですね。
どこまで自分に伝えてくれてることを周りに共有するのかっていうことも、本当に微妙な加減だったりするんです。あとは大きな病院だと、上からこういう病状の方を調査するための対象として監視っていうか、見てみてほしいみたいなことを言われるらしいんですね。そうすると、マウスじゃないけど「研究対象みたいな風にしか見えなくなった時が過去にありました」って言ってくださった臨床心理士の方がいて、「すごいな、それは」と思って。
だから、色々参考にさせていただいた部分はあったんですけど、最終的にまほろちゃんはやっぱり心っていうものをすごく持っていてほしいって監督におっしゃっていただいて。現場で監督と一緒にお話して作り上げていく中で、演じていく中でまほろをどんどん見つけていくみたいな、そういう感じはありました。
── 観ていてヨーロッパ映画みたいでした。全体がちょっと夢を見てるような世界観っていうのもあえてですよね?
甲斐 そうそう。あえてね(笑)。全体の世界観というか、この映画のトーンはどういうものなんだろうって思ったときに、もちろんキャストの方っていうのはすごい重要だし。でも、その方たちの背景をセリフで全部言ってしまうのではなくて、佇まいとかで感じられるというか。
私のほうから希子さんに心理士さんをひとりだけご紹介はしたんですけど、そのあと全部ご自分で半年から1年ぐらい、ずっと本当にひとりでご準備してくださっていて。もう「えっ⁉」ていうぐらい、本当に危ないこととかなかったのかなと思うぐらいに、ひとりでいろんな方をどんどん取材されて。誰も何も用意してないのに(笑)。
それってわかりやすく何かが描かれるわけじゃないですけど、それが空気感とか佇まいとかでちゃんとお客さんに伝わるというか、そういう風にはしたいなと思って。空間とかそういうのも色々考えましたね。
── 私も臨床心理士の友達が結構いるんですよ。だから、いつも話をしてて落ちつくのは、感情に飲まれ過ぎてもいけないわけじゃないですか。またそこを突いて物語を生み出していく。
水原 さらに信次さんっていう病院の中でもとても特殊な立ち位置にいる方を心理カウンセリングしなきゃいけないから、それもまた凄く難しい。
甲斐 やっぱり上からはいけないっていう……。
水原 そう。上からはいけない。
甲斐 そういう感じ過ぎるとちょっとやっぱり違和感が逆に出ちゃいますよね。
水原 そうなんですよ。そこの微妙な関係性っていうところも本当に新さんと現場で探り探りな感じで、本当に監督の言葉を信じて、1シーン1シーンを終えていくっていう感じで。
── 新さんのあの役も今まで新さんがやってないよねっていうような佇まいの役だから。新さんも探っていたんだろうなって気はしますけど。
水原 探ってたけど、すごかった。
甲斐 すごかったですよね。苦しそうでしたよね。
水原 苦しそうだった。苦しそうだったけど、「やっぱりスゴイ!!」と思った。
── どんなところが?
水原 やっぱりクローンと対峙するシーンが本当に大変だったと思うんですよ。私たちも見てて、「おぉっ!」てどんどんなってちゃうような感じで、よく狂わずに、本当に丁寧に淡々とやられたなっていう風に思います。
あと、私が結構エモーショナルになるシーンとかで、私、すごい緊張するとあからさまに緊張してるっていう感じが周りに伝わるぐらい緊張しているので、オーラが全部出てるみたいな、「怖いです!!」っていうのが全身に醸し出されちゃうんですね。
そういう隠せないタイプなんですけど、新さんがそっと横に来てくれて、「次のシーン緊張してる?」って言われて。「あのシーン不安だよね」って言われて、「はい」って言ったら、「でも、今もそうやって希子ちゃんがそういう風に感じてて、こうやって思ってるっていうこと、それを出すだけでよくて、何をしなきゃいけないとか、こうしなきゃいけない、こうならなきゃいけないっていうこと、台本に書いてるっていうことは無視してよくて、希子ちゃんが今まで考え抜いてきてやってきたこと、今感じてることを出せばいいから」って言ってくれて。やっぱり考え過ぎたんですよね。こうしようかなとかああしようかなとか。それを取り除いてくれて、「心配しなくて大丈夫だよ」みたいな感じで。
やっぱりまほろにとって凄く大切なシーンだったし、ハートブレイキングなシーンだったから、自分の普通のリアルの人生を生きてても苦しいシチュエーションって嫌じゃないですか。それを今から体験するんだと思うと、いろいろ怖いし、全部が怖いみたいな感じになっちゃったんですけど、新さんのその一言でプレッシャーが抜けてすごく自由になれたので、よく見てらっしゃるというか。本当に現場のいろんな方にすごい気配りされてて、ずっと共演してみたい、本当にずっと憧れの俳優さんだったんですけど、天使のような方ですよね。
甲斐 本当に優しい。
── いま、羽が生えた新さんの顔が浮かんじゃった。
水原 羽が生えててもおかしくないですよね。
── この映画の中でも羽が生えててもおかしくないような空気感も持ってたりするから。
水原 そう。おかしくない。
そのほか、動画では本作の編集を担当したロラン・セネシャルさん(『落下の解剖学』編集)のエピソードやおふたりのおすすめ映画などについても語っていただきました。続きはぜひ動画全編でご覧下さい!
『徒花-ADABANA-』
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