【動画インタビュー】気になる!あの映画の“ウラ話” by.映画パーソナリティ 伊藤さとり
Vol.64 「言葉では表現できない何かが確かにあって、本当に大好きな映画です」『旅と日々』シム・ウンギョン
第64回
(左から)伊藤さとり、シム・ウンギョン
映画パーソナリティ・伊藤さとりのYouTube番組「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」。
新作映画の紹介や、完成イベントの模様を交えながら、仲良しの映画人とゆる~い雰囲気の中でトークを繰り広げます。他ではなかなか聞き出せない、俳優・監督たちの本音とは?
今回は、9月に開催された釜山国際映画祭で今年新設されたコンペティション部門に見事正式出品された『旅と日々』から主演のシム・ウンギョンさんが登場! 映画祭の感想や撮影秘話などを語って頂きました。
映画人たちの貴重な素顔をご堪能ください。
旅先での出会いをきっかけにほんの少し歩みを進めるロードムービー
本作は、『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』の三宅唱監督が、つげ義春のマンガ『海辺の叙景』『ほんやら洞のべんさん』を基に描いたロードムービー。『新聞記者』のシム・ウンギョンを主演に迎え、行き詰まった脚本家が旅先での出会いをきっかけに人生と向き合っていく様子を独特の空気感で描き出す。
つげ義春のマンガを原作に脚本を書いた映画が大学の授業で上映され、「私には才能がないな、と思いました」と話す脚本家の李(シム・ウンギョン)。冬、李はひょんなことから雪深い山奥を訪れ、おんぼろ宿へ迷い込む。宿の主・べん造(堤真一)はやる気がなく、暖房もない、まともな食事も出ない、布団も自分で敷く始末。ある夜、べん造は李を夜の雪の原へと連れ出し……。
「何気ないのに何かが伝わる、それが映画の力だと改めて感じました」
── 今回の釜山国際映画祭の印象はどうでした?
シム・ウンギョン(以下、シム) 今回は釜山国際映画祭が30周年ということもあり、より華やかで「自分が今、この舞台に立っているんだ!」という気持ちが高まって、その瞬間はドキドキでしたね。しかも、本当に自分が大好きなこの映画で映画祭に行くことができてとても感無量でした。
── しかも、コンペティション部門に選出ってすごかったです。
シム それがもう本当に何より嬉しくて幸せが溢れていた日々でした。
── 私もこの映画が本当にめちゃめちゃ好きです。
シム ありがとうございます。
── こんなに観ながらニヤニヤできる映画ってないなと思ってたんですけど、その理由は俳優さんたちの演技が細かいところも全部楽しめるし、それぞれの人物像がしっかり映し出されているからで、人間賛歌みたいな映画だったんですよね。
シム 何より嬉しいですね。やっぱり今おっしゃっていただいた通り、細かい演技にすごく集中して、現場でも毎回監督とカメラアングルをモニターで一緒に見て、どういう風に李さんがこのアングルで動けばいいのか相談しながら演技していたんです。
── 珍しいですね。モニターを一緒にチェックしながら立ち位置や動きも決めていくということですか?
シム そうですね。モニターを一緒に見て、ここでどうやって私が演じるキャラクターが動けばいいのかとか。例えば、動かずそのままがいい場合もあるし、ちょっと振り向くのか、そうじゃない方がいいのか、それを一緒に相談しながら、歩くか歩かないかなど、そういう細かいところを微調整しながら撮っていました。すごくその作業が楽しかったですね。
── だから私は全部の画が好きなんだって今思いました。シム・ウンギョンさんが雪の中を歩いてるところもすっごく絵になるじゃないですか。あれ、大好きなんですよね。
シム 最後の演技ですか?
── そう、そう!
シム あれは歩くのに10分とか15分ぐらいかかってすごく長かったんですね。「ここからあっちまで歩いて」って言われて「はい」って言って。言われたから、歩くしかないなと思って(笑)。でもあそこは元々道じゃないんですよね。
── しかも、足跡がつくからリハーサルできないですよね?
シム 撮影の前に、「ちょっと危ないかもしれないんで」と言われて、「じゃ、どうするんですか? もし雪で足を取られたら、どうすればいいんですか?」って言ったら、「その時は大声で叫んでください」って言われて。
それで「まず、ちょっと歩いてみます」って、本当に15分ぐらいかけて歩いた、というシーンだったんです。撮影当時は「これで合ってるのかな? これで大丈夫?」と思いながらずっとこんな感じ(ジェスチャーで体を左右に振る)で歩いていたんですけど、実際に映画の中で編集されたものを見たら「さすが三宅監督!」と思って。最後にいろんな意味が伝わってきたんですね。私もこの映画の中で1番好きなシーンのひとつがそのエンディングです。
── 何気ないところがすごい絵になりますよね。
シム そうですね。何気ないのに何かが伝わる、それが映画の力だなって改めて感じましたし、三宅監督の作品の世界観だと思います。「映画ってやっぱり楽しいし面白い!」と改めて感じた瞬間でした。
── 本当にそうですね。多分脚本は何気ないことがいっぱい書いてあるはずですよね?
シム 脚本を最初に読んですごくびっくりしたことがあって。3年前に釜山国際映画祭で監督と一緒に『ケイコ 目を澄ませて』のQ&Aをやった時、映画の話はお互いにしたけど、あんまり個人的な話はしてなかったんですね。そんなにたくさんの会話があったわけじゃないんですが、最初にこの『旅と日々』の台本をもらって読んだ時に「監督はなぜ私のことをこれだけ知っているのか?」と思ってまずびっくりしました。
いくつかインタビューでもお話しましたが、『旅と日々』がこの数年間読んだ台本の中で1番伝わってくるものが多かったんです。それを最初に監督に伝えました。自分がもしエッセイ本とかを書くのならこの映画みたい、この脚本みたいな自伝になるんじゃないかなっていう、そういう親近感をすごく感じましたね。
しかも念願の三宅監督の作品だからこの映画はやらないと、と思って脚本を読んですぐ「やります! お願いします!」って言いましたね。
── 俳優の演技をすごく信じてるカメラじゃないですか。
シム そうですね。
── セリフがそんなに多いわけじゃなくて、何気ないやり取りの中の表情や仕草とか、それが面白いんですよね。
シム 監督は私のこともそうだったんですけど、役者のことをずっと観察してるんですよ。だからその人にどういう特徴や個性があるのかをずっと見ながら「こういう表情いいな」とか、「こういう仕草がすごい面白いな」という感じでやられていました。
例えば、べん造さん(堤真一)とのやり取りのシーンも、最初段取りをした時にいろんなことをやってみたんです。「錦鯉の養殖をやってみたらどうですか?」と横になって言うシーンがあるんですけど、堤さんが「どうもこうもしょうがないよ」みたいなセリフを言って、私がチラッと見て「左様でございますか」と言うシーンは実はアドリブだったんですよ。
段取りの時に「このシーンでこのセリフどうかな?」と思ってちょっと言ってみたら、監督がそれをすごく気に入ってくださって。でもこの間、監督と一緒にインタビューを受けた時に、実はそのセリフがとても好きだったけど監督は悩んじゃったって言ってました。監督の頭の中では「ちょっとやりすぎじゃないか」と思ったらしいですけど、「バランスを取ればいいのか、好きだったら一応撮ってみよう」とカメラを回して、「実際に編集してみたらやっぱり面白かったから使いました」っていう言葉をいただきました。
── 李さんが家の中でちょっとキョロキョロするじゃないですか。
シム そうですね。
── 私はあそこもすごい好きで。
シム そういうシーンとかも監督と一緒に相談しながら、「じゃあ、ウンギョン、こっちから見てこうやってゆっくりこう見て、最後こっち見てまた戻ったらどう?」とか。
── ええ!あのシーンもそういう話し合いのもと?
シム そうですね。段取りの時にアングルを一緒に見ながら、こっちから見てこうやって見て少し正面を見てからまた戻すみたいな、そういう調整が結構細かくあったんです。
── だからすごく私の目に焼き付いてるんですね。何気ないシーンでも面白いなって思って見てました。
シム そうですね。やっぱりそれが監督が今回この映画で狙ったところだと思います。何気ないシーンに見えるかもしれないんですけど、実はちゃんと見るとすごく細かいディテールとかが面白いなって。だからそういう感覚をお客さんにも感じさせたかったんだと思います。「よく観ると映画って本当に面白いですよ」っていう。それは監督の意図だと私は思ってます。
── 映画全体を観て、河合優実さん、高田万作さん、シム・ウンギョンさん、堤真一さんなどみんなそれぞれ俳優の個性が光ってたんですけど、全体をご覧になってどうでした?
シム 最初観た時は「すごく良かった」って言葉がすぐには出てこなかったんです。「良かった」「悪かった」じゃなくて、まず「この映画、何ですか!?」ってなって。
今まで観たことのない、新たなクラシック映画が誕生したっていう感じで、そこにすごく圧倒されました。もちろん自分が出演した作品なんですが、それを抜きにして観ても映画ファンとして「素晴らしい!」と思いました。
私はひとつのある体験をしたという感じです。まさに“体験の映画”、胸がいっぱいになれる、そういう映画じゃないかなと思って。観終わってすぐもう1回観たいっていう気持ちになる映画はあんまりないじゃないですか。そういう貴重な体験をさせてもらえた映画だなと思って、観終わったその瞬間にすごく圧倒されてむしろボーッとしたっていうか。
それと、監督が何度も「ウンギョン、どうだった? 面白かった?ウンギョンの感想聞きたいわ」ってずっと言ってきて(笑)。
── 監督は不安だったんですね。
シム ずっと不安そうでしたね。監督はいろんな感想を聞くのが楽しいらしいです。だから、どういう感想だったのかすごく気になったみたいで。この映画には言葉では表現できない何かが確かにあったんですね。だから「監督、ちょっと考えさせてください」って言って。
映画を初めて観た瞬間にはそういう風に監督に話しましたけれども、私の中にもいろんな意味のある、本当に大好きな映画を撮ったんだっていう、なんかちょっと自慢したい映画になったと思います。
── 私も大好きって言葉が一番ハマると思います。
動画ではほかにも、シム・ウンギョンさんおすすめの映画や旅で行きたい場所など語って頂きました。ぜひあわせてご覧ください。
『旅と日々』
11月7日(金)公開
(C)2025『旅と日々』製作委員会
ヘアメイク:Toshihiko Shingu(VRAI)
スタイリスト:島津由行
衣装協力
PS Paul Smith/PS ポール・スミス
データ
YouTubeチャンネル「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」
https://www.youtube.com/channel/UCVYlon8lP0rOJoFamEjsklA