リーガルリリー/PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー
3ピースバンド・リーガルリリー「実際に戦争が起こっている時代に暮らしていることを曲にしたかった」
特集連載
第60回
海(Ba)/たかはしほのか(Vo&Gt)
櫻井海音が最新のリリース楽曲からライブイベントまで、“いま聴くべき音楽”を厳選して紹介する『PIA SONAR MUSIC FRIDAY』から、番組連動インタビューを掲載。
9月2日・9日放送回は、J-WAVE主催の都市型ロックフェス「INSPIRE TOKYO」に出演する3ピースバンド・リーガルリリーから、ボーカル&ギターのたかはしほのか、ベースの海が登場。
今年1月にリリースした2ndアルバム『Cとし生けるもの』では、バンドの新境地ともいえる詩世界とサウンドを提示し、8月10日(水)に発表した最新EP『恋と戦争』で、その試みはさらなる成果として結実している。バンドとして、そして今を生きる女性として、たかはしと海に聞いた“わたしたちが今感じていることの全て”。
どうしてこの3人が集まって、何が作用して、こんなひとつの音楽になったんだろう(海)
── まずは今年1月にリリースした2ndアルバム『Cとし生けるもの』についてお聞きするのですが、1stアルバムから2年ぶりということで、その2年というのが結構イカツイ期間でしたよね。
たかはし たしかに、イカツかった(笑)。
海 人生の中でもあまり経験しないような2年間でしたね。でも制作の時間が結構取れて、ゆっくり丁寧に作ることのできたアルバムでした。
── アルバムを聴いて思ったのは、すごくライブの空間を求めている作品だなということでした。そこはやはりこの2年間というものが大きく関係しているのかなと。
たかはし ライブができない2年間でしたからね。ライブができるありがたみも感じられるようになったし、それによってライブのことをもっと考えられるようになって、ライブでどれだけカッコよく演奏できるかっていうことをベースに作曲に挑みました。
── それはつまり、バンドについて考えることであり、オーディエンスについて考えることであり、自分以外の存在や世界をより意識するということだったのではないでしょうか?
たかはし そうですね。バンドを始めた初期の、音楽を届けたい!っていう感覚に戻ったような感じになっていました。
── 音楽をやる意味とか、音楽の役割とか、そういう根本的なことをどうしても考える時期でしたよね。活動がままならない状況に置かれた2年間というのは。
たかはし そう。憤りとか苛立ちとか、そういう感情が原動力になって今までこういうサウンドでやってきたという面もあったので、そこに近いというか、立ち戻ったような感覚でしたね。
海 やっぱりバンドだから、結局3人で会わないと音が完成しなくて、そういうのもあって、久々に3人で音を合わせた時に、カッコいいなあ、バンドっていいなあって感じられて、そこからよりバンドっぽいもの、3ピースという原点を大事にできたアルバムになったのかなと思います。
── 小さなことは気にしないで行こうぜ、みたいな感じがすごく伝わってくる作品です。
たかはし やっぱり実際対面で会うと、その個人が持っているエネルギーみたいなものに圧倒されて細部まで気にしている余裕がないじゃないですか。バンドってそれの爆発っていうか、3人が手を繋いで大きい細胞が3つ重なってできているものだと思うので、そういうものってスカッとするし、生活の中で大切なんじゃないかなってより感じられるようになりました。
── 忌野清志郎さんが著書(『ロックで独立する方法』)の中で〈「ロックで飯が食いたい」でも「音楽でメジャーになりたい」でもなく、自分の夢は「バンドマンでありたい」だったわけだ〉と書いていたのを今のお話を聞いて思い出しました。RCサクセションの無期限活動休止以降、清志郎さんは数え切れないくらいのバンドをやっていて、ああ、そういうことだったんだなと。
たかはし すごいわかる、その気持ち。
海 この前、清志郎さんと細野晴臣さん、坂本冬美さんが結成していたHISっていうバンドを知って、衝撃を受けたんですよ。音楽的バックボーンの全然違う人たちが集まって、こんなに面白いものになるんだっていうのに感動したんですよね。
── 演歌とYMOと清志郎ですもんね(笑)。
海 そう。しかも3人全員がちゃんと前に出てるんですよね。
たかはし バランスの取り方っていうのもバンドって独特なんですよね。そもそも全然合わないような3人がひとつの空間に集まっているから、何とか合わせざるを得ないというか。どこかで協調性を持たないと何もできないから。それでひとつの作品を作っていくっていうのが面白いんですよね。だから、かけ離れている人たちが集まった方が面白いものができるんだなって改めて思いました。
── 3人違うからこそ、その真ん中にある音楽が尊いものだと感じられるんでしょうね。
たかはし&海 ほんとにそう。
海 まさに『Cとし生けるもの』っていう作品は、どうしてこの3人が集まって、何が作用して、こんなひとつの音楽になったんだろうっていうのをすごく感じられるアルバムなんですよね。
自分がこう思っているこの感情を何年も先に残したい(たかはし)
── バンドの真ん中にあるものは音楽なんですけど、じゃあ実生活において僕たちの真ん中にあるものって何なんだろう?って考えたら、途端に考え込んでしまうんですよね。それは人それぞれですって言われたら、そりゃそうなんだろうけど、でもみんなで掴める何かがあるはずだっていう希望は失いたくない。その切実さが、最新EP『恋と戦争』に繋がっていると思いました。
たかはし 『Cとし生けるもの』を出してすぐに制作をしたので、作曲自体も並行して行って、重なっている部分も結構あるので、繋がっているという感覚はより濃厚にありますね。
── その時に感じたことや感情がそのまま表現に息づいている曲ばかりですね。
たかはし そうですね。日記を書くようにその時感じたことの断片を曲に落とし込むっていうことをやってみたんです。今までは自分の記憶を頼りに人生経験を曲に落とし込むっていう作り方だったんですけど、今回の作品は、例えばその一夜の曲とか、その日の感情を書いた曲とか、だから詩に近いのかもしれないですね。
── その違いはバンドとしても感じましたか?
海 はい。結構いろんな曲を作っていた時期だったんですけど、そのなかで「ノーワー」と「明日戦争がおきるなら」っていう曲がまず送られて来て、それがすごく熱のこもったデモだったんですよね。その熱が伝わって、一週間後にはバンドで形にしているっていうタイム感でした。瞬間の気持ちをギュッと閉じ込めた作品になりましたね。
── その瞬間が作品となって、永遠になっていく途中、という感じですね、今は。
たかはし この時代に生まれた感情の爆発を、この時代を生きていない人に届いたらいいなと思って、どうしても作品しておかなければいけないって思いました。あの時こういうふうに感じた人がいたんだって。残しておかなきゃって。
── 実際の戦争を映像を通じて目の当たりにして、“戦争”という言葉が含むものが変わってしまったような感じがしますよね。
たかはし 「ノーワー」を作った時も、このEPのタイトルをつける時も、どこまで言っていいんだろう?っていう悩んだんですけど、すごくパーソナルな気持ちで、わたしだったらこう言うっていう感覚を大切にしました。戦争というものから目を背けることはできないと思ったし、目を背けることがまた違う戦争を生んだりするのかな?とかいろいろ考えました。でも、素直に言いたいっていう気持ちが強かったです。
── 戦争というものをどこか歴史の中の言葉みたいな感じで捉えているところがあったんですけど、それが現実のものとして、今の意味や感情を詰め込まれた言葉として浮上してきた。だから“恋”と並列することはなんらおかしなことではないし、現実に我々の身の回りで進行しているふたつの物事なんだという捉え方にすごくリアリティを感じました。
海 恋と戦争が並列であるということに気づいてしまった、という感じですよね。
たかはし 恋と戦争って少し前までは絶対に繋がらないものだと思ってたけど、でもそうじゃないんだって。
海 “戦争はダメだ”“戦争反対”っていうのは、もちろんそうなんですけど……なんだろうな、わたしたちが曲にしたかった感情っていうのはそういうことではなくて、実際に戦争が起こっている時代に暮らしているんだっていうことの自覚を曲にしたかったんですよね。それがリーガルリリーらしさだと思ったし、本当に自分と向き合ったからこそ出てきた言葉が歌詞になっているなと思います。戦争のことを歌っているようで、実は戦争そのものについて歌っているわけではないんですよね。いったい何によって対立が起きてるのか、本当のことはわからないんだもんっていうことしか言えないから。
たかはし すごく正直に言えば、歌うことって特になくて。このままだと終わってしまうかもしれないって感じだったんですよ。もう今まで通りに曲を作れなくなっていて、歌いたいことは今生きている現状の中にしかないって気づいたんですよね。それで素直に曲を作ってみたら、こういうことを無意識に歌っていたんです。バンドってこうやって続いていくんだって思えたんです。
── そうすると、この『恋と戦争』というEPは、今までのバンドの殻を突き破った作品、一歩前に進めた作品ということが言えますか?
たかはし 自分の中で見えなかったものが見えるようになったし、メンバーの中の見えなかったものにも触れることができました。自分と距離の近い歌詞を書くことで、メンバーとの距離も近く感じられたんですよね。
海 うん。リーガルリリーは今、こう感じているんだよっていうのを素直に提示できた作品という気がしています。今までは、とにかくたくさんの人に伝わってほしいっていう思いでどんどん前に進みながらやってきたんですけど、もっと切実なEPになったというか、バンドとしても、メンバー個々としてもパーソナルなものになりました。
たかはし ロックのあるべき姿なんじゃないかなって思う。
海 本当にそうだね。
── 今そこを自分たちで感じられるようになったということですよね。もしかしたら今までは先人の通った道を駆け抜けていたのかもしれないけど、今ようやく自分たちの道を歩み始めたということかもしれない。
たかはし そうですね。
海 うん確かに。
たかはし わたし、結構ロックって何だかよくわからなかったんです。「リッケンバッカー」って曲でも〈ニセモノのロックンロールさ〉って言ってるんで。でもそうですね、今回のEPは、ロックってこういうことかもしれないっていうことの感覚を曲にしたものだと思います。
海 みんなが思うロックとは別物かもしれないけど、自分の中にロックはこうだっていうか。
たかはし うん。ツジツマとか関係ねー、みたいな。自分がこう思っているこの感情を何年も先に残したい。合理性も何もどうでもよくて、ただ今感じている感情の爆発を残したい。そういうのが自分にとってはロックだなって感じます。
── リーガルリリーがカバーを継続してやってきているというのも、自分たちのロックって何なんだろう? どこにあるんだろう?っていうことの探究心からだったのかなと思います。今回はSPITZの「ジュテーム?」ですね。
たかはし 「ハヤブサ」というアルバムに入っている曲で、この曲にすごく恋を感じたのでカバーしました。
── 関係性とかは置いておいて、一人称で恋のど真ん中のわけわかんない気持ちを歌ったっていう感じの曲ですよね。
たかはし そうそうそう!
目に見える場所と見えない場所でこの世界は成り立っている(たかはし)
── 「ノーワー」の歌詞の中に、食べることと吐くことというのが一連の行為として描かれています。現実の世界に置き換えれば、“ノー・ウォー”と声高に叫ぶ人もいれば、沈黙をする人もいる。その両方が間違っていないというか、どちらか一方ではないよなっていうのを、食べて吐くという言葉に感じたんですよね。
たかはし どちらか一方だけに染まっていくっていうのはどうにも落ち着かなくて。もしかしたら、叫んでいる人も実はあまり何も考えてなくて沈黙しているのと同じかもしれないし、逆に沈黙を守っている人は何かをすごく吐きだしているのかもしれない。目に見える場所と見えない場所でこの世界は成り立っているんだっていうことをすごく感じます。
── たかはしさんの歌詞には相反するものが同時に存在していて、その状態をそのままで肯定するという態度が貫かれていますよね。「ノーワー」を聴いて僕が想像したのは、こんなことでした。例えばそこそこ混み合っている電車の中で自分の前の座席に座っている人がめちゃくちゃ態度の悪い座り方をしていると。もう寝ちゃったりして。それを見ながら僕は、心の中で汚い言葉で罵るわけです。そうすると、傍目にはすんと何食わぬ顔で座っているのに、その外見と心の中の歪な形が全然合致してないという奇妙な矛盾に気づいたんです。そう思ったら、目の前の態度の悪い人は心の中で世界の平和と愛について考えてるかもしれない……みたいに思って、でも人間ってそもそも矛盾だらけだし、それが真実だよなって。
たかはし その矛盾が全てをつくるきっかけですよね。恋も戦争も音楽も。
── そういうことですよね。「明日戦争がおきるなら」という曲は、基本的に過去形で綴られているんですけど、だからこそ、すぐそこで戦争は起きているのかもしれないっていうゾッとするものを感じるんですよね。
海 過去形で書かれているのに、「明日戦争がおきるなら」という仮定になっているという距離感も絶妙ですよね。
たかはし その距離感というのを表現したかった。今ここでは起きていないけど、海の向こうでは起こっているんだっていう。
── なるほど。「地球でつかまえて」は新しい曲なんですか?
たかはし 一番新しい曲ですね。
── バンドアレンジに面白い引っ掛かりがあるというか。
海 そうですね(笑)。
たかはし 自分は止まっているのに、周りの世界がものすごく速く動いている、みたいな音像を作りたくて、ああいう軽快なリズムだったり、シンコペーションをずらしてみたり、ずっとバタバタしてるっていうイメージを表現したかったんです。
海 みんなが自分勝手で、各々のリズムでループしていくっていうのを今までやってなかったので、やってみたいねって言って。
たかはし ケミカル・ブラザーズがすごく好きで、彼らの曲を聴いているとそういう感覚になるんですよね。自分の景色を音楽にしてくれているというか。自分はここに一人ぼっちでいるのに、周りだけやたらと速い……。でもそこに合うBGMってなかなかなくて、ケミカル・ブラザーズは合うんですよね。個人的な感覚なんですけど。なんとかそこを自分たちでも表現したかったんです。
── サウンドの引っ掛かりに、どこにも寄りかかれない寄る辺なさを感じたんですよね。
海 本当にそうなんですよ。
── 簡単に寄りかかれるものがないから地球にしがみつくしかないって曲ですよね。
海 そうですそうです。音楽でのそういう体感ってドラムのビートが担うことになるんですけど、そこがないっていうか。ドラムは鳴っているんですけど、ずーっとタカツクタカツクしている。
── ライブではやっているんですか?
たかはし まだやってないんですよ。どういうふうになるか楽しみです。
── ライブで言うと、11月に対バンシリーズが3本決まっていますね。羊文学、My Hair is Bad、くるり。すごいですね。
たかはし すごい!
海 ありがたいです。
たかはし 夢のような話だけど、この3バンドとやれたらいいねっていう話から始まって、そしたら本当に決まって。
海 『cell,core』というイベントは去年もやっていて、去年はどこか自分たちと通ずるところがあるバンドと対バンさせてもらったんですけど、今年はちょっとそことは離れて、自分たちにあるものとないものに目を向けたというか、そういう感じで企画しました。だから対バンの当日にゲストのバンドのライブを見て、それを受けて自分たちがライブをするっていう、すごく楽しみなイベントです。
── それにしても、バンドってどうしてこんなにそれぞれで違うんだろうって思いますね。改めて今日のインタビューのテーマは“真ん中にあるもの”でしたね。
たかはし そうですね。まさに『cell,core』ですね。
Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子
リリース情報
リーガルリリー
デジタルEP『恋と戦争』
配信中:https://kmu.lnk.to/landw
収録曲
1.ノーワー
2.明日戦争がおきるなら
3.地球でつかまえて
4.ジュテーム?(スピッツcover)
ライブ情報
J-WAVE presents INSPIRE TOKYO ~Best Music & Marke
2022年9月18日(日) 国立代々木競技場 第二体育館
出演:TENDRE×chilldspot / Chilli Beans.×あっこゴリラ / リーガルリリー×WONK / ⾬のパレード×ROTH BART BARON
https://www.j-wave.co.jp/special/inspire2022/
中津川THE SOLAR BUDOKAN
2022年9月24日(土) 岐阜県中津川公園内特設ステージ
出演:シアターブルック / GLIM SPANKY / 布袋寅泰 / 片平里菜 / LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS / 村松拓(Nothing’s Carved In Stone / ABSTRACT MASH)/ OAU / PHONO TONE / RED ORCA / リーガルリリー / 10-FEET / ヤバイTシャツ屋さん ほか
http://solarbudokan.com/2022
NOT WONK presents『BEING THERE 7』
2022年10月9日(日) 札幌PENNY LANE24
出演:リーガルリリー / NOT WONK
KOTORI DREAM MATCH 2022
2022年10月16日(日) Zepp Fukuoka
出演:リーガルリリー / KOTORI
http://kotori-band.com
TETORA pre.「未来は今日だツアー」対バン編
2022年10月21日(金) F.A.D YOKOHAMA
出演:リーガルリリー / TETORA
https://www.tetoraosaka.com
ボロフェスタ2022
2022年11月6日(日) 京都KBS HALL
出演:クリープハイプ / リーガルリリー / 奇妙礼太郎 /どんぐりず / 空音 / 眉村ちあき / PIGGS / Black Petrol / ULTRA CUB ほか
https://borofesta.jp/
リーガルリリー『cell,core 2022』
《名古屋編》
2022年11月9日(水) 名古屋ボトムライン
出演:リーガルリリー / 羊文学
《大阪編》
2022年11月15日(火) 大阪BIGCAT
出演:リーガルリリー / My Hair is Bad
《東京編》
2022年11月17日(木) Zepp Haneda
出演:リーガルリリー / くるり
●チケットはこちら
プロフィール
たかはしほのか(Vo/Gt)、ゆきやま(Ds)、海(Ba)からなるバンド。高校在学時より注目を集め、国内大型フェスや海外でのライブ出演も果たす。2019年にはアメリカ合衆国で開催された「SXSW 2019」へ出演し、同年に行った中国ツアーも全公演SOLD OUT。
2022年1月には2ndフルアルバム『Cとし生けるもの』を、8月10日EP『恋と戦争』をリリース。11月からゲストを迎えた東名阪ツアー『cell,core 2022』を開催する。
関連リンク
公式サイト:https://www.office-augusta.com/regallily/
番組概要
放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:PIA SONAR MUSIC FRIDAY
ナビゲーター:櫻井海音
放送日時:毎週金曜 22:30~23:00
番組HP:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarfriday/
番組twitter:https://twitter.com/SONAR_MUSIC_813
ハッシュタグ:#sonar813
番組LINEアカウント:http://lin.ee/H8QXCjW