クリープハイプ/PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー
クリープハイプ・尾崎世界観インタビュー「コロナというタイミングでメジャーデビュー10年というのは意味があるなと思った」
特集連載
第62回
櫻井海音が最新のリリース楽曲からライブイベントまで、“いま聴くべき音楽”を厳選して紹介するJ-WAVE『PIA SONAR MUSIC FRIDAY』から、番組連動インタビューを掲載。
今回登場するのは、クリープハイプでボーカル&ギターを担当する尾崎世界観。これまでのクリープハイプのイメージを鮮やかに裏切るようなサウンドメイクが斬新な新曲「愛のネタバレ」を中心に、彼の創作に対する向き合い方や、このコロナでの期間を通して考えたことなど、小説家としても注目を集める稀代の表現者の言葉は時代と格闘する跡に満ちていた。クリープハイプというバンドの生態が垣間見えるインタビューをどうぞ。
生音というのは意外と頼りないのかもしれないな
── 昨年12月にリリースした6枚目のアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』のインタビューでは、この作品がこうだとはっきりわからないからこそ可能性を感じている、という趣旨の発言されていました。制作の過程で何か大きな変化があったんですか?
ライブでやることをそこまで意識せずに作ったんです。もともとはスタジオでメンバーと音を合わせながらどんどん削っていく形だったんですけど、今回はそれぞれが持ち寄った音をパズルのようにはめていくという流れでした。コロナの影響でリモートで制作することも必要だったので、自ずとそうなっていったところもあるんですけど。音がセパレートされているぶん、立体的に浮き上がってくるなと思ったんですよね。それがよかったです。
── なるほど。
ちょっと音も変えたいなと思っていて。これまでにも意識して変えてはいたんですけど、思ったより変わらないのが悩みだったんです。だから自分が思うよりももっと、全部をひっくり返すくらい変えて、やっとちょっと変わったと思ってもらえる。このアルバムを作りながらそんなことを実感しました。でもその分、ライブでどうなるかすごく不安だったんですよ。そもそもライブでできるのかって。ちょっと変わった曲もあったので。でも意外とやってみたら違和感がなくて。やっている側は細かく気にするんですけど、人に伝わる瞬間にだいぶ削ぎ落とされてしまうんですよね。あとはバンドの良さとして、メンバーと生で音を出してやっていくというのを感じていたんですけど、意外とバンドの音って頼りないものだなと気づいて。今はサブスクで聴いて、引っかからないとどんどん飛ばされてしまう時代なので、少しでもインパクトのある音をと思った時に、生音というのは意外と頼りないのかもしれないなと思いました。だからこそ、バンドという形態により愛着も湧いた。
── バンド感みたいなものに頼らない作り方をしたからこそバンドが浮き上がってきたわけですね。
そうですね。とにかくバンドっていいものだなと思って最初にはじめたんですけど、そこで壁に当たったりして。だから今は、意外と弱いものだという感覚でいる方が、地に足をつけてやれると思っています。
── 音を変えたいという意識はずっとあったのですか?
ここ数年ですね。音楽の聴かれ方が変わってきて、自分たちはどうするのかということも考えたし、こうしたいというよりは、こうしなきゃいけないという焦りの方が強いですね。やっぱり打ち込みの音の方がパッと聴いて耳に入ってくるし。そこはすごく悩みましたね。
── 表現の部分ではなく、届かせ方という部分での悩みですか?
そうです。根本的につくっている感覚はどんなに変えようと思ってもなかなか変えられないと思うし、そこは染み付いているものなので。だからこそ音を変えたところで芯はブレないという自信もある。包装の仕方ですね。そこにはその時々で流行があって、ある時には簡易包装で届けたり、逆に過剰に包装して届けたり、時代によって変わると思うんです。せっかくいいものをつくっていても、箱や包装がよくなかったら触ってもらえない時代だと思うんですよね、特に今は。だからそこはすごく意識しました。
── ライブでできるかどうか不安になる曲というのは実際にツアーでやってみていかがでしたか?
意外にできてしまうんだなと思いました。でも、ライブで再現できないものをつくろうとしたなら、本当にできないものをつくらなければいけない。なんとなくやれてしまったら、その目論見は失敗しているんだと思います。だから、いつか絶対にライブでできない曲をつくろうという目標ができました。
── きっと無意識のうちにバンドでの再現というリミッターをかけているのかもしれないですね。もちろんそれは一方では正しいことではあると思いますが。
つくっている自分とそれを実演する自分というのが明確に存在しているので、片方が片方を追い出そうとしても、完全に排除することはできない……。どうなんでしょうね、それはしょうがないんだけど、どっちかひとつでやってみたいという瞬間もありますね。
── ひとりで曲をつくって歌詞を書いている瞬間には自分のなかもひとりだけの自分なのではないんですか?
自分で歌うということを、最近は特に意識しているので、そういう感じではないですね。前はもうちょっと自由につくっていたんですけど、より客観視するようになったんです。自分の肉体があって、そのなかでここが一番いいっていう部分があって。前まではそこもよくわかっていなかったんです。だからむちゃくちゃなメロディをつくったりもしたんですけど、今はだいたいこのあたりがいいというのがわかってきた。でも、そういう知識が邪魔になる瞬間もありますね。
サビはキーが高いところにもっていくというフォーマットのようなものを壊したかった
── ニューシングル「愛のネタバレ」、この曲はどのタイミングでできたものなんですか?
アルバムをつくって以降、まったく曲をつくっていなくて。メジャーデビューしてからは、このタイミングでリリースがあるのでここまでにつくってくださいと言ってもらえるようになって、でもアマチュアの時は自分で好きな時に曲をつくってライブでやって、いつかレコーディングするのを目指すという感じだったんです。メジャーデビューして10年が経って、そろそろもう一回自分から積極的につくるということをしたいなと思ったんです。今は良くも悪くもあまり言われなくなったので(笑)。だからずっと溜めていたんです。それで、つくったのがこの曲ですね。
── 歌詞はどうだったんですか?
テーマは毎回明確に決めているんですけど、「ネタバレ」というキーワードが出てきてからは書くのも早かったですね。最近は虫食い状態にして書いていくんですけど、1番のAメロができたら2番のBメロが出てくるなとか、そういう書き方もしています。メロディは自発的な気持ちが起こるまで溜めてから書いたんですけど、歌詞に関しては今までやってきたこと、積み重ねてきた筋肉で書いた感覚がありますね。
── 言葉とその言葉本来の意味や感情が合致していないと気持ち悪いという感覚はありますか?
音楽に関してはないですね。小説を書くようになってから、音楽においてはより言葉とその中身のズレを許せるようになりましたね。前はしっかり意味を追いかけていたんですけど、メロディがあるので、どうしてもそこに収まってしまうという感覚があって。だから今は、音に委ねるという感覚が強いです。
── サウンド面では、メンバーの皆さんとのやりとり含めていかがでしたか?
当然自分には明確なイメージがあったんですけど、もしかしたらメンバーはピンときていないかもしれないという感覚が最初はあって。今まで何回かそういう感じがあったんですけど、それで後悔する時と、大丈夫な時があって。今回は、最初はまだ見えていないけど、最終的に仕上がったら大丈夫だという確信はありました。これは意識的にわざとやっていることなんですけど、サビのキーもかなり下げていて。だから今までのクリープハイプらしい感じが出ていない。キーを落としても楽曲を成立させるというのをそろそろバンドとしてしっかりやりたかったし、絶対にサビはキーが高いところにもっていくというフォーマットを壊したかったんです。逆なんですよね。今まで散々それをやってきたから、ちょっとテンションを落とす方へシフトしていく。やってる方からしたら実感があまりないので、バンドメンバーは特に大変だったかもしれないですね。音としてテンションを下げていかないといけないので。でも明確に“逆の方に行けてる”という感覚があったし完成したものを聴くと、メンバーにもそれがちゃんと伝わってるなと思いました。
── アルバムにも収録されている「ナイトオンザプラネット」にも、テンションを下げていくという感覚があったように思います。
そうですね。ただ、「愛のネタバレ」の方がもっと差し込んでいく感じというか、低めのキーのなかでもちゃんと動きがあって、バンドの音もちょっと強くしたんです。無意識のうちに固まっていた部分をちゃんと解して、もう一回別の場所で固めるということをはじめてやれたんですよね。「ナイトオンザプラネット」は、完全に全部を緩める作業だったんです。でも今回は、バンドの演奏に関しても一回緩めたものを別の場所、つまりちょっと下げたテンションでグッと固めるという──感覚の話なので抽象的になっちゃうんですけど──そういうことなんです。それをここでちゃんとやれたのがすごくうれしいですね。
── クリープハイプというものを壊しながら、なおかつ原型は保ったままにするという難しいバランスですね。
でもそれをやってて楽しかったんですよ。
── そのサウンド的な野心というか挑戦があって、「愛のネタバレ」という歌詞のテーマが出てきたんですか?
そこはサウンドとは別ですね。さっきも音楽の聴かれ方が変わったという話をしましたけど、すぐに結果がわかる世の中になって、だいたい人の意見を見たり聴いたりすれば、自分も見たり聴いたりしたような気分になる。評価が低いものに対して、自分の感覚でと思っていても、やっぱりちゃんとよくないものはよくないので、結局自分の生活にもそうした人の意見が入ってきていると思って。ネットで買い物をする時も人の評価をまず見てしまうし、そこに安心を得ている自分って表現者としてどうなんだろうと思う。でも、時間のない中で、どうしてもそうなってしまうんですよね。音楽の聴かれ方もそう。サブスクのプレイリストに入ったらそれをそのまま聴くと。そういう部分にどうにかして抗いたいという気持ちを、皮肉を込めて誰かがレビューしているという設定で歌詞にしました。
世の中が落ち込んでいる時の方がクリープハイプの居場所がある感じがするんです
── コロナがあって、アルバムをリリースして、今年4月からツアーを行いましたが、ライブに対して変わったなと思える感覚はありましたか?
それが本当になくて。今年は夏フェスも各地出演させていただきましたけど、そこにお客さんがたくさん集まってくれたり、ものすごい熱量でステージを観てくれているのを感じます。でも、バンドとしては何も変わっていないですね。ただ、圧倒的にやりやすくなりました。
── と言うと?
もともとライブでお客さんを煽ったりもしていなくて。同じフェスに出ているほかのバンドと比べると、お客さんの手が上がる数も少なくて、そこで悩んだりもしたんですよ。やっぱり何かした方がいいのかなって。ただ、それは自分のやりたいことじゃないと思っていて。それでコロナになって、制限があるなかでようやくライブが再開された時に、めちゃくちゃやりやすかったんです。あ、これって自分のやりたかったことにすごくフィットしているなと。で、今年に入ってワンマンのツアーを回ったり、夏フェスに出たりする中で確信しました。お客さんの方からしたら物足りない部分はあるかもしれませんが、でもたぶんこれが理想だと思えるんですよね。そういうバンドも少なからずいると思うんです。
── でも完全に元に戻るのかと言われたら、わからないですよね。
確かに“制限”ではあるけれど、きっといいこともあったはずです。この期間を経て、何か新しく構築していくことも必要なんじゃないかと思うようになりました。今ほど夏フェスが盛んになったのは2010年代に入ってすぐくらいだと思うんですけど、そうした黎明期を通過して形ができていった2012年にクリープハイプはデビューしているんです。だから夏フェスというものがガチガチに固まっていて、その上にただ乗っかっていただけで。ずっとこれでいいのかなという気持ちがあったんです。誰かがつくったもののなかで、こういう曲だったら手拍子が起こって、こういう曲だったらみんなが手を挙げて、だいたい決まった部分で掛け声があったり……、そういう流れでこの先10年、20年やっていくことへの焦りもあって。そんななか、もちろん残念なことの方が多いけれど、コロナというものがあって、もう一回新たにつくり直すチャンスというか、この機会にメジャーデビュー10年というキャリアで巡り合ったのは意味があると思ったんです。実際今年の夏フェスはとてもポジティブな気持ちでやれたし、来年以降がさらに楽しみですね。
── 来年で言えば、3月に幕張メッセと大阪城ホールで2公演ずつ、計4公演のライブが予定されています。
もともと2020年に幕張と大阪城で1公演ずつ予定していたものが、倍になったんですけど、今クリープハイプというバンドがそれまでとは違う届き方をしている実感があるからこそ、なんでこのバンドはテレビにも出ないのにこんなにお客さんがいるんだろうと思われたいって思ったんです(笑)。
── 思われたい(笑)。
わかりやすいタイアップがあるわけでもないし、不思議に思うはずなんですよね。だからこそ幕張と大阪城を2デイズずつ埋めたい。今はそれが楽しみです。コロナになってから、明確にコアなファンに届けようと思っていて、ライブ映像も一切出さないと決めて、閉じた活動を意識しています。でも逆に、それによって広がっている実感があるんですよね。
── 確かに存在感が増しているのを感じます。
周りがコロナの自粛期間中に無料でライブ映像をあげたりしていて、一瞬焦ったんですけど、これは逆にチャンスだなと思って。むちゃくちゃ閉じて、有料のファンクラブ会員にだけ向けてやろうと決めました。今思うとそれがよかったんだと思います。世の中が落ち込んでいる時の方がクリープハイプの居場所がある感じがするんです。
Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子
衣装協力:LOSTBOY TOKYO
リリース情報
「愛のネタバレ」9月28日配信リリース
https://creephyp.lnk.to/AiNoNetabare
ライブ情報
クリープハイプ アリーナツアー
2023年3月11日(土)千葉県 幕張メッセ国際展示場
2023年3月12日(日)千葉県 幕張メッセ国際展示場
2023年3月25日(土)大阪府 大阪城ホール
2023年3月26日(日)大阪府 大阪城ホール
https://www.creephyp.com/feature/cp_arenatour2023
『COUNTDOWN JAPAN 22/23』
2022年12月29日(木)幕張メッセ国際展示場Ⅰ~8オール・イベントホール
出演:クリープハイプ/ZAZEN BOYS/Juice=Juice/sumika/TETORA/Novelbright/ハルカミライ/Hump Back/UNISON SQUARE GARDEN ほか
公式サイト:https://countdownjapan.jp/
そのほかのライブ情報はこちら
https://www.creephyp.com/news/8/?page=1&range=future_event_end_time&sort=asc
プロフィール
尾崎世界観(Vo/Gt)、小川幸慈(Gt)、長谷川カオナシ(Ba)、小泉拓(Ds)からなる4人組ロックバンド。2012年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。2014年には日本武道館2DAYS公演を行うなど、シーンを牽引する存在に。2018年5月11日には約4年半ぶりとなる2度目の日本武道館公演『クリープハイプのすべて』を開催。2021年12月には約3年3カ月ぶりとなるニュー・アルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』をリリース。2022年9月28日に「愛のネタバレ」配信リリースした。結成10周年を迎え、2023年3月よりキャリア史上最大キャパの東阪アリーナツアーを開催する。
尾崎世界観は執筆活動も行っており、2016年に初小説『祐介』(文藝春秋)を上梓。その他の著書に『苦汁100%』、『苦汁200%』(ともに文藝春秋)、『泣きたくなるほど嬉しい日々に』。2021年1月に単行本が発売された中篇小説『母影』は第164回芥川賞の候補作に選出された。2022年4月に歌詞集『私語と』(河出書房新社)を刊行。
関連リンク
公式サイト:https://www.creephyp.com/
番組概要
放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:PIA SONAR MUSIC FRIDAY
ナビゲーター:櫻井海音
放送日時:毎週金曜 22:30~23:00
番組HP:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarfriday/
番組twitter:https://twitter.com/SONAR_MUSIC_813
ハッシュタグ:#sonar813
番組LINEアカウント:http://lin.ee/H8QXCjW