SpendyMily/PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー
今も変わらずリモートで楽曲を制作するという3ピースバンド・SpendyMily、その魅力とは?
特集連載
第64回
左から松永瀀(Vo)、yukirie(Gt)、平井文(Ds)
櫻井海音が最新のリリース楽曲からライブイベントまで、“いま聴くべき音楽”を厳選して紹介するJ-WAVE『PIA SONAR MUSIC FRIDAY』から、番組連動インタビューを掲載。
今回登場するのは、既存の枠に収まらないスケールの大きさが魅力のSpendyMily(スペンディーミリー)。2020年、松永瀀(Vo)がSNSを通じてyukirie(Gt)、平井文(Ds)と出会い、オンライン上でのセッションを通じて意気投合したことから結成。2021年8月には1st デジタルシングル「夏とブルー」をリリースし、その叙情的な歌詞世界と雄弁なサウンドが話題となった。以降順調にリリースを重ね、2022年要注目のニューカマーとして多くのメディアに取り上げられる。今年9月30日にリリースした6枚目の最新シングル「Iris」はドラマ『少年のアビス』エンディング主題歌に起用されるなど、早くもその存在が一般層にまで浸透し始めている。今回は3人揃ってのインタビューを実施。SpendyMilyの曲作りや最新曲「Iris」で掴んだ手応えなど、たっぷり話を聞いた。
3人で合わせてみたら何か面白いものが生まれるんじゃないかっていう予感はあった(松永)
── SNSを通じて知り合って、そのままセッションをして、という形で結成されたということですが、それっていうのは、やっぱりコロナの影響もあったんですか?
松永(Vo) ああ、そうですね。ただ、コロナであってもなくても、そもそも距離のあるところに住んでいたので、リモートでセッションするという流れは変わらなかったと思います。
yukirie(Gt) なので最初はTwitterのDMで連絡しあったりして、そこからDAWでやり取りを始めてっていう感じでしたね。
── 知り合っていきなりセッションって感じだったんですか?
yukirie 最初はどういう音楽が好きなの?みたいなところから始まって、お互いの音楽に対する想いみたいなものを共有した上で、じゃ一回何かやってみようと軽い気持ちで始めました。
── そこで確認しあった音楽的な共通認識って何だったんですか?
yukirie それぞれの好きなジャンルを確認しあって、その好きなものを合わせてみたら面白いんじゃないかって。
松永 ジャンルに関して言うと、僕以外のふたりは似ているんですけど、僕はちょっと違ったんですよ。でも3人で合わせてみたら何か面白いものが生まれるんじゃないかっていう予感はあったんですよね。
yukirie 3人ともひねくれたものが好きっていう共通項はあったよね。
平井(Ds) ああ。
松永 元気な曲は聴けない(笑)。
yukirie ダークな雰囲気なものが好きっていうのはありました。そこが結構大事だったような気がする。そこさえ合っていたらあとはどうなっても大丈夫っていう確信はあったかな。
── ちなみにオンライン上のセッションというのはどういう形でやるんですか?
松永 同時に音を出すようなリアルタイムでのセッションというのではなく、データのやり取りで行うセッションですね。
yukirie 誰かが「こういうの思いついたんだけどどう?」みたいなものを聴かせてもらって、じゃあこのあとギター入れてみるよとか、ドラム入れてみるよっていう感じでそれぞれから返ってくるのを時間差で待ちながら、自分のイメージを膨らますっていう形ですね。
── なるほど。そのタイムラグがいい方向に作用しそうですね。
松永 そうかもしれないですね。
yukirie 待ってるのが楽しいっていうのはありますね。いい意味で裏切られるというか。自分が提出したものに対して、こう返ってくるんだ!っていう意外性が刺激になるよね。
── 1st デジタルシングルが2021年8月にリリースした「夏とブルー」。これはまさにそういうセッションを経てできた曲だったわけですね。
松永 そうですね。最初にできたって思ったところから、やっぱりこうしようああしようっていう感じで作り直す期間が結構あって、結局すごい時間がかかったよね。
yukirie うん。最初のやつはかなりハイテンポなものだったもんね。そこにちょっと違和感があって、ここはもっとどっしりいった方がいいんじゃないかっていう感じで試行錯誤が始まりました。結構悩みましたね。
── その試行錯誤もオンライン上でのセッションだからこそ練れたものだと思うのですが、今はどういうやり方をしているんですか?
yukirie これが正直なところ、今もあんまり変わらないんです(笑)。
松永 何のために東京に来たかわからないっていう(笑)。もちろん、すぐに会えるし、打ち合わせもできるしっていうメリットはあるんですけど、音楽面に関しては相変わらずリモートなんですよね。たぶん癖付いたっていうのもあるし、そこの良さに気づいたっていうのもあるから、効率とクオリティを優先させてもこれはこれでよくない?って感じで今も変わらずリモートでやっています。
yukirie スタジオに入ってやるっていうのも、やってみたい気持ちとしてはあるんですけど、まあ、みんなインドアなんで(笑)。今の感じで落ち着いちゃいましたね。
── リズムは完全に打ち込みですよね。
平井 そうですね。打ち込みだからこそ自由にできるっていうことがあるので、今のやり方の方がありがたいですね。
僕たちはアンダーグラウンドを知っているからこそ、そこと違う世界との線引きがわかる(yukirie)
── セッションの出発点は誰からになるんですか?
松永 バラバラではあるんですけど、基本的にはyukirieくんか僕かですね。どっちが多いかと言えばyukirieくんの方が多いかなと思います。彼がトラックを作るので。
yukirie 松永くんからの場合は、「こういうメロを考えたんだけどどう?」みたいな感じで、アカペラが送られてくるんですよ。ギガファイルか何かで。それをダウンロードしてDAWに移すと波形になるんですけど、本当にテンポが合ってなくて、魂で入れたんだなっていうのがよくわかる(笑)。それでもちゃんと形になってるんですよ。ひとつひとつのパーツから伝わってくるものがすごくあって、こちらの想像力をものすごく刺激されるんですよね。なので、彼からもらったメロをアレンジしてギターを入れたりドラムを入れたりして肉付けしていくっていう形もありますし、僕がオケを作って「ちょっと歌ってみて」って彼に渡してっていう形もありますね。
平井 私のところには最後に回ってきます。
yukirie いったん僕のところでリズムトラックを作るんですけど、それはあくまでサンプルのループ音源というか、あくまで仮のものなので、あとは好きにしてくださいという感じで。
── アンカーの平井さんは何を意識されるんですか?
平井 私のところに来た時点で曲としては形が出来上がっているので、なるべくボーカルとギターを邪魔しないようにリズムを打って、欲を言えば、ふたりの魅力を引き立たせるようなリズムにすることを心がけています。
yukirie それぞれの個性がどういうふうにやったら生きるかっていうのは一番意識してやっているところですね。
── そこのバランスが絶妙ですよね。もうちょっとで壊れそうっていうギリギリで3人がせめぎ合っているような曲でありサウンドだからこそ魅力的です。
松永 3人それぞれほとんど命がけというか、綱渡りしている感じはありますね。
── 歌詞はどのタイミングでつけるんですか?
松永 オケが送られてきてメロディを乗せるんですけど、その段階でなんとなく、もらったオケに対して、こういう世界観かな?って直感で感じたものにつながる言葉をまずはババババって適当にはめていくんです。で、その後に、詰めていくっていう流れなんですけど、わりとデモの段階で貼り付けた言葉をそのまま使うっていうことが多いんですよね。
yukirie 結局最初に出てきた言葉が一番インパクトが強いっていうのはあるからね。
松永 そうなんだよね。
── 音に導かれる言葉、という感じですか?
松永 そんな感覚ですね。ナチュラルに出てくる言葉っていうのは大切にしています。
── 結構テーマがはっきりしている歌詞が多いなという印象を持ちました。
松永 最初にオケを聴いて感じた全体感や世界観という枠組みを設けて、そこに向かって言葉を投げていくっていう感じなので、そういうふうな印象になるのかもしれません。
yukirie 歌詞が決まったら、さらにそこに向けてサウンドを練り直していくっていうこともよくしますね。その逆もありますし。なので全ての要素をそれぞれが出しながらひとつの方向に収斂させていくっていう感じがそのまま僕たちの曲作りなのかもしれないです。
── そうやって3人の個性を剥き出しにしつつ真ん中を探っていくというプロセスと、もうひとつ、3人以外を意識しなければいけないというか、要するにポップさみたいなものをどの程度意識するかというのはどうしても必要になってきますよね。
yukirie そうですね。そこは正直悩んだところはあります。
松永 すごい悩むよね、いつも。
yukirie 僕と平井さんはもともとアンダーグラウンドな音楽をやっていた人たちで。
平井 うん。
yukirie せっかくこの3人で曲を作ったんなら、ひとりでも多くの人に聴いてもらいたいっていう気持ちが強いので、じゃあそのためにはどのあたりでバランスをとるのがいいんだろうっていうところを一番悩みますね。僕たちはアンダーグラウンドを知っているからこそ、そこと違う世界との線引きがわかるというか。ポップスとアンダーグラウンドの線引きを共有できているところは大きいかなと思っています。
平井 yukirieが線引きしてくれているのがわかるので、そこに沿ってリズムは打ち込んでいけばいいんだなっていうのはあります。
── ポップさを担う要素として、松永さんの声というのはかなり大きいですよね。
yukirie 本当にそうだと思います。
松永 そういう意味では3人のバランスが奇跡的に取れている曲ばかりっていう感じが毎回する。基本的にはオケでyukirieが暴れるんで。それでも彼の中では葛藤して押さえ込んだものなんでしょうけど、普通の感覚からすれば全然暴れてるんで(笑)。僕からすれば、後ろでそれだけ暴れてくれているんだったら僕はまっすぐ歌おう、伝えようっていうことに集中できるっていうのはあるんですよね。だからやりやすいです、逆に。あのオケで歌うの難しそうって思われるかもしれないんですけど、僕にとっては案外そんなことはないというか。
── 逆に自分の道が見える感じなんですね。
松永 そうそう。あ、お前そっちなのね。じゃあ俺こっち行ってバランスとるわ、みたいな。
「Iris」で自分たちは引き算ができるっていうことがわかった(平井)
── 6枚目となる最新シングルが「Iris」です。これはどういうきっかけで生まれたんですか?
松永 ドラマ(『少年のアビス』)のエンディングでのタイアップが決まった時に原作を読ませていただいて、そこからインスピレーションを受けて、というところがきっかけですね。この曲に関して言えば、歌詞が先でした。結構シリアスな世界だったので、そのドロドロした感情をどう美しく伝えようかというのを意識して歌詞は書きました。
── 10代の感性にチャンネルを合わせるというところがひとつポイントですよね。
松永 そうですね。僕は自分が10代の頃から10代の気持ちがわかってなかったですから。ひねくれてたというか。周りを見ては「それの何がおもろいねん」みたいな感じで。だから結構難しかったです。
── 歌詞から先にできた曲だということですが、そうすることで感じたことは何ですか?
松永 単純に言葉が先にある状態なので、そこからメロディを作るのが難しいな、ある程度制限される感覚があるなっていうのは感じました。でも一方で、歌詞から書くと、最初に思ったストレートな感情を言葉で伝えられるから、そこはまた新鮮でしたね。
── 枠組みとしてメロディよりも言葉の方が頑丈な感覚っていうのはありますか?
松永 そうかもしれないですね。例えば〈青とブルーの狭間のグラデーション〉っていう歌詞は、メロディから作っていたら生まれなかっただろうなって思います。言葉から作ったからこそ生まれた言葉っていうのは絶対的にあって、そこはやっぱり強かったですね。
yukirie お、ラップきたか!って思った。
── ありますね。あれを聴いて、松永さんがラップをメロディとして捉えているという感覚が面白いなと思いました。
松永 確かに。韻というよりはフロウですね、僕の中でのラップというのは。
── アレンジに関してはいかがですか?
yukirie 最初に松永くんが歌っているデモをもらった印象としては、すごく退廃的な感じがしたし、だからこそ『少年のアビス』っていう原作のイメージにすごく合っていたし、これはもう暗い感じでいこうと──いつもそうなんですけど(笑)──今回は自分の得意な範囲だなと思いました。とは言え最初の段階でコード進行は結構悩んだんですよね。メロディの退廃的な感じに対して、コード進行を明るくしてギャップを生み出そうかなとか結構いろいろ考えたんですけど、自分がギターを弾いてみてしっくりくるのが暗いやつだったんですよ。それで、これはもう手癖で行った方が良い感じになるなと思って、いつもの感じで弾いたらやっぱりしっくりきました。その中でも、サビに関して言うと、コード進行的には同じなんですけど、ちょっと明るく聴こえるようにしているんですよね。
── 確かに。
yukirie ギターのフレーズにあえてメジャースケールを入れたりして微妙に明るさを持たせて、希望に近い何かをイメージしてもらえるような仕掛けとしてアレンジしました。あとは音数に関しては、今までは結構ガチガチに固めて好きなようにやってきたんですけど、今回はあえてソリッドな感じにしようかなと。少ない音数でどれだけ力強い感じを伝えられるかというのを意識して、最初のギターの音作りからこだわりましたし、結果的に骨太で切れ味のあるサウンドの楽曲に仕上がったなと思います。
── 使用しているのはアコギですか?
yukirie AcoustasonicっていうFender社のギターで、アコギとエレキのハイブリッドみたいなもので、音に関してはペダル等を使わずにMacのプラグインのみで作り込みました。
── その選択は最初からイメージとしてあったんですか?
yukirie アルペジオのコードリフにしようっていうのが最初にイメージとしてあって、そうなったら、エレキギターでもいいんですけど、やっぱりエレキ特有の丸みみたいなものが出ちゃうので、もうちょっと心の中の激しさや荒々しさを表現したいなと思ったんです。で、アコギでやってみたらどうなるのかなと思って、比較してみたんですよ、エレキで弾いたリフとアコギで弾いたリフを。そしたら全然アコギの方が力強くてメッセージ性を感じたので、じゃあこっちにしようって結構あっさり決まりましたね。
── 独特の孤独感が出ていますよね。
yukirie 芯を残しつつ刹那な感じを意識してやったので、そこが伝わればいいなと思います。
── リズムに関して、今回はどうでしたか?
平井 毎度のこと最終形態で来るんですけど、聴いた時にめっちゃシンプルだなと思って。なのでフィルインも最初は結構手数が多いものをイメージしていたんですけど、そこはもうちょっと曲に寄り添った方がいいなと思ってあえて手数の少ないものにしました。パターンも1パターン、2パターンの繰り返しにしたりとか、リズムが立つというよりも曲に溶け込むことを意識しました。
yukirie スイングとかね、意識して。
平井 そうね。
── 「Iris」はバンドにとってどういう曲になりましたか?
松永 新しい道が開けそうな感じがしていますね。今までと違う要素が結構あるので。
yukirie アレンジにしても、ボーカルの歌い方にしてもね。
松永 そう。もっといろんなことができるなっていうのが確信に変わった瞬間というか。「Iris」がもしかしたらターニングポイントの曲になるんじゃないかなと思っています。
── 結構可能性が見えた曲なんですね。
松永 そうですね。まだまだ遊べるなと。
yukirie 音数を減らしたのも結構大きくて、新しいSpendyMilyとしてのイメージをここから変えていけるのかなという気がしています。もっといろんなことに挑戦したいなっていう気になりましたね、3人とも。
── これからチャレンジしていきたいことはありますか?
松永 ヒップホップが好きなので、その要素をもっと取り入れて、そこにyukirieくんのギターやアレンジ、平井さんのリズムが加わったらどうなるのかなっていうのは結構楽しみですね。
yukirie 個人的に海外のプログレッシヴ・メタルというかインストバンドが好きで、そういうバンドのギターを吸収して自分なりにアウトプットもしてきたんですけど、それをもっと昇華した楽曲というのを作ってみたいですね。海外のプログレバンドも顔負けのテクニカルな楽曲なんですけど、ボーカルに引きつけられるというような楽曲を求めていきたいですね。
── では、インタビューでもアンカーは平井さんということで。
松永 お願いします(笑)。
平井 「Iris」で自分たちは引き算ができるっていうことがわかったので、今度はどれだけ詰め込めるかとか、そうやってどれだけまとめられるのかっていうのは挑戦してみたいですね。
── 平井さんはアートワークやMVも全てクリエイトされていますもんね。
平井 そうですね。逆をやってみたいっていうのはあります。MVから曲を作るとか。
yukirie インスタライブでめっちゃ言ってるやつね。
松永 それはマジでやってみたいなー。
Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子
リリース情報
デジタルシングル「Iris」
配信中
https://spendymily.lnk.to/Iris
プロフィール
2020年、Vo.松永瀀がGt.yukirie、Ds.平井文と出会いオンラインでのセッション活動をスタートし結成。叙情的かつハイテクニックなyukirieのギターを中心とし、既存の枠組みに捉われないアレンジを追求することでインターネットシーンにおいて国内外問わず幅広い音楽ファンからの高評価を獲得している。
関連リンク
オフィシャルサイト:https://www.spendymily.com/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-3PIFjsJtq8j0Ss0jQd1vg
Twitter:https://twitter.com/SpendyMily/
Instagram:https://www.instagram.com/spendymily/
番組概要
放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:PIA SONAR MUSIC FRIDAY
ナビゲーター:櫻井海音
放送日時:毎週金曜 22:30~23:00
番組HP:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarfriday/
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