新東京/PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー
新東京インタビュー「悩みの渦中で、それとの向き合い方を見つけた時が一番希望に満ちているし、上を向けている気がする」
特集連載
第72回
櫻井海音が最新のリリース楽曲からライブイベントまで、“いま聴くべき音楽”を厳選して紹介するJ-WAVE『PIA SONAR MUSIC FRIDAY』から、番組連動インタビューを掲載。
今回登場するのは、新東京。『PIA SONAR MUSIC FRIDAY』には2回目の出演となる。前回のインタビューからちょうど1年。その間、絶え間なくシングルとEPをリリース、そして夏には各地のフェスへ出演し、10月からは東名阪ワンマンツアーを敢行するなど精力的に活動してきた。まずはこの1年の成果について、そしてもちろん新曲『ポラロイド』について話を聞いた。インタビューに答えてくれたのは、サウンド面でのイニシアチブを執る田中利幸(Key)とほとんどの楽曲の歌詞を書く杉田春音(Vo)のふたり。注目を集める新世代バンドの今を紐解く。
最近は意外と、と言うか、ライブベースで曲作りもやっているようなところがあるんですよ(田中)
── 前回インタビューした時に「この1年が勝負になる」とおっしゃっていたのが印象的だったのですが、そこから1年が経ちました。振り返って、いかがですか?
田中 やれることは全部と言っていいくらいやった1年でしたね。だからこそすごく短く感じました。
杉田 あっという間だったね。
田中 本当にいろんなことにチャレンジして。短編映画を作ってみたり。
杉田 前回番組に出演させていただいた時にはもう会社はあったんだっけ?
田中 どうだったかな。
── 立ち上げたばかりの頃でしたね。
田中 自分たちの会社を作って、そこを活動のベースにし始めた1年でしたね。
杉田 わからないなりにも、とにかく自分たちでやってみるっていう感じだったね。
── 毎月リリースがあって、楽曲の制作もしながらの活動だったと思うのですが、一番目標にしていたのは何だったんですか?
田中 大学……かな。
── 大学?
田中 この1年が勝負だなって言っていた理由として、音楽で生きていくメドを立てようぜっていうことが一番の目標だったんですよね。
杉田 この1年で納得できる形の成果を残さないと、このまま音楽を続けますっていうわけにはいかないなと思っていたんですよ。何も結果が出せなかったら大学に戻るしかなくなるので。そういう意味では、結果という形みたいなものを追いかけた1年だったと思いますね。
── あー、言ってましたね。メンバー全員大学を休学したって。
杉田 無事に、というか、(休学が)2年目に突入しました。
田中 そう考えたら、まだ中途半端な状態にはあるっていうことだよね。
杉田 でも、とりあえずは成功じゃない? 休学をもう1年できたから。
── さすがに2年も休学してたら、というかこれだけ音楽活動が充実していたら、もう大学に戻る理由がどんどんなくなっていきますね。
田中 そうなんですよ(笑)。特に僕とドラムの保田優真は理系の学部なので、もう追いつけないだろうなって思ってます。
杉田 文系は何とでもなるけどね(笑)。
── 1年間の成果としては何が大きかったですか?
杉田 やっぱりワンマンツアーをやり切ったっていうのが僕たちの自信にはつながっていますね。大阪、名古屋、東京の3都市でワンマンをやったんですけど、自分たちだけでツアーをするっていう難しさも感じたし、ツアーを回ったことでの達成感やそこで感じた自分たちの価値みたいなものも再認識できました。とにかくバンドとして成長できたなっていうのを感じましたね。4人の関係性がより成熟したので。
田中 日本を縦断したからね。
杉田 縦断は言い過ぎかもしれない(笑)。
田中 そっか(笑)。でもまあ、車一台で移動して、そこでみんなといろんな話をして、それは大きかったよね。
杉田 ね。超仲いいじゃん、4人とも。(ツアーの期間)3、4週間ずっと一緒にいる生活を続けても、初日のテンションが最後まで続くっていうくらいみんな楽しんでたし、そういうところも含めて俺たちが音楽をやっていく理由のひとつなんだなって心の中に刻むことができた経験でした。
── ちゃんとバンドワゴンしたんですね(笑)。ツアーの前には『SUMMER SONIC 2022』をはじめフェスもいくつか出演されていましたよね。フェスの経験はいかがでしたか?
田中 野外のものやサマソニのように大きな会場のものなど、僕たちにとってはすべてが貴重な経験になりました。
杉田 サマソニはスケール感が違いすぎて。それまでフワフワしていた活動方針みたいなものが、肌感覚レベルで実感できるようになったっていうのは大きかったですね。やっぱり、なんとなく活動しているのと、一回地に足を踏み締めて経験してみるっていうのは、そこからの心持ちが全然違いました。
── 作品ベースでバンドの表現を極めていく意志は最初からすごく感じていたんですけど、一方でライブというのは当初から目標としてあったんですか?
田中 当初は作品ベースでっていう考えだったんですけど、でもやっぱりバンドでやってるからには直接ファンの方々に僕たちの音楽を届ける機会がないとダメだよなっていうふうになっていきました。最近は意外と、と言うか、ライブベースで曲作りもやっているようなところがあるんですよ。
── あ、そうなんですね。それはこの1年で獲得したものの中でも大きなものかもしれませんね。
田中 そうですね。当初は本当にPC1台でライブで再現することなんて考えずに、とにかくいい曲を作りたいっていうことだけでやっていたんですけど、今は、このイントロをライブの最初にやったらカッコいいなとか、こういう入りをライブでやりたいなっていうことから発想していったりすることもありますね。
杉田 それぞれのパートがかなり複雑だったり、メロディもやっぱり何て言うか普通じゃないものだったりするので、どうしても音源バンドみたいなイメージでは捉えられがちなんですよね。でもその一面だけで理解されちゃうのはすごく嫌だったし、やっぱり新東京というバンドを広めていくためにはライブはすごく重要だなと思っています。だから作品とライブがいい影響を及ぼしながら、両方の側面からアプローチしていくというのが理想だし、今はそれができていると思います。
新東京っていうフィルターを通してキャッチーなものを作るとどういうふうなものになるんだろう(杉田)
── これまで『新東京 #1』『新東京 #2』『新東京 #3』と、4曲入りのEPを3枚リリースして、その間にシングルを連続してリリースするというのが新東京の作品発表のサイクルになっています。驚いたのは、EPごとのまとまりというか、作品性が1枚ごとにはっきり違いますよね。ということは、まずEPとしての塊を意識して、そこから逆算するようにシングルを制作、リリースしているのかなと思ったんですよ。そのあたりはいかがですか?
田中 逆算してシングルを考える時もあれば、その逆もあって。EPにまとめているのは、いろんなことをやりたいからなんですよ。だから、いったんEPで区切りをつけるというか。曲を作っている中で、やりたいことがどんどん溢れてくるんです。でも、いきなりこれを出しても今イメージしてもらっている新東京のイメージとはあまりにもかけ離れているから、まずはEPでその前の曲をまとめて、その次に向かう方向性として今思いついているこっちの路線で行ってみようかっていうふうに考えながらやっています。
杉田 だからEPの4曲ずつでコンセプトがまとまっているっていう建前があるからこそ自由にやれるし、逆にコンセプトも何も関係なく好きなものをランダムに出して行ったりすると、それぞれの曲のテーマと新東京イズムみたいなことの兼ね合いがどうしても難しくなって、慎重になっていかざるを得ないと思うんですよね。エレクトロっていうテーマを決めたら、そこに向かって4曲を作って、そうすると自ずと次にやりたいこととか進むべき方向性みたいなものが見えてくるんですよね。
田中 1曲ごとにまるでサウンドのコンセプトが違ったら、バンド自体のやりたいことが見えにくいじゃないですか。単純に何がやりたいんだろうって思われるというか。でも、ある程度まとまってやることで、今のバンドのモードはこれなんだなっていう共通理解が得られやすいと思うんです。で、僕らにしてみても、4曲でひとつのテーマを追求していけるっていうメリットがありますから。
── なるほど。より自由であるために4曲ずつの区切りでまとめると。そのことに気づかされたのが『新東京 #3』に入っている4曲だったんです。と言うのも、明らかにそれまでの新東京とは違う感触のサウンドだったから。
田中 自分たち4人で奏でられないものを入れるっていうことに抵抗があったんですよ。あくまで自分たち4人のサウンドでそれが複雑に絡みあったりっていうことでそれまではやってきたんですけど、でもどうしてもエレクトロなものをやりたくなってしまったんですよね。だから、このタームはそういうことにしようと割り切って、いろいろな電子音やシンセを組み込んだ曲を作ってまとめたのが『#3』ですね。
── そしてもちろん、今のタームがあって、それはすでにシングルとしてリリースされている「ショートショート」「曖させて」、そして今回SONAR TRAXになっている「ポラロイド」の流れなんですが、これは新東京なりのポップスへの挑戦なのかなと思っているのですが、いかがですか?
田中 歌詞はこれまでもずっと良かったので、もっと歌詞をフィーチャーできるようなメロディだったりアレンジだったりっていうことにフォーカスしたEPも作るべきだなと思って。だから今回は、より歌詞の言葉が伝わってくるようなサウンドになっているんじゃないかなと思います。
杉田 今までの曲と比べると、ボーカルがより強いというか。基本的に新東京の曲は楽器の方が強かったりするんですけど、今回はボーカルがグッと前に出てきている感じで、僕は好きです。
田中 ありがとうございます(笑)。
杉田 すごい楽しかったんですよ。一回ポップとかキャッチーさみたいなものをテーマにしようって話になった時に、結構ウキウキしたんですよね。それはやっぱり新東京っていうフィルターを通してキャッチーなものを作るとどういうふうなものになるんだろうとか、そこからどういう感じで新東京イズムみたいなものが出てくるんだろうっていうのが楽しみに思えたし、僕たちがそこを目指すっていうことがひとつの実験みたいにも思えたんですよね。
まだまだやりたいことが多すぎて、次はどうしようかなっていう感じです(田中)
── 新曲「ポラロイド」はどういうところから制作が始まったんですか?
田中 最初に春音(杉田)が書いた歌詞があって、そこからピアノでメロディとアレンジを組み立てていきました。
── そうだ、新東京は先に言葉があるんですよね。
田中 そうです。
── 作詞するにあたってはどういうイメージだったんですか?
杉田 せっかくポップがテーマだし、暗い歌詞にしたらちょっとなって考えて、普段よりも明るい気持ちで取り組もうと思ったんですけど、ただ、毎日が手放しで幸せなわけはないから、逆に普段のツラい状況とか憂鬱みたいなものから脱却していく手段や考え方、そういうものにフォーカスすることから始めました。そこで、「ポラロイド」インスタントカメラっていうイメージが出てきて、儚く過ぎ去ってしまう刹那とそれを永遠に残していくっていうある意味で逆説的なものを同時に描いてみようと思いました。
── この曲で描かれている“消え去っていく”イメージというのは、同時に永遠に残る記憶でもあるんだ。
杉田 ツライことや悩みが何もない状況よりも、悩みの渦中で、それとの向き合い方を見つけた時が一番希望に満ちているし、上を向けている気がするから、僕なりの希望を描き出したらこういう形になりましたね。
── ポラロイドから紡ぎ出されたイメージは?
杉田 いくらその時に価値のある時間だったとしても人間は忘れ去ってしまうものだし、でも写真とかそういう手がかりを見るだけで、その時の言葉や情景が鮮明に頭の中に広がるっていう感覚があって、それって素敵なことだなって純粋に思うし、ひとつの希望だと思うし、いろいろなものに向き合うひとつの指針だよなって思ってテーマにせざるを得なかったっていう感じです。
── 制作において今のような話をふたりですることはあるんですか?
田中 あんまり普段指摘したりするようなことはなくて、春音の書いた詩をちょっとだけメロディに合わせて語尾を変えたりとかするくらいなんですけど、でも今回に関してはやっぱり歌詞がすごい重要だから、ここはどういう感情で書いてるの?っていうのを聞きながら曲を作っていきました。リスナーの人たちが聴いたらここはこう思うんじゃないかな、とか僕からも意見を言ったりして話し合いながら。
杉田 偏ったふたりでね(笑)。
── しりとりになっている箇所がありますよね。あそこなんかはまさにそうやってできていった言葉のグルーヴがありますよね。
田中 あそこはむしろメロディが先だったんですよ。メロディがしりとりにしたらハマる感じだったんです。それで春音に「しりとり作って」ってお願いしました。なかなか難しかったようですけど。
杉田 まず、その説明を理解できなかったんですよ。「しりとりってどういうこと? こういうこと?」「いや、そういうんじゃなくて」みたいなのを何回も繰り返しました(笑)。
── 普通にしりとりするわけじゃないもんね(笑)。
杉田 そうそう(笑)。歌詞でそんなことをやったことがなかったから、どうなるんだろうっていう不安があったんですけど、メロディと合わさって、そこにアレンジが加わって完成するとすごいしっくりきたんですよね。やっぱりトシ(田中)の中でちゃんとメロディに対する言葉のあり方みたいなものが確固たるものとしてあるからこそできたんだなって思いました。
田中 ただ、完成した時に気づいたんですけど、息継ぎできないじゃんって(笑)。
杉田 全部の言葉がつながってるからね(笑)。基本的に新東京の曲は息継ぎが少ないんですよ。
田中 そこにさらに、しりとりの要素が加わったから。
── 曲のイメージは跳ねている感じなんですけど、言葉からインスパイされてこうなったっていうことですね。
田中 そうですね。ポジティブなイメージでサウンドも作りました。
── 最後の方に、ドーンとブレイクするところがありますよね。あそこは?
田中 Twitterとかでエゴサーチしてると、「ギター入ったんだ!」って書かれているんですけど、あれはベースです。ベースをめちゃくちゃ歪ませて、ギターっぽいハウリ方をしてギタリストっぽいことをしました。
── どうしてそういう音を入れようと思ったんですか? ツルッといっても成立はしますよね。
田中 あれが<希望>というもののイメージというか。今の自分を未来に残そうとするポジティブなイメージの音ですね。もしかしたら破壊的な、全部やめちまえ! みたいな感じに聴こえるかもしれないんですけど、そういうイメージではないです。
── 全体的なサウンドのポイントはどういうところですか?
田中 特にドラムなんですけど、タイトに仕上げることをポイントにしました。スネアを叩いた後にちょっと余韻が残るくらいが自分にとってのスネアの音のあり方だったんですけど、そこもキック含めて余韻のない感じにして、ハイハットも今までだったら全体に響くように、例えばサビだったら盛り上がる感じでやってたんですけど、今回は一点を狙っているイメージでやりました。
── 冒頭で、ライブの経験がかなり大きかったという話をされていましたけど、楽曲制作において具体的にはどのような影響がありましたか?
田中 例えば『sanagi』っていう曲は、『新東京 #3』に入っているエレクトロの曲なんですけど、その後スタジオに入って4人だけでやってみたんですよ。そしたらそれが意外と良くて。最近ライブでも、その4人だけのバージョンもやってて。
杉田 やっぱりひとつの型に囚われる必要はないというか、リハーサルでやってたことと本番が違っても、それが良ければそれでいいと思うんですよね。だから今後そうやってどんどん変化していくことがすごく楽しみですね。
田中 今までは絶対にそういう作り方をしてなかったので。スタジオに入ってみんなでやってみるとか、そういうのも一切やったことがなかったから、そうやって曲ができるというか変化していくのが新鮮でした。そういう感じでできた曲を集めたEPが今後あってもいいかもしれないですね。
── だって、そもそもEPごとに変化を恐れずにチャレンジしてきているバンドですからね。
田中 そうですね。まだまだやりたいことが多すぎて、次はどうしようかなっていう感じです。
Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子
リリース情報
デジタルシングル「ポラロイド」
配信中:https://nex-tone.link/A00112620
2023年4⽉初旬〜中旬 『新東京♯4』リリース予定
ライブ情報
『ONE WEEK WONDER'23』day4
日程:2023年3月4日(土)18:30開場、19:00開演
会場:TOKIO TOKYO
出演:浪漫革命 / 新東京
料金:前売3,500円(入場時ドリンク代が必要)
購入はこちら
『SYNCHRONICITY ‘23』
日程:2023年4月1日(土)、2日(日) 両日13:00開場/開演
会場:Spotify O-EAST、Spotify O-WEST、Spotify O-nest、duo MUSIC EXCHANGE、clubasia、LOFT9 Shibuya
料金:前売8,800円、通し券16,000円(入場時ドリンク代が必要)
※新東京は4月2日(日)に出演
公式サイト:https://synchronicity.tv/festival/
プロフィール
2021年4⽉結成の4ピースギターレスバンド・新東京
⼿数の多いフレーズに卓越したプレイ。アートワークや映像もセルフプロデュースする鋭⾓なセンス。⾊気のある歌声と上質で洗練された楽曲は圧倒的な個性を放ちファンを魅了する。メンバー全員が現役⼤学⽣。学校を休学して⾳楽活動に専念することを決意。2022年2⽉にはバンド組織を法⼈化し「新東京合同会社」を設⽴。MVやジャケットなどのアートワークや、レコーディング、ミックス、マスタリングまであらゆるクリエイティブをセルフプロデュースしている。
関連リンク
公式サイト:https://www.neotokyometro.com/
番組概要
放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:PIA SONAR MUSIC FRIDAY
ナビゲーター:櫻井海音
放送日時:毎週金曜 22:30~23:00
番組HP:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarfriday/
番組twitter:https://twitter.com/SONAR_MUSIC_813
ハッシュタグ:#sonar813
番組LINEアカウント:http://lin.ee/H8QXCjW