【全力特集】みんながフラワーカンパニーズに惹かれる理由
【野音ワンマン直前企画】東西のフラカン番による緊急対談!「40代後半~50代の心情を、こんなリアルに描いているロックがこれまであったか」
第1回

結成33年、メジャー・デビューから28年、コロナ禍になってから2作目・通算19作目のニューアルバム『ネイキッド!』を、2022年9月7日にリリースしたフラワーカンパニーズ。
9月23日(金・祝) には、通算8回目であり、5年ぶりであり、2024年から大規模な改修工事に入る予定で、次回があるとしても当分先になるであろう、日比谷野外大音楽堂でのワンマンが控えている。11月からは30本以上に及ぶ『ネイキッド!』のリリース・ツアーも始まる。というこのタイミングで、本人たちにインタビューするのではなく(これまでも何度も行ってきたし、今後もあると思うので)、関係者や後輩ミュージシャンなど、様々な人がフラカンを語る特集シリーズを、ぴあでは組むことにした。
まずその一回目、長年フラカンを追って来た関東と関西のフラカン番のライター、兵庫慎司と鈴木淳史の対談をお届けする。ふたりが『ネイキッド!』をどう聴いたか、2022年現在のフラワーカンパニーズをどう見ているかについて、話してもらった。
鈴木淳史(以下、鈴木) 兵庫さんが最初にフラカンのライブを観た時って──。
兵庫慎司(以下、兵庫) え、そこから?(笑)。ええと、1993年の9月21日、ガラガラの下北沢シェルター。まだ名古屋在住だった頃。
鈴木 その時は、どんなところに惹かれたんですか?
兵庫 過激なところ。頭の両サイドを剃って目の周りを赤と青に塗ったちっちゃいボーカルが、自傷行為みたいに転げ回りながら歌っていて、ハープを吹くたびに強く押し付けすぎて出血する。で、裸にオーバーオールの獣人みたいな男が、暴れ回りながらベースを弾いてる、という。で、ブルースとパンクとハードロックを混ぜたみたいな音で……その頃って、もう渋谷系が流行りだしてたのね。

鈴木 ああ、そうですよね。
兵庫 という時代においては、完全にアウトなスタイルなのが、「これ、すごいカウンターだな」と思った。あと、そのちょっと前までのバンドブームに対するカウンターにも感じた。タテノリで速くてポップで、お客さんが跳ねて、っていう感じとは、対極で。
鈴木 また別の意味ですけど、フラカンがカウンターというのは、今もだと思いますね。フラカンって昔も今も、簡単に前向きな曲、「がんばれ」とか言う曲、人の背中を押すような曲は、歌わないじゃないですか。
兵庫 そうね。デビューの頃もそうだし、今もそうだし、2000年代前半は、青春パンクブームに交じれたおかげで再評価されたところもあったけど、その時期も、そういう曲は歌わなかったし。
鈴木 そうですよね。で、『ネイキッド!』を聴いて、最初にどう思いました?
兵庫 聴き終わってすぐグレート(マエカワ)にLINEした、「すげえいいじゃないですか!」って。で、鈴木圭介にはショートメールした。
鈴木 LINEではなく?
兵庫 LINEのアカウント知らないから(笑)。長い付き合いだけど、アルバムとかを聴いてそんなことした記憶、あんまりない。っていうことは、相当いいと思ったんだろうな。
鈴木 どういうところが良かったですか?
兵庫 コロナ禍よりも前にインタビューした時、鈴木圭介が、冗談半分マジ半分で言っていたんだけど。若い世代にも聴いてほしい、と思って活動してきたけど、実はいちばん人口が多いのは、フラカンと同世代から5〜6歳下までくらいだ、と。だったら、若い世代よりも……それは今のフラカンのファンと同じくらいなんだけど、その年齢層で、まだファンになっていない人たちに届けることを、考えた方がいいんじゃないか、と。
鈴木 (笑)。なるほど。
兵庫 その時はグレートも俺も笑ってたけど、あれ、正しかったんじゃないか。と、このアルバムを聴いて思った。そもそも、鈴木圭介って、自分がその時本当に感じていること、考えていることしか歌にできないソングライターだから、当然、今だと53歳の男の歌になるわけじゃないですか。
鈴木 そうですね。だから肉親が亡くなったことや、同級生が来年おばあちゃんになることが、曲の中に出てくる。

兵庫 「借りもの競走」も、自分って借りものだらけなのでは? という疑問がテーマだけど、だから借りものの人生から脱しよう、という歌ではなくて──。
鈴木 「もう返せない」「もう帰れない」と。
兵庫 40代後半から50代の心情を、こんなやりかたでリアルに描いているロックが、これまであったかというと──。
鈴木 ないですよね。あったのかもしれへんけど、僕は知らない。
兵庫 よく言われるところの、いわゆる「大人のロック」とも違うじゃない? ロックに限らずだけど、大人も音楽を聴く、ライブに行くことが普通になってずいぶん経つけど、こういうロックはなかった。だから、今のフラカンの作る音楽を欲している人は、潜在的に、かなりの数、いるんじゃないか。と、今作を聴いて思った。
鈴木 確かに、フラカン世代前後で、まだフラカンに出会えていない、でも出会えばハマる可能性がある人たちって、まだまだいそうですもんね。
兵庫 たとえば、エレファントカシマシであれだけ売れていた宮本浩次が、ソロをやったら、さらにとんでもなく売れたじゃない? 我々からすると「今になって宮本浩次に気がついた人が、こんなにいたのか!」ってびっくりしたじゃん。フラカンもそれと同じ、とは言わないけど──。
鈴木 まだその存在に気がついていない、未開拓のファン予備軍の数は、フラカンの方が圧倒的に多いでしょうしね(笑)。
兵庫 この歳で、こんなに赤裸々で生々しい今の自分を歌う人、他にいないから。この歳だから親は死ぬし、健康は損なうし、もう引き返せないし──。
鈴木 誰にでもあることですもんね。「借りもの競走」も「マンネリを責めないで」も。
兵庫 という世代に、ロックは要らないのか?っていうと、要ると思うんだよね。で、何度も言うけど、過去にも前例がないと思う。
鈴木 そういう意味ではほんと、先輩が、いるようでいないんですね。でも、この2年くらいの間に「THE FIRST TAKE」に出たり、突然声がかかってNHKの『うたコン』に出たり、最近だとBSフジで『深夜高速』の特集番組が組まれたりしたじゃないですか。そのたびに毎回必ず、新しいお客さんがライブ会場に来るんですって。この歳になってフラカンを知って、それこそ、ライブハウスという場所に初めて来た、みたいな。あと、今回のアルバム、ファンクラブ会員限定盤があったじゃないですか。

兵庫 圭介が歌う曲、グレートが歌う曲、竹安が歌う曲の3曲が入っていて、ジャケットを小西が描いたCDが付くやつね。
鈴木 それがほしいから新しくファンクラブに入った人、フラカンと同世代の男性が多かったとか。
兵庫 へえー!
鈴木 あの、まだヒットしてないじゃないですか、フラワーカンパニーズって。
兵庫 うん。
鈴木 そう言うと「『深夜高速』、ヒットしたじゃん」って言われることもあるけど──。
兵庫 売り上げ的な意味でのヒット曲ではないよね。後々長く知られる曲にはなったけど。
鈴木 バンドとしてもまだ「ブレイク」していない。僕、これまでも「フラカン、今、ちょっときてるかも、この先ブレイクポイントがあるかも」と感じたことがあるんですけど──。
兵庫 しなかったけど?
鈴木 そう、しなかったけど、またしばらくしたら「ブレイクポイント、くるかも」って感じる時が来る。若いバンドならともかく、このキャリアで今でもそんなことを感じさせるバンド、いないなと思って。ありのままの自分をさらけ出して、曲を書き続けてきて、何年やってもそれが全然薄まらないのって……ベテランってそれができなくなって、どこかのタイミングで創作の仕方を変えると思うんですけど、そうなっていない。

兵庫 なんでできるんでしょうね。
鈴木 満たされてないからじゃないですか?(笑)。でも、それってすごいなと思って。だから、そういう薄まらない濃度のまま、原液のままで売れるところを見たいですね。そもそも、「ツアーで売るシングルが要るから」っていう理由で、2004年に地味にリリースされた「深夜高速」が、ここまで広がって、いまだに聴く人が増えているって、すごいことじゃないですか。夢があるというか。
兵庫 それはそうね。
鈴木 あのやりかたで、あんなに濃い曲がここまで広がるんであれば、次があってもおかしくない。「深夜高速」って、リリースから現在までの間に、何度も注目されるタイミングがあったけど、そこまでブレイクしなかった。逆に言うと、次に注目が集まった時に、「ああ、またか」じゃなくて、そこで初めて知る人が必ずいる、ってことでしょ。
兵庫 ああ、確かに。
鈴木 だから、ずっとジャブを打ってるというか。こんなに長くジャブを打ち続けているバンド、いないと思うんですけど。で、フラカンって、今でもちゃんと、売れたいって思ってるじゃないですか?
兵庫 ああ、本人たちがね。
鈴木 あの姿勢がすごく好きで。兵庫さんと知り合った頃に、ウルフルズが売れる前と売れた時のことを僕が質問して。「そういうライターとしての成功体験を持てたのってすごいですね」って言ったら、「いや、まだフラカンが売れてないから」って答えたんですよ。「ああ、今でもそう思ってるんや」って…。あれ、むちゃくちゃグッときたんですよ…。そういう意味では今でもあきらめてない?
兵庫 うん。たとえば、自分が好きなバンドで、「そのまま元気で、できるだけ長く活動してくださいね、それで充分です」と思うベテランもいるけど、フラカンに対しては、まだそういう境地に達してない。というのは、本人たちのスタンスがそうじゃないから。
鈴木 『ネイキッド!』にもそれを感じる?
兵庫 感じるし、これを必要とする人がもっともっといると思う。あと、今回は、11曲中3曲がグレートの作曲というのもいいと思った。曲のバリエーションが広がったから。グレートや竹安も、毎回曲出しはするんだけど、圭介が自分の曲じゃないと歌詞が作りづらい、というので、結局アルバムに入らない、ということが多かったみたいで。でも今回は──たとえば「私に流れる69」は、曲を書いたグレートから「こういうテーマで詞を書いてみたら?」っていうお題があって、それで書いたって、磔磔の全曲お披露目ライブ(9月5日)で言ってたじゃない?

鈴木 言ってました言ってました。圭介さん自身の(曲の)書き方が柔軟になったのかもしれないですよね。
兵庫 「借りもの競走」は、サビを圭介以外の3人が歌っているのもおもしろいよね。
鈴木 この曲は意識的に新しいことをやろうとしたらしいです。レコーディングでいろいろ試行錯誤して、最終的にこうなったという。
兵庫 後半の「気づけば東京という名のコンドームの中でもがいてます」から始まるブロックが、突然すぎてわからないけど(笑)。
鈴木 え、ここがいいんじゃないですか! この意味の分からなさがむちゃくちゃ好きですけど、僕は。あと、全体に思ったのが、これだけずっしりした内容の曲が揃っているのに、聴き心地が重すぎないのがいいなあと。軽やかさがあるというか、コンパクトなのにインパクトはそのまま残っているというか。ジャケットもいいですよね。
兵庫 ああ、あれはびっくりした。
鈴木 あと、タイトルに『ネイキッド!』って、『!』が付いてるのも……サニーデイ・サービスもあったじゃないですか。『いいね!』。
兵庫 ああ、そうか。曽我部恵一BANDにもあった、『キラキラ!』。
鈴木 最初はタイトルをそのまま『ネイキッド』にしようか、っていう話になったんだけど、それだとちょっとかっこよすぎる、っていうので──。
兵庫 あ、それで軽やかにしたのか。
鈴木 それで『!』を付けたという。いいタイトルですよね。
兵庫 いや、ほんと、ブレイクポイントがいつ来るか……このアルバムまでで、世の中に発表している楽曲が、全部で290曲ぐらいなんですって。
鈴木 あ、そうなんだ? じゃあ次で──。
兵庫 300曲を越える、20枚目のアルバムで。だから、今作で弾みがついて、次の300曲タイミングでいよいよ……。
鈴木 ってなるといいなあ。
兵庫 300発目でKOしたら最高ですよね。フラカンは今結成33年だから、35年とかそれくらい? そこで初めてブレイクしたら快挙ですよ、ほんと。
鈴木 いないよね、そんなバンド。
兵庫 歴史に残ると思う。

Photo:CHIYORI
プロフィール
鈴木淳史

1978年生まれ。兵庫県芦屋市在住。ライター・インタビュアー。ABCラジオ『真夜中のカルチャーBOY』(毎週金曜深夜2時〜3時)パーソナリティ兼構成担当。フラカンファン約25年であり、フラカン番も早や約18年。
兵庫慎司

1968年広島生まれ、東京在住の、音楽などのライター。フラワーカンパニーズの本『消えぞこない〜メンバーチェンジなし!活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンライブにたどり着く話〜』(リットーミュージック/2015年)の著者。1993年9月21日に下北沢シェルターで、ギリ名古屋在住だった頃のフラカンのライブを観て以来なので、フラカン番歴は来年で30年。