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アツキタケトモ/PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー

新鋭の音楽家・アツキタケトモ「楽曲制作なんかで引きこもっているときに、SNSを見て感情が動かされることが多い」

特集連載

第82回

櫻井海音が最新のリリース楽曲からライブイベントまで、“いま聴くべき音楽”を厳選して紹介するJ-WAVE『PIA SONAR MUSIC FRIDAY』から、番組連動インタビューを掲載。

今回登場するのは、その高い音楽性と中毒性のある楽曲で注目を集める新鋭の音楽家、アツキタケトモ。楽曲制作を「デザイン」と表現する彼の音楽に対する姿勢は、現代の都市や時代そのものが抱える共通のムードに裏打ちされているものだ。8月9日にリリースされた最新シングル『自演奴』では、ヒップホップ、ロック、R&B、ハウスなど、様々なジャンルをあえてわかりやすくコラージュすることによって、アツキタケトモのオリジナリティを浮き彫りにしている。“私たちは何を選ぶべきか?” ──彼が見据え、響かせるのは、オルタナティブ・ニュー・ミュージックとでも呼ぶべき邦楽の新形態だ。

そもそも自分が得意だと思っているキャッチーなものを世の中に向けて投げた方がいい

── 少し振り返ったところからお話を伺っていきたいんですけど、『無口な人』(2020年)、『幸せですか』(2021年)という2枚のアルバムと「Outsider-EP」(2022年)との間には、ものすごく重要なステップが含まれているような気がします。簡単に言えば、「Outsider-EP」から格段に曲の解像度が高くなった。そこに対してはどのように自覚されているんですか?

10代の頃に弾き語りをやったり、バンドをやったり、アツキタケトモとして活動する前にからいわゆるシングル感のあるキャッチーなポップソングは、ここぞというタイミングで自分のメインの手札として何曲も書いてきたつもりなんです。だから意識的に、アツキタケトモの引き出しとしてはメインにはしないでおこうと。むしろそうじゃない引き出しというか、内省的で音楽的にも攻めたものを意識的にやろうと思ったんです。『無口な人』と『幸せですか』の2枚のアルバムはまさにそこにトライした作品で、特に『無口な人』は、元々持っていた自分の歌謡性と、ずっとやりたいと思っていたオルタナティブ性がようやくひとつになった、という実感があったんです。そこを通過して次に向かうにあたって ──タイミングも大きかったんですけど ──その前のシングルも含めて「Outsider-EP」からは今所属しているレーベル、ユニバーサルミュージックとのプロジェクトなんですね。そこでメジャーデビューするって考えたときに、一度10代のときにもデビューを経験していたので、そこまで感慨はなかったんですけど。とは言え、関わる人も増えるし、やれることの手札が増えるということは事実としてあって。だったら内省的なベッドルームポップをそのままやり続けるよりは、そもそも自分が得意だと思っているキャッチーなものを世の中に向けて投げた方がいいと思ったんですよね。で、「Outsider」を作ってみて、それが結果として数字的に今までと差異がなければ、その前のアルバム2作でやったように自分の思う美しさだけを追い求めてもよかったんですけど、やっぱりリアクションが全然違ったんですよね、それまでよりも。

── なるほど。歌謡性とオルタナティブ性、そこをどうやってひとつにしていくか、というプロセスがこれまでのアツキタケトモの音楽制作履歴というわけですね。ちなみに、そこはリスナーとしてはどのような感じで混ざり合っているんでしょうか?

歌謡性の部分には、子供の頃から影響を受けた、Mr.Childrenやスガシカオさん、宇多田ヒカルさんなんかがいて、オルタナティブ性のところには、高校生の頃に強い影響を受けた、ジェイムス・ブレイク、ボン・イヴェール、ダーティー・プロジェクターズ。そのふたつの源泉があるんですよね。

── そのふたつの源泉を混ぜ合わせることを『無口の人』でやれたと。

そうなんです。で、比率として『無口の人』の場合は、歌謡性とオルタナティブ性が50:50だったんですよね。それを「Outsider-EP」では、歌謡性7割、オルタナティブ性3割にした、という感じです。わかりやすく言えば。

── めちゃくちゃわかりやすいです(笑)。やっぱりその7:3というのが黄金比というか、絶妙ですよね。そして、そのバランスを可能にしているのが、言葉の練度だと感じました。というのも、「Outsider-EP」は6曲を通してひとつの価値観の拠り所を探っていくという野心的な作品だと思うんです。そこで言葉の果たす役割というのはキャッチーだけでは当然足りないし、かと言って難解だったら伝わらないし、そこのバランスが音楽的なバランスと共鳴していることで成り立っている。

うれしいです。やっぱり「Outsider-EP」は制作にかけた時間も全然違いましたからね。『無口な人』はコロナ禍でバイトが休みになって家を出られない期間が1カ月できたので、じゃあその期間内に1枚作ろうっていうことでできたアルバムだったんですよ。でも「Outsider-EP」は1年間ずっと作ってて、23曲くらいのデモをフル尺のアレンジで作ってそこからセレクトした6曲なので、より練度の高いものを入れられた部分はあるかもしれませんね。

アツキタケトモの音だねっていうものがひとつ出来ちゃえば、いろいろな音楽にトライできる

── 「Outsider-EP」の次にリリースしたシングル「Microwave Love」で確信したんですけど、そこにアツキタケトモの音があるなって思えたんですよね。それをグルーヴと言うのか、スタイルと言うのかは置いておいて、とにかくこの音はアツキタケトモのものだとわかるもの。それが確実にある。

もう、それを求めていたというか。中学生くらいのときって、ミスチルとスガさんくらいしか聴いてなかったから、いくらオリジナルを作っても歌い方が桜井さんぽくなっちゃったりとか、曲を聴かせても「スガシカオっぽいね」って言われたり。わりとそれがコンプレックスだったんですよね。でもそれってしょうがないじゃないですか。どうしたって最初は模倣から入ると思うので。でもそこからいかに自分らしさを出せるかっていうことにかかっているんですよね。例えば岡村靖幸さんはプリンスからめちゃくちゃ影響を受けているっていうのはすぐにわかるんですけど、でもプリンスにならない岡村さんの良さっていうのがあるじゃないですか。プリンスを目指してプリンスとは全然違う方向に行ってしまう ──そこに僕は可能性を感じるんですよね。そこを求めているんですよ。自分っぽい節回しとかサウンド感とか、アツキタケトモの音だねっていうものがひとつ出来ちゃえば、いろいろな音楽にトライできるなって思うんですよね。

── 「Microwave Love」は、メロだけで言えば、ものすごいキャッチーですよね。でもそこにビートとサウンドが合わさると、全然違うものになるっていう曲で。その構造が見えたときにハッとしたというか。「Outsider-EP」の4曲目に入っている「Shape of Love」でやったことがここにつながっているんだって気づいたんです。あの曲は他の5曲に比べて明らかに手触りの違うものですからね。

まさに「Shape of Love」と「Microwave Love」は、やってることは同じなんですよ。厳密に言えば、より「Shape of Love」の方がオルタナティブ要素が強いんですけど、要はこれも比率を変えているだけというか、組み合わせる要素は一緒なんですよね。受け取る印象を、混ぜ合わせる比率でうまく変えているんです。

── その手法というか、自分の目指す道はここなんだなって思えたきっかけとなる曲はなんだったんですか?

それで言うとメジャーから最初に出したシングル「Family」ですね。そこでトラックメイカーのTAARさんと共同アレンジという形でお仕事をさせていただいて、主にビートをいじってもらったんですよ。そこで、自分の中で鳴ってたビートの固さみたいなものをTAARさんがやっと音にしてくれたんです。これくらいオルタナティブな雰囲気に歌謡を乗せたかったっていう、ずっとあった自分の欲求が初めて満たされたんですよね。もちろんそれまで自分でもアプローチしてなんとか近づこうとはしていたんですけど、TAARさんのビートを聴いて、それがものすごい説得力だったんです。それでパラデータを見てみて、ああこんな要素で出来ているんだとか、小節ごとにハイハットのパターンが変わってるんだとか、細部を知れたんですよね。ここまでやるんだ!っていう驚きとともに、ここまでやることによってこんなに気持ちよく聴けるものになるんだっていう発見があったんですよね。歌謡とコアなハウスミュージックを、この細かいハイハットがつないでいるんだって。その経験があったことでビートへの意識がより強くなって、「Outsider-EP」では自分でリズムを組んでいるんですけど、そこで自分のビート感を掴むことができました。

── やはり音楽の正体はビートにあるんですね。

そうなんですよ。もしかしたら誰も気づかないような細かいことかもしれないんですけど、でも聴けばその違いは不思議とわかるんですよね。なんかこの人の音の説得力は違うっていう感覚っていうのは。だから「Outsider-EP」以降で違うのは、そこだと思いますね。リズムへの意識。それまではやはりコードへの意識が強くて。だから最初に言われた「Outsider-EP」以降と以前との間に大きなステップがあるっていうのは、まさにリズムへの意識の違いなんですよね。

── その意識の違いを具体的に言えばどういうことになりますか?

音色ということが言えますね。歌謡曲を中心とした邦楽の場合は、わりと音色よりも歌が絶対的に主役で、そこにどうリズムを合わせるかということの方が大事なんですよね。それこそ音ゲーみたいな感じで。でも洋楽の場合は、キックの音色ひとつ、ハイハットの微妙な打ち方の違いひとつでジャンルが変わってきたりする。で僕はその両方とも好きだから、どちらもやりたいと思うんですよ。

── そこがアツキタケトモの音になる。

はい。フジロックに出ているような海外アーティストばかり聴いているけど、カラオケに行ったら「ドライフラワー」を歌う、みたいな(笑)。僕はそういう人間なんです。

── その話は、「NEGATIVE STEP」(4/19リリースSg)にもつながっていきますね。あの曲の展開はJ-POPで、でも鳴っているビートは完全に洋楽というものですからね。

まさにそれをやりたかったんですよね、「NEGATIVE STEP」では。歌の中の感情の動きに音のダイナミクスを組み合わせると邦楽的なアプローチになるんですよ。バラードでピアノから入って歌でだんだん盛り上げていってサビでストリングスとリズムが入って最高潮にっていう感じのものですね、わかりやすく言えば。でも「NEGATIVE STEP」でやったのは、歌の中の感情と音のダイナミクスは合わせつつ、その音色はめちゃくちゃトランシーなトラックとか、固いビートやゴスペルチョップ的なフィルのキメがあったりする、フォーマットは邦楽なんだけど鳴っている音は洋楽っていう謎の合成がしたかったんですよね。

── 例えば亀田誠治さんが椎名林檎さんのアレンジでやっていたような、ある意味での違和感ですよね。

そう。その感じを今のサウンド感でやりたかったんですよ。

何を積み重ねてきたかよりも、その時代で音楽を作るために何を選ぶのかが重要なんですよね

── 最新曲「自演奴」について。まず念頭にあったのはどんなことでしたか?

僕が高校時代にオアシスの曲のリフとか歪んだギターの音を聴いて感じていたのは、行き場のない気持ちなんかをあのギターの音が代弁してくれてたんだなということなんですよね。それはニルヴァーナでもなんでもいいんですけど、おそらく同じように感じていた人がたくさんいたと思うんです。でも今、ロックがメインカルチャーかって言ったらそうだとは言い切れないじゃないですか。そうすると、もしかしたら今のティーンにおいては、ディストーションギターの役割が808のサブベースというか、重低音なんじゃないかなって思うんですよね。10年前とか20年前に、ちょっと尖った曲をやろうよってなったらギターでギャーンとやってたんですけど、今尖った曲を作ろうよってなるとドーンだと思うんですよ。

── ビリー・アイリッシュなんかはまさにドーンの代表的な例ですよね。

そうそう。あれが尖りなんですよね。そう思ったときに、新旧両方の尖りを組み合わせたいというか、僕の学生時代の衝動感と今のサウンドの尖り感みたいなものを極端に合わせているものってそんなにないなって思って。行き場のない衝動のサウンドアプローチとしてそういう方法にトライしていく中で、じゃあこの音の説得力を表現できる歌詞のアプローチってなんだろう?って考えた時に、SNSというテーマに思い至ったんですよね。僕自身が楽曲制作なんかで引きこもっているときに、SNSを見て感情が動かされることが多いので。

── 歌詞について感じるのは、00年代以前も含めて10年代半ばくらいまでは圧倒的に「自分って何だ?」っていうことの探究だったと思うんです。だけど、ここ数年は「どこまでが自分なんだ?」という疑問に変わってきているように思えるんですよね。

やはりSNSで複数アカウントを持てるということが大きく影響しているように思いますね。自分を複製できる感じというか。愚痴を言うアカウント、特定の動画を見るためのアカウント、仕事のアカウント、オフィシャルのアカウント……という具合に。重要なのは、それぞれを演じているわけではないということですよね。全部が本当の自分なんですよね。昔は、そのそれぞれに社会はなかったわけじゃないですか。こっそり家で楽しんだり、要はその場にいる自分しかいなかったけど、でも今は複数の自分が同時に存在していて、そのどれもがそれぞれの社会となんらかの接点を持っている。だからアイデンティティーの在り方が、過去のそれとはまったく異質のものになっているんですよね。

── なるほど。

最近この「自演奴」を作って思ったのは、デザイン性が大事だということなんです。自分でこれをやりたいと思っても、結局それが他人に伝わらないと意味がない。じゃあその音楽制作におけるデザイン性って何なのかって言ったら、今の時代はSpliceっていうサンプルライブラリができたりだとか、DTMも僕が高校のときよりも始めるのはずいぶん敷居が低くなって、音のクオリティ自体は、誰でもある程度のレベルまで上げることができる。例えばリファレンスの曲があって、こういう音を作りたいって思ったときに、昔だったらその音にたどり着くまでにものすごく時間がかかったから、そのアプローチ自体に意味があったんだけど、今はサンプルで簡単に手に入る。だから極論すれば、何を作るか、ということにはあまり意味はなくて、どんな素材をどう組み合わせてどう聴かせたらいいのか ──そこのデザイン次第っていうところがあるんですよね。そこは先ほどご指摘いただいた歌詞にも通じるところなんですよ。それまでは「どうなる」までが大事だったのが、今は「どうする?」、つまり何にでもなれるけど何を選ぶのか?っていうこととつながってくるんですよね。

── そこは楽しいですか? 単純な質問ですけど(笑)。

そこが僕の中の葛藤で、こういうキックの音が作りたいと思って、サンプルを使わずに10時間とかかけて作っていた時があったんですよ。そこに経験とか苦労とかが積み重なって血肉となっているものがあるはずだって信じたいからサンプルを使わなかったんですけど。でも流石に限界を感じてサンプルを使って初めて作ったのが『無口な人』というアルバムで、それまでネットに投稿しても15回再生だった曲が一気に15万回再生になって、ちゃんと活動できるようになった。そうするといったい何にこだわってやっていたんだろう?ってなるじゃないですか(笑)。だから自分の望んだものを求めるためには時代の変化に合わせて意識を変えていくっていうことをしないと、ただ時代に取り残された人になってしまう。すでに十分キャリアと実績のある人なら別に時代に合わせたりしなくてもいいんだろうけど、でもそうやって結果を残し続けてきた人ほど今の時代に敏感な人ばかりなんですよね。何を積み重ねてきたかよりも、その時代で音楽を作るために何を選ぶのかが重要なんですよね。そこを楽しもうという意識になっています。

── 「自演奴」は様々なジャンルをコラージュした作品でもありますよね。それをあえてわかりやすいように、意識的にやったのかなと思いますが、そこに関してはいかがですか?

それがデザイン性のつもりで僕の中にはあるんですよね。「Shape of Love」と「Microwave Love」でやっていることが同じだっていうことに気づいてはもらえないんですよ、普通は(笑)。でもそこがわかる人にだけわかってもらえればいいっていうのじゃあここから広がっていかないので、あえてそこを明確にしておく必要があるなって思ったんです。受け手に、こういうことがやりたかったんだよって。正直この曲もアプローチ的にもっと美しく融合させることはできたんです。でも今回はそうせずに、ちょっとメドレー的にやっているところもあるんですよね。ここはヒップホップですよとか、ここはロックですよ、ここはダンスミュージックですよ、というふうに、あえてきちんと融合しきらなかったんです。まずは自分のやりたいことをわかってもらって、その上でさらに先に進んでいくことが大事なのかなって思いますね。ここからはパッと見でわかりやすく変なものをさらに作っていきたいなっていう気持ちになっています。

Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子

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リリース情報

8月9日(水)リリース
配信シングル『自演奴』
配信リンク:https://atsukitaketomo.lnk.to/theend
MVリンク:https://youtu.be/G6matEzNi-U

プロフィール

アツキタケトモ
2020年7月より活動開始。作詞・作曲・編曲を自ら手がける新世代の音楽家。日常に潜むちょっとした違和感を、独自のダンスミュージックで表現する。1stアルバム『無口な人』は2020年9月にリリースされ、ノンプロモーションながらSpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスで多くのプレイリストに選出され、早耳の音楽ファンから好評を得た。2022年にはSG「Outsider」をリリースし、Billboard Heatseekersや、J-WAVE TOKIO HOT 100に入るなど注目を高めている。

関連リンク

公式サイト:https://atsukitaketomo.com/

番組概要

放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:PIA SONAR MUSIC FRIDAY
ナビゲーター:櫻井海音
放送日時:毎週金曜 22:30~23:00
番組HP:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarfriday/
番組twitter:https://twitter.com/SONAR_MUSIC_813
ハッシュタグ:#sonar813
番組LINEアカウント:http://lin.ee/H8QXCjW