Yo-Sea/PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー
1stアルバムをリリース Yo-Seaインタビュー「トラックひとつひとつに込めた想いと、幅っていうのを同時に見せたかった」
特集連載
第86回
櫻井海音が最新のリリース楽曲からライブイベントまで、“いま聴くべき音楽”を厳選して紹介するJ-WAVE『PIA SONAR MUSIC FRIDAY』から、番組連動インタビューを掲載。
最終回に登場するのは、沖縄・北谷で育ったシンガーソングライター・Yo-Sea(ヨーシー)。歌ものとラップがナチュラルに融合した独特のメロウネスとメロディセンスで楽曲をネクストレベルに導くことのできる稀有なアーティストだ。他のアーティストからの信頼も厚く、これまでIO、5lack、STUTS、加藤ミリヤ、Kalassy Nikoff(AK-69)などの作品に参加。シーンで独自のポジションを築いている。8月30日にリリースされた1stアルバム『Sea of Love』では、トラック、メロディ、歌詞、すべてが進化した楽曲を聴かせてくれる。インタビューでは、音楽の道に進んだきっかけや“メロディを下ろす”という彼ならではの創作方法についてなど、たっぷりと語ってくれた。
やってみたいなっていう思いから、自分がやらなきゃっていう使命に変わった瞬間でした
── アーティスト名に“Sea(海)”が入っていますが、それはやはりご自身にとって海がかけがえのないものだから、というところからきているのですか?
それが一番大きいですね。沖縄の実家のすぐそばに海があるので。
── アルバム『Sea of Love』の最初と最後にさざなみの音が入っていますよね。
あれがまさに実家の目の前にある海の音なんです。
── そうなんですね。ここからは少し遡って、音楽を始めたきっかけから伺っていきたいと思います。
はい。よろしくお願いします。
── 大学に入学して教師を目指されていたんですが、アメリカへ行ったことをきっかけとして音楽の道に進んだと他メディアのインタビューで拝見しました。
本気で教師を目指していたんですけど、一度海外に行ってみたいという欲求が抑えられなくて、休学して3カ月サンディエゴの語学学校に通っていた友人を頼って行きました。そこで自分のやりたいことに挑戦するマインドというか、個々のアイデンティティーが見えやすい文化にすごく影響されたんですよね。実は、音楽はずっとやってみたいって思っていました。でもその思いに蓋をして、大学に行ったからにはこういう道に進むのがいいだろうなっていう感じで歩んでいたんです。だからサンディエゴで日本とは全然違う文化というか考え方に触れて、自分もどうしても音楽をやってみたいって思いました。
── 音楽への思いに蓋をしていた、というのは具体的にはどういうことだったんですか?
歌うのはもともと好きで、高校の文化祭のステージで歌ったりはしていました。でも実際にどうやって活動したらいいかが全然わからなかったんですよね。スタジオをどうしたらいいのかとか。それもあって自分の中で止めてしまっていたんです。だから英語の先生になることが自分の道なんだってずっと言い聞かせていたような状態でした。
── それがアメリカに行って開放されたんですね。
はっきりと自分にはやりたいことがある、今歩んでいる道は違うって確信をもって思いました。高校や大学の時に風呂場で勝手にメロディを作って歌ったりしていて、こういうことをやってみたいなっていう思いから、自分がやらなきゃっていう使命に変わった瞬間でしたね。それで帰国してすぐ沖縄でトラックメイカー/プロデューサーをやっているNGONGさんの連絡先を聞いてコンタクトをとりました。スタジオを教えてもらったりレコーディングの方法とかを一から聞いて楽曲の制作を始めたんです。
── 自分でビートメイクをするというよりは、曲を作って歌うということがやりたかったわけですね。
そうです。NGONGさんにはすぐに「君は絶対に音楽をやった方がいい」って言われて自信になりましたし、そもそも根拠のない自信だけはあったんですよね。自分ならできるっていう。それを初めて自分以外の人に「君ならいけるよ」って言われて、だからそこが僕のキャリアのスタート地点ですね。
── NGONGさんにはどういう状況で才能を認められたんですか?
NGONGさんの家に呼ばれて行ったんです。NGONGさんの前でトラックに合わせて、僕がいつも風呂場でやっていた“メロディーを下ろす”っていう作業をやったんですよ。そしたらそれを聴いて「大丈夫、いける」ってなりました。その時のトラックっていうのは当時5000円くらいで売っていたもので、その頃の僕にとっては5000円ってとても大きな金額でしたが(笑)、このためならいいやっていう気持ちで準備していきました。そしたら全部教えるからまずはスタジオに行こうって言って同行してくれて。そこからは何もかもが初めてだったんで、スタジオのドアが2枚あることに驚いたりしていました(笑)。
本当にリアルな感情や希望をどうやったら言葉にしてメロディに乗せられるのか
── メロディを下ろすというクリエイティブの方法は自然と自分で身につけたものだったんですか?
だと思います。
── 今もそのやり方なんですか?
はい。考えないです。こういうコードがヒットするとかそういうことはまったく考えないですね。なので僕は、トラックをいただいた際も、きちんとは聴かないようにしているんですよ。最初の入りが素晴らしかったらこれはもう良いトラックだって思えるので、1回2回聴いて、極力フレッシュな状態でレコーディングに臨むようにしています。
── え、レコーディングの現場でメロディを下ろす作業をするんですか?
そうです。その日に下ろします。なので今回のアルバムに入っている曲も全部そうですね。事前に考えることは何もなくて。1回目のセッションで確実にメロディを下ろして、そこからプロデューサーの方と話して、3回くらい録って、いいところの構成を見つけてきてひとつにしていく。で、次は歌詞を考えます。そこで初めて持ち帰るんです。でも以前は歌詞も含めてその日のスタジオで全部録り切るということをしていました。ただこのアルバムは歌詞をより重視していたのでやり方を変えたんです。というのも、自分もこれまで曲を聴いて歌詞に救われることが多かったので。そういう音楽を自分も作りたい、奏でたいという気持ちが大きくなっていきました。本当にリアルな感情や希望をどうやったら言葉にしてメロディに乗せられるのかというのはすごく考えましたね。
── そこのバランスは難しそうですね。あまり作為的になりすぎても今度はフレッシュさが失われることになり兼ねないですよね。
そうなんですよね。だからもともと即興で出していた歌詞の方がスッと聴けるっていうことも実際多いですね。結局はメロディと一緒に発した時にその歌詞がちゃんと届くか届かないか、ということですから、どちらの方法も大事ですね。
── まずトラックがあるというところは変わらないんですね。
はい。トラックのない時に下ろす作業は主に歌詞ではあったりしますね。例えば街を歩いていて急にインスピレーションが湧いたら言葉を書き留めておくとか。
トラックもメロディも歌詞も、ターニングポイントと言ってもいいくらいの作品になりました
── では、ここからはアルバム『Sea of Love』について伺っていきます。1曲目の「Intro」はほんのりラテンの雰囲気があってなんとも言えない味わいがありますね。
休憩時間にSTUTSさんがRhodesピアノを弾いてたんです。そしたらメロディが浮かんできたのでそれを歌ってたら、STUTSさんが「今のいいからそのままレコーディングしちゃおう」っていう感じで、全然違う曲ができたりしたんですよ。で、それを録って、「これ(アルバム全体の)イントロにしましょう」ってなりました。後ろで鳴っているパーカッションがあるんですけど、それはSTUTSさんがRhodesを弾いている横で僕がマイクに向かって叩いています(笑)。
── 2曲目の「FLOWER」をもともとはお願いしていた。
その制作過程で「Intro」ができたという形ですね。
──「Flower」はどういうところから始まったんですか?
トラックを事前にいただいていて、それでセッションに向かっていったんですけど、そのうちにちょっと中だるみするんですよね、やっぱり。で、休憩をして、他のトラックとかを聴いていたら、このトラックでもやりたいっていうものが出てきて、それがすごいフレッシュに感じちゃって、「今からこれでやってもいいですか?」って言ったら、「いいよいいよ」ってなって、それで出来た曲がFlowerですね。これを絶対アルバムに入れたいって思いました。
── 「Intro」といい、やっぱり即興の要素が強いんですね。
そうですね。最初にやろうとしていた「Flower」はもうちょっと暗いトーンの曲だったんですよね。でも(アルバムの)始まりを暗くしたくなくて、お昼に聴いても気持ちいいというか、開放感があるものにしたかったんですよ。だから結構悩みながら進めているところがあったんです。果たしてアルバムに合うのかって。でもさっきも言ったみたいに新しいトラックから下りてきたものがあったので、100%ここに行きたいって伝えて今の形になりました。
── 今までYo-Seaさんのやってきたことを受けつつ、すごく新しいものになったなという感じがしますね、この「Flower」は。
僕もそういうイメージですね。やってみたかった雰囲気があって、そこに生の音っていうのを取り入れたかったので、そこがうまくできたなって思います。
── これはアルバム全体を通して言えることなんですけど、メロウではあるんですけど、ウキウキするような感じがありますよね。以前の作品はもう少しトーンが暗めだったように思います。
正直そこに対して意識はあまりしてなくて。変わったのは、以前までは全部自分がトラックを選んでいたんです。だからいいって思うものが似通ってくる傾向にあったのかもしれない。でも今回はいろんなプロデューサーの方々とやらせていただいて、もちろん最終的に選ぶのは自分ですが、もともとのサウンドが全部新鮮なので、それが一番曲へのアプローチを変えていった要因だと思います。ギターやピアノといった生の音が初めから入っているものもあって、今回はエフェクトもそんなにかけなくていいなっていう考え方になっていったんですよね。そうすると楽曲も聴きやすくて素直な形で表現されているものになっていったという。で、そうなっていくことで歌詞の大事さというものを認識するようになったんです。だからトラックもメロディも歌詞も、自分のターニングポイントと言ってもいいくらいの作品になりました。
── 「Flower」の歌詞の中に〈部屋の窓、消えてく夕陽のおく 逆さまの日が暮れた〉という情景描写の一節がありますが、おそらくこれ文字面だけを読んだらなんとなく意味はわかるという程度だと思うんですけど、リリックとして放たれると時間の経過がすごくわかる日本語になるんですよね。不思議なくらい。ここがやはり歌詞において感じられた重要性になるのかなと思いました。
おっしゃる通りですね。これは実家の二階の窓から海に夕日が沈むのが見えるんですよ。1日何もしなかった虚無感のまま見る夕日と、畑仕事とかやるべきことをやって見る夕日、海に入って見る夕日って全部違っていて。でもそのすべてがいいって思えたんですよね。作詞しているときはその場所にはいなかったんですけど、だからいろんな時間の記憶が入り混じったラインですね。そんな感じなので、僕も書きながらよくはわからなかったんですけど、しっくりきたんです。
── 最後の英語のラインもいいですね。
50セントの「ベスト・フレンド」っていう曲があって、それをSTUTSさんが展開を作っている時に、たまたま「If I was your best friend」っていうパートが出てきて歌っていたら、「それ面白いから入れよう」って話になって。全部一緒にしたら面白くないから後半の部分を変えて、コーラスを入れたりしつつ、サンプリングをしたりっていうこともしていますね。
── 今こうして制作過程をお聞きしても、その場でのアイデアがどんどん盛り込まれていって曲ができていったというのがよくわかります。ということは最初にアルバムの全体像をあまりきめたりはしなかったんですか?
そうですね。だからグルーヴが統一されているかと言えばどうなんだろうと思って、父親にも言ったんですよ。もしかしたら1回聴いたらお腹いっぱいになっちゃうかもしれないって。でも意外とそんなことなかったというか、自分でもアルバム1枚スッと聴けましたね。グルーヴよりもトラックひとつひとつに込めた想いというか、幅っていうのを同時に見せたかったんですよね、今回は。こういうトラックでも自分の伝えたいことがやれるっていうのを。やっぱり1stアルバムだったので。
── でもおそらくリスナーはYo-Seaさんの声によって統一感というところは全く気にならずに1枚聴けると思います。実際私もそうでしたから。それほどYo-Seaさんのボーカルや声は説得力があります。
ありがとうございます。
── その中でも気になった曲と言いますか、「Waiting」はよりナチュラルなボーカルを感じることができました。Yo-Seaさんのボーカルの一番の特徴である、歌うこととラップすることの中間というか、両者が分け隔てなくある感じというのがもっともわかりやすく伝わってくる曲だなと思いました。
僕もこの曲はまさにそんなイメージですね。これは沖縄に戻って録ったんですけど、マイクとかインターフェイスとか機材を全部持ち込んだんですよ。本来はレコーディングするような場所ではない、天井がすごく高い空間で録ったんです。だからあまり気負わずカジュアルな状態でレコーディングに臨めたんですよね。プロデュースをしてくれたのも僕のバックDJをやってくれている仲間のTOMiだったので。
── Yo-Seaさんの中では、メロディを歌うこととラップをすることというのは離れ難くありますよね?
そうですね。今が自然な形ですね。
── そこがオリジナリティだと思うんですよね。歌うラッパーもいるし、歌からラップにアプローチする人もいるけど、Yo-Seaさんの場合は最初からそのふたつがくっついている。だから自然だし、新しい歌になっていると断言できますね。
すごくありがたい言葉ですね。そこまではっきりと言っていただいたのは初めてなので、僕自身も改めて気づかされる思いです。
── で、今回はアルバムの中で、よりメロディに寄った形の楽曲へチャレンジしていますよね?
はい。振り切ったものをやっていますね。
── 「Actor」がその代表的なところですね。
以前までは歌詞も綺麗で自分の汚さとかを出さないような言葉をあえてチョイスして、それが合ってるのか間違っているのかわからないまま進んでいました。でも自分が救われた音楽っていうのは泥臭さと輝きの両方があって、その陰と陽があるからこそポジティブな曲はよりポジティブに、そうじゃない曲はより共感できるものになると思うんです。そこが僕には足りないと自覚して、さっきも言いましたが、歌詞を作り方から変えて、自分の弱さとかリアルな部分をきちんと伝えたいって思いましたね。
── それは自分をさらけ出す、という感覚ですか?
そうですね。無駄にカッコつけないっていうことですよね。昔はなぜかカッコつけてるというか、でも今はカッコつける必要がなくなったっていうのが一番デカいですね。
── その感覚がよりメロディに向かわせたというのが面白いですね。そこからさらにオリジナルな“歌もの”としての進化を感じるのがラスト2曲「Mighty Long Way」と「Someday」です。おそらく、トラックによるメロディ感覚の変化とそれにつれた歌詞の変化がなければ、この2曲で描かれている、Yo-Seaさんがアーティストとして辿って来たこの5年という道のりは表現できなかったのではないかなと想像します。やはりこの2曲じゃないと今回のアルバムは終われなかったんじゃないですかね?
本当にそのとおりです。「Mighty Long Way」はかなり前に完成していて、もともとボツ曲だったんですよ。その時の歌詞は今みたいにこだわりを詰め込んでいないもので、即興でできたものではあったんです。でも、その時の心の声がここにはあるという認識は持っていました。で、今回アルバムを作る中で、探していたピースとして出て来たのがこの曲でした。歌詞をやり直し、トラックもGooDeeという同い歳のプロデューサーにお願いして生のピアノからギターから全部入れてもらって丸ごとアップデートしてもらいました。
── こうなるとやはり例えばライブで生のバンドを入れたら楽曲がどんなふうになっていくのか、というのがすごく楽しみです。
まさに僕もそこにトライしたいっていうのが今のビジョンですね。自分自身のライブのスキルを上げながらバンドセットでどういうふうに自分のオリジナリティと変化を表現できるか、そこを楽しみにしていてもらえるとうれしいです。
Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子
リリース情報
Yo-Sea 1stアルバム『Sea of Love』
配信URL:https://aotl.lnk.to/SeaofLove

01 - Intro
02 - Flower
03 - Without You
04 - MoonLight
05 - Body&Soul(feat. Gottz & Neetz)
06 - Waiting
07 - Nana(feat.Daichi Yamamoto)
08 - Aruto
09 - Inori(feat.C.O.S.A.)
10 - Actor
11 - Grateful(feat.Kethug)
12 - Mighty Long Way
13 - Someday
プロフィール
Yo-Sea(ヨーシー)
沖縄・北谷出身のシンガー / ソングライター
2018 年ファースト・シングル「I think she is」でデビュー。同年Apple Music「今週の New Artist」、2019年「Spotify Early Noise Artist 2019」、2020 年 HYPEBEAST「2020年に注目すべきアンダー25のアーティスト10 組」に選出。アーティストからの信頼が厚く、今までIO、5lack、STUTS、加藤ミリヤ、Kalassy Nikoff(AK-69) をはじめとするアーティスト達の作品にも参加。『Gottz - Sunset(feat. IO & Yo-Sea)』ではスマッシュヒットも記録。圧倒的なメロディセンスと等身大のリリックでその才能を知らしめ、シーンに置いて独自のポジションを確立している。
関連リンク
Instagram:https://www.instagram.com/yo_sea7878/
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番組概要
放送局:J-WAVE(81.3FM)
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ナビゲーター:櫻井海音
放送日時:毎週金曜 22:30~23:00
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