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ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド

ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド【2024年春号】

年4回更新

第3回

今シーズンの新作(=トニー賞の候補作)がほぼ出揃う4月から遡ること3か月、極寒のニューヨークに行ってきた。本当はもちろん出揃ってから行きたかったのだが、物価高と円安により飛行機代もホテル代も高すぎて、おそらく極寒だから割安なのであろう1月にしか行けなかったのだ。そして現地でも、物価高と円安に大いに苦しんだ。水1本、地下鉄初乗りが500円近い世界線で、チケット代に至っては半額ブースで買っても15000円はなかなか下らない。ブロードウェイの劇場が好き過ぎて、「みんなも行ったらいいのに」と常々思ってきた筆者だが、それゆえにこんな連載までしている筆者だが、今回ばかりはさすがに、「みんなも行ったらいいけど、今ではない」と悟った。円高の時代を待とう……!

そんなわけで、本連載で「現在上演中の全ミュージカル作品リスト」と共にお届けしている「そのうち筆者が直近で観てきた作品のミニレポート」も、今から行って観られることを前提にしなくていいと判断し、“上演中”にはこだわらないことにした。秋冬開幕の新作は概して寿命が短く、観てきた10本のうち5本が既にクローズ済で、次回更新時点ではさらに2本がクローズしている予定だから、という理由もないわけではないが、それはともかく。まずは、この作品が終わる前に行けて本当に良かった、1ドル150円時代の大浪費旅にも悔いなし! と思わせてくれた2作(共にクローズ済)のミニレポートからお届けしよう。

■今思い出しても肩が震える『ハーモニー』

実在した6人組コーラスグループ「ザ・コメディアン・ハーモニスツ」の物語ということで、なんとなく『ジャージー・ボーイズ』的な、人間ドラマではもちろんありつつ音楽そのものの尊さが主題になっているような作品を想像していたのが、全くもって否。グループが活躍したのは二つの世界大戦に挟まれた時代のベルリンで、メンバー6人のうち大半が本人または妻がユダヤ人ということで、どちらかというと『ラグタイム』に近いくらいの社会派歴史ミュージカルだ。とはいえ、純粋に楽しいコンサートシーンもふんだんに用意され、また随所に笑いもちりばめられていたりと、硬軟のバランスが非常に良い作品。あわせて、シンプルでありながら格調高く、陰影に富んだセットと照明も特筆ものだった。星を表す無数の裸電球に照らされた、役の魂を完全に宿した俳優たちが、いまだ戦争が絶えない現代も彷彿とさせながら、「あの輝く星たちのなかに希望がないわけがない」と歌い上げるラストシーンは、今思い出しても簡単に涙が出るし肩まで震えてしまう。トニー賞は例年クローズ済の作品に冷たいが、この作品ばかりは何かしらの部門に食い込んでほしい。

■(自閉症の)若者の成長に高揚した『ハウ・トゥ・ダンス・イン・オハイオ』

オハイオ州で同じカウンセリング・サークルに通う自閉症の若者7人が、カウンセラーからの提案でダンスパーティーの開催を決め、その準備を通じて成長していく物語。ドキュメンタリー映画のミュージカル化で、自らも自閉症の俳優たちが7人を演じる、昨今話題のオーセンティック・キャスティング(役と同じ人種や性自認の俳優を配役すること)となっている。一歩間違えば“感動ポルノ”のようにもなりかねない題材だが、「自閉症の人たちが頑張る姿から元気をもらおう」的な描き方ではなく、核となっているのはあくまで「若者の成長」という普遍的かつ、非常にミュージカルと相性の良いテーマ。人とコミュニケーションを取ったり新しい環境に入っていったりすることが苦手であるがゆえの戸惑いや失敗も、“頑張り”というよりむしろ“オモシロ”として描かれており、そしてそれらがキラキラの歌とダンスに伴われて克服されていくため、観ている間じゅう笑いと高揚感の嵐である。加えて、何を隠そう筆者自身コミュニケーションも新しい環境も決して得意ではないため共感度も高く、笑いと高揚感と共に嗚咽も止まらない観劇となったのだった。

【2023-24シーズンの新作】

*情報は2024年3月22日時点のもの

■開幕済の作品

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
言わずと知れた大ヒット映画の舞台化。2025年4月より劇団四季による上演が決定!
https://www.backtothefuturemusical.com/new-york/

『きみに読む物語』
映画版も大ヒットしたベストセラー小説を『RENT』のM・グライフ演出でミュージカル化。
https://notebookmusical.com/

『メリリー・ウィー・ロール・アロング』7月7日まで
日本でも上演されたM・フリードマン演出版。D・ラドクリフらが出演し爆売れ中。
https://merrilyonbroadway.com/

『スパマロット』4月7日まで
福田雄一による日本版もお馴染み、2005年トニー賞受賞作が超豪華キャストでリバイバル。
http://spamalotthemusical.com/

『Water For Elephants』
同名ベストセラー小説をサーカスを取り入れて舞台化。『キンバリー・アキンボ』のJ・ストーン演出。
https://www.waterforelephantsthemusical.com/

『The Who’s Tommy』
日本でも上演歴のあるロックオペラのリバイバル。演出はオリジナル版と同じD・マカナフ。
https://tommythemusical.com/

■プレビュー中の作品

『アウトサイダー』4月11日開幕予定
原作は同名小説および巨匠コッポラ監督による映画版。「持つ者と持たざる者」の物語。
https://outsidersmusical.com/

『レンピッカ』4月14日開幕予定
『ヘイディズタウン』の演出家の最新作。アールデコの画家レンピッカの半生を描く。
https://lempickamusical.com/

『ウィズ』4月17日開幕予定
1975年トニー賞受賞作のリバイバル。ブラックミュージックが炸裂する「オズの魔法使い」。
https://wizmusical.com/

『Suffs』4月18日開幕予定
参政権を求め闘った女性たちの物語。ヒラリー・クリントンがプロデューサーに名を連ねる。
https://suffsmusical.com/

『Hell’s Kitchen』4月20日開幕予定
アリシア・キーズのジュークボックスがオフからオンへ。演出は『RENT』のM・グライフ。
https://www.hellskitchen.com/

『キャバレー』4月21日開幕予定
カンダー&エッブの名作のリバイバル。英国で好評を博したE・レッドメイン主演版。
https://kitkat.club/cabaret-broadway/

『The Heart of Rock and Roll』4月22日開幕予定
米のロックバンド、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのヒット曲に着想を得た新作コメディ。
https://heartofrocknrollbway.com/

『グレート・ギャツビー』4月25日開幕予定
映画版や宝塚版でもよく知られる名作小説を、日本でもお馴染みJ・ハウランドの音楽で。
https://broadwaygatsby.com/

『Illinoise』4月24日開幕予定(プレビューなし)
米のフォーク歌手スフィアン・スティーヴンスの同名アルバムに基づく話題作。8月まで。 https://illinoiseonstage.com/

【2022-23シーズンの準新作】

『&ジュリエット』
M・マーティンのヒット曲で綴るロミジュリの後日譚。トニー賞無冠が信じられない傑作。 https://andjulietbroadway.com/

『ビューティフル・ノイズ』6月30日まで
ニール・ダイアモンドのジュークボックス。トニー賞無冠ながら1年半のロングランを達成。 https://abeautifulnoisethemusical.com/

『キンバリー・アキンボ』4月28日まで
早老症の女子高生の物語をJ・テソーリの音楽で描き、トニー賞5冠。日本版妄想中。 https://kimberlyakimbothemusical.com/

『スウィーニー・トッド』5月5日まで
超豪華リプレイスメント、A・トヴェイトとS・フォスターが主演中。彼らの降板に伴い閉幕。 https://sweeneytoddbroadway.com/

【ロングラン作品】

■日本で既に上演された/されている作品

『アラジン』
ディズニーアニメが舞台ならではの手法で表現された秀作。魔法の絨毯は本当に魔法。 https://www.aladdinthemusical.com/

『シカゴ』
『オペラ座の怪人』の閉幕を受け、上演中の作品としては最長ロングランとなった名物作。 https://chicagothemusical.com/

『ライオンキング』
『シカゴ』に次ぐロングラン第2位を安定飛行中の大名作。相変わらず満席を誇る。 https://www.lionking.com/

『ムーラン・ルージュ!』
2021年のトニー賞受賞作。5月12日までボーイ・ジョージがジドラー役で出演中! https://moulinrougemusical.com/

『ウィキッド』
定期的に観たい傑作。昨年10月に開幕20周年を迎えた。今秋には待望の映画版も公開予定。 https://wickedthemusical.com/

■日本未上演の作品

『ブック・オブ・モルモン』
2011年のトニー賞を制した、もはや古典の領域の傑作。1周回って日本語版を妄想中。 https://bookofmormonbroadway.com/

『ヘイディズタウン』
『グレコメ』の演出家が現代的に描くギリシャ神話。2019年のトニー賞で8冠を達成。 https://www.hadestown.com/

『ハミルトン』
近年最大のモンスター級ヒット作。リン=マニュエル・ミランダの才能にひれ伏そう。 https://hamiltonmusical.com/

『MJ The Musical』
M・ジャクソンの伝記系ジュークボックス。トニー賞受賞の主演俳優は降板しロンドンへ。 https://mjthemusical.com/

『SIX: The Musical』
ヘンリー8世の6人の妻がガールズパワーを炸裂させる痛快作! バンドまで全員女性。 https://sixonbroadway.com/

プロフィール

町田麻子(まちだ・あさこ)
1980年ロンドン生まれ、横浜育ちのミュージカル文筆家。2002年早大一文演劇専修、2022年東京藝大楽理科卒。公演パンフレット、演劇誌、WEB等で主にミュージカルの解説文、インタビューやレポート記事を執筆。10代からブロードウェイ観劇旅行を毎年続けるミュージカルおたく。趣味は翻訳版の妄想キャスティング。

町田麻子ウェブサイト
https://www.rodsputs.com/