ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド

ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド【2024年秋号】

年4回更新

第5回

円高は若干収まってきたものの、飛行機やホテル代が相変わらず非常に高く(1泊7万くらい平気でする)、悩ましい日々が続いている。極寒の1~2月まで待てば多少は安くなるし、そのほうが2024-25シーズンの新作(本記事後半に記載のリスト参照)は比較的多く観られるのだが、例年の動向を考えると、2023-24シーズンの準新作たち(同)は年内にクローズしてしまう可能性が高い。それに多く観られると言っても、あくまで「比較的」であって、ラミン・カリムルーの出演作や『ラスト・ファイブ・イヤーズ』のオン初演といった注目作の開幕は、再び暖かく(=高く)なる3~4月だ。いっそ今年のトニー賞を賑わせた『アウトサイダーズ』『ヘルズ・キッチン』『サフス』などが早く年内でのクローズを発表してくれたら、多少高くても10月に行く踏ん切りがつくのに、などと縁起の悪いことを思う秋である。

そんな秋号のミニレポートパートでは、日本でも上演歴のあるコメディ3作をピックアップ。日本では福田雄一の演出により再演が重ねられている『スパマロット』と、板垣恭一の演出で何度か上演された『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』は既にクローズ済だが、かつて大地真央が主演した『ワンス・アポン・ア・マットレス』は11月まで上演中。筆者が観てきたのはオフでのコンサート版であり、オンに進出した際に多少演出が変わったようだが、主演のサットン・フォスターが最大の見どころであることに変わりはないはずだ。

■日本版の良質さを改めて知った『スパマロット』リバイバル(クローズ済)

モンティ・パイソンが誰(何)かも知らず、トニー賞を獲った作品というだけで観たBW初演版(2005~08)から、日本版を何度も観て理解も好き度も深めてきた約20年を経てのBWリバイバル版。日本版はBW初演版のセットや衣裳を踏襲しており、このリバイバル版もそのアップデートに留まる形だったため、正直なところ新鮮味にはだいぶ欠けたのだが、日本版のクオリティの高さを改めて思い知るという大きな収穫があった。欧米のコメディを、日本人が自然に笑えるように演出するのは至難の業。『スパマロット』日本版が凄いのはそれができているからなのだが、あまりにも自然に笑えるため、かなりの意訳が施されているのだろうと思い込んでいた。だがどうだろう、久々に英語で観たら、細かいネタまでほとんど日本版と同じではないか。歌や踊りではそりゃBW版に軍配だが、日本人にとってはBW版以上に笑える日本版がまた観たくなった。再々々演求む。

■C&Rでうっかり涙…『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』(クローズ済)

売れないソングライターコンビが、資金を出してくれるかもしれないプロデューサーが集まった劇場で、ふたりだけで何役も演じ分けながら自作ミュージカルを試演する、という設定のドタバタコメディ。世間的な見どころは、コンビ役を演じた『ブック・オブ・モルモン』オリジナルキャストふたりによる爆笑の演じ分けで、それももちろんすごかった。だが個人的には、私たち観客が必然的にプロデューサー予備軍役として作品に参加することになり、その観客の中には資金を出してくれるプロデューサー役の日替わり大物ゲストが仕込まれているという趣向も手伝って、笑う以上にうっかり感動してしまった公演。コンビの「♪俺ら夢食って生きてるんで~」(ニュアンス訳)に「♪私たちも~!」と答えるコール&レスポンスの楽しさと言ったらないし、それで高揚していたら、ゲストがステージに上がってコンビの夢を叶えてくれたものだから、食べてた夢が叶うなんて!と胸が熱くなったのだった。

■ビバ!サットン・フォスターな『ワンス・アポン・ア・マットレス』(11月30日まで)

隠れた名作を掘り起こしてコンサート版として上演し、たびたびオンBWにも送り込んでいる、シティ・センターの「アンコール!」シリーズの一環。送り込まれた代表例『シカゴ』を思い浮かべると分かりやすいが、コンサートと言っても簡易的なセットはあり、出演者は衣裳を着け役作りもそれなりにしている。そして今作では、サットン・フォスター(『モダン・ミリー』『エニシング・ゴーズ』『ザ・ミュージックマン』)の役作りがとにかくすごかった。名花と謳われるような大女優がコメディに挑む際には、上品さが逆に面白い、みたいなことになることが多いものだが、もうなんだか大島美幸を彷彿とさせるような爆発的なコメディエンヌぶりだったのだ。オンの劇場よりだいぶ大きなシティ・センターの、3階席にまでビシバシ届く、スターの桁外れなエネルギーにビバ!な観劇となった。

新作からロングラン作品まで! ブロードウェイ上演作品一覧


【2024-25シーズンの新作】

*情報は2024年9月25日時点のもの

『ワンス・アポン・ア・マットレス』上演中/11月30日まで
往年の名作にS・フォスターが主演したコンサート版が好評を博し、期間限定でBWへ。
https://onceuponamattress.com/

『サンセット大通り』プレビュー中/10月20日開幕予定
A・ロイド=ウェバーの名作。昨年ロンドンで上演されたN・シャージンガー主演版がBWへ。
https://sunsetblvdbroadway.com/

『A Wonderful World』10月16日プレビュー開始予定
ジャズ界のレジェンド、ルイ・アームストロングをJ・M・アイグルハートが演じる話題作。
https://www.louisarmstrongmusical.com/

『メイビー・ハッピー・エンディング』10月16日プレビュー開始予定
日本でも上演された韓国の人気作がM・アーデン演出、D・クリス主演でBW進出。
https://www.maybehappyending.com/

『タミー・フェイ』10月19日プレビュー開始予定
実在したテレビ伝道師の妻の半生を描くロンドンのヒット作がBWへ。作曲はE・ジョン。
https://tammyfayebway.com/

『永遠に美しく…』10月23日プレビュー予定
メリル・ストリープ主演映画の舞台化。振付家として名高いC・ガテリが演出も担う。
https://deathbecomesher.com/

『Swept Away』10月29日プレビュー開始予定
アヴェット・ブラザーズの音楽に基づく新作。アメリカ各地での好評を引っ提げBWへ。
https://sweptawaymusical.com/

『エルフ』11月9日プレビュー開始予定
日本でも上演歴のある作品のリバイバル。ロンドンで好評を博したP・マッキンリー演出版。
https://elfonbroadway.com/

『ジプシー』11月21日プレビュー開始予定
日本でもたびたび上演されている名作が名優A・マクドナルド主演でリバイバル。
https://gypsybway.com/

『Redwood』2025年1月24日プレビュー開始予定
『ウィキッド』『アナ雪』のI・メンゼルが久々にBWに帰還。自身で原案も手掛けた新作。
https://www.redwoodmusical.com/

『BOOP!ザ・ベティ・ブープ・ミュージカル』2025年3月11日プレビュー開始予定
アニメ映画のキャラクターをJ・ミッチェルの演出・振付、D・フォスターの音楽で舞台化。
https://boopthemusical.com/

『ラスト・ファイブ・イヤーズ』2025年3月18日プレビュー開始予定
日本でもたびたび上演されているオフ発、J・R・ブラウン音楽の名作が期間限定でオン初演。
https://thelastfiveyearsbroadway.com/

『Stephen Sondheim’s Old Friends』2025年3月25日プレビュー開始予定
B・ピータース、L・サロンガらがソンドハイムを讃えるロンドン発のレビューがBWへ。
https://www.manhattantheatreclub.com/shows/24-25-season/stephen-sondheims-old-friends/

『Floyd Collins』2025年3月27日プレビュー開始予定
1996年にオフで高い評価を得た作品。実際にあった洞窟探検家の閉じ込め事故を描く。
https://www.lct.org/shows/floyd-collins/

『ペンザンスの海賊』2025年4月4日プレビュー開始予定
19世紀に初演されたコミックオペラを手練れのスタッフ陣がリメイク。R・カリムルー出演。
https://www.roundabouttheatre.org/get-tickets/2024-2025/the-pirates-of-penzance/


【2023-24シーズンの準新作】

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
大ヒット映画の舞台化。2025年4月より劇団四季が上演。トニー賞2部門ノミネート。
https://www.backtothefuturemusical.com/new-york/

『キャバレー』
カンダー&エッブの名作のリバイバル。トニー賞セット賞。アダム・ランバートが主演中!
https://kitkat.club/cabaret-broadway/

『グレート・ギャツビー』
映画版や宝塚版でもよく知られる名作小説をJ・ハウランドの音楽で。トニー賞衣裳賞。
https://broadwaygatsby.com/

『Hell’s Kitchen』
アリシア・キーズのジュークボックス。演出は『RENT』のM・グライフ。トニー賞2冠。
https://www.hellskitchen.com/

『きみに読む物語』12月15日まで
映画版もヒットしたベストセラー小説をM・グライフ演出で。トニー賞3部門ノミネート。
https://notebookmusical.com/

『アウトサイダー』
原作は同名小説および巨匠コッポラ監督による映画版。トニー賞作品&演出賞含む4冠。
https://outsidersmusical.com/

『Suffs』
参政権を求め闘った女性たちの物語。ヒラリー・クリントンら製作。トニー賞脚本&楽曲賞。
https://suffsmusical.com/

『サーカス象に水を』
同名ベストセラー小説をサーカスを取り入れて舞台化。トニー賞7部門ノミネートも無冠。
https://www.waterforelephantsthemusical.com/


【ロングラン作品】

■日本で既に上演された/されている作品

『アラジン』
ディズニーアニメが舞台ならではの手法で表現された秀作。魔法の絨毯は本当に魔法。
https://www.aladdinthemusical.com/

『シカゴ』
『オペラ座の怪人』の閉幕を受け、上演中の作品としては最長ロングランとなった名物作。
https://chicagothemusical.com/

『ライオンキング』
『シカゴ』に次ぐロングラン第2位を安定飛行中の大名作。相変わらず満席を誇る。
https://www.lionking.com/

『ムーラン・ルージュ!』
2021年のトニー賞受賞作。初代クリスチャン、A・トヴェイトの再登板は10月13日まで。
https://moulinrougemusical.com/

『ウィキッド』
定期的に観たい傑作。昨年10月に開幕20周年を迎えた。映画版の日本公開は来春とのこと。
https://wickedthemusical.com/

■日本未上演の作品

『&ジュリエット』
ロミジュリの後日譚をマックス・マーティンの大ヒット曲で綴るロンドン発の傑作。
https://andjulietbroadway.com/

『ブック・オブ・モルモン』
2011年のトニー賞を制した、もはや古典の領域の傑作。1周回って日本語版を妄想中。
https://bookofmormonbroadway.com/

『ヘイディズタウン』
『グレコメ』の演出家が現代的に描くギリシャ神話。2019年のトニー賞で8冠を達成。
https://www.hadestown.com/

『ハミルトン』
近年最大のモンスター級ヒット作。リン=マニュエル・ミランダの才能にひれ伏そう。
https://hamiltonmusical.com/

『MJ The Musical』
M・ジャクソンの伝記系ジュークボックス。各国で上演され始めており、日本でも…?
https://mjthemusical.com/

『SIX: The Musical』
ヘンリー8世の6人の妻がガールズパワーを炸裂させる痛快作!来日公演&日本キャスト版初演を控える。
https://sixonbroadway.com/

プロフィール

町田麻子(まちだ・あさこ)
1980年ロンドン生まれ、横浜育ちのミュージカル文筆家。2002年早大一文演劇専修、2022年東京藝大楽理科卒。公演パンフレット、演劇誌、WEB等で主にミュージカルの解説文、インタビューやレポート記事を執筆。10代からブロードウェイ観劇旅行を毎年続けるミュージカルおたく。趣味は翻訳版の妄想キャスティング。

町田麻子ウェブサイト
https://www.rodsputs.com/