ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド
ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド【2025年冬号】
年4回更新
第6回
10月後半、ブロードウェイに行ってきた。前回渡航した1月時点ではまだ始まっていなかった2023-24シーズンの準新作と、秋に始まったばかりの2024-25シーズンの新作を中心に10本ほど観劇。うち3本はなんと、早くもクローズ(ないしはクローズ発表)してしまった。秋に開幕する作品の寿命が短いのは今に始まったことではないが、それにしてもギリギリ間に合って観てきた『タミー・フェイ』はまだしも、まだ始まってもいなかった『スウェプト・アウェイ』までもう終わってしまったとは。準新作のほうも続々とクローズしており、2月以降も上演されている予定なのはもはや4作を残すのみとなった。日本に輸入されるのは少なくとも2年はロングランされたような、選ばれし作品がほとんどであるためつい忘れそうになるが、1年続くだけでもすごいことなのだと実感させられる冬である。
そんな冬号のミニレポートパートでは、2024年のトニー賞を賑わせた準新作のうち、個人的にも好きだった3作をピックアップ。新作作品賞ほか4冠の『アウトサイダー』、最多13ノミネートの『ヘルズ・キッチン』(共に次々号あたりでレポート予定)、リバイバル作品賞ほか4冠の『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(2024年夏号でレポート済)より、私は2冠と1冠に留まった『サフス』と『キャバレー』、そして無冠に終わった『サーカス象に水を』のほうが好きだった。ただどれも傑作と呼べるほどではなかったため、各賞をみんなで少しずつ分け合う形になったことには、大いに納得するものがあるのだが。
■装置デザイン賞『キャバレー』(上演中)
BWでも日本でも何度も観ている作品だが、イマーシブな演出の中で繰り広げられるナマ感あふれるパフォーマンスに圧倒され、この旅一番“喰らった”公演。見える生バンドがスピーカーをほぼ通さずに届けてくれる生音のカンダー&エッブ楽曲はやはり格別だし、あのクイーンのボーカルを務めるアダム・ランバートが目の前で、本人としてではなくバッチバチに作り込んだエムシー役として本気の歌声を聴かせてくれるのだから堪らない。そしてもちろん、斬新な演出と華やかな演技はそこに酔いしれるためにあるのではなく、最後には現代にも通じる独裁政治の恐怖を身震いするほどまざまざと浮かび上がらせる。ちなみにアダムはオリジナルキャストではなく、トニー賞にノミネートされたエディ・レッドメインの降板に伴うリプレイスメントで、この豪華リレーもBWならではだ。
■脚本賞&オリジナル楽曲賞『サフス』(1月5日まで)
100年前に参政権を求めて闘った女性たちの物語を通して今を映し出す、日本で言うと『虎に翼』のような作品。それが史上初の女性大統領が誕生するかもしれない時期に上演され、しかも脚本・作詞作曲・主演をひとりで担ったシャイナ・トーブの多才ぶりたるやリン=マニュエル・ミランダ級なのだから、本来であればトニー賞作品賞に輝いて然るべき作品だ。実際、輝いた『アウトサイダー』より私にはずっと響き、女性たちが「行進し続けよう」と力強く訴えるラストには大号泣したのだが、とはいえ「いやいやどう考えてもこっちが作品賞でしょ!」と唱える気までは起きなかったのは、ミュージカルにしては演出があまりにシンプルだったから。この時期にアメリカで上演されたことに意義がある作品ではあるが、いつかウエストエンドあたりでもっと練られた形でリバイバルされたらいいなとも思った。
■7部門ノミネート『サーカス象に水を』(クローズ済)
演出は物足りないが題材と音楽は秀逸だった『サフス』に対し、物語には特に現代性がなく音楽も比較的凡庸だが、演出では他の追随を許さなかったのがこちら。サーカス技とダンスが完全に一体化し、それが物語とも結びつき、たとえば主人公のギリギリの精神状態が綱渡り芸によって表現されたりする。サーカス動物たちの表現方法は着ぐるみともパペットとも定まっておらず、たとえば猿は人間が人間の姿のまま演じ、象は時に鼻や脚だけの小道具として、時に全身の影絵やパペットとして登場。抽象的なセットが様々な建物や乗り物を表したり、主人公の青年期と壮年期役の俳優たちが縦横無尽に交錯したりと、“表現偏差値”がとにかく高いのだ。この原作小説を今ミュージカル化することに意義があったかどうかはともかく、この原作小説をミュージカル化するならこの形が大正解だったことは確かだ。
【2024-25シーズンの新作】
*情報は2024年12月22日時点のもの
■既に上演されている作品
『永遠に美しく…』
メリル・ストリープ主演映画の舞台化。振付家として名高いC・ガテリが演出も担う。
https://deathbecomesher.com/
『エルフ』2025年1月4日まで
日本でも上演歴のある作品のリバイバル。ロンドンで好評を博したP・マッキンリー演出版。
https://elfonbroadway.com/
『ジプシー』
日本でもたびたび上演されている名作が名優A・マクドナルド主演でリバイバル。
https://gypsybway.com/
『メイビー・ハッピー・エンディング』
日本でも上演された韓国の人気作がM・アーデン演出、D・クリス主演でBW進出。
https://www.maybehappyending.com/
『サンセット大通り』
A・ロイド=ウェバーの名作。昨年ロンドンで上演されたN・シャージンガー主演版がBWへ。
https://sunsetblvdbroadway.com/
『A Wonderful World』
ジャズ界のレジェンド、ルイ・アームストロングをJ・M・アイグルハートが演じている。
https://www.louisarmstrongmusical.com/
■これから始まる作品
『Redwood』2025年1月24日プレビュー開始予定
『ウィキッド』『アナ雪』のI・メンゼルが久々にBWに帰還。自身で原案も手掛けた新作。
https://www.redwoodmusical.com/
『オペレーション・ミンスミート』2025年2月15日プレビュー開始予定
ロンドンで話題沸騰中。映画化もされた第二次大戦中の英国軍の“奇策”をコミカルに描く。
https://operationbroadway.com/
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』2025年2月21日プレビュー開始予定
同名のドキュメンタリー映画にもなったキューバ音楽のアルバムのジュークボックス。
https://buenavistamusical.com/
『BOOP!ザ・ベティ・ブープ・ミュージカル』2025年3月11日プレビュー開始予定
アニメ映画のキャラクターをJ・ミッチェルの演出・振付、D・フォスターの音楽で舞台化。
https://boopthemusical.com/
『スマッシュ』2025年3月11日プレビュー開始予定
大ヒットミュージカルドラマがついに本当のミュージカルに。演出はS・ストローマン。
https://smashbroadway.com/
『ラスト・ファイブ・イヤーズ』2025年3月18日プレビュー開始予定
日本でもたびたび上演されているオフ発、J・R・ブラウン音楽の名作が期間限定でオン初演。
https://thelastfiveyearsbroadway.com/
『Stephen Sondheim’s Old Friends』2025年3月25日プレビュー開始予定
B・ピータース、L・サロンガらがソンドハイムを讃えるロンドン発のレビューがBWへ。
https://www.manhattantheatreclub.com/shows/24-25-season/stephen-sondheims-old-friends/
『Floyd Collins』2025年3月27日プレビュー開始予定
1996年にオフで高い評価を得た作品。実際にあった洞窟探検家の閉じ込め事故を描く。
https://www.lct.org/shows/floyd-collins/
『Just in Time』2025年3月28日プレビュー開始予定
J・グロフが米歌手ボビー・ダーリンに扮する新作。イマーシブの名手、A・ティンバース演出。
https://justintimebroadway.com/
『Real Women Have Curves』2025年4月1日プレビュー開始予定
映画化もされているらしい同名戯曲のミュージカル化。夢を追う女性たちの物語とのこと。
https://realwomenhavecurvesbroadway.com/
『ペンザンスの海賊』2025年4月4日プレビュー開始予定
19世紀に初演されたコミックオペラを手練れのスタッフ陣がリメイク。R・カリムルー出演。
https://www.roundabouttheatre.org/get-tickets/2024-2025/the-pirates-of-penzance/
【2023-24シーズンの準新作】
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』2025年1月5日まで
大ヒット映画の舞台化。劇団四季による日本版開幕(4月)を前にあえなくクローズが決定。
https://www.backtothefuturemusical.com/new-york/
『キャバレー』
カンダー&エッブの名作。トニー賞セット賞。3月29日までアダム・ランバートが主演中!
https://kitkat.club/cabaret-broadway/
『グレート・ギャツビー』
映画版や宝塚版でもよく知られる名作小説をJ・ハウランドの音楽で。トニー賞衣裳賞。
https://broadwaygatsby.com/
『Hell’s Kitchen』
アリシア・キーズのジュークボックス。演出は『RENT』のM・グライフ。トニー賞2冠。
https://www.hellskitchen.com/
『アウトサイダー』
原作は同名小説および巨匠コッポラ監督による映画版。トニー賞作品&演出賞含む4冠。
https://outsidersmusical.com/
『サフス』2025年1月5日まで
参政権を求め闘った女性たちの物語。ヒラリー・クリントンら製作。トニー賞脚本&楽曲賞。
https://suffsmusical.com/
【ロングラン作品】
■日本で既に上演された/されている作品
『アラジン』
ディズニーアニメが舞台ならではの手法で表現された秀作。魔法の絨毯は本当に魔法。
https://www.aladdinthemusical.com/
『シカゴ』
『オペラ座の怪人』の閉幕を受け、上演中の作品としては最長ロングランとなった名物作。
https://chicagothemusical.com/
『ライオンキング』
『シカゴ』に次ぐロングラン第2位を安定飛行中の大名作。相変わらず満席を誇る。
https://www.lionking.com/
『ムーラン・ルージュ!』
2021年のトニー賞受賞作。日本版とはやはりだいぶ様相が異なるので観比べ全力推奨。
https://moulinrougemusical.com/
『SIX: The Musical』
ヘンリー8世の6人の妻たちが暴れ回る痛快作。今号より晴れて「日本上演済」リスト入り。
https://sixonbroadway.com/
『ウィキッド』
定期的に観たい傑作。BWでは街中で広告されていた映画版は日本では3月7日公開予定。
https://wickedthemusical.com/
■日本未上演の作品
『&ジュリエット』
ロミジュリの後日譚をマックス・マーティンの大ヒット曲で綴るロンドン発の傑作。
https://andjulietbroadway.com/
『ブック・オブ・モルモン』
2011年のトニー賞を制した、もはや古典の領域の傑作。1周回って日本語版を妄想中。
https://bookofmormonbroadway.com/
『ヘイディズタウン』
『グレコメ』の演出家が現代的に描くギリシャ神話。2019年のトニー賞で8冠を達成。
https://www.hadestown.com/
『ハミルトン』
2016年のトニー賞総なめ作。最近ようやく、入場率が100%を超えなくなってきた。
https://hamiltonmusical.com/
『MJ The Musical』
M・ジャクソンの伝記系ジュークボックス。各国で上演され始めており、日本でも…?
https://mjthemusical.com/
プロフィール
町田麻子(まちだ・あさこ)
1980年ロンドン生まれ、横浜育ちのミュージカル文筆家。2002年早大一文演劇専修、2022年東京藝大楽理科卒。公演パンフレット、演劇誌、WEB等で主にミュージカルの解説文、インタビューやレポート記事を執筆。10代からブロードウェイ観劇旅行を毎年続けるミュージカルおたく。趣味は翻訳版の妄想キャスティング。
町田麻子ウェブサイト
https://www.rodsputs.com/