ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド
ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド【2025年春号】
年4回更新
第7回

例年通り、新作の開幕ラッシュを順調に迎えつつある春のブロードウェイ。日本のミュージカルファン的な注目作は、大ヒットミュージカルドラマが原作の『スマッシュ』、意外にもオンBWには初登場となる『ラスト・ファイブ・イヤーズ』、ラミン・カリムルーが出演する『ペンザンスの海賊』あたりだろうか。個人的には、ロンドンで大評判を取った『オペレーション・ミンスミート』や、実在のミイラ男が題材の『デッド・アウトロー』などが気になっており、このあたりはトニー賞でも強そうだ。とはいえまだ劇評が出ていない作品がほとんどであるため、本当のところ何が強いかは分からないのだが、本連載を次に更新する頃にはもう結果が出ているはず。そこで今回のミニレポートパートでは、もしかしたらトニー賞に絡むかもしれない2作を取り上げ、トニー賞ムードをひっそり高めてみることにする。
■生で観るホラー映画、『サンセット大通り』

もしかしたらと言うか、これはおそらく確実にリバイバル部門に、少なくともノミネートはされるはず(ロンドンで既にオリヴィエ賞を受賞済)。日本でもお馴染み、BWでもロンドンでも度々リバイバルされているアンドリュー・ロイド=ウェバーの名作だが、別物のように斬新な演出なのだ。セットはほぼなく、目玉となるスクリーンには背景ではなく主に舞台上の出演者がアップや別角度で映し出され、その映像も衣裳も徹頭徹尾、無彩色。二幕の冒頭などは、出演者たちが有名な表題曲をなんとブロードウェイの路上を進みながら歌い、映像上の彼らが劇場に辿り着いた頃、実際に劇場に姿を現す趣向となっている。わけても斬新なのが、ノーマがジョーを撃ち殺すクライマックスのシーン。大量のストロボと血糊、ノーマ役のニコール・シャージンガーのホラー級の歌唱力と迫力とがあいまって、それはもう夢に出てきそうに恐ろしい。“生で観るホラー映画”的に作られているため、歌声やオケの音にナマ感は少なく、ロイド=ウェバー音楽のシンフォニックな響きを味わおうと思って行くと裏切られるが、観ておいて損はない、リバイバルの可能性を知らしめる傑作だ。
■ビジュアル表現が秀逸な『メイビー・ハッピー・エンディング』

近年、BWにおける存在感を年々増している韓国。米国を拠点にする韓国人クリエイターらが韓国音楽業界を題材に作った『KPOP』、韓国ミュージカル界で活躍する韓国人プロデューサーが米国の名作小説を米国のクリエイター陣と共に米国で舞台化した『グレート・ギャツビー』に続き、韓国ミュージカル界で生まれて再演が重ねられる韓国の人気作が新演出によりBW進出を果たしたのが本作だ。日本でも2020年に上田一豪演出、浦井健治主演により上演されており、またBW版の演出と装置は2022年に日本で『ガイズ&ドールズ』を手掛けたマイケル・アーデンとデイン・ラフリーとあって、日本とも縁の深い作品。
物語の舞台は韓国で、また日本版をシアタークリエで観た際には心温まる小品という印象もあったため、それがBWの大きな劇場で英語上演されるとどうなるのか、全く想像がついていなかった。だが、さすがはアーデン&ラフリー。大劇場をそれはそれは見事に使いこなし、ロボット同士の恋物語を可愛らしく切なく展開するのみならず、記憶や人権といった大きなテーマまで暗示するかのように見せてきた。それでもやはり、脚本と音楽に関してはトニー賞級とまでは言えない気がしたのだが、ビジュアル表現だけ観ていても飽きないような舞台であることは確か。とりわけ蛍のシーンはまるで魔法のように美しく、アーデンとラフリー――プラス、主演のダレン・クリス――にはぜひノミネートされてほしい。
【2024-25シーズンの新作】
*情報は2025年3月28日時点のもの
■既に上演されている作品
『BOOP!ザ・ベティ・ブープ・ミュージカル』プレビュー中/4月5日開幕予定
アニメ映画のキャラクターをJ・ミッチェルの演出・振付、D・フォスターの音楽で舞台化。
https://boopthemusical.com/
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』
同名のドキュメンタリー映画にもなったキューバ音楽のアルバムのジュークボックス。
https://buenavistamusical.com/
『永遠に美しく…』
メリル・ストリープ主演映画の舞台化。振付家として名高いC・ガテリが演出も担う。
https://deathbecomesher.com/
『Floyd Collins』プレビュー中/4月21日開幕予定
1996年にオフで高い評価を得た作品。実際にあった洞窟探検家の閉じ込め事故を描く。
https://www.lct.org/shows/floyd-collins/
『ジプシー』
日本でもたびたび上演されている名作が名優A・マクドナルド主演でリバイバル。
https://gypsybway.com/
『Just in Time』プレビュー中/4月23日開幕予定
J・グロフが米歌手ボビー・ダーリンに扮する新作。イマーシブの名手、A・ティンバース演出。
https://justintimebroadway.com/
『メイビー・ハッピー・エンディング』
日本でも上演された韓国の人気作がM・アーデン演出、D・クリス主演でBW進出。
https://www.maybehappyending.com/
『オペレーション・ミンスミート』
ロンドンで話題沸騰中。映画化もされた第二次大戦中の英国軍の“奇策”をコミカルに描く。
https://operationbroadway.com/
『Real Women Have Curves』プレビュー中/4月27日開幕予定
映画化もされているらしい同名戯曲のミュージカル化。夢を追う女性たちの物語とのこと。
https://realwomenhavecurvesbroadway.com/
『Redwood』
『ウィキッド』『アナ雪』のI・メンゼルが久々にBWに帰還。自身で原案も手掛けた新作。
https://www.redwoodmusical.com/
『スマッシュ』プレビュー中/4月10日開幕予定
大ヒットミュージカルドラマがついに本当のミュージカルに。演出はS・ストローマン。
https://smashbroadway.com/
『Stephen Sondheim’s Old Friends』プレビュー中/4月8日開幕予定
B・ピータース、L・サロンガらがソンドハイムを讃えるロンドン発のレビューがBWへ。
https://www.manhattantheatreclub.com/shows/24-25-season/stephen-sondheims-old-friends/
『サンセット大通り』7月13日まで
A・ロイド=ウェバーの名作。主演女優N・シャージンガーの降板と共にクローズする模様。
https://sunsetblvdbroadway.com/
『ラスト・ファイブ・イヤーズ』プレビュー中/4月6日開幕予定
日本でもたびたび上演されているオフ発、J・R・ブラウン音楽の名作が期間限定でオン初演。
https://thelastfiveyearsbroadway.com/
■これから始まる作品(2025-26シーズンの新作含む)
『ペンザンスの海賊』4月4日プレビュー開始/4月24日開幕予定
19世紀に初演されたコミックオペラを手練れのスタッフ陣がリメイク。R・カリムルー出演。
https://www.roundabouttheatre.org/get-tickets/2024-2025/the-pirates-of-penzance/
『Dead Outlaw』4月12日プレビュー開始/4月27日開幕予定
ミイラとして有名になった実在の人物をD・ヤズベックの音楽で描くオフの大ヒット作。
https://deadoutlawmusical.com/
『マンマ・ミーア!』8月2日プレビュー開始/8月14日開幕予定
日本でもお馴染みの作品の、BWには珍しいリバイバル(別演出)ではなくカムバック。
https://mammamiabway.com/
『The Queen of Versailles』10月8日プレビュー開始/11月10日開幕予定
『ウィキッド』の作詞作曲家と初代グリンダが再タッグ。演出と装置はアーデン&ラフリー。
https://queenofversaillesmusical.com/
【2023-24シーズンの準新作】
『キャバレー』
カンダー&エッブの名作。3月31日より『ミス・サイゴン』のE・ノブルザダが出演中。
https://kitkat.club/cabaret-broadway/
『Hell’s Kitchen』
アリシア・キーズのジュークボックス。演出は『RENT』のM・グライフ。トニー賞2冠。
https://www.hellskitchen.com/
『グレート・ギャツビー』
映画版や宝塚版でもよく知られる名作小説をJ・ハウランドの音楽で。トニー賞衣裳賞。
https://broadwaygatsby.com/
『アウトサイダー』
原作は同名小説および巨匠コッポラ監督による映画版。トニー賞作品&演出賞含む4冠。
https://outsidersmusical.com/
【ロングラン作品】
■日本で既に上演された/されている作品
『アラジン』
ディズニーアニメが舞台ならではの手法で表現された秀作。魔法の絨毯は本当に魔法。
https://www.aladdinthemusical.com/
『シカゴ』
『オペラ座の怪人』の閉幕を受け、上演中の作品としては最長ロングランとなった名物作。
https://chicagothemusical.com/
『ムーラン・ルージュ!』
2021年のトニー賞受賞作。日本版とはやはりだいぶ様相が異なるので観比べ全力推奨。
https://moulinrougemusical.com/
『SIX: The Musical』
ヘンリー8世の6人の妻たちが暴れ回る痛快作。日本版が上演された今こそ観比べたい。
https://sixonbroadway.com/
『ライオンキング』
『シカゴ』に次ぐロングラン第2位を安定飛行中の大名作。相変わらず満席を誇る。
https://www.lionking.com/
『ウィキッド』
定期的に観たい傑作。公開中の映画版は原作舞台へのリスペクトにあふれた良作だ。
https://wickedthemusical.com/
■日本未上演の作品
『&ジュリエット』
ロミジュリの後日譚をマックス・マーティンの大ヒット曲で綴るロンドン発の傑作。
https://andjulietbroadway.com/
『ヘイディズタウン』
『グレコメ』の演出家が現代的に描くギリシャ神話。2019年のトニー賞で8冠を達成。
https://www.hadestown.com/
『ハミルトン』
2016年のトニー賞総なめ作。最近ようやく、入場率が100%を超えない回も出てきた。
https://hamiltonmusical.com/
『MJ The Musical』
M・ジャクソンの伝記系ジュークボックス。各国で上演され始めており、日本でも…?
https://mjthemusical.com/
『ブック・オブ・モルモン』
2011年のトニー賞を制した、もはや古典の領域の傑作。1周回って日本語版を妄想中。
https://bookofmormonbroadway.com/
プロフィール
町田麻子(まちだ・あさこ)
1980年ロンドン生まれ、横浜育ちのミュージカル文筆家。2002年早大一文演劇専修、2022年東京藝大楽理科卒。公演パンフレット、演劇誌、WEB等で主にミュージカルの解説文、インタビューやレポート記事を執筆。10代からブロードウェイ観劇旅行を毎年続けるミュージカルおたく。趣味は翻訳版の妄想キャスティング。
町田麻子ウェブサイト
https://www.rodsputs.com/