ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド
ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド【2025年夏号】
年4回更新
第8回

今シーズンのブロードウェイ行脚は新作が出揃う前の昨年10月に敢行したため、観られた作品のうちトニー賞に絡みそうなのは『メイビー、ハッピーエンディング』と『サンセット大通り』くらいかなということで、前号のミニレポートではその2作を取り上げた。秋開幕の作品に多いパターンとして、きっと春開幕の作品の陰に隠れていくのだろうと思いながらだったのだが、蓋を開けてみたらその2作が作品賞とリバイバル作品賞に輝くという結果に。韓国発の『メイビー』が6冠を達成するとは、演出などはブロードウェイの才能が手掛けているとはいえ、なんと歴史的なトニー賞だったことだろう。ちなみに『サンセット』もロンドン発ということで、アメリカ作品に元気のないシーズンだったと言えそうだ。
そしてトニー賞が終われば、奮わなかった作品が終わるのがブロードウェイの常。今シーズンも、『ウィキッド』初代エルファバにして映画『アナと雪の女王』エルサ役のイディナ・メンゼルが久々にブロードウェイに帰還した『レッドウッド』、大ヒットミュージカルドラマを『プロデューサーズ』のスーザン・ストローマンが舞台化した『スマッシュ』、『アラジン』初代ジーニーのジェイムズ・モンロー・アイグルハートがジャズ界のレジェンドに扮した『ア・ワンダフル・ワールド』などが早々にクローズしてしまった。今号で取り上げるのはその『ワンダフル』と、さらに早々、トニー賞ノミネート発表前の昨年12月にはもうクローズしてしまっていた『タミー・フェイ』。名付けて、裏トニー賞スペシャルである。
■ピッタリの主演俳優がすべてだった『ア・ワンダフル・ワールド』(クローズ済)

J・M・アイグルハートがジャズ界のレジェンド、サッチモ(愛称)ことルイ・アームストロング役だなんていかにもピッタリじゃないか!と期待して観に行き、実際ピッタリではあったのだが、アイグルハートがサッチモを演じたことがすべてのような作品。要はジュークボックスなので、サッチモの音楽が大好きな人には見応えがあっただろうと思うし、サッチモに特に思い入れがなくとも、共同演出家でもあるアイグルハートが想いを込めて歌う最終ナンバー「What a Wonderful World」にはグッと来るものがあった。ゆえに最終的にはそれなりに満足した気分で劇場を後にできはしたのだが、脚本のドラマ性、セットの面白味、振付の独創性ともどもトニー賞レベルとは思えず、トニー賞に絡むとしたら主演男優賞ノミネートくらいだろうなあと思っていたら、その通りの結果になったのだった。
■テレビ伝道師夫妻を描くエルトン・ジョンの新作『タミー・フェイ』(クローズ済)

ロンドンではそこそこ評判だったようだが、ブロードウェイでは開幕の翌月にもうクローズし、トニー賞からも完全にスルーされたエルトン・ジョンの新作。タイトルは、1970~80年代にかけて活躍した実在のテレビ伝道師ジム・ベイカーの妻の名で、彼女の半生は『タミー・フェイの瞳』という伝記映画にもなっているらしい。この夫妻のことはおろか、テレビ伝道師という職業にも全く馴染みがなかったため、軽く調べてから観劇に臨んだ。度重なるスキャンダルによって人気者の座から派手に転落した夫妻とのことで、その半生にミュージカルはどんな結末をつけるのか、夫婦愛か信仰か、はたまた女性の自立なのか、などと思いながら見守っていたら、人生色々あるけど人と人は影響を与え合ってるものですよね、という普遍的なところに持っていっていて、物語としては悪くなかったと思う。
が、いかんせん音楽もセットも振付も盛り上がりに欠けていた。敗因はそのあたりと、あとはおそらく劇場にあるのではないだろうか。長らく改修のため休館していたパレス劇場での上演で、個人的には久々にパレスの中に入りたいというのもこの作品を選んだ動機の一つだったのだが、ブロードウェイのど真ん中にある、過去には『美女と野獣』や『アイーダ』を上演していた大劇場である。ロンドンでは小劇場での上演だったようで、進出するならオフ・ブロードウェイにしておけば良かったのに、と思わずにはいられなかった。
【2025-26シーズンの新作】
*情報は2025年6月30日時点のもの
『マンマ・ミーア!』8月2日プレビュー開始/8月14日開幕予定
日本でもお馴染みの作品の、BWには珍しいリバイバル(別演出)ではなくカムバック。
https://mammamiabway.com/
『ラグタイム』9月26日プレビュー開始/10月16日開幕予定
日本での初上演が記憶に新しい作品の、BWでは2度目のリバイバル。期間限定。
https://www.lct.org/shows/ragtime/
『ビートルジュース』10月8日開幕予定
ジェシー主演の日本版も好評の作品がなんと2度目のカムバック。期間限定。
https://beetlejuicebroadway.com/
『The Queen of Versailles』10月8日プレビュー開始/11月10日開幕予定
『ウィキッド』作詞作曲家と初代グリンダが再タッグ。演出と装置は『メイビー』のコンビ。
https://queenofversaillesmusical.com/
『チェス』10月15日プレビュー開始/11月16日開幕予定
日本でも何度か上演された80年代の名作が豪華キャストでリバイバル。M・メイヤー演出。
https://chessbroadway.com/
【2024-25シーズンの準新作】
『ブープ!ザ・ミュージカル』7月13日まで
アニメ映画のキャラクターをJ・ミッチェルが舞台化。トニー賞3部門ノミネート。
https://boopthemusical.com/
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』
キューバ音楽のアルバムのジュークボックス。トニー賞振付・編曲・音響・助演女優賞。
https://buenavistamusical.com/
『永遠に美しく…』
メリル・ストリープ主演映画をC・ガテリの演出・振付で舞台化。トニー賞衣裳賞。
https://deathbecomesher.com/
『ジプシー』
日本でもたびたび上演されている名作。トニー賞リバイバル作品賞含む5部門ノミネート。
https://gypsybway.com/
『ジャスト・イン・タイム』
J・グロフが米歌手ボビー・ダーリンに扮する新作。トニー賞6部門ノミネートも無冠。
https://justintimebroadway.com/
『メイビー、ハッピーエンディング』
韓国発の作品がトニー賞を席巻。作品・演出・脚本・楽曲・装置・主演男優賞の6冠を達成した。
https://www.maybehappyending.com/
『オペレーション・ミンスミート』
第二次大戦中の英国軍の“奇策”を描くロンドンのヒット作だが、トニー賞では奮わず1冠。
https://operationbroadway.com/
『パイレーツ!ザ・ペンザンス・ミュージカル』7月27日まで
19世紀に初演されたコミックオペラのリメイク。トニー賞リバイバル作品賞ノミネート。
https://www.roundabouttheatre.org/get-tickets/2024-2025/the-pirates-of-penzance/
『サンセット大通り』7月20日まで
A・ロイド=ウェバーの名作。トニー賞リバイバル作品・主演女優・照明賞。ラストチャンス!
https://sunsetblvdbroadway.com/
【ロングラン作品】
■日本で既に上演された/されている作品
『アラジン』
ディズニーアニメが舞台ならではの手法で表現された秀作。魔法の絨毯は本当に魔法。
https://www.aladdinthemusical.com/
『キャバレー』10月19日まで
カンダー&エッブの名作。7月20日まで『ミス・サイゴン』のE・ノブルザダが出演中。
https://kitkat.club/cabaret-broadway/
『シカゴ』
『オペラ座の怪人』の閉幕を受け、上演中の作品としては最長ロングランとなった名物作。
https://chicagothemusical.com/
『ムーラン・ルージュ!』
2021年のトニー賞受賞作。日本版とはやはりだいぶ様相が異なるので観比べ全力推奨。
https://moulinrougemusical.com/
『SIX: The Musical』
ヘンリー8世の6人の妻たちが暴れ回る痛快作。日本版が上演された今こそ観比べたい。
https://sixonbroadway.com/
『ライオンキング』
『シカゴ』に次ぐロングラン第2位を安定飛行中の大名作。相変わらず満席を誇る。
https://www.lionking.com/
『ウィキッド』
定期的に観たい傑作。待望の映画版後編の予告編が公開され、日本公開情報が待たれる。
https://wickedthemusical.com/
■日本未上演の作品
『&ジュリエット』
ロミジュリの後日譚をマックス・マーティンの大ヒット曲で綴るロンドン発の傑作。
https://andjulietbroadway.com/
『ヘイディズタウン』
『グレコメ』の演出家が現代的に描くギリシャ神話。2019年のトニー賞で8冠を達成。
https://www.hadestown.com/
『ハミルトン』
2016年のトニー賞総なめ作。最近ようやく、入場率が100%を超えない回も出てきた
https://hamiltonmusical.com/
『ヘルズ・キッチン』
アリシア・キーズのジュークボックス。演出はM・グライフ。2024年トニー賞で2冠。
https://www.hellskitchen.com/
『MJ The Musical』
M・ジャクソンの伝記系ジュークボックス。各国で上演され始めており、日本でも…?
https://mjthemusical.com/
『ブック・オブ・モルモン』
2011年のトニー賞を制した、もはや古典の領域の傑作。1周回って日本語版を妄想中。
https://bookofmormonbroadway.com/
『グレート・ギャツビー』
宝塚版でもよく知られる名作小説をJ・ハウランドの音楽で。2024年トニー賞衣裳賞。
https://broadwaygatsby.com/
『アウトサイダー』
原作は同名小説および巨匠コッポラ監督による映画版。2024年トニー賞で作品賞含む4冠。
https://outsidersmusical.com/
プロフィール
町田麻子(まちだ・あさこ)
1980年ロンドン生まれ、横浜育ちのミュージカル文筆家。2002年早大一文演劇専修、2022年東京藝大楽理科卒。公演パンフレット、演劇誌、WEB等で主にミュージカルの解説文、インタビューやレポート記事を執筆。10代からブロードウェイ観劇旅行を毎年続けるミュージカルおたく。趣味は翻訳版の妄想キャスティング。
町田麻子ウェブサイト
https://www.rodsputs.com/