ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド
ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド【2025年秋号】
年4回更新
第9回

アメリカ発の新作ミュージカルの発表が全然なかったり、『ジプシー』『キャバレー』が予定より早くクローズしてしまったりと、元気のない印象が拭えない最近のブロードウェイ。どうしても観たい作品が個人的にもなかったため、この夏は6年ぶりにロンドンを訪れたところ、こちらは元気いっぱいだった。特に新演出版『エビータ』とディズニーの新作『ヘラクレス』は、すぐにでもブロードウェイ進出を果たしそうな素ん晴らしい出来。日本版の上演が発表されたばかりの『バーレスク』、ジェリー・ミッチェルの新作『プラダを着た悪魔』、今年のオリヴィエ賞を受賞した『ベンジャミン・バトン』なども、いずれ進出するだろう。その暁にはしれっとこちらでレポートするとして、今号は昨年10月のブロードウェイ行脚の最終回。2024年のトニー賞を賑わせた、『アウトサイダー』と『ヘルズ・キッチン』を取り上げる。
それにしても、ブロードウェイもロンドンもなんとオタクに優しい街だろう。いずれも物価高と円安によりチケット代が目をひんむくほど高く、正規の料金では毎日マチソワなんてとても無理なのだが、当日券を激安で販売してくれるtktsやrushを活用すると、人気作品では6万円以上もする席が6000円ほどで買えてしまったりするのだ。何もオタクのためにやっているわけではなく、むしろ若者や初心者が入りやすいようにとの配慮ではあろうが、観劇旅行をするオタクの頼もしい味方である事実は変わらない。また、おそらくは一般客がメインだから成り立つことであって、オタクに支えられている日本でそんなことをしたら壮絶な争奪戦になることが予想されるが、やはり羨ましく思わずにはいられなかった。
■ミュージカルというより音楽劇に近かった『アウトサイダー』

トニー賞で作品・演出・照明・音響の4賞に輝いた作品だが、個人的にはこの旅で観た9本の中で最も楽しめなかった。原因はおそらく、日本とは違い過ぎるアメリカの若者の物語がピンと来なかったことと、ミュージカルというより音楽劇に近い作りだったこと。音楽の力を活用してこちらの感情を揺り動かすようなことが行われず、ストレートプレイのおしゃれな演出の一環として歌と踊りがある感じなのだ。舞台の床に砂がまかれていて俳優の動きが激しくなる度に砂がキラキラと舞い上がるセットや、喧嘩をコンテンポラリーダンスのようなムーブメントで表した振付など、演出は確かにトニー賞に値する面白さだと感じたが、作品賞まではどうなんだろう……というのは物語にピンと来ていない外国人の身で言うべきではないにしても、日本版妄想が膨らまなかったことは少なくとも確かだ。
■♪ニューヨ~~~ク!に送られて街に繰り出せる『ヘルズ・キッチン』

アリシア・キーズの伝記系ジュークボックスということで、『ビューティフル』や『オン・ユア・フィート!』のように半生が綴られるのかと思いきや、彼女が歌手になる前の物語。スターの舞台裏ではなく、普通の女子高生の家族や師弟関係を描くとは、ジュークボックスも多様になったものである。ただしその物語および演出は、トニー賞2冠と言ってもいずれも俳優賞であることにも表れている通り、正直そんなによく出来てはいない。見どころは何と言っても、最終ナンバー「Empire State of Mind」。たとえ曲名は知らなくとも、「♪In New York」というサビにはきっと聞き覚えがあり、たとえなかったとしても、ニューヨークに行けば街中で必ず耳にするはずだ。そんな曲が最後に歌われるミュージカルが作られたのはきっとブロードウェイの必然で、そんな曲に送られてニューヨークの街に繰り出せるのはとても楽しい。それだけに、この先何十年もロングランされるような傑作に仕上がるとなお良かったとも思ってしまうが、観光気分で楽しむにはおあつらえ向きの一本だ。
【2025-26シーズンの新作】
*情報は2025年9月19日時点のもの
『マンマ・ミーア!』上演中
日本でもお馴染みの作品の、BWには珍しいリバイバル(別演出)ではなくカムバック。
https://mammamiabway.com/
『ラグタイム』プレビュー中/10月16日開幕予定
日本での初上演が記憶に新しい作品の、BWでは2度目のリバイバル。期間限定。
https://www.lct.org/shows/ragtime/
『ビートルジュース』10月8日開幕予定
ジェシー主演の日本版も好評の作品がなんと2度目のカムバック。期間限定。
https://beetlejuicebroadway.com/
『The Queen of Versailles』10月8日プレビュー開始/11月10日開幕予定
『ウィキッド』作詞作曲家と初代グリンダが再タッグ。演出と装置は『メイビー』のコンビ。
https://queenofversaillesmusical.com/
『チェス』10月15日プレビュー開始/11月16日開幕予定
日本でも何度か上演された80年代の名作が豪華キャストでリバイバル。M・メイヤー演出。
https://chessbroadway.com/
『two strangers(carry a cake across new york)』11月1日プレビュー開始/11月20日開幕予定
イギリス発の恋愛コメディ。本作がミュージカルデビューのコンビが作詞作曲している。
https://twostrangersmusical.com/
【2024-25シーズンの準新作】
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』
キューバ音楽のアルバムのジュークボックス。トニー賞振付・編曲・音響・助演女優賞。
https://buenavistamusical.com/
『永遠に美しく…』
メリル・ストリープ主演映画をC・ガテリの演出・振付で舞台化。トニー賞衣裳賞。
https://deathbecomesher.com/
『ジャスト・イン・タイム』
J・グロフが米歌手ボビー・ダーリンに扮する新作。トニー賞6部門ノミネートも無冠。
https://justintimebroadway.com/
『メイビー、ハッピーエンディング』
韓国発の作品がトニー賞を席巻。作品・演出・脚本・楽曲・装置・主演男優賞の6冠を達成した。
https://www.maybehappyending.com/
『オペレーション・ミンスミート』
第二次大戦中の英国軍の“奇策”を描くロンドンのヒット作だが、トニー賞では奮わず1冠。
https://operationbroadway.com/
【ロングラン作品】
■日本で既に上演された/されている作品
『アラジン』
ディズニーアニメが舞台ならではの手法で表現された秀作。魔法の絨毯は本当に魔法。
https://www.aladdinthemusical.com/
『シカゴ』
『オペラ座の怪人』の閉幕を受け、上演中の作品としては最長ロングランとなった名物作。
https://chicagothemusical.com/
『ムーラン・ルージュ!』
2021年のトニー賞受賞作。日本版とはやはりだいぶ様相が異なるので観比べ全力推奨。
https://moulinrougemusical.com/
『SIX: The Musical』
ヘンリー8世の6人の妻たちが暴れ回る痛快作。日本版が上演された今こそ観比べたい。
https://sixonbroadway.com/
『ライオンキング』
『シカゴ』に次ぐロングラン第2位を安定飛行中の大名作。相変わらず満席を誇る。
https://www.lionking.com/
『ウィキッド』
定期的に観たい傑作。待望の映画版後編『永遠の約束』の日本公開は来年3月予定。
https://wickedthemusical.com/
■日本未上演の作品
『&ジュリエット』
ロミジュリの後日譚をマックス・マーティンの大ヒット曲で綴るロンドン発の傑作。
https://andjulietbroadway.com/
『ヘイディズタウン』
『グレコメ』の演出家が現代的に描くギリシャ神話。2019年のトニー賞で8冠を達成。
https://www.hadestown.com/
『ハミルトン』
2016年のトニー賞総なめ作。最近ようやく、入場率が100%を超えない回も出てきた。
https://hamiltonmusical.com/
『ヘルズ・キッチン』
アリシア・キーズのジュークボックス。演出はM・グライフ。2024年トニー賞で2冠。
https://www.hellskitchen.com/
『MJ The Musical』
M・ジャクソンの伝記系ジュークボックス。各国で上演され始めており、日本でも…?
https://mjthemusical.com/
『ブック・オブ・モルモン』
2011年のトニー賞を制した、もはや古典の領域の傑作。1周回って日本語版を妄想中。
https://bookofmormonbroadway.com/
『グレート・ギャツビー』
宝塚版でもよく知られる名作小説をJ・ハウランドの音楽で。2024年トニー賞衣裳賞。
https://broadwaygatsby.com/
『アウトサイダー』
原作は同名小説および巨匠コッポラ監督による映画版。2024年トニー賞で作品賞含む4冠。
https://outsidersmusical.com/
プロフィール
町田麻子(まちだ・あさこ)
1980年ロンドン生まれ、横浜育ちのミュージカル文筆家。2002年早大一文演劇専修、2022年東京藝大楽理科卒。公演パンフレット、演劇誌、WEB等で主にミュージカルの解説文、インタビューやレポート記事を執筆。10代からブロードウェイ観劇旅行を毎年続けるミュージカルおたく。趣味は翻訳版の妄想キャスティング。
町田麻子ウェブサイト
https://www.rodsputs.com/