ステージぴあExtra ~フリーマガジン「ステージぴあ」連動企画~
『Take Me Out』7年ぶりの再演 玉置玲央が語るメイソン役への想いと挑戦
第2回

藤田俊太郎の演出により2016年、18年と上演され、そのメッセージ性の高さから大きな反響を呼んだ『Take Me Out』。その7年ぶりの上演が決定し、18年版に続きメイソン・マーゼック役を玉置玲央が演じる。近年俳優として大きな飛躍を遂げている玉置だが、再びのメイソン役に挑むに当たり、今どんな想いを胸に秘めているのだろうか。
7年の時を経て、再び『Take Me Out』の舞台に立つ玉置玲央。作品への強い想いが、言葉の端々から溢れ出る。
「いい座組で、いいクリエイションができたんです。でもさらにその先に、まだ見たことのない風景が広がっているんじゃないか。もうちょっと掘れる、知れる、探せるんじゃないかと思って。だから『早くまたやろうぜ』って話はこれまでもよく出ていたんです。ただその分年齢を重ね、肉体的にはできなくなったことはもちろんあると思います。と同時に、できるようになったことももちろんあって。だから7年前を追わない、というのかな。前回はできていたのにとか、悔しいとか言っていてもしょうがないですから。ある意味年齢を重ねたことを豊かさと捉え、板の上に乗せられたらいい。それが再演ならではの面白さであり、また難しさでもあるのではないかと思います」

再演からの7年で、演劇界のみならず、世界も様変わりしてしまったと言える。それはこの作品に対する見え方もまた別物にした。
「僕らを取り巻く状況、また演劇を取り巻く状況も大きく変わりましたからね。人種問題や思想の違い、セクシャリティに対する意識の変化って本当に目まぐるしくて。怖い話、戦争も始まって、しかもそれが当たり前になりつつある。そういった中でお芝居だからこそ突き刺さる命題もあれば、お芝居でこういうものは見たくないと思う人もいるわけで。コロナ禍にもありましたよね。なんの前情報もないままに観に行って、その作品がコロナものだった時の『もうお腹いっぱいだよ……』みたいな感覚(苦笑)。そういった状況を経て、今この作品がどのように受け止められるのか。それは僕自身、非常に楽しみです」
玉置が演じるのは、物語の語り手で、メジャーリーガーの大スター、ダレン・レミングの会計士メイソン・マーゼック。
「前回取り組んだ方向性から大きくは変わらないと思っています。ただいくら自分の中でメイソン像を組み立てても、共演者次第のところはありますから。そういう意味では今回も章平がダレンを演じてくれるので、変な話、甘えてしまってもいいのかなと思っています。章平とのやり取りの中で生まれるものってたくさんあって、今回も本当に心強いですし、章平がいればなんでもできる気がする。そうやって章平との間に生まれるものがありつつ、同時にメイソンは外からチームを眺めている存在でもあって。だからこのチームのみんながどういう方向性で、どういう道を辿って役作りをしていくのか。そういったことも拾いつつ、メイソン像を作っていけたらいいのかなと思っています」
そんなメイソンの“核”になることは?と訊ねると、丁寧に言葉を選びながらこう表現する。
「彼の中には『誰か自分を救ってくれ、自分のことを愛してくれ』っていう根幹的な祈りみたいなものがあって、それがメイソンの“核”ではないかなと。でも彼自身、それを諦めてしまっている部分があるんですよね。というのも戯曲にもはっきりとは書かれていませんが、、メイソンの語る言葉や境遇から、彼はユダヤ人だと推測できる。そんなメイソンが、ダレンやメジャーリーガーたちと出会うことによって、どんどん新しい価値観を享受していって。価値観も主義も人種もバラバラなメジャーリーガーたちが、いざ試合となった途端、野球という同じ目標に向かうことができるわけですから。それを知れたっていうことが、メイソンの祈りの成就だったんじゃないかなと思います」

演出を手がけるのは、初演から引き続き藤田俊太郎。
「なかなか日本の演出家にはいないタイプで、非常に信頼している演出家のひとりです。自分が間違えたと思ったらきちんと考えを翻せますし、座組の意見を拾い、自分の糧とし、さらに座組に還元できる人。前回から7年を経てお互いどう変化したのか、今から稽古がすごく楽しみですね。ひとつ言っておきたいのは、僕に気を遣わないで欲しいってこと。たまにはもっとお行儀悪くなればいいのになって思います(笑)」
自分の立ち位置、居場所がわかるような作品になったら嬉しい
また今回は初の試みとして、オリジナルメンバー中心の“レジェンドチーム”と、オーディション組の“ルーキーチーム”の2チーム体制で上演する。
「僕としてはまだその意図を探りかねているところです。というのもチーム毎の稽古になるようですが、僕は分かれて創作するよりも、ちゃんと交流して、混ぜ合って作ったほうが豊かなんじゃないかと思っていて。ただトミー(=富岡晃一郎)がメイソンというのは、さすが藤田さん、お目が高いなと思いました。だって絶対ハマり役だと思うんですよ。ビジュアルにしろ、性格にしろ、トミーのほうが絶対メイソンには合っている。トミーのメイソンがすごく気になりますし、できれば存分にパクりたい(笑)。ただひとつ確実なのは、メイソンとダレンの関係性においては、僕と章平には他の追随を許さない自信があるということ。それを誇りに、僕らは僕らなりに頑張っていきたいと思います」
最後に玉置は、観客に向けてこう願うように言葉を綴った。
「今自分はどこにいて、なにを考えて、自分を取り巻く環境はどんな状況にあるのか。はたと振り返れるような作品になったらいいですね。あなたを取り巻く世界ってこんなですよって、自分の立ち位置、居場所がわかるような作品になったらとても嬉しいです」
取材・文:野上瑠美子 撮影:荒川潤
ぴあアプリでは玉置玲央さんのアプリ限定カットをご覧いただけます。ぴあアプリをダウンロードすると、この記事内に掲載されています。
公演情報
舞台『Take Me Out』2025
作:リチャード・グリーンバーグ
翻訳:小川絵梨子
演出:藤田俊太郎
出演:
[ジェンドチーム] 玉置玲央、三浦涼介、章平、原嘉孝、小柳心、渡辺大、陳内将、加藤良輔、辛源、玲央バルトナー、田中茂弘
[ルーキーチーム] 富岡晃一郎、八木将康、野村祐希、坂井友秋、安楽信顕、近藤頌利、島田隆誠、岩崎MARK雄大、宮下涼太、小山うぃる、KENTARO
ベンチ入り(スウィング):本間健太(レジェンドチーム)、大平祐輝(ルーキーチーム)
【東京公演】
2025年5月17日(土)~6月8日(日)
会場:有楽町よみうりホール
※全30公演(レジェンドチーム20回、ルーキーチーム10回)
【愛知(名古屋)公演】
2025年6月14日(土)・15日(日)
会場:Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
※全3公演(レジェンドチーム3回、デイビー・バトル役は宮下涼太が出演)
【岡山公演】
2025年6月20日(金)・21日(土)
会場:岡山芸術創造劇場ハレノワ 中劇場
※全3公演(レジェンドチーム3回、デイビー・バトル役は宮下涼太が出演)
【兵庫公演】
2025年6月27日(金)~29日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
※全4公演(レジェンドチーム4回、デイビー・バトル役は宮下涼太が出演)
チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2557300
公式サイト
https://takemeout.jp/
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