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尾上松也が歌舞伎「刀剣乱舞」第二弾を語る──芝居と舞踊の二部構成でさらに歌舞伎らしく
第4回

「刀ステ」(ストレートプレイ)「刀ミュ」(ミュージカル)など、さまざまなメディアミックスで好評を得ているゲーム「刀剣乱舞」が、新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』として上演され、「刀かぶ」と呼ばれて大評判になったのが2年前。その反響を受けて、待望の第二弾『刀剣乱舞 東鑑雪魔縁』が上演される。歌舞伎が持つ様式美や大胆な発想で、今回は何を生み出すか。企画・演出・出演を担う尾上松也が語る。
「ビジュアル解禁したときは本当に緊張しました」
── 歌舞伎『刀剣乱舞』第二弾の上演が決まったのは、やはり第一弾が好評だったからこそだと思います。まずは23年上演の歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』にどんな反響があったかというところから伺えたらと思います。
これはいろいろなところでお話してきたのですが、初日からお客様の高揚感が伝わってきまして、出演者一同感動しました。前作は十三代将軍足利義輝が討たれた「永禄の変」をもとに物語を作ったのですが、主人公の三日月宗近が義輝を斬らざるを得なかった場面では、暗転になってからも拍手が鳴り止まなかった。その後も千穐楽まで多くの方に喜んでいただき愛していただけまして。長い年月かけて作り上げてきた甲斐があったと思いました。

── 上演に向けては、松也さんが企画、演出も担われました。長い年月かけたとおっしゃったようにご苦労があったと思います。一番にどんなこだわりを持って作られましたか。
こだわったところはたくさんありますので一番を挙げるのは難しいのですが、まず最初の段階で大切にしたのは、“刀剣乱舞ファン”の方たちにも納得していただくキャラクターにすることでした。ゲーム原作に忠実である必要はないと思いましたが、歌舞伎の形に落とし込まないと意味がないとは思っていました。ここだけは原作を生かして残しておくべきというポイントを、ゲーム制作会社さんに細かく教えていただきながら、あまり違和感がないよう慎重に判断しながら作っていき、僕が演じた三日月宗近から順にビジュアル解禁したときには本当に緊張しました。三日月は衣裳こそほとんど変えていませんでしたが、髪型を歌舞伎らしくするために試行錯誤を繰り返したので不安で。三日月をはじめすべてのキャラクターを受け入れていただくことができたときには本当に安心しました。もちろん歌舞伎ファンの方がご覧になっても、いつもの歌舞伎と変わりないと感じてもいただけるようなビジュアルにしたかったですので。そこは衣裳のアイテムやデザインを工夫しましたね。

── ストーリー作りや演出においてこだわられたことは?
メインストーリーももちろん大事なのですが、実はその物語に裏メッセージを込めたんです。事前に本物の刀剣を触らせていただいたり、刀を作る鍛冶場を見せていただける機会があったのですが、刀ができた瞬間、本当に命が生まれたように感じて。こうして魂を込めて作っている刀鍛冶の方々がいるからこそ刀があり、「刀剣乱舞」があるのだなと思った経験から、その魂を少しでも感じていただきたくて、舞台の始まりと終わりに刀を打つ音を響かせて、幕閉めには刀剣男士たちが元の刀の姿に戻る演出にしました。その演出もきちんとお客様に伝わった手応えがありましたので、非常に嬉しかったですね。また舞台上では、映像などの技術的なところにはあまり頼らず、できるだけ歌舞伎の古典的な手法を使って表現することを優先しました。
── そんな細やかなこだわりがあったからこその反響の大きさだったんですね。でも、それだけの好評を受けて第二弾を上演するとなると、プレッシャーがありそうですね。
それは自分でも感じています(笑)。もちろん第一弾を超える作品をと思うのですが、それとは別に、第二弾があればやりたいなと思っていたことがありますので、まずそれを形にすることを優先するなかで、前回以上のいい作品になればなと思っています。
今回は髭切、膝丸が活躍!? 前回心残りだった“踊り”もフィーチャー
── そのやりたかったことというのは?
お芝居と踊りの二部構成という、歌舞伎らしい上演形態にすることです。第一弾でも、お芝居のなかに踊りの場面はあったのですが、本当に少しでしたし、六振りの刀剣男士のうち四振りでの踊りでしたので、全員で踊れなかったのが心残りでした。ですので、次回は二部構成にして、踊りをきちんとやりたいという構想がありました。今度は八振りの刀剣男士が出ますが、それぞれの踊りを作って、最後に総踊りができたらと考えています。
── 今回の八振りは、松也さんが三日月宗近、中村鷹之資さんが同田貫正国、中村莟玉さんが髭切、上村吉太朗さんが膝丸、河合雪之丞さんが小烏丸を前回に続いて演じられ、尾上左近さんの加州清光、中村歌昇さんの陸奥守吉行、中村獅童さんの鬼丸国綱が加わります。新たな三振りはどう決められたんですか。

出演してくださる役者さんに合うキャラクターにすることが一番重要と思っておりますので、いくつか候補をピックアップして、そのなかから僕が選びました。実は、出演に関係なくこの方にはこのキャラクターを勤めていただきたいという極秘の構想リストを作っていまして(笑)。そのなかではずいぶん前から、左近くんの第一候補は加州清光でした。歌昇くんと獅童さんはいくつも候補がありまして悩みましたが、歌昇くんにはビジュアルが一番似合いそうな陸奥守吉行を勤めていただき、獅童さんは、やはり天下五剣を勤めていただきたく鬼丸国綱になりました。
── ストーリーのほうはどのように決められているのでしょうか。
前回は紆余曲折あったのちに、僕が演じる候補として三日月が上がり、三日月の最初の持ち主が足利義輝だと言われておりますので義輝の物語になりました。今回は、先程の踊りと同じく、次は髭切と膝丸が中心となる物語にしたいという構想が、早くから僕のなかにあったんです。というのも、毎回三日月宗近が主役という物語を作るのにも限界がありまして(笑)。せっかく若手の皆さんに出演していただいたのに、前回は、髭切、膝丸の活躍が少しだけしかありませんでしたので、今度は彼らをメインに描けるミッションを作りたいなと決めていたんです。
── では、髭切と膝丸にゆかりがある物語になるわけですね。どんな時代のどんな話になるのでしょうか。
まだ細かいところは詰められていませんが、鎌倉時代の源実朝の暗殺をメインに考えています。その事件に直接関わりがあるわけではないのですが、髭切と膝丸は源氏の重宝ですから、どういうストーリーで絡んでいくか、楽しみにしていただきたいです。

── 別立ての舞踊も、そのストーリーを絡めたりされるのでしょうか。
ストーリーが重要な要素を占めるわけではないのですが、鎌倉でのミッションを完遂した刀剣男士たちが帰ってきて踊っているというイメージにしたいなとは思っております。それぞれの踊りでは、たとえばキャラクターの生い立ちを見せたり……いや、まだまったく決めていませんが(笑)。また総踊りでは、そこで流れる音楽が“「刀かぶ」といえばこの曲”という楽曲になればいいなとも考えています。そこは、前回のメインテーマの曲を使うのか、新しく作り直すのか、これから音楽の中井智弥さんとまた新たにいろいろ挑戦していきたいと思っています。
歌舞伎は“永遠に続く演劇”。チャンスを逃さずチャレンジしていきたい
── 演者としては今回も三日月宗近で登場されますが、どんなチャレンジができればと考えておられますか。
前回は多くの方に、「こんな感情的な三日月を観たことがない」という感想をたくさんいただきましたので、今回も原作とはちょっと違う、歌舞伎らしい三日月は残しつつ。でも、三日月として出てくるのはたぶん少しで、他にもいろいろ構想がありまして、そちらのほうが大変だろうなと思っています(笑)。
── 企画・演出もされているのに、なぜそんな大変な道を選ばれるのですか(笑)。
本当ですよね。三日月でちょっとだけ出ていいとこどりをするということもできなくはないのですが。そしてあとはみんなで楽しく踊って終わるなどできれば最高なんですけど(笑)。ですが、自分が企画をしていますので、自分だけ楽をするわけにもいかない。早替りなど、歌舞伎ならではの演出もお見せして、皆さんに楽しんでいただけたらと思っています。
── 「刀剣乱舞」という題材が歌舞伎にもたらす可能性みたいなものは、第二弾に向かっていて改めてどう感じておられますか。
歌舞伎はとにかく柔軟で、いろいろなところから題材を持ってきて新作を作るということを、昔から続けてきている演劇です。そのなかでも「刀剣乱舞」は、刀剣男士が歴史を守る存在ですので、歌舞伎との相性が良いですし、自由度も高いコンテンツですので、歌舞伎としてさまざまなアレンジができると思っています。歌舞伎には、どんなジャンルの原作でも力技で歌舞伎として表現ができる強さがあります(笑)。他の演劇にはない表現もできる。観てくださる方がいらっしゃれば永遠に続く演劇なのではないかなと思っています。そこに、「刀剣乱舞」のような若い世代の方にも興味を持っていただけるコンテンツがあればなおさら良いのではないでしょうか。これからもチャレンジしていって、歌舞伎が続いていくよう、みんなで力を合わせていきたいと思っています。
取材・文:大内弓子 撮影:荒川潤
ぴあアプリでは尾上松也さんのアプリ限定カットをご覧いただけます。ぴあアプリをダウンロードすると、この記事内に掲載されています。
公演情報
歌舞伎「刀剣乱舞」
『東鑑雪魔縁(あずまかがみゆきのみだれ)』
大喜利所作事『舞競花刀剣男士(まいきそうはなのつわもの)』
原案:『刀剣乱舞ONLINE』より(DMM GAMES/NITRO PLUS)
脚本:松岡亮 演出:尾上菊之丞 尾上松也
出演:尾上松也、中村歌昇、中村鷹之資、中村莟玉、尾上左近、上村吉太朗、河合雪之丞、中村獅童 ほか
【東京公演】
2025年7月5日(土)~7月27日(日)
会場:新橋演舞場
【福岡公演】
2025年8月5日(火)~8月11日(月・祝)
会場:博多座
【京都公演】
2025年8月15日(金)~8月26日(火)
会場:南座
チケット情報
https://w.pia.jp/t/kabuki-toukenranbu/
公式サイト:
https://kabuki-toukenranbu.jp/
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