没後10年 井上ひさし展―希望へ橋渡しする人
20/10/10(土)~20/12/6(日)
世田谷文学館

撮影:佐々木隆二
井上ひさし(1934-2010)の紡ぎ出した劇作・小説・ことばから、私たちはどれほど日本語の豊かさを教えられたことだろう。また、その明るく闊達な笑いを通して、どれほど多くの人生と世界をめぐる問題に気づかされたことだろう。
井上ひさし最後の戯曲『組曲虐殺』(2009)は、プロレタリア作家・小林多喜二を描いた評伝劇であると同時に、活動家であった井上の父親の影も重ね、また後年、社会的発言も積極的に行った井上自身の強い想いが込められた作品だ。
「絶望するには、いい人が多すぎる。希望を持つには、悪いやつが多すぎる。」という劇中の有名な多喜二のセリフがあるが、このあとに、実は次のことばが続く。
絶望から希望へ橋渡しをする人がいないものだろうか……いや、いないことはない。
「橋渡しをする」その人こそ、井上ひさしだったのではないだろうか。「絶望」的な状況の中でも、ほんの少しだけ上を向いてみようと思わせる、まさに「希望」へと誘う「やさしく、ふかく、おもしろい」井上ひさしのことばを、没後10年を経た今だからこそ私たちが求めていることを、本展をとおして、あらためて確かめていきたいと思う。
なお、本展は、短期間ではあるが世田谷にも暮らした井上ひさしを顕彰し、当館の開館25周年という記念の年に開催する待望の展覧会である。