感覚の領域 今、「経験する」ということ
22/2/8(火)~22/5/22(日)
国立国際美術館

現代美術の分野で独自の視点と手法によって、実験的な創作活動を展開している7名の美術家を紹介する展覧会を開催する。
今日、人類は数々の地球規模の困難な問題に直面している。人々を取り巻く環境は激変し、それが一人一人の心のありように大きな影響を及ぼしている。さらに、昨今のコロナ禍によって、世の中の混迷の度合いはより深まっていった。われわれの生活習慣は大きく変化し、日常生活において多くの行動が制限される中で、新しい経験のあり方が問われるようになった。
そのような状況の中で、現代美術は、人々に多様な経験の機会を提供する媒体として注目を集めている。本展の7名の作品においても、その経験の質はさまざまだ。全身の感覚を伴う身体的なもの(飯川雄大、今村源)から、瞼の内側に生起する生理的な反応へと訴えかけるもの(伊庭靖子、中原浩大、名和晃平)。あるいは、記憶や想像力を動員する思考的なもの(大岩オスカール、藤原康博)まで、それぞれが経験の多様性を示唆している。
その意味において、「美術=視覚芸術(ビジュアルアート)」という捉え方は、すでに過去のものになったと言えるのかもしれない。人間の感覚における「視覚」の優位性は依然として保たれているとはいえ、現代美術は、今や身体を含めた全感覚的な存在になったと考えられるからだ。美術とは、視覚の可能性の限界を押し広げようとする人類の挑戦であった時代を経て、今や、私たちのあらゆる感覚器官を稼働させることによって遭遇する、新しい世界のイメージを開拓する行為であると考えることができるのだ。それを「感覚の領域」の拡大と言い表してよいのではないだろうか。
本展は、こうした今日の美術と人間の感覚を取り巻く状況を踏まえながら、美術家たちの進行形の状態にある先鋭的な試みに焦点を当てて紹介する。それらは、今まさに生起しつつある、リアルな世界の反映でもある。展示空間は、さながら「感覚の実験室」に見立ててもいいだろう。鑑賞者は、作品が完成された表現であると同時に、これから、まさに何物かになろうしている、可変的な存在であることを理解されることだろう。本展を通して、多くの方々に美術家たちのユニークな作品と、そこに託されたメッセージを、さまざまな感覚の交錯する場の中で体験していただきたいと思う。