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project N 85 水戸部七絵

22/1/13(木)~22/3/25(金)

東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール

《I choose to do more.》 油彩, 麻, パネル 122.0 × 80.0 cm 2021 photo: Atsushi Yoshimine

決してエキセントリックではないが、水戸部七絵は多くの点で規格外のアーティストだ。彼女が絵画だと固執する作品は、粘土の代わりに大量の絵具をもちいた塑像のようで、その重量ゆえにクレーンを使用しないと移動できないものもある。画面の厚みは40~50cmにも達し、一般的な公募展では出品規程に抵触して応募すらできない。そうした作品を、都心から60kmほど離れた千葉県の九十九里浜に近い場所に、広さ300平米あまりのスタジオスペースを構えて制作する。

規格外は作品ばかりではない。大学入学後わずか3日で授業の課題がつまらないという理由で退学を申し出たり、大学の枠を超えて同世代、同時代のアーティストを大結集した「99人展」(2008年)、「460人展」(2010年)を企画している。2020年に愛知県美術館に作品が収蔵されたかと思えば、2021年には東京藝術大学の大学院に入学し、今も在籍中だ。また、足の踏み場もない、“ゴミ屋敷”のようなアトリエの様子が川本史織の写真集『堕落部屋』(2012)やテレビのバラエティ番組で紹介されるという“黒歴史”がある一方で、つい最近は、G-SHOCKのプロモーションビデオに出演したり、菅田将暉のCDのジャケットに作品を提供している。

水戸部七絵は、今回のproject Nでの個展に「I am a not Object」というタイトルを用意した。セクシャルハラスメントやLGBTQ(性的マイノリティ)への偏見に抗議する言葉で、差別や偏見なく、他者という存在を全人格的に受け入れる彼女の制作姿勢が色濃く窺われる。と同時に、この言葉(フレーズ)には、その際立った物質感ゆえに、モノとしての存在感を強く意識させる自作に対する自己言及も含まれているだろう。
彼女はこのタイトルを、SNSで見つけたという。昨年来のコロナ禍での制作において、水戸部は新たに〈Picture Diary〉というシリーズを手がけるようになった。絵に英文が添えられた文字どおりの絵日記で、英文にはところどころ綴りのミスも見受けられるが、バンクシーやバスキアなど、アートに関するニュースの見出しから、アフガン少女の悲痛なツイッター投稿など、彼女の目と心に触れた日々の出来事が取り上げられている。とくに後者は、「活き活きとした他者」としてのスターたちの顔から離れて、いわば“顔のない”無名の他者たちを主人公にした作品といえるだろう。

理想的な美や普遍的な世界を追求する代わりに、決して綺麗ごとではない、偽らざる現実のありのままを表現する水戸部。研ぎ澄まされた感性を唯一の武器に、画一化した固定観念に異議を唱えるその果敢な挑戦こそ、水戸部七絵の本領といえるだろう。

開催情報

ジャンル
美術館 現代美術

11:00~19:00(入場は18:30まで)/月曜休

料金

一般1,400円、大高1,000円
※企画展『ミケル・バルセロ展』の入場料を含む

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