「A Quiet Sun」田口和奈展
22/6/17(金)~22/9/30(金)
銀座メゾンエルメス フォーラム

「A Quiet Sun」制作風景|2022 A scene from the making of "A Quiet Sun" | 2022
田口和奈(1979年東京都生まれ)は、現在オーストリア、ウィーンを拠点に制作、活動をするアーティストです。東京藝術大学美術学部絵画専攻油画領域を卒業後、同大学院美術研究科で博士号を取得し、2010年には五島記念文化賞美術新人賞を受賞しました。これまで、アジアや欧州での個展やグループ展参加など、精力的な活動を行っています。
田口は、多重的な構造を持つモノクロームの作品を通じて、時間や空間といった形而上の存在を見出そうとする制作を続けています。
例えば、自ら制作した絵画や彫刻を多重露光で撮影する、プリントした印画紙の上に油彩のドローイングを描き、再び撮影をするといった重層的な手続きを経て生まれる作品には、写真でありながらも、長い時間をかけて画布に向かう絵画と同様の地平を見出すことができます。
また、田口の作品は、しばしば過去の美術作品の参照や、匿名のファウンドフォトや雑誌といった既存のイメージの応用を含みます。収集した過去のイメージから象徴を読み取ろうとする身振りは、アビ・ヴァ―ルブルグ(1866-1929)の「ムネモシュネ・アトラス」からの影響も受けています。アーティストは、それらのイメージの中にある複数の時間軸や身体の断片から、記憶を生み出す星座的空間の兆しを掬い取り、そこに節制と偶然を招き入れるべく、時に修復し、時に自作の中へと再び迷い込ませるのです。
「A Quiet Sun」は、本展のために制作した作品群と、田口が収集するファウンドフォトを用いて編成されます。神話や匿名の記憶は、ゼラチンシルバーの中に息づく様々な身体の身振りや触覚からもたらされます。ギャラリーにあふれる強い自然光をそのまま用いながら、建築を発見し、空間を整え、レイヤーを与えてゆくような大胆かつ繊細な展示方法は、田口の写真制作における問題意識を異なる角度から解釈する試みでもあります。写真という身体(コーパス)が、溢れる太陽の中で移ろいやすい像を結ぶ時に、どのような光のしじまが見いだされるのでしょうか。