裏面上のステッチ

この度、私たちは、多摩美術大学 情報デザイン学科 メディア芸術コース４年生有志による、卒業制作展覧会『裏面上のステッチ（りめんじょうのステッチ）』を開催する。
大学の外で行われる卒業制作展は、学生主体の運営で年ごとに開催され、多くの方にご来場いただいてきた。こうした機会は、メディア芸術コースで学んできた学生の活動とともに、メディア芸術コースについて知っていただく機会にもなっている。
今年の卒業制作展には例年以上に多くの学生が出展している。その作品一つひとつに独自の評価軸が存在しており、それぞれがそれぞれに深く語らえるものになっているだろう。
私たちは、これらの作品が一同に会する意味を、改めて考える。
同じ場所で学んできた者たちが、どのようにして異なる作品を作ったのか。
同じ見た目に近づいた作品が、どうやって異なるアプローチで展開したのか。
同じテーマを秘める作品が、どんな異なる手法で制作されたのか。
同じメディウムの作品が、なぜ異なる意味を持つのか。
異なる出自、意味、手法、メディウム、テーマ、アプローチ、思想の作品がひとつの場所に集まったとき、一体なにが表出されるのか。
本展覧会『裏面上のステッチ』では、この「一同に会する意味」を、刺繍の裏面に似ている、と考えた。
刺繍の裏面は、形を為そうとするパターンの中に、ランダムな動きや、迷いや、遊びがある。その結果、糸同士は絡み合って、思いもよらない繋がりができたり、逆に意外な独立性が生まれたりしている。
しかし、それらは通常、表面から見ることの無いもの。
本展覧会での作品たちは、表面から見えないところに、思わぬ繋がりや独立性を持っている。
刺繍の裏面の、複雑で、意外な模様〔ステッチ〕のように、作品の表面だけでは見えてこない『裏面上のステッチ』。それをあえて想像することで、より深く作品たちを読み取れると考えている。
卒業して、異なる場所で次のものづくりに向かう私たちが、どのようにして学び、どうやって思考して、どんなところに向かうのか。皆さんにも、ぜひ思いを巡らせながら鑑賞していただければと思う。