川田喜久治「ロス・カプリチョス あしたのデーモン」
24/4/15(月)~24/6/1(土)
PGI
©Kikuji Kawada
川田喜久治は、1956年の『週刊新潮』創刊からグラビア撮影を担当し、その後フリーランスとして60年以上写真を撮り続けてきた。敗戦という歴史の記憶を記号化し、メタファーに満ちた作品「地図」(1965年)や、天体気象現象と地上の出来事を混成した黙示録的な作品「ラスト・コスモロジー」(1996年) などは、代表作と言えるだろう。
1990年代終わり頃より、デジタルでの作品制作も意欲的に行い、「カー・マニアック」(1998年)を皮切りに、都市に現れる現象をテーマに「見えない都市」(2006年)、「2011– phenomena」(2012年)、「Last Things」(2016年)と継続して作品を発表してきた。作品は、日本のみならず世界でも高い評価を受ける日本を代表する写真家の一人で、国内外問わず、多くの美術館に作品が収蔵されている。
「ロス・カプリチョス」シリーズは、ゴヤの銅版画集「ロス・カプリチョス」に影響を受けた川田が、1972年に『カメラ毎日』で同名タイトルの連載を始め、その後も写真雑誌で散発的に発表してきたもの。1986年にフォト・ギャラリー・インターナショナル(現PGI)で個展を開催し、その後1998年に「ラスト・コスモロジー」、「カー・マニアック」と共に、カタストロフ三部作の一つとして写真集『世界劇場』にまとめられたものの、「ロス・カプリチョス」として写真集にまとめられたことはなかった。
2017年にインスタグラムでの作品投稿を始め、2018年に発表した「ロス・カプリチョス-インスタグラフィー2017」を契機に、「ロス・カプリチョス 遠近」(2022年)、本作「ロス・カプリチョス あしたのデーモン」と、改めて「ロス・カプリチョス」というタイトルを冠した作品の発表が続きました。同時期に行われる京都国際写真祭では、2010年の「ワールズエンド」シリーズまでを振り返り、「ロス・カプリチョス」として発表する。
本作「ロス・カプリチョス あしたのデーモン」は、今も継続してアップしているインスタグラムの作品の中から、街でのスナップ、雲、月を被写体としたものが軸になっている。「地図」の発表以来、「常に社会的な雰囲気に影響を受けている」と語っているように、9.11同時多発テロや東日本大震災、コロナウイルスパンデミックと、常に時代に漂う閉塞感を作品に写し出してきた。ゴヤに、『理性の眠りが怪物を生む』という作品があるように、川田は、刻一刻と姿を変える雲と、理性の眠る闇に光る月の中に、今の社会を投影している。また、カーマニアックをはじめ、川田作品においてさまざまな作品で強い印象を残してきた車窓からの光景が、本作ではさらに執拗さを持って観る者に迫る。自身の感覚の中に時代の論理を見る、川田の極めて個人的な視座が捉えた時間と世界は、如何にして観る者の世界にシンクロしていくのだろうか。
本展ではアーカイバルピグメントプリント約40点を展示予定。