佐野市制20周年記念特別企画展「丸山瓦全(がぜん)と佐野のお宝保護作戦!」―エラスムス立像を見つけ、天明鋳物をまもった―
25/1/25(土)~25/3/9(日)
佐野市立吉澤記念美術館
足利の考古学者・丸山瓦全(まるやま・がぜん、1874~1951)は、幼少期を母の実家である葛生(佐野市)の吉澤家で過ごした。同家は江戸時代後期以来、書画・文物に深い関心を持つ家で、瓦全と同家との親交は晩年まで続いた。そして、瓦全の代表的な功績のうちの2つが佐野の文化財に関するものだった。
最もよく知られた功績が《木造エラスムス立像(伝貨狄尊像)》(以下エラスムス立像)〔重要文化財、龍江院所蔵〕の発見だ。大正8年(1919)、旗本・牧野家の菩提寺・龍江院(佐野市)の宝物調査に赴いた瓦全が「貨狄様(かてきさま)」と呼ばれる木像に注目、広く紹介した。この像は1598年にオランダで建造され、三浦按針らが乗ったリーフデ号の船尾像であることが判明し、瓦全は国内に所在する意義を説いてオランダヘの流出を阻止し、昭和5年(1930)に旧国宝の指定を受けた。 本展では同像と共に本像を護り伝えてきた龍江院の作品・資料や発見経緯を示す資料を紹介し、貴重な文化財を護り伝え、その価値を語ることの重要性をご紹介する。
もう一つの功績は、明治末期頃から取り組んだ天明鋳物研究だ。戦時の金属類回収令のもとで供出が進む中、瓦全は鋳物の保護と銘文の記録を進め、重要な梵鐘についての保護を求めた。その際、エラスムス立像の保護をめぐる経験が活かされたとも指摘されている。本展では、瓦全の保護活動を示す資料と共に、天明鋳物の名品を紹介する。その目玉として、最も複雑で高度な技術で制作された《鋳銅梅竹文透釣灯籠》天文19年(1550)〔重要文化財・東京国立博物館所蔵(以下「東博本」)〕と《鋳銅梅竹文透釣灯籠》天文14年(1545)〔重要文化財・引地山観音堂所蔵・佐野市郷土博物館寄託〕のそろい踏みとなる。さらに、丸山瓦全が制作を依頼した東博本の「写し」である香取秀真《鋳銅梅竹文透釣灯籠写》大正13年(1924)〔吉澤コレクション〕を展示する。東博本を激賞した近代金工の巨匠・香取と瓦全の関心の深さ、そして二人の関係性を示す。
上記のような瓦全の活動は、戦後の佐野の文化財保護行政の重要なルーツとなっている。佐野市では近年「天明鋳物のまちづくり」を推進し、令和5年(2023)1月に「天明鋳物」が商標登録され、また令和6年(2024) 3月に「佐野の天明鋳物生産用具及び製品」が国の「重要有形民俗文化財」指定を受けた。瓦全の活動をたどることは、現在佐野市全体で進める「天明鋳物のまち」としてのルーツを確かめることにもなる。
なお、佐野市は令和7年(2025) 2月に市制20周年を迎える。本展を開催することで、佐野の文化財の重要性と市域が文化的につながりが深いことを知り、郷土への愛着を深める機会となれば幸いである。

