橋口五葉のデザイン世界

橋口五葉（1881～1921）は、我が国の書籍装幀や新板画の先駆者として知られている。1881（明治14）年、鹿児島に生まれた五葉は1899（明治32）年に上京、白馬会研究所を経て1901（明治34）年に東京美術学校（現・東京藝術大学）で学んだ。東京美術学校在学中に、兄・貢の紹介で夏目漱石と知り合い、1905（明治38）年には漱石の小説家デビュー作である『吾輩ハ猫デアル』の装幀を手掛け、一躍注目を浴びることとなった。五葉にとっても装幀家としてのデビュー作でもあり、漱石の意を汲んだ装幀に仕上げた。漱石の信頼を得た五葉はその後も『三四郎』、『それから』、『門』をはじめとする数多くの著作の装幀を手掛けていく。漱石のほかにも、「日本の本をもっと美しくしたい」という想いのもと、泉鏡花をはじめとする日本近代文学を代表する様々な作家の装幀を手掛けた。日本に書斎文化が根付こうとしていた時代に、颯爽と登場し人気を博したのが、五葉の装幀だったのだ。
五葉は、新板画において新たな表現を追求した側面が強調されがちではあるが、三越のポスターをはじめとする商業グラフィックも手がけており、グラフィックデザイナーとしても数多くの仕事を残している。
本展では、こうした橋口五葉のグラフィックデザインを、夏目漱石をはじめとする書籍の装幀を中心に紹介。41歳の若さで没した五葉が手掛けた様々な領域の作品も併せて展覧することで、五葉の豊かなデザイン世界を紹介する展覧会だ。