丸山直文 NO DATE
25/4/19(土)~25/6/7(土)
シュウゴアーツ

丸山直文《水を蹴る(つづいて)》2025, acrylic on cotton, 162.3x112cm
丸山直文は、たっぷりと水を含ませた綿布を床に置いた状態で描きはじめる。水を通して絵具の色彩が滲み広がり、画布に染み込んでいく作用を用いることで、ものの境界が曖昧に溶け合うような風景を多く描いてきた。硬くしっかりとした支持体に絵具を塗り重ねるのとは異なり、湿地帯のように湿った画面に少しずつ色彩や形態を生成していくプロセスは、不安定で物理的にも揺らぐ地面の上に立って生きる私たち自身のリアリティとも響き合うものだ。
水という素材を用いて制作する中で、丸山は「物事はすべて流れている」と思考する。私たちは、掴み取ることのできない世の中の流れを、図や言葉を使って因果関係として示し、現象を切り取ることに慣れている。しかし、そうして得られた事象の解明が、必ずしも私たち個人の人生における、不条理な出来事や複雑な心の動きを説明しきれるとは限らない。
「流れは本来、可視化できないものだと思います。それを時間であれば日付や曜日で区切り、止めてしまう。そこに違和感を覚えることがあります。記憶は薄れ、消えていきます。そして、組み替えられ、新しいものとして蘇る。そのような流れを意識して制作したいと思っています。」
広大な時空の中に明滅する星のように存在する、私たちの生の記憶。それが緩やかに意味を結ぶ場として、丸山直文のたゆたう芸術があるのかもしれない。本展では、3.6メートルの大作を含む、水辺の自然をモティーフとした新作6点以上を発表する。また、丸山が日常的に撮影している写真を収めたアーティストブック『brackish water』が刊行された。ジャバラ状の同書は、ページをめくって楽しむだけでなく、広げることで立体的にも鑑賞できる仕様だ。限定6冊、それぞれ異なる函の装丁が施された特別な仕上がりとなっているので、ぜひこの機会にご高覧いただきたい。