楢橋朝子「1961 They Are Standing There」 (楢橋國武遺品のネガより)
25/5/8(木)~25/7/2(水)
PGI

©Asako Narahashi
PGIでは二回目となる、楢橋朝子の個展「1961 They Were Standing There」を開催する。
楢橋朝子は、まだ学生だった1980年代半ばに写真家森山大道のワークショップ「フォトセッション」に参加する。卒業後の1989年、個展やグループ展含め、一年を通して約10回に及ぶ展覧会を開催。沖縄をはじめ、国内の各地へ撮影行を繰り返し、写真家として旺盛な活動を始める。当時は特に写真展という形にこだわり自身の作品を発表する場として、1990年にギャラリー「03FOTOS」をオープンした。
1997年には初めての写真集『NU・E』(蒼穹舎、1997)を出版。その後も、『フニクリフニクラ』(蒼穹舎、2003)を出版、2000年ごろより、のちに『half awake and half asleep in the water』(2007年)としてまとめられ、またその後も『Ever After』、「近づいては遠ざかる」などに続いていく、水の作品の撮影を始める。『half awake and half asleep in the water』は世界的にも大きな反響を受け、国内外での展示や出版へとつながった。
本展では、新作「1961 They Were Standing There」をご覧いただく。「1961」の文字が示すように、1961年、楢橋の父・楢橋國武が訪れたソ連、東欧の写真を、昨年夏より作者がセレクトしプリント制作した作品だ。
古いネガが時間の経過でどんどん劣化しているという話の中で、ダンボールにまとまって入っているアルバムがあると言う、よく聞けば、作者の撮影したものではなく、作者の父による、ライプチヒ(当時東ドイツ)で開催された国際印刷労働者会議と、モスクワ(ソビエト連邦)での世界労連への行程を写したネガの束だった。そこにはソ連、東ドイツやポーランド、中国などで撮影されたらしきたくさんのスナップ写真があった。街を行き交う人々、車窓からの風景、公園や広場、当時の車や建物、会議や交流会の様子、印刷所などありとあらゆる写真的光景が広がる。
撮影から63年後の2024年、楢橋が選び、制作したプリントには、時代やテクノロジー、国家や個人のアイデンティティの変化など、写真には写らないうつろいを描き出すかのように、美しく粒立つ粒子と、剥離や傷、ビネガーシンドロームの痕跡が描き出される。まるで抽象絵画と写真の間を泳ぐようなこうしたイメージは、撮影者の楢橋國武も、プリントをする楢橋も想像しなかった景色だ。
本展ではゼラチンシルバープリント作品をご覧いただく。