吉田樹保展 INDUCTION
25/6/6(金)~25/6/22(日)
Bunkamura Gallery 8/

日本各地で古くから伝わる寓話や昔話、伝承の数々。明るく愉快なイメージをもたれる話も多くあるが、その裏には、発祥当時のつらく厳しい生活や残酷な風習を反映した逸話も存在すると言われている。多くの物語は、主として口伝による語り手から聞き手への伝達、すなわち「人と人との相互作用」によって現代まで受け継がれてきた。この相互作用は、言い伝えや文書、石碑などの様々な伝達手段を介して行われ、また、伝達の過程で内容の取捨選択、表現の誇張、言い換えが伴うことも少なくない。そのようにして、物語は徐々にその様相を変化させ、現代に残る形となったのだ。
吉田樹保の制作のテーマは「文化の継承と変異」。各地域で根付いた文化的な情報が、「人と人との相互作用」を経て現代に伝わる様子を調べることで、その時、その場所にいた人の本質や業のようなものが垣間見えると彼女は考える。制作においては、文化的、土俗的な題材について自ら現地調査を行い、これにより着想を得られた「昔話」を、キャンバスへと描き出す。
「昔話」という媒体を介して、人間の本性に迫る吉田樹保の表現は、とてつもなくポップでヴィヴィッドで、絶対的にキュート。油絵の具で細密に描かれたどこかレトロな風景と、アクリル絵の具で描かれた「kawaii」キャラクターたちによって物語が展開される。
また、作品においては、油絵の具で描かれた部分は物語の「背景・文脈」を、アクリル絵の具で描かれた部分は物語の「意味」を描写。この2種類の画材、2種類の要素の間で残虐性すら感じる重みのある物語をまるでカラフルな影の無いホラー映画のように仕上げ、観る人にその物語が秘める光と影をまざまざと主張するのだ。
本展では、彼女の代表作「新訳風土記集」を新たなシリーズも加え展覧販売する。会期中には作家本人によるアーティストトークや、初の試みであるディスカッション形式のワークショップなど、物語の理解を深めるイベントも同時開催予定。
近年、いっそう深度を増す吉田ワールドをぜひ堪能してほしい。