アルベルト・ヨナタン・セティアワン「Anicca」
25/6/25(水)~25/7/26(土)
ミヅマアートギャラリー
《Anicca: Sticks & Stones》(部分) 2024 テラコッタ © Albert Yonathan Setyawan, Courtesy of the artist and Mizuma Art Gallery
インドネシアのバンドン出身のアルベルト・ヨナタン・セティアワンは、バンドン工科大学視覚芸術専攻を修了後、京都精華大学にて陶芸の研究を続け、2020年に博士号を取得した。現在は東京を拠点に活動をしている。2023年にジョグジャ国立美術館(ジョグジャカルタ)にて個展「Capturing Silence」、24年にはTumurun Museum(ソロ)で個展「Transitory Nature of Earthly Joy」が開催されたほか、第11回アジア・パシフィック・トリエンナーレ(Queensland Art Gallery | Gallery of Modern Art (QAGOMA) 、ブリスベン)に参加し、今年の8月からはZENBI-鍵善良房-KAGIZEN ART MUSEUM(京都)で個展が予定されるなど、国内外で精力的に作品を発表している。
本展は、約1000ピースの陶器が4メートル四方ほどの空間に広がるインスタレーション《Anicca: Sticks & Stones》とドローイング作品で構成される。
《Anicca: Sticks & Stones》は、作家が15年以上取り組んでいる鋳込み成形(スリップキャスティング)という陶芸技法を用い、テラコッタを素材に制作された作品だ。自然物である枝と石をモチーフに、それぞれの形に合わせてひとつずつ石膏型を作る。その石膏型を繰り返し使い続けることで、型は徐々に磨耗し、複製される形にも微細な崩れが生じ、やがて元の輪郭を失っていく。この過程そのものが、作家にとって「時間の痕跡」であり、「制作行為が形に及ぼす変化」を可視化する試みなのだ。
――陶芸家として、私が粘土を扱うなかでとても魅力を感じていることのひとつは、「時間を表現できる」という点です。粘土という素材が本来持っている自然な状態(湿度、硬度、収縮、ひび割れなど)が変化していく過程や、形を作り、整え、型取られていくプロセスのなかで、時間の痕跡をとらえることができます。
私は、多くの作り手たちが作品において追求しがちな「永続的な美的価値」とは対照的に、「無常(impermanence)」という概念を探求することに惹きつけられます。形がいかに変化し、変容し、時には制作過程そのものによって消滅していくか——その制作プロセスを露わにすることに関心があるのです。―― と作家は語る。
「Anicca」とは、仏教における無常、すなわちあらゆる存在や現象が常に変化し続けるという教えを意味する。
素材と手仕事を通して痕跡を作品に刻み込むというこの反復的な行為は、変化し、やがて失われていく形の中に美を見出すセティアワンのその姿勢の具現でもあり、私たちがこの世界の中でどのように存在し、どのように関わっているのかを静かに問いかける。
会場にて、作品との静かな対話を体感してほしい。