小林孝亘 絵本「さようなら、こんにちは」原画展
25/9/30(火)~25/11/1(土)
西村画廊

「さようなら、こんにちは」No.12 2025 24.8 x 33.7 cm pen, pencil and color pencil on paper
西村画廊では、2025年9月30日(火)から11月1日(土)まで、小林孝亘の単著としては初の絵本となる『さようなら、こんにちは』(求龍堂)の刊行を記念して、同書の原画展を開催する。本書のために描き下ろしたドローイング全17点を展覧する本展は、今夏に当画廊で新作展を開催したばかりの小林にとって、今年2度目の個展となる。
1960年東京に生まれた小林孝亘は、1986年愛知県立芸術大学美術学部油画科を卒業後、外界との接触を自己防衛的に避ける自身の投影として9年近く描き続けた「潜水艦」の時代を経て、器や枕、森など普遍的で日常的なものを題材に、光に重点を置いた絵画を制作してきた。常に時流の動向から一定の距離を保ち、地道に自身の内側を手探りしながら本質的な表現を志向してきた小林の作品は、主に正面から見た左右対称の構図で、我々が普段目にしているごくありふれたものが、奇を衒わない丁寧な筆触で描かれているのが特徴的だ。それらの絵画は、見慣れたものが潜在的に持つ非日常性を浮上させ、ひいては「存在」していることの不思議を観者に意識させる、稀有な魅力を有している。換言すれば、ある対象が象徴的および匿名的に描写されたその画面には、たとえば生きるために眠りを繰り返し死に至る人間の「生/死」の暗喩として枕を描いた《Pillow》シリーズに顕著なように、表裏一体の現象が静かに同居しており、「存在」というこの世界の神秘が輝かしく伏在している。小林は、同画廊で1996年から継続的に新作展を開催している他、国立国際美術館(2000年)、目黒区美術館(2004年)、横須賀美術館(2014年)、豊田市美術館(2022年)での個展をはじめ、国内外で多数の展覧会歴がある。
2024年に病とその手術を経験した小林は、退院後の同年4月頃から、絵画制作のリハビリとしてドローイングを描きはじめた。再び基本的な形を描けるようになってからは、ペンと鉛筆、色鉛筆による緻密な筆致で、自身にとって“生”の象徴である“森”のドローイングを制作するようになる。「1枚仕上がると、自然に次のイメージが浮かんできた」というそれらの作品は、2025年6月末まで描き進められ、やがて小林の内的世界を映し出すひとつの物語のようなものとして完結した。
空を上がっていく雲に“死”の気配を感覚した語り手が、もう一度“生”の方へ戻っていくという内容のこの絵本には、小林作品に頻出する積み木、壺、川、舟、焚き火などをはじめ、これまでほとんど描かれることのなかった花や動物といったモチーフも登場し、全体を通して生命の静かな輝きに彩られている。そこで展開される、どこかこの世ならぬ神秘をまとった世界は、確かに未知であるのになぜか親近感も感じさせ、その相反する不思議な魅力は、見る者の内面を暖かく照らす。
通算19回目となる同画廊の小林孝亘展に、期待してほしい。