柏原由佳 展「Polar Green」

Milford 2019 tempera and oil on canvas 230 cm x 170 cm ©︎Yuka Kashihara

8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Galleryでは、柏原由佳展「Polar Green」を開催する。柏原の絵画制作は、西洋の伝統的な古典絵画技法に基づき、半油性下地を独自の配合で混ぜ合わせてキャンバスに塗りこむ作業からはじまる。
そこでできあがったオリジナルのキャンバスの上に、油絵の具を日本画のように薄く溶き、同時にテンペラ絵具も用いながら描いて独特な深い色彩を作り出す。彼女の作品世界では、現実の景色と内なる想像の空間がゆるやかに編み込まれて存在する。その背景には、日本を離れ渡独して制作を続ける彼女の、内と外の「距離」への興味が介在しているといえるだろう。ドイツと日本の物理的な距離、それぞれの文化間での精神的な距離、また日本人としての自分と、ドイツにいる自分との距離。それは彼女が作品で繰り返し取り上げる洞窟、穴、山、湖といったモチーフを、内省的な思索をシンボリックにあらわすものへと昇華し、大地にひそむ根源的な自然のエネルギーをも喚起させるのである。
今回の展覧会タイトル「Polar Green」は、柏原がニュージーランドの有名な遊歩道「ミルフォード・トラック」（全長54km）を4日間かけてひたすら歩いて体感したことに端を発した造語である。「ミルフォード・トラック」は、砂漠からジャングル、氷山の一角、火山など、「世界の縮図」と呼ばれるほど世界中の様々な風景が集結しているような美しく不思議な場所である。その歩くたびに刻々と変化する景色を目にし、そこで見えた驚く程鮮やかなミントグリーンのような湖の色が彼女の心を激しく揺さぶり、その体験が元になっている。
本展は、この2年間で柏原自身がマレーシア、奄美大島、ニュージーランドでキャンプを行い、原生林からインスピレーションを受けた新作のジャングルシリーズを発表する。これらは、彼女の記憶とイメージ、最近見たもの、自分の中にある景色とが組み合わさって、描いては消してを繰り返して現れた景色たちだという。
小山登美夫ギャラリーでは、3年ぶり5度目の個展となる本展。原生林のみずみずしい空気、透明性と独特な濃密さが共存した柏原由佳の作品世界を楽しむことができる。