菅実花個展 人形の中の幽霊 The Ghost in the Doll
19/6/1(土)~19/7/15(月)
原爆の図丸木美術館

菅実花は、等身大の女性型愛玩人形を妊婦の姿で撮影した作品《ラブドールは胎児の夢を見るか?》を発表して注目を集めた美術家。今回の個展では、19世紀の西洋で流行した、故人の姿を湿板写真で記録する「死後記念写真(Post-mortem Photography)」の手法を用いながら、等身大の精巧な乳児人形「リボーンドール」を撮影した《Pre-alive Photography》を中心に発表する。
写真黎明の日本では「写真に写ると魂が取られる」と信じる人もいたが、西洋では故人を生きているかのように演出し、記念撮影をしていた。とりわけ、死亡率の高い乳幼児を撮影した事例が多く見られた。一方、近年は、子どもを亡くした母親や不妊治療に苦しんだ女性たちによって子どもの代わりに購入される人形「リボーンドール」が人気を呼んでいる。《Pre-alive Photography》は、様々な背景を持つ女性たちの思いが託される「リボーンドール」を、「死後記念写真」になぞらえて、当時と同じ湿板写真の手法で撮影することで、人形に生命を見出そうとする試みだ。
丸木位里、丸木俊による共同制作《原爆の図》を常設展示している原爆の図丸木美術館は、極限状態・悲劇的状況に直面した人間の姿を克明に描いた絵画を通して、生と死を見つめる空間だ。近年は、若手作家による企画展を開催し、丸木夫婦の意思を次世代へ受け継ぎ、新たな価値を創造することを試みている。
その趣旨を踏まえた本展は、菅にとって初めての美術館での新作個展であり、美術における生と死の表象の系譜を現代へ継承する企画になるだろう。死は、常に個々の人間に訪れるもの。戦争などの大きな文脈として語られがちな死の物語を、個々の集積として捉え直す機会として、本展をご覧いただければ幸いである。