潘逸舟 個展 不在大地
19/9/7(土)~19/10/5(土)
ANOMALY
Quick Response 、2019、ビデオ © Ishu Han
潘逸舟(b.1987)は上海に生まれ、9歳の時に青森に移住、その後2012年に東京藝術大学大学院先端芸術表現科を修了し、現在は東京を拠点に活動をしている。潘は、等身大の個人の視点から、社会と個の関係の中で生じる疑問や戸惑いを、自らの身体や身の回りの日用品を素材とし、映像やインスタレーション、写真、絵画など様々なメディアを用いて、真摯に、時にユーモアも交えながら表現する。
潘はこれまで、「アジアン・アナーキー・アライアンス」(開渡美術館、台北、2014年)、「Whose game is it?」(ロイヤルガレッジオブアーツ、ロンドン、2015年)、「In the Wake – Japanese Photographers Respond to 3/11」(ボストン美術館、2015年/ジャパンソサエティー、NY、2016年)、「Sights and Sounds: Highlights」(ユダヤ博物館、NY、2016年)、個展「The Drifting Thinker」 (MoCA Pavilion、上海、2017 年)、「Cross Domain」(金鶏湖美術館、蘇州、2018 年)、「Yet not to be attained」(マサチューセッツ大学アマースト校、2018 年)、「アートセンターをひらく」(水戸芸術館現代美術センター、2019 年)などの展覧会に参加。アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)2014 年度グランティ、インターナショナ ル・スタジオ&キュラトリアルプログラム(ISCP)(ニューヨーク、2015 年)、Residency Unlimited(ニューヨーク、2015 年)など のレジデンス参加のほか、「日産アートアワード2020」のファイナリストにも選出されるなど、国内外で注目を集める若手作家である。
2年ぶりの個展となる本展のために制作された最新作「Quick Response」は、日本で開発され、中国で爆発的に普及したQRコードの技術を用いて、陸に打ち寄せてくる波を白と黒のピクセルに変換、読み取り、そのコードを介してどこか他の場所にアクセスしようと試みる作品である。
本作は、潘が上海へ帰郷した際に、路上で二胡を演奏していた盲人の首にQRコードが「投げ銭」の代わりにぶら下がっており、行き交う人々が携帯電話でそれをスキャンすることにより金銭を寄付していたさまを目撃したことに由来している。
「利便性」を追求した結果、急激に発展した技術により、身体の一部をその場から切り離し、身体の不在を創り出しているような光景を目の当たりにしたことで、変わりゆく時代の流れとともに、故郷を離れていた自身の不在の時間を突きつけられた出来事でもあった。日本においても、東日本大震災以降帰れぬ土地(帰還困難区域)が未だ存在している。
生まれ育った故郷の記憶と、離れていた間に変わってしまった環境、人々の思考や「不在」の時間を、人はどのように認識し、想像するのか?また、その「不在」はどのように個人の中に存在しているのか?という問いを、様々な方法で提示する。
また、新作パフォーマンス映像では、ソ連社会主義リアリズムの象徴として、1937年のパリ万国博覧会のために制作された巨大彫刻像「労働者とコルホーズの女性」に潘自身が扮し、腰を下ろしたり、横たわったり、束の間の休憩をとっている。
社会主義国では、英雄や国の統治者以外にも、多くの名も無き労働者や農民などが、人々の見本としてモデル化され、政治の中で幾度となく象徴化されたり、古い紙幣のモチーフなどになって、繰り返し消費されてきました。彼/彼女らの身体を自身に置き換え、休憩をとる様は、社会と個人の終わりなき関係をユーモラスに提示し、紙幣がデータ化され、彼/彼女らの姿もいつしか「不在」となったことを示唆する。
潘は、さまざまな場所で感じた疑問や違和感を、独特の視点で詩的かつユーモラスに問いかけ、時に自身の身体を支持体として、世の中の矛盾に立ち向かう。私たちは誰で、一体どこに存在し、どこへ向かっているのか、と問いかけながら、私たちを揺さぶり続ける。