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中村一美

21/6/5(土)~21/8/7(土)

BLUM & POE

Kazumi Nakamura, Phoenix, 2003, watercolor and gouache on paper, © Kazumi Nakamura

Blum & Poeは、同ギャラリーでは三度目となる中村一美による個展を開催する。
本展では、これまでほぼ未公開であった紙を支持体とする「絵画作品」と1980年以降継続して取り組んできたキャンバス作品のシリーズ群を同時に紹介する。本展では並列的な展示構成によって作品の中に新たな対話を生み出し、中村がその作品群におけるコンポジションを構築する上で、どのようにして連続的で反復的な方法論が用いられてきたのかを明らかにしていく。また、制作日が記された紙作品の多くからは、作家の日々の制作における心理を反映した記録的な側面をうかがい知ることができるだろう。
中村は、シリーズ中の複数の作品の間に生じるバリエーションや差異を「示差的イメージ」と提唱した作家だ。決まったモチーフに繰り返し描くその手法は、アメリカやヨーロッパで新表現主義が花開き、日本ではニュー・ペインティングが台頭する中で生まれた。アメリカのモダニズム的視覚言語によって、東アジア的なモチーフやその絵画の空間表現を再解釈しようとするその試みは、独自性を有しながらも美術史との相関性を持った作品として成立している。同時に、中村は、日本の土着性の中で地域的独自性を持った要素を用いて西洋絵画を発展させていくことによって、西欧中心的なディスコースに立ち向かい続けてきた。本展では、特に1980年代より取り組んできた初期の作家の実践を示す「Y型」や「斜行グリッド」を用いたシリーズの中でも希少な作品群が展示される。その作品中にたびたび現れるY字の記号は地図記号で桑畑を意味し、地形学についてのフォーマリスティックな参照を表している。中村にとって、Y型とは作家の母方の生家にあった桑の木々と結びついた非常に個人的なモチーフでもあり、さらには1960年代以前の母方の家業であった養蚕業の衰退の歴史を想起させる社会政治的な意味性を持った要素なのだ。その一方で、幾何学的抽象を描いた斜行グリッドの絵画作品は、日本に古くから存在する絵巻に特徴的な平行的な視線の動きについての再解釈から生まれた。自己完結した自律性を持った客体としての美術作品に重きをおく西欧のモダニズム美術に特徴的な正面性を持った縦横構造のグリッドとは対照的に、このような斜行グリッドは観る者の視線を構図の外へと向けさせることで絵画における新たな意味性を作り出してきた。
さらに2000年代以降は、鳥の形態を繰り返し描いた「織桑鳥 (フェニックス)」・「存在の鳥」といったシリーズにも取り組んできた。重厚なテクスチャーによって描かれた作品群は、存在の定まらない両義性を示唆する抽象化された鳥を記号的に描くことによって論理性を持ったグリッドからエモーショナルな抽象性への中村の取り組みの変化を見せている。「織桑鳥」というタイトルは、不死鳥の個人的な解釈の形として、「織物業」や「桑」や「鳥」の日本的な特性を結びつけた中村の造語だ。この世には存在しない鳥についての数々の神話は古代エジプトや中国においてはるか昔から存在し、特に19世紀以降日本文化の中にもエジプトの「不死鳥」の神話が導入され、「鳳凰」という古代中国から日本へと伝わった吉兆をもたらす縁起の良い鳥の概念と共にたびたび語られてきた。死後の再生を表すこの不死鳥は中村にとって個人史と強く共鳴する心理的なモチーフであり近代において廃れてしまった養蚕業の再生、ひいては全ての衰亡したものへの再生の願いとして描かれている。一方で、「存在の鳥」は中村が登山の際に遭遇した山頂から下方へと飛んでいく鳥の様子から着想を受けたことで生まれたシリーズだ。中村は、「飛翔」とは、人類全てにとっての悪災や悲劇に打ち勝つための手段を象徴する概念であると考えてきた。本シリーズは、初期作品からの引用となるY型の繰り返されるモチーフによるコンポジションが、空想上の鳥の図像の5種類ほどのマトリクス (母型) を基本形として描かれている。韓国の民画や始祖鳥の化石あるいは鳥という象形文字に見られる、鳥の原型を取り入れたこれらのイメージ群は、中村が述べるように「究極的な示差性を持つ絵画を描く」ことを可能にするのだ。

開催情報

ジャンル
ギャラリー

12:00~16:00、日・月休廊

※予約制

料金

無料

出品作家

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