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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

ベン・エドマンズ 「私はここからどこへ向かえばよいのか?」

19/6/7(金)~19/6/29(土)

Kaikai Kiki Gallery

現代の神話と信念体系を我々の眼前に顕現させようと試みるベン・エドマンズの作品は主として、現代主義的抽象表現主義、カラーフィールド・ペインティング、そしてミニマリズムの、「神 聖」かつほとんど古典的といってもよい様式を、エクストリーム・スポーツおよびファッションという高度に様式化された現代的なアクセントと組み合わせたという点により、特徴づけられる。エドマンズは、名高い複数のイコノグラフィーの統合を通じて、陳腐さと人間の欲望を真摯に認める姿勢との間で危うい綱渡りをする。欲望が彼のペインティングの基礎を成す要素であるのは明白で、それは染められたキャンバス、炭素繊維を使った手作りのコンポーネント、カラビナ、書き込まれた短いテキストに埋め込まれているが、そのことは、我々は満たされていない、という考え方を暗に示している。作家も鑑賞者も、自分を取り巻く世界を教化および合理化という滋養を必要とする衰弱した存在とみなし、そのうえでそれにアプローチしている、ということである。ジュースクレンズやクロスフィット(訳注:日常動作を中心に毎回異なったトレーニングを高い強度で行って全身の機能向上を目指すトレーニング方法)という、エネルギッシュなファッションおよびトレンドのなかにあって、エドマンズのペインティングは、「欲求する身体」、つまりモノよりも経験を必要とする消費者の欲求に訴えているのである。
この文脈のなかでペインティングたちは、ときに骨子だけが残され、ショックコードやクリップ、登山用品やセーリング用品といったアクティビティとレジャーのための用具でつなぎ止められることで、なんとかバランスを保っている。そうすることで、感情的な側面が素材と構造的に結び付けられている。雑誌や広告が欲望を載せた定期刊行物を通じて商品を繰り返し宣伝するように、エドマンズのペインティングは、ペインティングが誇示するところのステータスと物質性、つまりロマン主義性と反功利主義性を、私的で自己崇拝的な行為を通じてこの世の意味を見出そうとする趣味人の、実用主義性および名ばかりのステータスと結びつけているのである。
英国の地方に生まれたエドマンズは、アウトドアカルチャーに囲まれて育った。家族は、セーリングやウィンドサーフィン、マウンテンバイクなどに熱中した。この中産階級的な志向とスポーツの趣味とが入り混じった環境で過ごすうちに作家は、「仕事と遊び」を旨とするカルチャーが、実は陳腐さと神話に満ちていることに気づく。健康を志向する時代の動向や旅行雑誌、大衆向けの娯楽やロマン主義のア ーティストによって生み出される虚構が潜在的に持っている現実逃避的な性質を届けるエドマンズのペインティングは、その気づきのなかで生まれた。それらはモダニズムの典型をこのようなやり方で採り入れ、絵画様式と技術を中心に据えることによって、作品を様式化し、神話化しているのである。そして何より重要なのは、恍惚とさせるような色合いやむき出しのストレッチャーバー、ぴんと張られたキャンバスが、マノロ・ミラレス、フランク・ステラ、そしてリチャード・タトルによる作品に加えてマーク・ロスコ、バーネット・ニューマン、ヘレン・フランケンサーラー、そしてアド・ラインハート の姿を神々しく顕現させ、それによって美術様式を一貫してステレオタイプ化している、という点である。エドマンズのペインティングはハイテク素材や如才ない色彩構成、そして自己啓発本やライフコーチ(訳注:人生・仕事の目標達成方法を指南する人)が拠り所としているモチベーションアップのためのセラピー理論を意識したタイトルによって、前衛主義的なキャンバスの脱構築を、現代に合わせて意識的に「アップデート」しているのである。
ペインティングを構成するパーツは手作業で注意深く組み立てられており、現代のアスリート(athlete)と唯美主義者(aesthete)の審美的な慣習を届けると同時に、本質的な皮肉を作品の中核に置く。個人に絶対的な価値を置きながら、その個人の自由を経済的な資本を生み出す能力と直接的な相関関係のもとに置くネオリベラル資本主義がそのように相対するふたつの概念で成り立っているという事実は、ブルジョワ的な感性とエクストリーム・スポーツのいずれかの側に、あるときは引き寄せられ、またあるときは押し出されるという作用にみてとれるが、それは欧米の中産階級の社会経済的構造の兆候が、不可避的に表れたものといえる。エドマンズの作品が「今」を如実に捉えていると感じられるのはまさにこの部分においてである。そこで表現されているのは、これまで歴史や文化の影響を受けながら自らを形作ってきた神話を、生産者対消費者というドラマチックさのかけらもない陳腐な構造と折り合いをつけさせることが難しくなる一方である、現代という時代の姿なのである。

開催情報

ジャンル
ギャラリー

11:00~19:00、日曜・月曜・祝日休廊

料金

無料

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