乱れる
松山善三のオリジナル脚本を成瀬巳喜男監督が演出した名作。子供もいないままに夫に死別して以来、嫁ぎ先の一家をきりもりしてきた未亡人が、年の離れた義理の弟の純粋な愛の告白に揺れ動く姿を描く。かつては批判の対象にもなったが、横幅を十分に使いきらない禁欲的なワイドスクリーンの用法が見事な効果をあげ、一つ屋根の下に住み、互いに意識し合いながら周囲から孤立する男女が広い部屋の中央にぽつんと立ちつくす姿など、たぐいまれな緊張感に満ちている。複雑な女心を表現する高峰の演技はいつもながら素晴らしく、当時、人気絶頂期の青春スター・加山雄三の見違えるような繊細さも魅力である。