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佐藤克久「レジャーシートをひろげるムジュン」

19/6/8(土)~19/7/6(土)

児玉画廊|天王洲

佐藤は近年、作品制作や展覧会キュレーションを通して一貫して「絵画とは何か」を問い続けている。絵画を描くということ、その主たる目的や動機、そしてそれに熱情を燃やす画家とは一体何か、その問いはつかない。佐藤の果てない逡巡を示すように、作品は常に徹底した構想と、綿密な色彩構成から成る。作品の表層は明るく朗らかな相貌を見せつつも、その内側に秘めた鋭い問題意識の眼差しは、鑑賞者を絵画に対する思考の渦へと深く引き込んでいく。
絵画を描くということの根本に立ち返るように、佐藤の作品制作は絵そのものよりももっと手前にある、絵を絵として存在させるための諸要素を一から辿り直すかのように作られる。色彩や形、サイズの検討、画材・素材の扱い方、図と地の関係性、絵画のフレーム、イリュージョン、具象と抽象。「絵画とは何か」という問いに対して、佐藤が考え得る思考の全てを踏まえながら、それを可能な限り丁寧に作品に反映させていることは、作品を前にしばし静観すれば自ずと理解されるだろう。ストロークの一本、色彩のわずかなニュアンス一つとっても、そこに作家の意識が働いていないことはなく、その制作過程ではどれほどの試行錯誤を繰り返していることか想像だにできない。それでいて、遊びに興じるような軽やかさと、人の目を楽しませて止まない色彩の明るさに画面が溢れかえっているからこそ、反面、その思索の深さを思わせるのである。
試行錯誤の創作の結果として、時には、キャンバスは切り抜かれ、捻じ曲げられ、あるいは故意につけられた折り目が線描や構成の指標ともなり、文字でさえも形象の一つとしてまぎれ込んでくる。絵画が壁面にある必要性を問うとするならば、どうにかしてキャンバスを自立させることさえ厭わない。思考の果てに辿りついたこうした行いは、衝動的、あるいは実験的である、とも思われるかもしれない。しかし、そうした一般的な絵画としての造形を逸脱したものであったとしても、佐藤の作品には間違いなくそれが絵画である、と誰しもを強く納得させる力に満ちている。作家は「リアリティ」という言葉をその根拠として用いたが、「絵画とは何か」という問いに立ち向かい続けていると、必然的に「なぜ絵画を描くのか」という必要性に対する問いに直面することにもなる。絵画を描くことの「リアリティ」とは何か、ということである。そもそも、「リアリティ」はそれぞれの画家が自然発生的に持っているものであって、絵を描く人が強迫観念的に持たねばならないというものではない、と佐藤は前置きするものの、そこを突き詰めていくことで「ただの絵」から「ある作家の必然性において生み出された絵画」というオリジナリティとも結びつく性質が強く立ち現れてくるので、絵画の高みに向かうにはそこは避けては通れぬ関門である。しかし、独自性が強くなればなるほど「リアリティ」の他者との共感は遠のき、作家はきっと孤独へと追いやられてしまう。そうした中で作家がある意図を持って描いたことが、往々にして他人にとっては違う意味を持ち、真逆となって「矛盾」を生んでしまうことさえある、というわけである。100人の作家がいて、100通りの「リアリティ」があり、しかも100人の他者と誰一人分かり合うことすらままならないのでは、普遍的な態度で「絵画とは何か」と問いかけること自体が無意味に思えてくる。であれば考え方を変える必要がある。
一般的に「リアリティ」とは、現実感、つまり誰にとっても揺るぎない現実に根差すものと理解される。一方で、佐藤が「リアリティ」と述べているそれは、実際にはより個人に根差した「アクチュアリティ」に近い感覚であろうと思われる。佐藤の、今、をまざまざと見せる現実性の発露としての絵画、そのように描かざるをえない当事者としての現実感覚、そういった意味であれば、その現実感は決して一般的なものではなく佐藤独りだけのものである。だからこそ佐藤に「矛盾」を感じさせる。作家が孤独に追いやられる、と述べましたがそうではなく、孤独であることはすでに与えられた前提条件としてあり、その上に立って問うことが求められるのである。佐藤にとって絵画を描くことの「アクチュアリティ」の表出が「矛盾」を生む、そしてその「矛盾」こそが絵画にとってなくてはならないものだとするならば。「レジャーシートをひろげるムジュン」というタイトルは、文意はいくつにも解釈しようがある、というレトリックを使った佐藤による思考ゲームの序文であります。さて一体、「絵画とは何か」。

開催情報

ジャンル
ギャラリー

11:00~18:00(金曜は20:00まで)、日曜・月曜・祝日休廊

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