高橋宗正 糸をつむぐ

©Munemasa Takahashi

「糸をつむぐ」は、作者の友人との車中での何気ない会話の記憶から生まれた作品である。
「水に浮くものを撮ったらいい」「それは具体的にはどんなものを撮ればいいの」「なんとなく思いついただけ」「そのうち撮ってみようかな」
会話のあとは続かず、これらの言葉は一旦は忘れ去られる。
高橋宗正は2011年から宮城県山元町にて津波に流された写真を持ち主の元に届ける「思い出サルベージ」プロジェクトに参加している。また2012年からは、その中でもダメージが酷く廃棄されてしまいそうだった写真を捨ててしまうのではなく、離れた場所にいる人にも見てもらいコミュニケーションを生むことを目的として「Lost & Found project」を立ち上げ、各地で展示を開催してきた。
こうした活動の中で、高橋は大事な友人との出会いと、彼の自死による別れを経験する。
彼との会話は、膨大な家族写真、記念写真を修復する作業の中で、「写真家として」「作品として」写真を撮ることに疑問を抱いていた時期に交わされた。
作者はこれまで、自身の物語は一切語らず、情報や説明を排除した写真が鑑賞した人の中にどのように物語を生むのか、「写真と他者の認識」の構造を重視して作品を制作してきた。転じて前作「石をつむ」では友人の死と向き合った過程を、個人的かつ具体的な経験を写真に表現。見る人の記憶や経験に語りかけた。
本作「糸をつむぐ」では、　個人と生活、他者、風景、家族、記録、など、カメラが写し、写真に残されうる多岐にわたる被写体が登場する。
8×10インチの大判カメラに撮影の道具が変わったことで、被写体との向き合い方や表現にも変化があった。被写体を選ぶ作者の視線は、以前よりも写真の持つ記録するという機能が存分に意識されているようである。そして被写体はとても丁寧に作者に見つめられている。
また、「水に浮くものとは結局なんだろうか」と考えながら被写体を探る中で、結婚、出産、子育て、という自身の生活が大きく変わる体験があった。この体験によって、時間とともに忘却と追憶を繰り返しながら繋がっていく記憶、それと共に写真が未来に残されていくことの普遍的な意味を形にしようと試みている。