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峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

心霊写真その②・江口くんに乗り移ったハチ公の亡霊

毎週連載

第101回

前回話した昔の彼女の心霊写真ともう1枚、はっきり写っちゃっている心霊写真を見たことがあるの。誰の写真に霊が写っちゃったかって言うと、江口くん(マネージャー)なんだ。しかもその霊、犬なんだよ。

まだ僕らがGOING STEADYをやっていた頃のこと。確か1998年くらいだったと思うけど、当時の江口くんはさ、なんかカルチャー方面に行こうとしていた時期で(笑)、カメラを買ってわざわざモノクロフイルムで写真を撮ったりしていたの。ちょうどその時期に、渋谷駅前のハチ公像が、建立何十周年とかで、記念式典みたいなことをやっていたんだけど、そこにたまたま出くわした江口くんがさ、「珍しいなぁ」なんて思って、そのハチ公像をカメラでパシャッと撮ったらしい。

後でそのフイルムを現像してみたところ、ハチ公の銅像は普通に写ってるんだけど、銅像が立っている土台のところに不自然に日本犬が写っているわけ。土台の上に被さるようにして、背景もセットにした日本犬がいる。仮に、この日本犬がハチ公だとして考えるとさ、ハチ公が生きていた頃の犬小屋って今みたいな感じじゃないでしょ、たぶん。藁とかで作った小屋とかで暮らしていたんじゃないかと思うけど、その藁の小屋から日本犬が顔を出して写っていてさ、その後ろには雪が降ってるっていう。「えぇ!?」みたいな写真だった、マジで。

でもさ、デジカメで撮ったものじゃなくて、フイルムカメラで撮ったものじゃん。フイルムってコマ割だからさ、何かの拍子に、別の写真がたまたま重なっちゃったんじゃないかとも思ったんだけど、江口くんに聞くと「いや、別に犬を撮った覚えはいっさいない」って言うわけ。間違いなく日本犬の心霊写真だし、たぶん経緯から考えると、やっぱりこの日本犬はハチ公ってことになるんじゃないかな。

「江口くんはやっぱりすごいね。心霊写真って普通人間の霊が写るもんだけど、『日本犬』の亡霊ってなんだよ。ヤッベーの撮ったな(笑)」っつって、みんなに見せびらかしたりしてたの。ライブの打ち上げとかで、一緒になった対バンとかにも見せるとさ、「これヤベェ!」「この写真はすごい!」とか言って、みんなでゲラゲラ。そのときは、江口くんもさ「ヤバい写真でしょ」みたいな感じで一緒になって笑ってたんだけど、その後江口くんはとんでもない災難に遭ったの。

当時、江口くんは明大前に住んでたんだけど、その心霊写真でひとしきりゲラゲラ笑った日の晩、アパートに戻って部屋の鍵を開けたら、玄関やリビングが全部水浸しになっていたんだって。最初、江口くんは水道管が壊れて水が溢れたんじゃないかと思ったらしいけど、どれだけ調べても水道管が壊れた形跡はない。「何これ!」と思って、タンスを開けてみたら、タンスの中も水でビッショビショ。

そこでようやく江口くんは「もしかして……ハチ公の写真で、ゲラゲラ笑った呪いかもしれない」と悟ったらしくて。かなり青ざめたみたいでさ、この心霊写真を持って一度、霊媒師さんのところに相談に行ったんだよ。「僕はハチ公に呪われてるのでしょうか」っつって。そしたらその霊媒師の人はさ、「この写真はね、あなたにとってのお守りにもなるし、扱いが悪ければ霊障が起こることもある。お寺に持っていって供養とかはしなくて良いけれど、大事に持っておきなさい」って言われたんだって。

この水ビッショビショ事件と、霊媒師の言葉があって以来、江口くんはハチ公の心霊写真のことをあんまり話さなくなっちゃった。それくらい一時期の江口くんはハチ公の亡霊にビビりながら過ごしていたんだ。

でもさ、こっちとしてはハチ公の心霊写真、好きになっちゃってるでしょ。だから、ことあるごとに見たくなるわけよ。ときどき「エグちゃん(江口のあだ名)、あの写真また見せてよ。どうしても見たいんだ。もう1回だけでいいからさ」って頼んでたんだけど、江口くんは頑なに「絶対イヤ。また痛い目に遭う」って、もう2度と見せてくれなくなった。

それから数年後、ハチ公の心霊写真も昔の話になって誰も言わなくなった頃にさ、改めて江口くんに「そう言えば、あの写真まだ持ってんの?」って聞いたことがあって。江口くんは「ああ、そう言えばどうしたかなぁ……。もうどこかになくしちゃった」って言うわけ。「ダメだよ、エグちゃん。あの心霊写真、邪険に扱ったらまた災難に遭うよ。探してちゃんと保管しておかなくちゃ」ってことを言ったんだけど、結局その後も江口くんは、あのハチ公の心霊写真をなくしたままだったんだって。

そんな中、江口くんは一時期、銀杏BOYZのマネージャーの仕事を辞めてしばらく疎遠になってた時期があって、「銀杏の仕事に戻る」っていう話になったんだけど、このときもさ「あのハチ公の写真はどうしているの?」って僕はまたしつこく聞いて(笑)。すると、江口くんは「いや、もう絶対にない。どこにしまったかも覚えていないし、もう何年も見てない」って言うわけ。そりゃそうだよね。数年前の時点で「なくしちゃった」って言っていたわけだし。「もうあの写真を2度と見ることはできないんだろうな」と、江口くんも僕も思ってたの。

そうこうしているうちに、江口くんのお父さんが亡くなったの。山形での葬儀とかが一通り終わって落ち着いた頃、江口くんの家では、「お父さんの遺品をどうするか」ってことで、まずは荷物の整理をすることになったんだって。その整理でさ、江口くんは実家のお父さんの書斎に生まれて初めて入ったらしい。書斎では「お父さん、実はこんな本を読んでたんだ」とか色んな発見があったらしいんだけど、ある棚に写真が挟まっていたんだって。「なんだ、これ?」と思ってふと見てみると、江口くんが持っていたはずの、あのハチ公の心霊写真がどういうわけかお父さんの書斎にあったんだって。

今言った通り、江口くんはお父さんの書斎にこのとき初めて入ったし、あの写真をお父さんに渡した記憶もない。話としては「写真が勝手にお父さんの書斎の本棚に移動した」ってことになるんだけど、そんなことありえないでしょ。だから、江口くんも「ウーワッ……」みたいな。「これやっぱり絶対なんかあるよ」みたいに思って、そのときからまたハチ公の心霊写真を大事にするようになったらしい。今ではさ、ハチ公の心霊写真の話をすると、本当に嫌がるよ。この話自体、僕がこうやって喋っちゃって江口くん嫌がらないかな?ってマジで心配するくらいだもん。

前々回で話したような「電気と念」の理屈では言い表せない「霊」の不思議。でも、江口くんの場合は何故かハチ公だったんだよね。だからかどうかはわからないけど、ことあるごとに江口くんは「芝犬欲しい。犬飼いたい」ってずっと言ってる。まぁ江口くん自身、犬っぽいところもあるから、前世は、犬に何か関係があったのかもしれないけどね(笑)。

日本犬の亡霊を背負っている江口くんと。

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


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