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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

加古隆 作曲家として、そしてピアニストとして

〜現代音楽とジャズへの目覚め〜

連載

第2回

19/4/22(月)

 前回は、ピアノとの出会いを中心に話をしてきましたが、その間に、さらに重要な音楽との出会いがあったのです。実は私は、小学校の時にベートーヴェンの『運命』に出会って以来、大変なレコード愛好少年になっていたのでした。親にねだって小さなレコードプレーヤーを買ってもらい、お小遣いは全てクラシックのレコードにつぎ込んで聴くという生活を送っていたのです。それこそ聴くときには、部屋に鍵をかけて電気を消して真っ暗にして、音楽を全身で聴いていたのです。その当時のレコードの先生はといえば、街に一軒だけあったレコード店のおじさんだったのです。我が家は全く音楽に関係のない家庭でしたし、当時は音楽雑誌の存在すら知りませんでした。必然的に頻繁にレコードを買いに行くレコード店のおじさんと顔見知りになるわけです。そこで様々なことを教えてもらったのです。「ブラームスの1番がいいとか、次は同じブラームスの2番を聴いたらいい」といった感じです。「レコード芸術」の存在などを知るまでは、まさに私にとっての唯一の情報源だったわけです。ある時おじさんが「今とても話題になっているレコードがあるけど聴いてみないか」と言ってきたのです。それが、アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団による、ストラヴィンスキーのアルバムだったのです。『火の鳥』と『ペトルーシュカ』、それに『春の祭典』の3枚です。それまでずっと伝統的な音楽を聴いてきたので、ストラヴィンスキーなどみたことも聴いたこともない作曲家でしたが、話題になっているのならばぜひ聞いてみたいと思ったのです。3枚全部はとても買えないので、ネーミングのかっこ良い『火の鳥』を買ってきて聴き始めたのです。その時のことは忘れもしません。『火の鳥』のA面が終わる前にプレーヤーの針を上げ、母親にお小遣いの前借りをお願いして、残りの2枚を買いにレコード屋に走ったのです。これは衝撃でした。今まで聴いてきたクラシック音楽にはない神秘的で宇宙的な響きをとても新鮮に感じたのです。「今買わなかったらレコードがなくなっちゃう」と思って買いに走ったのですが、これが私にとっての「現代音楽」との出会いだったのです。「現代音楽」に惹かれて次に買ったのが、バルトークの『弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽』でした。こんなに凄い音楽の世界があるんだと思いましたね。これが中学生の時です。小学校2年生の時の『運命』体験もそうですが、子供には素晴らしい感性があるんだなと今更ながらに思います。それを言葉にはなかなかできないけれども、言語になる前の何かを人間はちゃんと認識しているんだろうと思います。芸術というものは、言葉を超えたところで見せてくれたり、感じさせてくれたりする。だからこそ、子供の頃にさまざまなことに触れるということは、人間にとって最も大事なことの1つだと思っています。

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