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綾野剛×星野源『MIU404』が“初動”を描くワケ 野木亜紀子脚本作にみる“分岐点”のあり方

リアルサウンド

20/9/2(水) 6:00

 野木亜紀子脚本、綾野剛×星野源のW主演作『MIU404』(TBS系)が、9月4日に最終回を迎える。24時間というタイムリミットの中で犯人逮捕にすべてをかける、架空の臨時部隊「警視庁刑事部第4機動捜査隊」を描く同作。

 綾野演じる「機動力と運動神経ピカイチの野生バカ」伊吹藍と、星野演じる「観察眼と社交力に長けた」志摩一未のバディに加え、ベテラン班長・陣馬(橋本じゅん)とキャリア組の若手・九重(岡田健史)のバディ、隊長の桔梗ゆづる(麻生久美子)が織りなすチーム感は魅力的だ。

 しかし、彼らは「犯人」を見つめ、向き合う人たちであり、物語の実質的主人公は各話ゲストの面々でもある。この手法は野木亜紀子脚本×塚田あゆ子演出×新井順子プロデュースの『アンナチュラル』(TBS系)と共通しており、世界線がつながる部分も多々ある。

 大きく異なるのは『アンナチュラル』が遺体という「結果」から、そこに至るまでの道筋を遡って探る物語であったのに対し、『MIU404』は事件が起こった道筋の「入口」に立ち、引き留めようとする物語であるということだ。

 両者は逆方向のアプローチをしているものの、共通しているのは、どちらも「分岐点」が必ず存在していること。例えば、『MIU404』の中で非常に重要な意味を持っていたのが、第3話のまさしく「分岐点」。

 先輩たちの不祥事が原因で廃部となった元陸上部の部員たちが、やり場のない怒りを持て余し、イタズラで虚偽の通報を繰り返していた。そんな中、第4機動捜査隊によってチームは壊滅。成川(鈴鹿央士)と勝俣(前田旺志)が二手に分かれて逃げる中、伊吹が追った勝俣は罪を認めて更生を誓ったのに対し、九重が追った成川はそのまま逃走。行き場を失い、久住(菅田将暉)と出会い、犯罪に手を染めていく。

 この回の冒頭で描かれた「ピタゴラ装置」のパチンコ玉をキャッチした伊吹と、取りこぼした九重との「分岐点」であり、二人が追った少年たちの「分岐点」ともなった。そこから、成川を引き戻すことができなかった九重の後悔と贖罪は続いていく。

 また、第8話では、伊吹を唯一信じてくれた恩人・元ベテラン刑事の蒲郡、通称“ガマさん”(小日向文世)が、妻を殺したもにもかかわらず、法で裁かれない犯人を自らの手で断罪する。ガマさんが殺人を犯してしまうことを止められなかったのかと悩む伊吹だが、ガマさんは伊吹の相方・志摩にこんな言葉を託す。

「伊吹に伝えてくれ。お前にできることは何もなかった。何もだ」

 「あのとき、こうしていれば……」と後になって気づくことや、後悔、罪の意識を抱きながら生きる人はたくさんいる。そして、何度も原因を考えてはぶち当たる「分岐点」で、自分が選ばなかったほうの未来に思いを馳せることもある。

 思えば、野木亜紀子はこれまでもオリジナル脚本の中で、様々なかたちで「分岐点」を描いてきた。

 『アンナチュラル』が先述のように「結果」から遡り、分岐点を見つめる物語であるとすれば、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)は全方位に気を遣い、神経をすり減らすヒロイン・晶(新垣結衣)が、長く長く続くトンネルの中で、出口である分岐点を求めて、もげき、あがく物語だった。

 また、『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)では、ふとしたきっかけから「レンタルおやじ」を営む兄弟・一路&二路(古舘寛治、滝藤賢一)が出会う人々の人生の分岐点が描かれてきた。しかし、終盤では二人の過去と、二人が通う「喫茶 シャバダバ」のアルバイト店員さっちゃん(芳根京子)の過去が交錯する。

 Y字路で、3人の体が入れ替わるというSF的ぶっとび展開が描かれる中、実はY字路の左手には「シャバダバ」が、また、さっちゃんが幼少時に父親から「行ってはいけない」と言われてきた右手には小滝家があったことがわかってくる。

 父が次に行くのはローマだと聞き、一度「ローマを探しに」Y字路の右手に行って迷子になり、泣いていた幼い日のさっちゃん。そのさっちゃんに声をかけてくれたのがコタキ兄弟だったこと。そして、Y字路をはさんで互いの存在を知らずに育った3人が、実は浮気性の父を持つ異母きょうだいだったこと、その事実をさっちゃんに伝えるかどうか兄弟は悩むという展開が描かれた。

 まさかレンタルおやじが入り浸る「喫茶 シャバダバ」と小滝家、そして「シャバダバ」の店員・さっちゃんと兄弟がY字路で隔てられながらも、つながっていたとは。壮大な伏線が回収される「分岐点」のあり方だった。

 そうした流れを経て描かれる『MIU404』では、「初動」という分岐点の手前の物語が描かれている。救えなかった命があり、シビアな現実があり、後悔はつきまとうが、その一方で、「成川を救えなかった」罪の意識を持ち続けた九重は、第9話で成川の「助けて」に応じて救い出す。

 裏カジノ事件の情報提供者であり、報復を企むエトリ(水橋研二)に狙われていた羽野麦(黒川智花、以下ハムちゃん)を桔梗がかくまっていたが、そんなハムちゃんを成川が誘い出したことで、エトリにとらえられてしまう。しかし、自分が「分岐点」で誤った選択をしたことに気づいた成川は、ハムちゃんを救おうと必死で助けを求めたことが、ハムちゃんを救い、自分を救うことにつながった。

 人生では様々な分岐点があり、残念ながら、分岐点の前では、その選択のどちらが正しいかはわからない。だからこそ、振り返ってみて「あのとき、もし、〇〇だったら」と後悔することは非常に多い。

 しかし、「初動」を描く、分岐点の手前の物語『MIU404』では、そんな分岐点が人生の中では幾度となく繰り返されることを示している。そして、一度分岐点で選択を誤っても、それが致命的な重大ミスであったとしてすらも、生きている限りは、次の分岐点でやり直すことができる可能性も示唆している。

 加えて、分岐点の前ではどちらの道が正しいかわからないが、分岐点にぶつかったときに「信じられる人がいること」「自分から助けてと言えること」がいかに大切であるかも、考えさせられる。

 数々の「分岐点」を描いてきた野木亜紀子作品の中でも、やり直しが何度もできることを示唆している『MIU404』は、実は今の暗い世の中を照らす、これまでで一番優しく希望に満ちた物語なのではないだろうか。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、黒川智花、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子、黒川智花
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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