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2.5次元、その先へ Vol.7 「デスノート THE MUSICAL」ヒットの立役者、ホリプロ・梶山裕三プロデューサーが語る「ゼロから作品を立ち上げる面白さ」

ナタリー

梶山裕三

日本のマンガ、アニメ、ゲームを原作とした2.5次元ミュージカルが大きなムーブメントとなって早数年。今、2.5次元ミュージカルというジャンルは急速に進化し、洗練され、新たなステージを迎えている。

その舞台裏には、道なき道を切り拓くプロデューサー、原作の魅力を抽出し戯曲に落とし込む脚本家、さまざまな方法を駆使して原作の世界観を舞台上に立ち上げる演出家など、数多くのクリエイターの存在がある。この連載では、一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会発足以降の2.5次元ミュージカルにスポットを当て、仕掛け人たちのこだわりや普段は知ることのできない素顔を紹介する。

今回は、「デスノート THE MUSICAL」を立ち上げたホリプロの梶山裕三プロデューサーが登場。ミュージカル「スリル・ミー」といった海外ミュージカルをプロデュースしてきた梶山が、マンガ「DEATH NOTE」になぜ着目したのか? 劇団を主宰し、オリジナルミュージカルを発表していたこともあるという梶山の演劇人生を振り返りながら、彼のプロデュース論に迫る。

取材・文 / 興野汐里

きっかけは留学先で出会った「サウンド・オブ・ミュージック」

ホリプロは1960年(昭和35年)の創業以降、「文化をプロモートする人間産業」という企業理念のもと、俳優、歌手、バラエティタレント、お笑い芸人、アイドル、スポーツ選手、文化人のマネジメントをはじめ、映像、舞台、音楽制作などを精力的に行い、長きにわたってエンタテインメント業界を牽引してきた。公演事業部では、「ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~」「メリー・ポピンズ」「ラブ・ネバー・ダイ」などの海外ミュージカルや、1981年にスタートして以来、子供から大人まで幅広い層に愛されているブロードウェイミュージカル「ピーターパン」、蜷川幸雄演出で知られる「身毒丸」「ムサシ」といったストレートプレイなど、古典から新作までさまざまなジャンルのエンタテインメントを提供している。そんなホリプロの財産演目に新たに加わろうとしているのが、2015年に初演された「デスノート THE MUSICAL」だ。同作の成功の裏には、立役者の1人である梶山裕三プロデューサーの存在があった。

高校2年生のときにアメリカ・ユタ州に1年間留学していた梶山は、そこでミュージカルと出会う。「僕が通っていた学校は秋にミュージカルを上演することになっていて、僕たちは『サウンド・オブ・ミュージック』をやったんですが、自分は日本にいるときにフレンチホルンを習っていたので、オーケストラピットで演奏するメンバーとして参加したんです。それが本当に楽しくて。帰国後、早稲田大学へ入学して、ミュージカル研究会というサークルに入りました。自分ではあまり意識していなかったんですけど、高校でミュージカルを経験したことが、大きな刺激になっていたんでしょうね」。ミュージカル研究会に入ったことで、梶山はより一層ミュージカルに夢中になっていく。「僕たちのサークルでは、既製のミュージカルではなく、自分たちでオリジナル作品を作っていました。ゼロから作品を立ち上げる面白さを知ったのも、作り手に回ったのも、ミュージカル研究会に入ったのがきっかけだったと思います。大学の4年間は、授業へ行っているのか、サークルへ行っているのかわからないくらい、とにかく作品を作っていました(笑)。3年生でサークルを引退してからは、自分で劇団を立ち上げて脚本を書き、上演していました。そのときに音楽を担当してくれた仲間の1人が、今も演劇業界で活躍しているOne on Oneの浅井さやかです」と、その後も長い付き合いとなるクリエイターとの出会いを明かす。

梶山は大学を卒業後、吉本興業に入社。大阪で吉本新喜劇の制作を担当しながら劇団活動を続け、2006年にホリプロへ籍を移すまで、定期的に東京で公演を行っていた。劇団の解散を決めたとき、劇団主宰、脚本家として悔いはなかったか尋ねると、梶山は「自分はたぶん、題材を見つけてきて企画して、それを実際に形にすることが好きなんだと思います。自分が本当にやりたかったことを、今の仕事を通して実現できているので、“創作から離れたことによる満たされなさ”みたいなものは感じていないですね」と晴れやかな表情で語った。また、梶山の劇団活動を手伝っていた浅井やTipTapの上田一豪のように、現在も演出家として活動している学生時代の仲間たちから、今でも刺激を受けているという。

ゼロから作品を立ち上げる面白さに魅せられて

ホリプロ入社後、ミュージカル「スリル・ミー」や藤原竜也の出演作をプロデュースしてきた梶山が、なぜ「デスノート THE MUSICAL」を上演しようという発想に至ったのか。そこにはやはり、学生時代に抱いた思いがあった。「ゼロから作品を作ることに興味があったし、やっぱりそれが一番面白いと思っていたんです。プロデューサーとして海外の作品を上演しているうちに、やりたい企画があっても先方のプロダクションから返事がもらえなくて上演できないとか、作品をより良くしようと働きかけてみるものの、うまく伝わらない……みたいな、不満ではないんですけど、どうしたら良いのかな、っていう思いが募っていって。あとは、演劇のマーケットがこれ以上大きくならないんじゃないかという危惧もありました。いつもホリプロの舞台を観に来てくださるお客さんのおかげで、公演を続けられているという感謝の思いがある一方で、やっぱりもっともっと多くの方に舞台を観てほしいし、海外のお客さんにも日本の作品を届けたい。それらを実現するまで、日本の舞台業界は次のステップに進めない気がしたんです。ちょうどその頃、(堀義貴)社長から『海外と一緒に取り組める作品について考えてほしい』と言われて、ミュージカルにできそうな題材を探していたんですよね。テーマに普遍性があって、ファンタジーの要素があって、海外人気もある作品……と考えたときに、『DEATH NOTE』はどうだろう?というアイデアが出たんです」。

「デスノート THE MUSICAL」の原作であるマンガ「DEATH NOTE」は、大場つぐみ原作、小畑健作画により、2003年から2006年にかけて「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載された人気作。名前を書いた人間を死なせることができる“デスノート”を使って犯罪者を抹殺しようとする夜神月(やがみらいと)と、名探偵・Lの頭脳戦が描かれ、2006年には藤原竜也、松山ケンイチら出演により実写映画化された。その後、約9年の時を経て、2015年4月に「デスノート THE MUSICAL」日本キャスト版が初演され、同年6月には韓国キャスト版の幕が開いた。

「デスノート THE MUSICAL」には、ホリプロ作品にゆかりのある2人のクリエイター、作曲家のフランク・ワイルドホーンと演出家の栗山民也が参加しているが、それまでのホリプロの歴史から見ても、ワイルドホーン、栗山両者のキャリアから見ても、「デスノート THE MUSICAL」は一見すると、異色の作品に思えるかもしれない。実際、上演決定時には、観客からも賛否両論さまざまな反応があり、インターネット上で盛んに意見交換がなされていた。「当時、マンガを舞台化するときにこういった座組で上演することがあまりなかったので、『ホリプロ、血迷ったか』『この作品、誰が観に行くんだろう』って言われましたね。もちろん僕は自信を持って企画を出しているんですけど、そうやって言われると揺らいでしまうこともあって……。でも自分としては、栗山さんにお願いした時点で『今までと違うものが生まれるのではないか』っていう予感がありましたし、前評判に負けない作品にしようと強く思っていました」。

キャスト・スタッフが期待と不安を抱えて挑んだ初演。夜神月役を浦井健治と柿澤勇人、L役を小池徹平、死神役を吉田鋼太郎と濱田めぐみ、そして夜神総一郎役を鹿賀丈史が演じるという、そうそうたるキャスティングながら、実は初日の段階ではチケットが完売していなかったのだという。「マンガ原作ということで、お客さんは開幕まで半信半疑でいたのかもしれません。でも幕が開いた途端、ブワーッと口コミが広がって。瞬く間にチケットが売れていくのを見て、『ああ、うまくいったのかな』と少しホッとしました。栗山さんの作り上げた世界とワイルドホーンさんの音楽は、一見すると相反するものなんですけど、その2つが作品の中で融合したように思えて、本当に感動的でしたね。『DEATH NOTE』はやはり舞台化されるべき題材だったんじゃないかと運命を感じました」と、梶山は当時の興奮を振り返る。

また、集客面でも大きな変化があった。「通常のホリプロ作品は約85%が女性のお客さんだったんですが、『デスノート THE MUSICAL』の初演は、普段劇場ではあまり見かけない男性1人のお客さんが多かった。要するに、『ジャンプ』の読者の方々なんですよ。あとは、いろいろな国から留学生が観に来てくれて、日本のマンガの海外人気の高さを感じましたね。まだ先は見えていない状態でしたが、2.5次元ミュージカルという分野は間違いなくインバウンドの目玉になるんだろうなって思いました」。「デスノート THE MUSICAL」でホリプロが打ち出した日本のマンガ×ブロードウェイミュージカルという新たなフォーマットは、2.5次元ミュージカル業界、ひいては日本の演劇界に影響をもたらし、その後多くの作品が誕生するきっかけを作った。

日本キャスト版公演の開幕から2カ月後、2015年6月には、韓国ミュージカル界のスターのキム・ジュンスと、「『ミス・サイゴン』25周年記念公演 in ロンドン」に出演経験のあるホン・グァンホらを迎えた韓国キャスト版が上演された。「実はジュンスさんが原作の大ファンだったそうで。彼の事務所が当時アメリカにあったホリプロの海外支部に『デスノート THE MUSICALを韓国で上演したい』と連絡をくださったことがきっかけで公演が実現したんです。韓国キャスト版のオーディションで、月かLのどちらを演じるべきか悩んでいるというジュンスさんに、栗山さんが『君は絶対にLが合うよ』と断言なさって。それを受けてジュンスさんも『わかりました。Lをやらせていただきます』と承諾してくださったんです。その時点ではまだ台本が完成していなかったのに(笑)」と梶山は当時の裏話を明かす。一方、夜神月役のホン・グァンホとの出会いも印象的だった。「ウエストエンド版『ミス・サイゴン』に韓国人として初めて出演したグァンホさんが、韓国に凱旋してまずどの作品に出演するのか、当時みんな注目していたんですよ。いくつもオファーが来ている中、グァンホさんは栗山さんの魅力に惹かれて『デスノート THE MUSICAL』を選んでくださったそうなんです。日本キャスト版の稽古初日、栗山さんに会うためにグァンホさんが急遽来日して。しかも予告せずに。韓国の俳優さんのパワフルさに圧倒されたのを今でも鮮明に覚えています(笑)」。

2017年には早くも日本キャスト版が再演され、日本国内だけでなく、台湾でも公演が行われた。「2.5次元ミュージカルの関係者の方から、アジア諸国のお客さんは熱量がすごいというお話は聞いていたんですけど、実際に行ってみたら、台湾の方はキャラクターをとても愛してくれているというのが伝わってきて。中でも、カズさん(石井一孝)演じるリュークが大人気で、出待ちの数もすごかったんですよ! カズさんは、出待ちしているお客さんたちに『ウォーアイニー!』と返していたりして、完全にスターでした(笑)。こういう反応も原作ものならではというか、通常のミュージカルではない光景だなと思いました」。こうしてホリプロは、海外に向けて日本のマンガ原作を舞台化し上演するという、2.5次元ミュージカルにおける海外戦略の新たな礎を築いた。

夢は、“作品の名前”で売れる作品を作ること

初演から5年後の2020年、いまだ勢い衰えぬ「デスノート THE MUSICAL」は、キャストを一新して3度目の上演を迎えた。新生「デスノート THE MUSICAL」では、夜神月役を村井良大と甲斐翔真、L役を高橋颯、死神レム役を韓国版キャストのパク・ヘナ、死神リューク役を横田栄司が演じた。「もちろんキャストさんの力も大切だと思うのですが、最終的には“作品を作品として売りたい”という夢があるんです。キャストさんの力にすがっていると、キャスト変更があったときに、作品も一緒に消えてしまう可能性があるので。とはいえ劇団四季さんのように、どのキャストさんが出ていてもこの作品なら観に行く、という信頼を獲得することってやっぱりすごく難しい。例えば『スリル・ミー』はキャスト変更がある作品ですが、『スリル・ミー』という作品自体にファンがついているので、どのペアであってもお客さんが観に来てくださるんです。こんなふうに“作品の名前”で売れるようにならないと、会社として未来に向かっていない気がしていて。3度目の『デスノート THE MUSICAL』では、そのようなことを意識していました」と明かす。そして、新生「デスノート THE MUSICAL」は、新キャストによりみずみずしく、栗山の演出によってさらにソリッドに生まれ変わり、梶山いわく「洗練されて進化」した。

さらに今年4月には、ロシア・モスクワにて現地の俳優によるコンサート版が上演された。きっかけは、2017年頃にロシアの若手プロデューサーから届いた熱烈なオファーメールだったという。「ロシアでは『DEATH NOTE』の人気がものすごいそうなんです。というのも、アニメ『DEATH NOTE』で月とLが雨の中で会話するシーンがあって、その場面でLが月の濡れた足を拭いてあげるんですよ。それが、ロシア正教の聖書に登場する描写と似ているらしくて。ロシアの人にとっては、月とLの存在が、日本とはまた違った見え方をしているんだなと思って驚きましたね。あとは、ドストエフスキー『罪と罰』の主人公・ラスコーリニコフと月が似ていることも関係しているのかもしれません」と分析しつつ、「モスクワには、立地の関係でフランスの人が多く訪れるんです。ゆくゆくはイギリスやフランスでも『デスノート THE MUSICAL』を上演していきたいと思っているので、今回のコンサート版でフランスに一歩近づけた気がしています。『デスノート THE MUSICAL』を通して、いろいろな国の演劇人と会えるかもしれないと思うと、夢が広がりますよね」と梶山は笑顔を見せた。日本独自のオリジナルコンテンツである「デスノート THE MUSICAL」は、今後海外への輸出も視野に入れながら、日本国内でのロングラン上演の道も模索していく。

自信を持って送り出せる作品に出会えるまで

これまでの「2.5次元、その先へ」では、主に2.5次元ミュージカルに携わるプロデューサーに取材をしてきたが、今回話を聞いた梶山は、海外ミュージカルを多く手がけている人物だ。今後また、「デスノート THE MUSICAL」のように、マンガやアニメ原作の舞台作品をプロデュースする意欲はあるのだろうか。そのことを尋ねると、梶山は「まず、お客さんと同じ目線に立つことを忘れずに、『面白い!』と思えるものにはどんどん挑戦していきたいと思っています。ありがたいことに、出版社の方から連絡をいただくこともありますし、今も企画を考えるためにマンガをたくさん読んでますよ(笑)。プロデューサーとしての醍醐味って、俳優と役だったり、演出家と戯曲だったり、予想だにしないもの同士を出会わせることにあると思っていて、誰かが思いつくようなものはやりたくないんです。あまのじゃくなんですけど、『それは無理でしょ』って言われれば言われるほど、『いや、いける!』というふうに燃える性分なんですよね(笑)。そしてどの作品に対してもそうですが、上演演目を決めるときは、ミュージカルに落とし込める題材かどうかを自分なりに考えます。『誰がなんと言おうと、これは間違いなく面白いミュージカルになる』と自信を持って言える作品に出会えるまで、とことん突き詰めていく。今は特に、このコロナ禍において、演劇という手法を使って描く価値がある作品かどうかを見極める必要があると思っていて。題材を選ぶときは、そのくらいの覚悟で原作と向き合いたいなと思っています」と演劇プロデューサーとしての矜持を示した。

新型コロナウイルスがエンタテインメント業界に多大な影響を及ぼした2020年。ホリプロは、世界に向けたオリジナルミュージカル作品を制作することを目的に、ミュージカルのクリエイターをプロ・アマ問わず募った企画「ミュージカル・クリエイター・プロジェクト」を新たに始動させた。まさに温故知新、古典から新作までジャンルを問わず挑戦し続ける、ホリプロの今後の取り組みに注目したい。

プロフィール

ホリプロ 公演事業部 ファクトリー部 副部長。「デスノート THE MUSICAL」をはじめ、ミュージカル「生きる」「ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~」「スリル・ミー」などのプロデューサーを務める。

関連公演・イベント

ミュージカル「フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~」

2021年12月
東京都 日生劇場

※高橋颯の「高」ははしご高が正式表記。

※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

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